Fate/WizarDragonknight
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VS 可奈美
「可奈美ちゃん……君は……?」
ハルトの姿に戻り、ゆっくり近づく。
「あの力は……一体……?」
彼女の姿をじっと見つめるハルト。一方可奈美は、静かにこちらを睨んでいた。
千鳥を納刀し、可奈美はゆっくりと歩いてくる。
「ハルトさん。貴方が、噂の魔法使いだったんだね……」
「……うん。そうなるね」
彼女の眼付きから、ミーハーな感情で自分を探していたわけではないことは察しが付く。ハルトは、ソードガンを握ったまま、可奈美を見返していた。
「私、噂の魔法使いに確認したいことがあるんだけど」
「確認……したいこと?」
可奈美は頷いて、ゆっくりと左手の甲を見せる。
長袖をめくり、彼女の手首が露になった。
それを見たハルトは、目を大きく見開く。
「それは……!」
「やっぱり、貴方も知っているんだ……」
可奈美の眉が吊り上がる。
「キュウべえから、大体のルールは聞きました。……魔力を持った人が見滝原で行われる、聖杯戦争」
「……それで、君は聖杯戦争を……サーヴァントは……?」
「まだ来ていないよ。けど……」
可奈美は自らの令呪をさすった。左右に沿って伸びる線は、対照的で美しくも見えた。
「現れても、聖杯戦争には降りてもらおうと考えています。私一人で全部背負うから」
「それって、君の願いのため?」
「……貴方に頼みがあって、探していました」
さっきまで明るい声だった可奈美は、冷たい眼でハルトを睨む。
「この聖杯戦争……降りてください」
可奈美の鞘が、ハルトの左手を示す。
令呪が宿す、その左手を。
「教会に駆けこむなり、斬り落とすなり。降りて下さい」
「……嫌だと言ったら?」
「……」
オロオロしているまどかを脇に、ハルトと可奈美はにらみ合う。
しばらくそのぶつかり合いが続き、可奈美は続ける。
「聖杯戦争を進めば進むほど、人間の道を踏み外すルールになっていく。分かっている?」
「一応。君と同じくらいには分かっているつもりだよ」
「そう。……」
可奈美は、改めて抜刀した。千鳥と呼んだその刀は、夕日を反射して、ハルトは目を細める。
可奈美は首を振り、
「この数時間だけ、一緒に過ごして、私もハルトさんがいい人だってのは分かってるよ。でも、聖杯戦争って、どんな願いでも叶うらしいから。聖人君主でも、そうならないって限らないから」
「……それは、君も当てはまるよね? 君も殺人犯にならないとは言い切れない」
「そうだよ。でも、ないから。だって私、強いし」
「それは俺も同じだよ」
「だったらさ」
可奈美は、千鳥を構えた。
「立ち合い、しよう」
それは、可奈美がいつも言っているようなまでに当たり前の口調だった。
可奈美の言葉が理解できないハルトは、眉をひそめる。
「立ち合い?」
「うん。……そう、立ち合い!」
身を乗り出す彼女は、勢いよく告げた。
「剣を交えば、その人が本当に悪いかどうか分かるんだよ! だから、早くやろう!」
「ごめん。言っている意味が分からない。まどかちゃん分かる?」
「私にも何が何やら」
まどかも首を振った。
可奈美はじれったそうに、
「とにかく、勝負してみれば分かる! それで、ハルトさんが本当に悪い人じゃないってわかれば、私も手を出さないから。ね?」
これから戦おう。つまり、命がけのチャンバラをしようということだ。
それなのに可奈美の顔は、まるでこれから遊ぼうというような笑顔だった。
「ねえ、可奈美ちゃん。今日見た中で一番いい顔な気がするんだけど」
「大丈夫だよ! それより、早く始めよう! 普段さっきみたいな怪物と戦っているんでしょ⁉ 刀使とかとはまた違う打ち合いができるんでしょ⁉」
「何を言っているのかさっぱり分かんない。……とにかく、戦えばいいんでしょ?」
「そう! やろう!」
「……本気でやるよ」
「当然!」
可奈美は勢いよく返事をした。
そして、ハルトは可奈美へ駆け出し、斬りかかる。
それに対し、千鳥が一閃、ウィザーソードガンを切り結んだ。
ハルトと可奈美は、そのまま斬り合いに突入する。
これまで、無数のファントムを牽制してきた、ハルトの斬撃。それら全ては、可奈美の刀に阻まれ、逸らされ、避けられる。
斬り合いながら、互いに移動。その間、彼女の刀捌きに舌を巻いていた。
「一体、どれだけやってきたんだ……? この刀の使い方、普通の女の子のレベルじゃない……」
「それなりの修羅場は潜ってきたつもりだからね!」
彼女の刃先がハルトに迫るたびに、冷や汗が流れる。
受けて流す。そんな新陰流の刀使いからは一転、攻めに転じた彼女の動きは、防ぐだけで精一杯だった。
「っ!」
『ディフェンド プリーズ』
日本刀が、魔法陣の防御を斬り破る。
一瞬でも遅かったら、魔法陣ではなくハルトが真二つになっていた。
「ヤバい……明らかにそっちの方が技量上だよ……」
「ありがとう! でも、そっちもまだ見てないでしょ? もっと本気の立ち合いをしよう‼」
つばぜり合いになり、可奈美との力比べになる。その時、ハルトは右手でベルトをかざす。
『ドライバーオン』
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
「……分かった。こっちも本気でやらせてもらうよ」
「いいよ。もともと、そのつもりだったし!」
「……変身!」
「写シ!」
『フレイム プリーズ』
互いに斬りかかりながら、炎の魔法陣を潜る。
微熱を感じながら、ハルトはウィザードへ、可奈美は写しの霊体へ変化していく。
『ルパッチマジックタッチゴー ルパッチマジックタッチゴー』
右手でハンドオーサーを動かし、ベルトを起動。速攻で指輪を読み込ませる。
『ビッグ プリーズ』
魔法陣から伸ばした手が巨大化し、可奈美を圧し飛ばす。
地面を転がった可奈美は、それでも問題なさそうに再起した。
「へえ……一応生身では大怪我するレベルでやったんだけど」
「これぐらいなら、写シでも問題ないから。魔法を活かした剣術、もっと見せて!」
「へえ。じゃあ、お望み通り」
『バインド プリーズ』
魔法陣に手を突っ込む。魔法陣から発生した鎖が、蛇のように可奈美を襲う。
だが、それらの鎖を一閃で斬り伏せた可奈美は、そのままウィザードと切り結ぶ。
「だったら……これだ!」
『エクステンド プリーズ』
距離を取り、次の指輪を選択。
延長を意味する魔法。それはウィザードの腕へ、伸縮自在な動きを可能とした。可奈美の上下左右、多面的な方角からの攻撃。
対人を主戦場としてきたであろう彼女には未経験であろう空間からの攻撃だったが、可奈美はその全てを千鳥で防いでいた。
「……もう、驚き通り越して呆れてきたよ」
「ありがとう! じゃあ、次は?」
「卑怯とか言わないでね」
可奈美の横凪を回避したウィザードは、ソードガンを銃にして発砲。
魔力が込められた銀の銃弾。それぞれが別々の軌道を見せ、それが前後左右、あらゆる角度から可奈美を襲う。
しかし、それらを全て見切った可奈美は、その全てを斬り捨てた。彼女の足元に、銀の残骸が勢いなく零れる。
「……嘘でしょ」
「ホントだよ!」
可奈美は再び身構える。
そして、彼女の姿が消えた。
「え?」
その瞬間、ウィザードの体より火花が散る。
「うわっ!」
驚きながら、地面を転がるウィザード。
目の前に現れた可奈美を見上げて、思わずつぶやいた。
「今の……高速移動?」
「普通の高速移動とはちょっと違うかな。これ、迅位っていうんだけど」
「迅位?」
可奈美は、自らの刀をかざす。
「御刀からの力だよ。これがあると、私たちが本来いる現世(うつしよ)とは別の世界からの高速移動能力が得られるんだよ」
再び可奈美の姿が迅位により加速する。
「こんなふうに!」
再びの斬りかかり。ウィザードはソードガンで防ごうとするが、彼女の素早い斬撃はそれをすり抜けてくる。
『ディフェンド プリーズ』
しかし、ある時。ウィザードを守る魔法陣により、可奈美の動きが止まった。
「今だ!」
ウィザードは、一瞬のスキに一気に切り込む。上薙ぎ、下払い、蹴り、スライディング。いずれも可奈美は、無駄ない動きで回避する。
そしてソードガンの斬撃を千鳥で受け、そのまま何度も何度も切り結ぶ。
「こうなったら……」
一か八か。そう判断したウィザードは、ソードガンの手の形をしたオブジェを開放。すると、ソードガンから音声が流れ始めた。
『キャモナスラッシュ シェイクハンズ キャモナスラッシュ シェイクハンズ』
可奈美より飛び退き、ルビーを、オブジェと握手をするように握る。
『フレイム スラッシュストライク』
「すごい……!」
ソードガンの刃に走る炎の流れ。それを可奈美は、キラキラと輝かせた目で見つめていた。
「これが魔法を交えた剣術……! 本当に、私たち刀使とは全く違う!」
「剣で語ってほしいんでしょ? だったら、俺の剣の本気を撃つ。可奈美ちゃんも、そうしたら?」
「……! うん!」
これは戦いの最中の会話。
そんなことを忘れそうになるくらい、可奈美は笑顔を見せていた。
「……ハルトさん」
可奈美の雰囲気が変わった。
「やっぱり、立ち合いは楽しい!」
「……え?」
「これまで、色んな流派の剣と戦ってきたけど、ハルトさんみたいなのは初めて見た! 足を使った、剣捌きに、魔法を交えた補助戦術!」
可奈美は、腰を落とし、身構える。
彼女の白い写シが、深紅へ染まる。
「分かったよ。ハルトさん」
「? 何が?」
「剣を交えれば、その人のことが分かるって言ったでしょ? ハルトさんは、聖杯戦争の……自分の願いのために、誰かを犠牲にできる人じゃない」
「どうしてそれが分かるの?」
「ハルトさんの剣は、真っすぐで、強くて。皆を守ったり、楽しませたり。そんなことがしたい。そんな魂がこもっているから。……でも、何かを隠してる?」
「……!」
「とにかく、悪いことをする人じゃない。それは、絶対に間違いないよ!」
「……ふうん……なんか、よくわからないな」
「とにかくそうなんだよ! だから、私も全力で、ハルトさんとぶつかりたい!」
彼女の刀より、赤い光が流れ出す。
「行くよ!」
「ああ」
「だあああああああああ!」
「太阿之剣!」
その時。
まどかの前で、巨大な爆発が起こった。
野次馬が集まってきて、警察も出動。当事者たちが、疲れた体を動かして慌てて逃げていったのだった。
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