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もう二度と

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第五章

「それで今度はだよ」
「鯉を食べるのかい」
「今度は」
「そうするのかい」
「そうするよ、ただね」
 ここでクライストはこうも言った。
「生では絶対に食べないよ」
「日本人みたいにはしないか」
「日本人は刺身が大好きと聞くが」
「確か鯉も刺身にするな」
「それは絶対にだよ」
 それこそ何があってもというのだ。
「食べないよ」
「川魚はあたると怖いというな」
「寄生虫がいるからな」
「命に関わるらしいな」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「生では食べないよ」
「焼いたり煮たりして」
「揚げたりしてか」
「そうして食べるか」
「イタリア料理で作ってもらおうか」
 クライストは笑ってこうも言った。
「そう考えているよ」
「ああ、イタリアか」
「イタリアは魚介類の料理もいいからな」
「そちらでいくか」
「そう考えているよ、ただイタリアは」 
 クライストはこの国の話もした。
「ビスマルクも好きだったみたいだけれど」
「あの人だけに限らないな」
「ドイツ人のイタリア好きは」
「多くの人がだな」
「僕にしても」
 クライストは自分のことも話した。
「実はね」
「イタリア好きだな」
「そうだな」
「君にしても」
「何度も行ってるよ」 
 イタリアにというのだ。
「そして景色も食事もワインも」
「どれもだね」
「楽しんでいるな」
「そうだな」
「うん、イタリアが好きなことは」
 それはというのだ。
「ドイツ人の多くにとってその通りだよ」
「ビスマルクに限らないな」
「ゲーテもワーグナーもそうだった」
「神聖ローマ帝国の頃からだった」
「そして今も」
「だからこのことは言うまでもないな、また行ってくるよ」
 クライストはこう言った、そしてだった。
 彼は友人達とビスマルクの話からイタリアの話になった、もうそこでは牡蠣のことを話すことはなかった。


もう二度と   完


                2020・1・20 
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