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もう二度と

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第四章

「大変だったかもね」
「食べた後でお腹壊してか」
「大変なことになったか」
「彼にしても」
「店員さんもそんなこと言ってたしね」
 彼のその言葉も思い出して言った。
「あの人にしても」
「後で当たって地獄を見た」
「君の様にね」
「そうなっていたんだね」
「うん、それにあの人はね」
 クライストはビスマルクの話をさらにした。
「死ぬ間際身体を大いに壊してね」
「確か八十三歳だったな」
「長生きしたというけれど」
「一八九九年頃だったか、亡くなったのは」
「その亡くなる時にこう言ったらしいよ」 
 その言った言葉はというと。
「若い頃の大食が祟ったかとね」
「皮肉な言葉だな」
「自嘲を感じるな」
「毒舌の彼らしいといえばらしいよ」
「そう、実際に自嘲して言ったそうだよ」
 死に向かうその時にだ。
「それでこの世を去ったらしいよ」
「成程ね」
「それを聞くと意味深い言葉だね」
「実にそう思うよ」
「いや、本当にね」
 また言うクライストだった。
「今回で僕も牡蠣については思い知ったよ」
「食べ過ぎてはいけない」
「食べ過ぎればそれだけであたるものだから」
「だからだね」
「食べ過ぎなくてもちょっとしたことであたるしね」
 それも牡蠣だ、とかく新鮮か火をよく通していないと危ないのだ。そしてあたれば非常に恐ろしいことになるのだ。
「気をつけないとね、少なくともね」
「少なくとも?」
「どうしたんだい?」
「何かあったのかい?」
「牡蠣は暫くはいいよ」
 こう言うのだった。
「本当に地獄を見たからね」
「ああ、そういうことか」
「流石の君も懲りたか」
「今回のことには」
「そうなったよ、本当にね」
 実際にというのだ。
「牡蠣の怖さがわかったからね」
「僕達も気をつけないとな」
「牡蠣は美味いが怖い」
「そうした食べものだってことをな」
「だからもう牡蠣を百個以上食べないよ」
 そうしたこともしないというのだ。
「二度とね」
「下痢にならない為にもね」
「地獄を見ない為にも」
「その為にも」
「そうするよ」
 こう言ってだ、クライストは友人達にこんなことを言った。
「それで今度いい店を見付けたけれどね」
「いい店?」
「っていうとどんな店だい?」
「食べものの店かい?」
「うん、魚料理がいい店でね」
 それでというのだ。
「特に鯉がいいらしいね」
「鯉かい」
「川魚が有名なのか」
「それが」
「そう、実はビスマルクは鯉も好きでね」
 何だかんだでこの人物の名前を出すのだった。 
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