アイテム収集家の異世界冒険話
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04話 スカウト
「あなた達が、いま噂になってるハンターね」
モンスターを狩る仕事と日課のトレーニングを終えた後、酒場にて食事をしていたユフィと志陽。そんな二人に声を掛けてきたのは見知らぬ若い女性だった。傍らには仲間だと思われる男も立っている。志陽達と同じような男女の二人組。
「噂になってる?」
食事していた手を止めて、疑問を口に出した志陽の言葉。噂とは一体何なのか? 志陽は知らない。
「最近モンスターを倒しまくっていて腕が立つと聞いている。ひとつ仕事を頼まれてくれねぇか?」
志陽の疑問に答えたのは肌黒の男性だった。鍛え上げられた肉体に、右腕にはガトリングガンが装着されている特徴的な男。志陽にとって出会うのは初めてだが見覚えのある人物だった。
(彼は、この世界でのメインキャラクターだな……。そして、こっちの女性も)
「仕事の内容と報酬は?」
志陽が男たちの観察を続けている間、男が言う仕事を頼みたいという言葉を聞いてユフィが興味を持ち尋ねた。特に報酬について、どれくらい支払うつもりなのか知っておきたいと思って。だがしかし、彼女の求める答えは返ってこなかった。
「仕事の内容については、仕事を受けてくれると約束してもらうまでは詳しく教えられない。とにかく、俺達と一緒に旅に同行してほしい。簡単に言うなら、これから旅をするための護衛のようなものだと思ってもらいたい」
噂にまでなって知られているような志陽とユフィの戦力を求めて、一緒に旅をしてくれないか声を掛けたのだと彼は打ち明けた。
「俺たちは今、お前たちのような強い人間を求めているんだ。報酬についても仕事が終わった後に必ず渡す。だから頼む」
「話にならないね、パス」
仕事の内容は教えてくれようとしないし、報酬についても不明。明らかな怪しい話に興味が失せてしまったユフィは聞く耳を持たない。わざわざ怪しい仕事を受けなくても、モンスターを倒してドロップ品を集めるだけで十分に稼げているのだから。
頭を下げて頼み込んでくる男の願いをユフィは払い除けた。しかし、志陽の方は仕事に関しての興味を持っていた。
「コチラの要求を聞き入れてくれるのなら、仕事を受けてもいいぞ」
「ちょっと、ショウ!」
積極的に仕事を受けようとしている志陽に、いま順調に行っているのに何故わざわざ面倒事に飛び込んでいこうとするのか、理解不能だとユフィが仕事を受ける事を止めようとする。だが、志陽は聞き入れなかった。
「仕事を受けている間も、自由行動について保障してもらいたい。24時間ずっと付きっきりの護衛として働くつもりは無い。俺たちの旅の目的であるアイテム収集を行う傍らで仕事をしていいのなら、そちらの仕事を受けよう」
「おう! もちろん、用事がないときは好き勝手に行動してもらって結構だ」
旅を一緒に来てくれるだけでも戦力として活躍してもらう目的は果たせるだろうと、肌黒の男は考えて条件を飲み込んだ。
「ユフィは、何か希望あるか?」
「え? 本当に仕事を受ける気なの?」
「あぁ、彼らと一緒の旅に同行しようと思う」
「アタシは反対だよッ!」
「じゃあ、ここでお別れだな」
「……」
仕事を受けようとする志陽に対して、嫌だと拒否するユフィ。意見が別れたので、ここでお別れだなとアッサリとした様子でパーティー解消を言い渡した志陽。驚きのあまり、言葉を失った様子のユフィだった。
「俺の名前は志陽。よろしく」
そして呆然としているユフィを放置して席を立つと、志陽はさっそく仕事の話を進めようとして彼らに歩み寄った。
「あ、あぁ。俺はバレット。そしてこっちがティファ」
「よろしくね。ところで彼女は良いの?」
三人は簡単に自己紹介を終えた後、ぽかんと口を開けたままのユフィを気にかけたのはティファ。しかし、志陽の方から何か言ってフォローするつもりはない。仕事を受けるつもりが無かったら、ここでユフィとは本当にお別れしようと考えていた。
すると突然、バンと音を立てるようにテーブルを両手で叩いて立ち上がったのはユフィ。
「もう! 私も一緒に行くよッ!」
「いいのか?」
「ショウは世間知らずのバカだから、私がしっかりと見守らないと。こいつらも、もしかしたら悪党かもしれないし。ショウの面倒はアタシが見てあげるんだから」
「そうか。よろしく頼む」
異世界からやって来た志陽では、町の名前やこの世界の常識について等など知識が不十分だった。物を知らない志陽に色々と教えてくれたのがユフィだった。彼女は志陽が世間知らずだと思うようになっていたので、そんな彼とココで別れて放っておくことは出来ない。
結局ユフィの方が折れて、志陽とユフィの二人はバレットが持ってきた仕事を受けることに決めたのだった。
「俺たちの他に、まだ何人か俺たちの仲間が待っている。合流して事情を話そう」
「わかった」
心強い人材を味方につけることが出来たと、上機嫌になったバレット。彼の仲間たちが待っている場所へと急いで志陽達を案内した。
「よろしくね、ユフィ」
「ふん。あんまりヨロシクするつもりは無いよ。さっさと仕事を終わらせてショウとの旅を再開するんだから」
ティファは今日から仲間になったユフィに友好的に接しようと試みるが、差し伸べた手を払われてしまうのだった。
***
「アバランチ組との最初の出会いが、まさかそんな風に起こるなんて面白い。しかし……」
「しかし?」
志陽はアイテムについての情報以外は、ストーリーや展開、キャラクターの情報について詳しく覚えないまま世界を超えていく。だから、栄一の知っているような原作の展開から外れることが多々あった。そして、今回も知っているような展開とは大きく乖離している。
ただ志陽の話を聞いている間、自分の知っている内容から大きく変わっている展開よりも、もっと気になる事がひとつ栄一にあった。
「いつの間にか、ユフィちゃんの志陽に対する好感度が高まってる……!? なんて手の早い、恐ろしい子ッ」
話を聞いていて、ユフィの志陽に対する好感度の高さを察した栄一は恐れおののいた。また自然に何の気負いもなく、女を落としている。
「この頃はまだ、手を出してないぞ」
「それで、それで? 続きは?」
「あぁ。その後に、バレットの案内で彼の仲間たちに合流することになった」
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