人理を守れ、エミヤさん!
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運命的だね士郎くん!
新たに干将と莫耶を投影し、腰の鞘に納めておく。
周囲を検めると大きく陥没した地面や、神秘爆発の規模からして妥当な破壊の跡が残っている。
この場に留まれば騒ぎを聞き付けた一般人がやって来るかもしれない。そうでなくとも、魔力の高まりを感じたマスターやサーヴァントに来られたのでは面倒だ。早々にその場を後にする。
「こっちは片したぜ。そっちも上手くやったみてぇだな、マスター」
夜闇に紛れ、移動する俺の側に、実体化したままのクー・フーリンが現れ戦果を報告してきた。
俺は頷く。こちらも問題なくマスターを始末出来た。ロード=エルメロイの名が出たのには驚いたが、そういえば第四次で二世の前のロードは戦死していたのだ。考えてみればいるのを思い出せたろうが、完全に忘れていた。
言峰綺礼、衛宮切嗣を出し抜くことにばかり頭が行ってたようで、そこは自制せねばなるまい。
「相手側のランサーはどうだった?」
問うと、クー・フーリンは微妙そうな顔をした。おや、雑魚だったのか?
「同じケルトの騎士だった。真名はディルムッド・オディナ。技量だけ見たらオレに近い、手強い奴だったぜ」
「そういう割りには浮かない顔だな。どうしたんだ?」
「あー……その、なんだ。オレがこうだから感覚ズレてんだろうが、日本でのケルトの知名度ってのがあるだろ?」
「あっ」
「あれだ。宝具とか、ステータスとか。スキルとかな。……ちょっとしょっぱい感じだったぜ」
――の割に、躊躇いなく宝具を使ったのは、彼なりの賛辞なのだろう。
彼の口ぶりではまともな戦いも成立しなかったろうに、技量だけは冠たるものを見せつけたのだ。クー・フーリンをして宝具の使用を惜しませないほどに。
故に己の槍で穿つに足ると彼は認めたのだろう。
「こっちの話は良いだろ。こっからどうするマスター。目論み通り冬木のランサー陣営に成り代われんだろ」
「ああ。まあ、アインツベルンと教会には一騎脱落したのは筒抜けだろうけどな」
「ん、そうなのか?」
「アインツベルンは小聖杯に注がれた魂で脱落に気づく。教会は霊器盤で。まあ、俺らの存在はバレるだろ」
というか、バレなかったら拍子抜けである。気づきもしない節穴ばかりなら、そもそも面倒な策を練るものか。
クー・フーリンは「あー、なるほどね」と何やら察したように頷き、俺の一歩後ろを歩く。
こういう騎士然とした何気ない所作で、本当に敬意を持ってマスターとして遇して貰うと、なんとも気の引き締まる感じがする。
あのクー・フーリンに、本気で臣下の礼を取られたら、相応しく在ろうと思うものだ。
それはそれとして、今後の動きである。
「冬木のランサーの動きからして、挑発ぎみに動いて敵を釣ろうとしていたんだろう? なら俺達も今夜はそれに肖ろう。マスターが正統派な魔術師だったし、敵が釣れたら戦う場として人気のない場所を選定するだろうな」
言いつつ、ざっと脳裏に地図を走らせ、現在地と正統派の魔術師の思考を投影し考える。
戦いの場として選ぶとしたら……やはり、倉庫街辺りが無難か。
「という訳で、ランサー。敵が釣れるか試してみよう。釣れたら今は亡きランサー陣営の遺志を継いで戦わんでもない」
「了解。で、どこまでやる気概だ?」
「マスターにサーヴァント、全て消えて貰う」
ついでに間桐も。
「不穏分子には退場願って、穏当に聖杯を回収するか破壊する。まあ、破壊の方が確実だろうが」
「血気盛んなのはいいが、いいのかマスター。テメェの親父がいるんだろ?」
クー・フーリンの念押しに鼻を鳴らした。
衛宮切嗣。確かにいるだろう。
だが、だからこそだ。
「だからこそ手は抜けないな。本気でやる。切嗣相手に半端は出来ない。隙を見せたらやられるのはこっちだぞ」
しち面倒くさい策謀を巡らせ、転ぶのは勘弁だ。
シンプルに片付ける。単純な戦略と基本的な戦術で。無理に奇をてらう必要はないのだ、奇策に頼ると隙を見せかねない。手堅く堅実に、されど大胆不敵に王道で勝つ。
切嗣や俺の弱点は、正当に強い正統な英雄であり、如何なる小細工も意に介さない強者だ。切嗣なら、理性ありのヘラクレス並みのクー・フーリンを見れば、必ず正攻法は避ける。奇策に転じるだろう。それが隙となる。
切嗣は見つけ次第消す。誰よりもその能力と実力を知るが故に、確実にだ。
「――っと、何か釣れたぜ。真っ直ぐついて来やがる」
クー・フーリンが敵の気配を察知する。俺は肩を竦めた。
「今夜で二騎脱落か。急ぎ足の戦争になりそうだな」
「おいおい、皮算用はやめとけよ。そんな上手く行くもんでもねぇだろ」
「上手く行かせるのさ。俺達にはそれが出来るはずだ。だろう、ランサー」
「は。おだてるのが巧いこって。分かった、やってやるよ、仕事は完璧にこなす主義だ」
軽いノリで戦える相方というのは得難いものだ。マシュは真面目にやらんといかんし、アルトリア達はその騎士道に気を付けている。
自然体で一番やれるのが、切嗣とランサーのようだ。俺としてはやりやすくて本当に助かる。
敵の気配を俺も感じた。令呪に反応がある。マスターだろう。
着いてきているから、場所を移すことを察しているのだ。
さて、誰が釣れる?
キャスターは有り得ないとして、アサシンも同じ。ライダー、セイバー辺りが食いついてきたのだろう。
そうあたりをつけ、倉庫街でランサー共々待ち構えていると――彼女らは姿を表した。
凛とした、見慣れた美貌。ダークスーツに身を包んだ、少年といっても通じる気品。
白い女のマスター。イリヤスフィールに似通ったひと。
「はは」
思わず笑った。
「マジか」
ついぞ見ることのなかった、彼女の警戒心。
敵を見る目。
「おい。いきなりペース乱れてるぜ」
「――ばか言うな。問題ない。寧ろ興奮してるね。敵のアルトリア、倒して組み伏せるのも楽しそうだ」
まあ、冗談だが。いずれは来る時で、それがまさか今だとは思っていなかっただけ。
俺の軽口に、クー・フーリンも応じた。
「そういやあの時もこの面子だったな。いや、あの女は居なかったが」
「だな。組み合わせはあべこべだが――」
セイバーのサーヴァント。
切嗣が背後に控えた、騎士王。
アルトリア・ペンドラゴンは。ここで。
「ちゃちゃっと片付けて帰ろうぜ。一番やり易い奴と会えて良かった」
――倒れて貰う。
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