問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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一族の物語 ―交わした約束― 終末は少年少女へ問う
本来のギフトゲームとは前提の異なる、外道の主催者権限。これが彼の主催者権限に対する正当な評価であるのは間違いないのだが、だからと言って根本から外れているわけでもない。
主催者権限。それは神々の権能すら超える、最強の強制執行権である。大元は人類に対する試練と化した魔王を、神霊の力で封印する手段として作られた執行権であり、その神霊が保有する、神々が成した試練を再現することで対象へ上位の法則性を強要する権限である。
例えば、インドラのヴリトラ退治。獲得した勝利、成した事実からゲームを製作することで、敵対者へ弱点を剥き出しにすることを強制する法則を強制する。
では、鬼道一輝が開催したゲーム『一族の物語』はどうなのかと言えば。その真実は大きくことなる。そもそも齢16、7程度のガキがそれだけの功績を保有しているはずもなく。唯一保有しているアジ=ダカーハ討伐の功績も彼と言うバグによって引き起こされた異常事態だ。ゲームを製作することは叶わない。
もう少し、彼の主催者権限について掘り下げよう。あくまでも彼が保有する主催者権限は『鬼道一輝の主催者権限』ではなく、『鬼道の主催者権限』。ではその功績はあくまでも『鬼道』のものであり、『鬼道一輝』が成したものではないのではないか、と。そう考えたのなら、確かに鬼道はそれを成しうるのかもしれない功績をいくつか保有している。
そう、それは歴代の当主が成しえた功績。三代目によって是害坊が、五代目によって蚩尤が、十代目によって八面王が、十三代目によってパロロコンとダイダラボッチが、十五代目によって九尾の狐が。それぞれ神霊やそれに連なる存在、及び固有の名前を持つ霊獣の討伐。それは間違いなく功績である。
が、しかし。それらは間違いなく『功績』ではあるものの、『ゲーム製作可能な法則』へは繋がらない。何せこれらの討伐はどれにも、『神話を構成できる要素が無い』のだ。なにせ彼の世界には『神話』や『逸話』に語られる存在はそれだけで出現することができる。そんな当たり前に出現する存在を殺す行為は、山か何かに現れた害獣を殺すことと大差ない。故に『神話に語られる神々、魔物、英雄』であれば箱庭の世界に現れた場合にも主催者権限を保有することが出来るだろうが、『現代を生きる人間』にそれは不可能だ。故に一輝の中に封印される蚩尤や湖札の中に封印される天逆毎といった神霊だけは、主催者権限を持ち込んでおり、二人はそれを借用していた。
さてさて、こうして鬼道の主催者権限はさらに謎を深めていく。一体いかなる手段で鬼道は主催者権限を獲得できるだけの功績を、相手に強制できるだけの法則を獲得しているのか。少なくとも箱庭から同名の存在を観測できる異形は関係なく、鬼道の一族は未だにその功績を獲得していない。
即ちそれは。彼らが成し得た功績ゆえに獲得した霊格ではなく。これから成しえるはずだと期待された功績ゆえに獲得した霊格である。
箱庭から観測不能な世界で、これから先になしえるはずだと期待され、先駆け的に得られた功績。この上なく不安定で不明確なギフトゲーム。揺れ動く主催者権限の謎は……さて、どのように読み解いたモノか。
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「つーわけで、鬼道の霊格について教えろ」
「あ、うん。いいよ?」
とまあ、そんな感じで。
一旦本拠に帰ってきて、同じく本拠に帰ってきていたヤシロを呼び出して真っ先に行われた会話がこれである。はっきり言おう、あっけなさ過ぎる。
「……聞いた側であれだが、いいのか?」
「うん、別に大丈夫だよ?どうせお兄さん何かしらの手段で戻ってくる気だろうし、だったら上手く行きそうな手段に加担するのは従者として正解じゃない?」
なるほど、それだけ聞けば確かにその通りだ。それにしたって彼女らしくないというか……
「それに、ちょっとアドバイスすればお兄さんに勝てる方向には持っていけそうだし、どうなるか見ていけば面白そうだし♪」
訂正、思いっきりヤシロだった。
「それで、リクエストは『鬼道の霊格について』でいいんだよね?」
「ああ、それでいい。……ってか、それ以外にあるかよ」
「うん、まあ『鬼道の霊格』と『鬼道一輝』の霊格とじゃちょっと意味合いが違ってくるから、どっちがいいのかなー、って」
ギフトゲームが鬼道の霊格で開催されてるし、鬼道でいいとは思うんだけど、と続ける。
「あ、鬼道のギフトゲームで合ってるんだよね?」
「ああ、それであってる」
「それにしても、それ以外の主催者権限も保有してるみたいな言い方ね」
「うん、だって持ってるし。今お兄さんが保有してる主催者権限は『蚩尤』、『鬼道』、『アジ=ダカーハ』、『ジャック・ザ・リッパー』、『鬼道一輝』の5つのはずだよ?」
分かりやすい絶句。一輝のギフト、その構造上複数の主催者権限を保有していることは明らかだったため、今回驚きを生んだのはそこではない。
「あいつ個人として、二つ持ってるってことか?」
「うん、そう言うこと。もしかすると『鬼道一輝』の主催者権限はまだ完成してないかもだけど、そう時間はかからないと思うよ」
そんな言葉を告げ、更に続けるように一言。しかしそれは彼らをさらに追い込むものではなく。
「まぁ、安心していいんじゃないかな?少なくともお兄さんがその主催者権限を使うことはないし」
「……何故、そう断言できる?アイツの主催者権限はその構造上、単身でダブルゲーム、トリプルゲームを開催できる代物だ。本気で相手すると宣言している以上、それらを使ってくることだって」
「いやー、ナイナイ」
ご冗談を、と言わんばかりの軽いノリで返す。まるでそれが彼女の予想ではなく、決定された未来であるかのように。
「だってダブルゲームトリプルゲームって、あれでしょ?つい先日のアジ=ダカーハ相手に使ったみたいなやつ。他のゲームのルール、時代背景まで取り込んで敵に対してより一層の制限を加えるやつ。そもそもまるで違うゲームでそれを行おうと思ったら詩人の力が必須で、お兄さんはそれを所持していない」
これが一つ目の理由、と人差し指を立てる。なるほど確かに、彼女の言うとおりだ。実際アジ=ダカーハに挑む際にも詩人イソップの手を借りている。
彼らの力を借りて主催者権限を書き換える以外の手段では、謎解きも何もない、極々単純なゲームしか開催できはしない。
「そして何よりの理由が、この二つ目。お兄さんは単純に、それだけの複雑さを持ち、気軽に発動できる主催者権限を一つしか持っていない」
そう言うと再び手を握って、人差し指だけを立て直す。
「まず、『鬼道』の主催者権限。これは極々単純な主催者権限で、『期待され、渇望され、祝福された、未来に世界を救う英雄』としての霊格を下に構成される主催者権限。強いて異常な点を上げるなら『過去に成した異形』からでも『過去に受けた敗北』からのゲーム構成じゃないことだけど……そんな主催者権限、いくらでもあるしね」
そもそも、この箱庭と言う世界にとって未来という概念は大した意味を持たない。それこそかの大魔王アジ=ダカーハの主催者権限だって、未だ成されていない偉業をもとにしたモノだ。まああれにルールとかなかったけど。
「次に、『蚩尤』の主催者権限。こっちに関してはお兄さんが普段から便利アイテム扱いして好き勝手書いてたルールじゃなくて本来のルールで用いればちゃんと複雑で法則を強制するものなんだけど、今はウィル・オ・ウィスプの本拠を守る手段として使ってる。と言うわけで、使えません」
蚩尤。中国神話において語られる鍛冶神。黄帝から王座を奪うという野望の下、兄弟と無数の魑魅魍魎を味方につけ、彼を追い詰めるに至った悪神。その霊格の在り方故に伝承を下地として主催者権限を発動するのなら敗者のそれになるしかないが、それでも彼が成し遂げた偉業は中国史の進化において無視できるものではなく。それ故に、それなり以上に強力で苦しいルールを強制されることは間違いない。
これで2つ、と中指も立てる。なるほど確かに、その主催者権限は解除されない限りそもそも使うことができない。
「三つめは、『アジ=ダカーハ』の主催者権限。これはまあ単純な事実としてそもそも現時点でルールが存在しない。四つめの『ジャック・ザ・リッパー』の主催者権限はもう既にクリア条件がバレてる上ジャックさんとの契約がある以上使用条件を満たせず発動できない」
アジ=ダカーハ。彼の魔王の主催者権限は敵対者に対して何のルールも強制しない。そもそも主催者側の勝利条件すら存在していない。彼は人類がこのままでは避けることのできぬ滅びを、その中でも最悪の霊格を預かった存在。自らを打ち破る存在の誕生を渇望した魔王であり。そしてそれ以上に、そもそもの存在としてそのような手法を用いることなく最強を名乗れる暴虐であった。
ジャック・ザ・リッパー。イギリスの歴史に現れた、正体不明の殺人鬼。その正体は個人ではなく無数の子供たちであり、その名を冠したのは彼らを処刑した処刑人。聖人まで絡んだ複数回にわたる転生、そして繰り返された残虐。知らなければ解き明かすことは難しい霊格であるものの、その真実は既に解き明かされてしまっている。答えの分かった謎解きなんぞ、出すだけ無駄である。
「それで、最後の『鬼道一輝』の主催者権限だけど……使えるようになってたとしても私の主催者権限と同じで気軽に使えるものじゃないし、さすがのお兄さんも使わないはずだよ」
「あの一輝君に対してそんな希望的観測……というか、常識の部分が通用するとは思えないのだけど」
「そう言われるとそんな気もするけど、内容が内容だからね~。よっぽどマジな、ガチで殺したい相手に対してそれしか手段がなければ使うかもしれないけど、そうじゃ無ければ使う可能性はないよ。さすがに、『人類史が滅ぶ』可能性がある以上、箱庭そのものが壊れる危険がある主催者権限だもの」
そこまでいったところで、何か面白いことでも思いついたのか。そもそもの話として世界を滅ぼす要因αの具現たる人類最終試練を全て滅ぼしたはずなのにこの状況と言う事実を噛み砕ききれていない三人をしり目に、ギフトカードから『ノストラダムスの大予言』と彼女が名付けた魔導書を取り出す。
「別に大して断る理由もなかったから無条件で『鬼道』の情報提供に協力するつもりだったけど、丁度いいや」
拍子をめくり、続けて1ページ1ページめくっていく。消えることのない焔の中でもがく少女。蛾の羽を保有し飛行する人間。終末を告げるラッパ吹き。人々を滅ぼす竜。無人の豪華客船。程度の差こそあれ、終末や滅びを示す物語たちが描かれたページを繰っていき、やがて白紙のページへとたどり着く。魔導書の向きを変え、白紙のページを十六夜たちの方へ向け、
「お兄さんの同類、人類封鎖試練として。鬼道一輝を連れ戻そうという、従えようというその言葉の意味を……テストさせてもらおうかな」
瞬間、“ノーネーム”本拠の一室が光に満たされた。
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