魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Saga22-B最終侵攻~Battle of the South~
†††Sideアリシア†††
南部マクファーデン地区の研究所にやって来た私とフェイト、それに今回から“T.C.”事件に協力することになったエリオとキャロ、それにフリード。目的はここの研究所に保管されてるロストロギアを奪取するために襲撃してくるって予告してきた“T.C.”の迎撃、そして逮捕だ。
(ルシルとアイリがすごく厄介だった幹部を道連れにしてくれたから、残るメンバーは雑魚ばっかっていうのがシャルの考えだ)
とは言っても、幹部以外でも魔術や神器を持ってるメンバーもいるようだし楽観視は出来ないけどさ。でもだからって引くわけにはいかない。ルシルとアイリを殺した組織なんて、絶対に許さないし残しておくわけにはいかないもん。
「エリオ、キャロ。そろそろ襲撃予定時刻だけど、準備は済んでる?」
「あ、うん、アリシアさん。すずかさん達スカラボの皆さんのおかげで、わたしとフリード用装備もフッケバイン事件の時よりいろいろと使い勝手が良くなってるので、装着も簡単です」
フリードの胴には“ヴァンガード・ドラグーン”専用のメインやカートリッジユニットが装着されていて、“フォートレス”で一番大きなS1よりさらに大きなドラグーンシールド――DSが2機、活躍を待ち望んで側で待機中。ちなみに体が小さなキャロは“フォートレス”ユニットを装着できないから、フリードのユニットがキャロの扱う3種のシールドの分のカートリッジユニットを積んでる。
「残念ながらブースト魔法はフェイトさん達の神秘魔力と反発することで使えなくなっちゃいますけど、その分フォートレスで支援します!」
「魔法によるバフは、魔術師には効果が無いんだよね」
魔術は魔法に干渉できるけど、その逆が出来ないって言うのはちょっと面倒なんだよね。でもま、キャロの支援砲撃の正確さはフッケバイン事件の時に判ってるし、ブーストを受けなくてもフェイトもエリオもすごく強いし、なんとかなるでしょ。
「エリオもカートリッジをちゃんと持った? アレが無いと戦いにならないからね?」
「大丈夫です、フェイトさん」
「エリオだってもう18歳。子どもじゃないんだし、そんな心配しないで大丈夫だって。実際、フェイトも最近エリオに負け越してるんだよ? まぁ魔力の出力制限付きって条件があるけどさ。あまり心配性だとエリオだって煩わしく・・・って、こんな話、前にもやったっけ?」
フェイトの心配性は本当に治りそうにない。私の言葉にフェイトは「エリオ。私、面倒くさい? ごめんね?」ってしょんぼりしてエリオに謝るから、エリオも困って「全然そんなこと思ってません!」ってすごい勢いで首を横に振りまくる。
「ほらほら、フェイトもちゃんと確認しておいてよ。頼りになるアタッカーはフェイトとエリオなんだから、どっちかが機能しないと必然的に私とキャロも危なくなっちゃうんだから」
私は手を叩いてしゅんとしてるフェイトを鼓舞。私も神秘カートリッジを唯一使えるデバイス、“ブレイブスナイパー”の神秘カートリッジが収められたマガジンの再確認。予備は5個。すでに装弾されてる5発と、カートリッジ25発の計30発。フェイトとエリオも似たようなものだ。
みんなで最終確認を済ませ、研究所で待機してる周囲監視班や結界班、念のための武装隊などと連絡を取り合いながら待機を続けて、いよいよ襲撃時刻になったわけだけど・・・。
「来ないね」
「うん」
「監視班からも、周囲1㎞圏内に敵影は見られないようです」
『こちらキャロ。規制線の内側へ侵入する人もいないみたいです』
監視班は研究所の屋上から散布してあるサーチャーや望遠魔法での見張りで、キャロフリードに乗って上空からの広域監視だ。その2組から異常なしっていうことは、「まさか」って私は地面を見た。研究所の真下、地下にも施設が広がってる。近くの川には排水トンネルが通っているし、そこからってちょっと考えたけど、そこにも監視サーチャーが設置されてるから違うかぁって首を横に振った。
「ほら、何をしているのですか」
「ん?」
どこからか声がした。続けて「待ちなさい。心の準備が」って別の人の声がしたんだけど、この2つの声、ものすごく聞き覚えのあるものだった。でもありえない。だって2人はもうこの世にはいないんだから。それでも「今さら何を言っているんですか。もう4分も経っているんですよ?」っていう呆れ声も、「仕方ないでしょう」っていう困惑の声も、やっぱり聞き覚えのある声・・・。
「フェイト!!」
「っ!? ど、どうしたのアリシア!」
「アリシアさん!?」
フェイトとエリオが慌てて駆け寄ってきてくれて、「声! 声がする!」って伝える。2人はそれぞれデバイスを構えて、聞き耳を立てた。と、ほぼ同時に「もうしょうがないなぁ~。ボクが開戦の花火を打ち上げるよ!」って、3人目の声がした。
「「「魔力反応!!」」」
私たちを囲うように大きな環状魔法陣が1つと展開された。魔力光の色は水色で、今の声。ううん、とりあえず環状魔法陣の外に脱出だ。私たちは高速移動魔法の「ソニック・ムーブ!」で一斉に飛び出したところで・・・
「天破・雷神槌!」
環状魔法陣外の前後左右、それに上に発生した魔力スフィア5基から中心に向かって雷撃砲が発射されて、激突し合って放電する魔力爆発を発生させた。フェイトにも声が聞こえ、さらに魔力光と魔法を見て「そんな、うそ・・・!」って困惑した。
「フェイト。アイツだけじゃないの。たぶん・・・」
「え?」
「フェイトさん、アリシアさん、エリオ君! 大丈夫ですか!?」
突然の攻撃に、キャロとフリードが降下してきた。ギリギリだったけど回避が出来ていたから、心配そうなキャロに「大丈夫!」って答えた。そんな私たちに監視班や結界班からも連絡が入って、監視班からは魔力発生ポイントがどこか教えてくれて、結界班からは結界の展開をこれから行うってことになった。
研究所を中心に1㎞が結界で覆われた。結界班の中には近代ベルカ式でカートリッジシステムを有するデバイス持ちで、結界を張れて、さらに神秘カートリッジに適用も出来る隊員が何人もいてくれる。だから相手が魔術師でもそう簡単には破られないって話だ。
「結界も展開されたじゃないですか。覚悟を決めて姿を見せましょう」
「・・・わ、判ったわ」
「こ、声がしました!」
「女性2人! けどさっきの電撃魔法を放った女性とはまた別だ!」
またした声にキャロとエリオが周囲を警戒して、フェイトはさっきの私みたいに「この声・・・!」の主に気付いて目を大きく見開いた。そしてすぐ、その声の主が私たちの目の前に現れた。ステルス状態を解除したって感じだけど、なんかこうその場で人の形に実体化した?みたいな。うん、自分でも何言ってるか判らないけど、その表現がしっくりする出現の仕方だった。
「「フェイトさんとアリシアさんのそっくりさん・・・?」」
毛先だけが紺色をした水色の長い髪を、以前と変わらずツインテールにした女性、「レヴィ・・・!」を見て目を丸くするエリオとキャロ。私とフェイトの、レヴィ、って言葉に反応した2人が「お知り合いですか?」って聞いてきた。
「レヴィ・ザ・スラッシャー。詳しく話すと長くなるから省くけど、一種のフェイトのクローンみたいな存在だよ」
「「クローン・・・!?」」
「オーッス! 久しぶりだな、オリジナル、姉っ子! レヴィ・ザ・スラッシャー、ここに見参!」
特撮のライダーみたいなポーズを決めたレヴィに一応「うん、久しぶり」と返しておく。問題はレヴィじゃなくて、その後ろに居るフード付きのローブを身に纏った女性2人。
「プレシア母さん・・・」「プレシアママ・・・」
「「でしょ?」」
うち1人の女性にフェイトと一緒に呼びかけた。エリオとキャロが「え?」って私たちを交互に見る。ごめんね、さっきから混乱させてばっかだよね。私たちに名前を呼ばれた女性がゆっくりとフードを外して素顔を晒した。
「プレシア母さん・・・!」「プレシアママ・・・!」
見た目も声も確かにプレシアママだ。もう1人は「リニス」だよね。プレシアママのおかげで蘇るまでの間、魂の状態で私はフェイトとアルフとリニスのことを見てた。聞き間違えるわけない。私たちの呼びかけにフードを外して素顔を晒したもう1人はやっぱり「リニス!」だった。
「ま、待ってアリシア! エリオ、キャロ。レヴィの後ろに居る2人のこと、どう見えているか教えて」
「フェイト? 何を言って・・・あっ、T.C.のメンバーは相手のトラウマの姿を取るんだった!」
レヴィは魔力光や魔法からして本物っぽいけど、プレシアママとリニスはひょっとしたら別人がそう騙ってるだけかもしれないわけだ。だけど私とフェイトを騙す理由が無くない? いや違う。私たちを精神的に追い詰めて反撃しづらいようにするためって可能性もある。
「あの、以前フェイトさんとアリシアさんに見せてもらった家族写真の女性2人に見えます」
「砕け得ぬ闇事件で、亡くなった本当のお母さんや使い魔さんと奇跡的に再会できたっていうアレです」
砕け得ぬ闇事件で私たちテスタロッサ家は再会して、その様子をルシルがひっそりと写真に収めてくれてた。その時の写真をデータとして持ち歩いていたから、まだ管理局に入る前の幼いエリオやキャロに2人のことを話したんだよね。覚えていてくれたことに嬉しさもあるし驚きもあった。
「アリシア・・・!」
「うん・・・! トラウマは人それぞれだから、エリオとキャロがプレシアママとリニスの姿を見るわけがない。本当にプレシアママとリニスなの・・・?」
「はい。そうですよ。お久しぶりですね」
「アリシア、フェイト。大きくなったわね」
私もフェイトも知らず知らずのうちに涙がポロポロと溢れ出す。そう言って微笑んでくれたプレシアママとリニスに私は駆け寄ろうとしたけど、フェイトが「気持ちは解るけどダメだよ、アリシア」ってまた私を制止してきた。私は「本物なんだよ? だったらそれでいいじゃん!」って反論する。
「プレシア母さん、リニス。また逢えてすごく嬉しいです。だけど、T.C.として現れたことだけは見過ごせません。そもそも母さん達はどうやって存在しているんですか? 2人はもう亡くなっていますし、亡霊というにはエリオとキャロに見えてますし、クローンなんてありえないですし・・・。あと1つは、もうそれが出来る人が亡くなっているので、これまたありえない」
もう1つっていうのはルシルの“エインヘリヤル”だ。フェイトの言うようにルシルももういないから、ママ達が“エインヘリヤル”っていうのはおかしな話だ。なら、2人は一体何者だっていう疑問は出て当然だと思う。だけど今はそんなことどうだっていいじゃん。
「まぁそう思うわよね。だけど、それについては教えられないわ。T.C.の王との契約なのよ。ちなみに王の正体も言えないわよ」
「そういうわけです。ところで、エリオさんとキャロさん。アリシアとフェイトの同僚の方ですよね? いつもお世話になっています。こちらはアリシアとフェイトの実母のプレシア。そして私はプレシアの使い魔で、フェイトとアルフの先生をしていましたリニスと申します」
「え? あ、はい。・・・あ! 僕はエリオ・モンディアルと言います! はじめまして!」
「はじめまして! キャロ・ル・ルシエと言います!」
恭しくお辞儀するリニスに、エリオ達が緊張いっぱいのお辞儀で自己紹介を返した。腕を組んでるプレシアママがエリオをチラッと見て、「あなた。アリシアかフェイトのどちらかと恋仲だったりするのかしら?」なんて突拍子もないことを聞いたから、私とフェイトが「へ?」って呆けて、エリオとキャロは「えええええ!?」って絶叫。
「ぼ、僕がフェイトさんやアリシアさんの恋人!? そ、そんな恐れ多いです! 僕なんて身長だけ大きな子どもなので! そんなそんな!」
「まぁ10歳近く離れてるし、手を出したら犯罪だよね」
「あのね、母さん。エリオとキャロはその、私やアリシアにとっては息子や娘のようなもので、恋人っていうわけじゃ・・・」
フェイトがそこまで言ってからエリオとキャロを見たから、2人は自分たちの出生や私たちに引き取られた理由を包み隠さずママ達に伝えた。聞き終えたリニスは「そうでしたか。苦労したのですね。ごめんなさい、辛いことを話させました」って申し訳なさそうに謝った。
「いえ。僕たちは今、幸せですから。ね? キャロ」
「うんっ! あの頃は辛かったですけど、フェイトさん達と出会って、現在を一緒に過ごすことが出来て幸せです!」
「「エリオ、キャロ・・・」」
改めてそう言われちゃうと嬉し恥ずかしで、フェイトと一緒に「えへへ♪」って笑っちゃう。そんな私たちにプレシアママが「偉いわね、アリシア、フェイト。あなた達は私とリニスの自慢の娘よ」って褒めて、2人一緒にハグしてくれた。私が一度死んじゃう前と、砕け得ぬ闇事件の時と変わらず、プレシアママからは良い匂いがする。フェイトだって安心しきった顔でハグを受け入れてる。
「なぁなぁ、オリジナルぅ、姉っ子ぉ。ボクはぁ? ボクとは逢えても嬉しくないのか~? 全然かまってくれなくて寂しいぞ~?」
ちょっと蚊帳の外になってたレヴィがしょんぼりしながら聞いてきた。ちょっと今は空気を読んでほしいと思ったけど、私とフェイトは「そんなことないよ! 嬉しい! うん、嬉しい!」って力強く何度も頷いた。
「わっはっは! そうだろ、そうだろー! よぉーし! ママさん、せんせー! 挨拶終わったし始めよう! バルフィニカス! リベレイターフォーム!」
レヴィが“バルフィニカス”にカートリッジをロードさせて、私たちが見たことのない形態に変化させた。“バルディッシュ”で言う通常形態アサルトフォームが原型かな。左右対称の大きな斧頭が2つ、先端にスパイク、柄が長く伸びてる、まさしく戦斧って感じの形態だ。
「ボクの最強の破壊力を持つリベレイターフォーム! さらに! スプライトフォームぅぅ・・・セカ~~~ンド!!」
レヴィの防護服が換装される。格好はフェイトで言う子ども時代のソニックフォームなんだけど、両手首、両くるぶしからは小さな片翼が、そして背中からは形を保ってない電撃の羽が3対と展開された。そんなレヴィが臨戦態勢に入ったことで、エリオが「何のつもりだ!?」って私とフェイトの前に躍り出た。レヴィが何かを返す前に、プレシアママとリニスもそれぞれ見覚えのある杖を手にした。
「アリシア、フェイト。あなた達があの日、お別れしたあの時からどれだけ成長したのか、見させてもらいます」
「・・・やっぱりいやだわ、リニス。どうして私たちが、娘たちやその家族と戦わないといけないの?」
「言わないでください。それが私たちの仕事、時間稼ぎです。・・・あ」
「「「「時間稼ぎ!?」」」」
口を滑らせたってハッとしてるリニスが「いえ。違います」って慌てて首を横に振ったり空いてる左手をヒラヒラ振ったりするけど、レヴィが「合ってるぞ? せんせー、ウソはダメだぞ」って首を傾げた。
「オリジナル達をなるだけ足止めして、時間が来たらリンカーコアを抜いて魔力を回収。んで、撤退だぞ!」
「あの、レヴィさん。そういうのは基本的に相手に喋っちゃったらダメなんですよ?」
えっへんって、私やフェイトと同じくらいに育った大きな胸を張ったレヴィに、リニスが溜息交じりにそう言った。だけど、これで私たちがしないといけないことは判った。足止めされているんだから、突破するだけでいい。あとは何のための足止めかを知っておきたいんだけど、ママ達は話してくれないだろうし・・・。
「レヴィ! 私たちを足止してる間、他の襲撃犯はなにをするつもりなの!?」
「それはな!」
「待ってくださいレヴィさん!」
「もがもが!」
「アリシア。弱点から攻めるのはおかしくはないけれど、今はちょっと勘弁してほしいわ」
「プレシアの言う通りです! レヴィさんはちょっと天然というか純粋過ぎるというか、素直な子なので聞かれたことには答えてしまうんですから! アリシアとフェイトも知ってい――」
「プレシアさん、リニスさん。・・・自分の娘たちのリンカーコアを奪うなんていう仕事、本気でなさるつもりですか・・・!? フェイトさん達の実母であり師匠である人であろうと、僕は・・・!」
レヴィの口を後ろから手で押さえてるリニスの言葉を遮るようにエリオが怒気を含ませた声で言い放った。続いてキャロも「そんなの私たちが許しません。止めさせていただきます!」って怒ってくれた。そんな2人にママ達は目を丸くしたけど、すぐにどこか嬉しそうに表情を和らげた。
「・・・私とプレシアがあなた達とお別れした砕け得ぬ闇事件からもう15、6年ちょっとですか。変わらず優しく、立派な子たちで安心しました。ね? プレシア」
「そうね。2人とも私のように酷く歪むことなく、真っ直ぐに、そして綺麗な一人前の女性になってくれていたわ。それをこうして目で見て確認できただけで、今回の召喚には大きな意味があったわね」
「そうですね。私たちの願いと、彼の最後の恩返しが一致したことによる今回の奇跡」
「・・・リニス。リンカーコアの回収は絶対ではないのだし、せめて足止めくらいはしないと彼に申し訳立たないわ」
「はい。エリオさん、キャロさん。ちょっとだけ胸を貸してくださいね」
プレシアママがクロークを脱ぎ捨てると、PT事件の時のような露出度の有るドレスじゃなくてシックな赤いドレスを一瞬で装着した。リニスもクロークを脱ぎ捨てて、いつも着ていたあのピッチリした服を露わにした。そして2人は一瞬で私たちから距離を取った。高速移動魔法でもスキルでもなく、どういった原理か判らない瞬間移動だ。
「よーっし! ママさんとせんせーもやる気になったし、カレンが合流するまで目一杯遊ぶぞー!」
(カレン? 知らない名前だ。女性名だし、いったいどんな・・・)
――スプライトムーブ――
レヴィの姿が掻き消えた。次の瞬間にはエリオを通り過ぎて、フェイトの左横にまで移動してきた。リベレイターフォームっていう大戦斧の“バルフィニカス”はすでに振りかぶられていて、「閃破雷光斬!」って、左右両方の斧頭の刃部分に魔力刃を生成させた。剃刀のような薄いものだけど、その分魔力が圧縮されていて、たぶんめっちゃ強い。
――ソニックムーブ――
私とフェイトとエリオが一斉に高速移動魔法でその場から離脱して、レヴィの一撃の効果範囲から逃れた。キャロもフリードと一緒に空に戻って旋回しつつ、ママ達の動きを警戒。スナイパーである私はさらに距離を取るべくもう一度ソニックムーブをスタンバイして、エリオは“ストラーダ”のカートリッジをロード。
「真ソニックフォーム!」
フェイトは機動力を上昇させる防護服に換装。さらに“バルディッシュ”を二剣一対のライオットブレードⅡにして、ルシルの“エヴェストルム”みたく柄頭を連結させた。
「にひひ! ボクの知らない形態だ! すごいおもしろ――」
「「フェイト!!」」
とここで、プレシアママとリニスが声を荒げて、さっきみたくスッとフェイトの近くに現れた。ママは「なんて格好をしているの!」って、いつの間に拾ったのかローブでフェイトのお尻が覆い隠した。
「レディがそんな格好で戦場に立つなんて! 可愛らしいお尻のお肉が半分見えちゃっていますよ!」
「え? え? ええ? で、でもこの方が動きやすし、空気抵抗も・・・――」
「そんなことはどうだっていいんです! フェイトは可愛いうえに美人だから、そんな格好をしていたら男性からHな目で見られたりするでしょ!」
「お、狼・・・? そんな、私のお尻なんかをHな目で見るような人なんていないよ」
「いいえ、そんなことはないわ! こんな魅力的なお尻が目の前にあったら、世の男どもは鼻息荒くして血走った目で見つめてくること間違いないわ!」
「恥ずかしいとは思わないのですか!? ちっとも!?」
「フェイト! 母さんは、大事な娘がそんな格好をしていてちょっと恥ずかしいわ!」
ママ達の説教めいたことをあわあわと困惑しながら聞いてたフェイトが、2人からの恥ずかしい発言に「むっ」となった。そして「母さんだって、PT事件の時は恥ずかしい格好だったじゃないですか」って反論した。
「胸元も大きく広げて、おへそも出して、両腰もパックリ開いて素肌が見えてました。母さんだっていい歳して痴女みたいな格好で恥ずかしくなかったんですか? 私は割と恥ずかしかったです」
「な、な、なな、ななな・・・! なんてことを言うのこの子ったら! 言うに事欠いて痴女ですって!?」
「ちょっと歩くたびに上も下も大事な部分が見えそうになっていたじゃないですか。武装隊が突入した際、ひょっとしたら見えていたかもしれませんね」
「~~~~~~っ!! リニス! フェイトが酷いことを言ってくるわ! これはきっと反抗期よ!」
「リニス! 母さんがしつこくてうるさい!」
ぎゃあぎゃあ口喧嘩を始めるフェイトとプレシアママ。ママが生きていた頃に合って普通な出来事なんだけど、今みたいな奇跡が起きてないと出来ないことだ。だから私とエリオとキャロはちょっと困りながらもその様子を眺めて、レヴィは「ねぇ、まだ~? 早くやろうよ~」って不貞腐れて、ママとフェイトに挟まれたリニスは「2人が仲良くて嬉しいですけど、ちょっと面倒くさいです」って苦笑い。
「おやおや。わしがひとり寂しく一仕事を終えてきたというに。おぬしらは全く仕事をせず、お喋りに興じておったのか? それは少しばかり怠慢だと思うのじゃが?」
そこに別の、女の子の声が聞こえた。ハッとして後ろを振り向けば、どこかルシルの防護服を思わせるようなデザインのジャケットを着た小さな女の子がひとり佇んでいた。
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