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Fate/WizarDragonknight

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"save me save you"

「手あたり次第に絶望しろおおおおおおおおおお‼」

 突如として、街全体に響く大きな声。閑静な住宅地に、そぐわない悪魔がいた。
 まどかに、住み込みを探している店へ案内してもらっている途中。まどか曰くまだ半分くらいの道のりの途中で、果たしてこの町に来て何度目だろうか。ハルトにとっての敵がいた。

「ファントム……! また……!」
「え⁉ 何あれ……⁉」

 当然、可奈美は初めて見るであろう怪物の姿に驚愕している。ハルトは彼女を庇う様に手を伸ばし、

「まどかちゃん、可奈美ちゃんをお願い」
「は、はい!」
「いい返事」

 目を白黒させる可奈美と、彼女をこの場から離そうとする可奈美を尻目に、ハルトは走りだした。指輪をベルトにかざし、起動させる。

『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
「変身!」
『フレイム プリーズ』

 発生した魔法陣をくぐりながら、ハルトの姿が変わる。
 火のウィザードは、ソードガンを振るい、出会い頭にファントムを切りつけた。

「ぎゃあ! 何だ、貴様は⁉」
「通りすがりの魔法使いさ」

 クルクルとソードガンを回しながら、ウィザードは答えた。
 ファントムは立ち上がり、こちらへ向かってくる。
 ウィザードは体を回転させながら、蹴りでその肉弾攻撃を弾く。返しに切りつけ、的確にダメージを与えていく。

「悪いね。今忙しくてさ。初めまして、さようなら」

 ソードガンのハンドオーサーを起動。ルビーを読み込ませ、炎の刃が形成された。

『フレイム スラッシュストライク』

 構え、『ヒーヒーヒー』という音声とともに、一歩踏み出す。そのまま炎の刃がファントムを裂き、粉塵に帰すいつもの流れだ。

 だが。

「ちょっと待ちな!」

 そんな声が、ウィザードのトドメを食い止めた。
 振り向けば、まどかと可奈美が、もう一体のファントムに捕まっていた。巨体により、左右の腕でそれぞれ締め付けられていた。

「まどかちゃん!」
「よそ見かよ!」

 背後の痛み。人質に気を取られ、さようならを宣言したファントムの攻撃に、地面を舐める。

「悪いな。俺たちは双子のファントムだ」
「分かるよな? こいつらを傷つけたくないなら、動くなってやつだ」
「お前ら……!」

 ルビーの仮面の下からギロリと二体のファントムを睨む。
 並び立てば、二体のファントムはコントラストな色合いだが、全ての部位が同じだった。

「クソッ!」
「おっと、動くな」

 指輪を取り換えようとした瞬間、最初のファントムが右手をまどかへ向ける。

「別にお前が怪しげな魔法を使おうと勝手だが、その前に女が死ぬぞ? お前の魔法が届くよりも先に、俺が殺っちまうからな」
「卑怯者……」

 ウィザードは、指輪へ伸ばした手を下げる。
 その瞬間、ファントムの手から光弾が発射。全身から火花が散り、膝をついた。

「ぐっ……」
「あひゃひゃひゃ!」

 ファントムの笑い声。それがウィザードの怒りを買う。

「この……!」
「お前の言った通りだな! 初めまして、さようなら! あひゃひゃひゃ!」

 より、大きな光弾がファントムの手に膨らんでいく。
 ファントムが告げた、ウィザードの言葉。

「初めまして。さようなら」

「ぎゃああああああああ!」

 その時。突如として、ファントム___まどかたちを捕まえている方の___が悲鳴を上げた。
 何事かとウィザードもファントムもそちらへ注目する。

 すると、ファントムの両腕がなかった。
 綺麗な断面を見せ、後ずさりしながら腕を振っている。
 そしてその前には、人質___まどかが、茫然としていた。
 そんな彼女を、所謂お姫様抱っこで抱える人物___あの少女、可奈美が、強い眼でファントムを睨んでいた。

「こんな卑怯者、初めて見たよ」

 可奈美は、まどかを下ろす。まどかは「ありがとう……」と呟きながら、後ずさっていく。
 両腕を失ったファントムは、可奈美を恐れ半分で見下ろす。

「貴様、一体何を……」

 それに対する答え。可奈美は、言葉ではなく、刃で示した。
 そう。刃。
 まさに、日本刀としか呼べない代物が、彼女の手に握られていた。
 それと、彼女の足元に転がる、開いたギターケース。それから、その中にあったのはギターではなかったことが判明した。
 銀の光を放つ、刀。
桃色の装飾の突いた鞘を左手に、可奈美がもっていたのは、日本刀。
その名も、千鳥(ちどり)


「な、なんだ……⁉ それは⁉」
 ファントムの問いに対し、答えた。


「全てを薙ぎ払えるような、全てを守り抜けるような、私の御刀‼ 千鳥!」

 少女は、千鳥という刀を回し、告げた。

「元、美濃関(みのせき)学院(がくいん) 衛藤(えとう)可奈美(かなみ)! 行きます!」



可奈美はまず、切っ先を両手のないファントムに向ける。
 ファントムは、その口より炎を発射。瞬く間に炎の壁となり、可奈美へ迫る。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

 しかし可奈美は、大声のみでその炎へ立ち向かう。

(ウツ)シ!」

 刹那、その体が白い光に包まれる。すると、可奈美の動きが変わる。
 人間ではできない、俊足移動。一瞬で炎を突き抜け、ファントム本体まで移動した。
 そしてそのまま、ファントムの体を越える。

「次!」

 すでに可奈美は、腕なしファントムを背に、その場を去る。

「何⁉ まだ俺は倒れて___

 ない。そう言おうとしたのだろう。だが、彼は気付いていなかった。

 自身の体が、真二つになっているのを。
 ファントムの視界が、きっと大きく左右に開いたのだろう。
 ウィザードがそう思った瞬間、あのファントムの姿は爆炎と化した。

「弟よ⁉」

 最初のファントムは右手を伸ばして叫んだ。
 だが、可奈美は意にも介さず、残り一体のファントムへ躍り出る。

「このっ!」

 どこから取り出したのか、ファントムもまた剣で応戦する。可奈美の千鳥と火花を散らすそれは、可奈美の綺麗な日本刀とは異なり、黒く禍々しいデザインだった。

「……何がおかしい?」

 それが、ファントムの口から出てきた言葉だった。
 そして、それに対する可奈美の言葉に、ウィザードは耳を疑った。

「おかしいんじゃないよ。楽しいんだよ!」
「楽しい……?」
「だってそうでしょ⁉ 見たことのない剣術、どの流派にも当てはまらない戦い方なんて、私も初めてだもん!」

 それがどんな流派の、何という技なのかは分からない。だが、彼女の動きには一切の無駄がなく、まるで芸術品のような美しさがあった。

 その中で、少女はずっと笑っていた。

「すごい、タイシャ流みたいに体術を交えての剣術だけど、私が知ってるタイシャ流とは全然違う……! あっ! 今のって、すごい力! その振り、神道無念流だよね! なら、これは……すごい! 今の返し、鞍馬流だよね! 私、その攻撃受けたことあるよ! うわ! すごい! 今の、間宮一刀流? すごい……」
「一々うるせえ!」

 激昂したファントムが、攻撃の手を強める。しかし、可奈美の剣技は美しく、それを全て受け流していく。それどころか、可奈美の新陰流なる剣術が、少しずつ反撃の立ちを浴びせていく。
 徐々に、ファントムが押され始めていく。それは、ファントムが恐れ、可奈美が楽しんでいるという証だった。

「だが、それでも貴様は所詮人間に過ぎない!」

 ファントムの語気が増す。それを証明するように、だんだん可奈美も押されていく。

「人間ごときが、ファントムに勝てるはずがない! 弟を倒したのも、所詮はただのまぐれだ! 諦めて絶望してファントムを生み出せ!」
「諦めない! それに、それに、たとえ勝てなくても、悔しくても絶望なんてしない! それはきっと忘れちゃいけないことなんだよ! それは、これからの糧になるから!」

 やがて、ファントムの一閃を受け止めた千鳥が、邪悪な刃を絡めとる。そのまま上空へと放り投げると、ファントムの剣は遥か上空へ飛んで行った。

「何⁉」
「行くよ!」

 武器を失ったファントムの懐で、可奈美は身構える。

太阿之剣(たいあのつるぎ)!」

 千鳥から発生した、紅蓮の光。それは、千鳥の刃を帯びる光となり、大きくその刃先を増す。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 可奈美の掛け声とともに、赤い剣凪がファントムを斬り裂く。
 それはファントムの断末魔を引き起こし、その身を爆散させた。

 ファントムの墓標のように地面に突き刺さる、禍々しい剣。それを見やりながら、可奈美は呟いた。

「私は全てを守り抜くよ。ここから、ずっと」

__________見ていてね。姫和(ひより)ちゃん____________

 彼女のその声は、ウィザードには全く聞こえなかった。
 
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