デジモンアドベンチャー Miracle Light
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第35話:怒りの制裁
前書き
メンバーの大半がヒカリサイド
ヒカリは自分の額に乗せられる小さな温もりに意識を覚醒させた。
「う…ううん…」
「お~、ヒカリぃ…目を覚ましたかあ…」
「あんたねえ、もうちょっと気を入れなさいよ」
「腹減ったから無理ぃ~…」
情けない声を出すブイモンの姿にテイルモンが溜め息を吐いた。
「ちょっと腹が減ったからって何だ?このへなちょこめ!!どひゃああああ!?」
普段エラい目に遭っているためかブイモンをからかうゴマモンだが、腕を掴まれて下水にボチャンされた。
空腹状態でもゴマモンの瞬殺は変わらず出来る模様。
「どうやらみんな大丈夫のようだな。タケル、お前は?」
「大丈夫だよ、心配しないで」
「タケル…」
ヤマトが心配するが、タケルは不満そうに見上げて言う。
「「「………」」」
タケルを任された大輔達は不思議そうにタケルを見つめる。
「大分顔色もいいし、すっかり良くなったようだね。」
「丈さん……はい!!」
丈がヒカリの顔色を見て、風邪は大分良くなったと判断した。
実際ヒカリは普段通りに動けるくらいに回復している。
「どうやらここにいるのは僕達だけのようですね。太一さんと光子郎さんは別の場所に落下したようです。」
ヒカリが気絶している間に偵察に出ていた賢が言う。
「ヒカリちゃん、立てるか?」
「うん」
「ブイモン」
「腹減って立ち上がる気力も湧かない」
「ゴマモンを投げ飛ばす元気があるなら大丈夫だろ…全く」
空腹のあまり、立ち上がる気力を失っているブイモンを背負う大輔。
「うえ~…」
下水でびしょ濡れになったゴマモンが帰ってきた。
「あ、ゴマモン。あんた臭いから私達から10m離れて歩きなさいよ」
「うるさいやい!!」
テイルモンが鼻を摘みながら言うと汚物デジモンにランクダウンしたゴマモンが涙目で叫んだ。
「行こう。俺達もこうして無事だったんだ。きっと大丈夫だよ太一さん達は光子郎さんもいることだし」
「そうだね。うん、きっとそうだよ。私お兄ちゃんを探すの頑張る!!お兄ちゃんの妹だもの」
「その意気だよヒカリちゃん。」
「とは言うけどどうやって太一さん達を見つけるつもりだい?デジヴァイスは反応を示さない。こんな入り組んだ地下迷宮をどうやって突破するのか…」
「地下迷宮?」
「ほら、上が色々ごちゃ混ぜの街だったろヒカリちゃん。だから地下も滅茶苦茶入り組んでるんだ。」
疑問符を浮かべるヒカリに大輔が説明する。
「そうなんだ」
「まあ、手掛かりも無いから捜し回るしかないんだ。頑張ろうヒカリちゃん」
「うん」
ブイモンを片手で支えて、もう片方の手でヒカリと手を繋いだ。
少しでも安心させるために。
ブイモンを背負っている関係で他のメンバーより歩みが遅い。
「ブイモン、マジで降りて歩いてくれ」
「無理ぃ~」
「ヒカリちゃん、リュックに食べ物ないかな?」
「ん~…あ、チョコレートがあった…ひゃっ!?」
チョコレートの単語を聞いた途端凄まじい勢いでがぶむしゃあと食らいつき、瞬く間にチョコレートは胃袋に収まった。
「…お代わり」
「…あれで最後」
「そんなあ…うぁあんまりだああああ…」
「立てるくらいには回復したじゃない」
テイルモンが呆れながら言うとブイモンはテイルモンに寄りかかった。
「はあ…ムゲンドラモンの作戦に見事に引っかかっちまった…」
「でもあいつらを倒さなかったら私達も危なかった。あんたは間違ってないわよ」
「おう」
喧嘩ばかりだが仲は決して悪くないブイモンとテイルモン。
「にしてもタケル…お前は何、ヤマトさんに冷たい態度取ってんだよ?ヤマトさん可哀想じゃんか」
「………」
「ヤマトさん寂しそうだったよ?」
大輔とヒカリの言葉に黙っていたタケルだが、ようやく口を開いた。
「だってお兄ちゃん、僕ばかり特別扱いするんだ」
「「へ?」」
「はあ?」
言っている意味が分からず首を傾げる3人。
「いや、タケル…ヤマトさんが特別扱いするのは普通じゃないか?弟なんだしさ」
「でも、僕だってみんなで力を合わせてここまで来たんだ。一緒に戦ってきたんだよ?でもお兄ちゃんは何時も僕を…お兄ちゃんにずっと守ってもらわないといけないほど頼りないのかな?」
タケルの言葉に同じ立場である3人は少し眉間に皺を寄せる。
「うーん、仕方ないんじゃないかな?ヤマトさんが君を守ろうとするのは」
「え?」
賢も兄がいる身…兄弟仲が異様に冷めてはいるが取り敢えず大輔やジュンの関係を見ての考えを伝える。
「親からすれば子供がいくら大きくなろうと親になっても孫が出来てもずっとずっと子供なんだって聞いたことがある。多分それと同じだよ。ヤマトさんからすれば君がどれだけこの冒険で成長しても可愛い弟なんだよ。多分これからもね…」
賢の表情には多少の羨望が込められていた。
「(賢君…本当はお兄さんのこと好きなんだよね…?)」
賢の家族との不仲を知る大輔とヒカリは一瞬迷ったが口を開く。
「賢、チェンジ」
「ああ、頼むよ。僕の兄弟仲は問題があるから僕より君の方が詳しいだろう」
「まあ、タケルの気持ちは俺も分かるぜ?やっぱりさ、認めてもらいたくなっちまうよな。親以上に自分に近い人だからさ…でもよ、甘えられるの今の内だぜ?」
「え?」
「よーく考えて見ろよ。太一さんやヤマトさんくらいの歳になると絶対に素直に甘えられなくなるぞ。」
「うん、お兄ちゃんも上級生になると下級生のお世話しないといけなくなるから、あんまり情けない姿は見せられないって」
「ヤマトさん達だって中学や高校で忙しくなってお前に構う時間なんか無くなる…今は残り少ない時間くらい甘えても良いじゃんか、ヤマトさんに守られたって良いじゃんか。変に意地を張らないで。まあ、後はお前が考えろよ」
「………」
後にこの会話によってヤマトが中学生になるまでは普通に甘えることにしたタケルであった。
「ねえ、何か聞こえない?」
しばらく歩いて、不意にミミが呟いた。
ミミはこの中で聴力がいいのだ。
「ミミさん、それはどこから聞こえますか?」
「あそこ……」
ミミが指差した方向に全員が耳を澄ますと、確かにミミの言う通り、微かではあるが、奥から歯車が動くような物音が聞こえてきた。
「あれはヌメモンとワルもんざえモンか?」
【ワルもんざえモン?】
「もんざえモンの屑バージョン」
【成る程】
ブイモンが働かせているもんざえモンもどきとヌメモン達を見つめながら言う。
「働け!!働け!!働きやがれ!!太陽の光に弱いヌメモン達よ、お前達はムゲンドラモン様が支配するスパイラルマウンテンの巨大都市の動力源だ!!働いて、働いて死んで行くのだ!!」
「成る程、この地下がムゲンドラモンのアジトか…良いことを聞かせてもらったぜ」
「ヌメモン達…可哀想…」
ヌメモンと言うデジモンと縁深いミミが酷使されているヌメモン達を見つめながら呟いた。
「よし、あいつは俺に任せてお前らはヌメモン達を」
「え?俺達が進化すればあんな奴簡単に…」
ガブモンの言葉にブイモンは首を横に振った。
「馬鹿野郎、ここはムゲンドラモンのアジトだ。つまり敵の巣窟だ。何時でも戦えるようにエネルギーは温存しとけ。こういうのはムゲンドラモンの作戦に引っ掛かった役立たずの俺がやる」
実際、ヒカリから食べ物を貰ってエネルギーの補給は出来たが戦うためのエネルギーがまるで足りない状態。
少なくても現時点ではブイモンは仲間の中で弱い位置にいる。
「ブイモン…策はあるの?」
「俺があんな奴にやられると思うか?人の心配する余裕があるなら自分の心配をしろよテイルモン」
近くの空き缶を拾い、ワルもんざえモンに投げつけ、ぶつけた。
「ん!?何だお前は!?」
「何って見て分からないのかお前?」
「侵入者だな!?このワルもんざえモン様が捕まえてやる!!」
「けっ!お前みたいな醜いぬいぐるみに俺を捕まえられるかー!!」
ブイモンはフルスピードで逃げ出し、物陰に隠れた仲間に合図を送る。
ワルもんざえモンが飛び出した後、子供達はヌメモン達を解放する。
「ヌメモン達を解放すれば動力源が無くなって、ムゲンドラモン達も思うように動けなくなるはず、急ごう」
「うん…」
「ヌメモン達…凄く弱ってる…」
「碌に休息も食事も与えられてないんだ…」
ミミと丈がヌメモンの拘束を解きながら辛そうに呟く。
「ミミさん…ダークマスターズを倒さない限り、このようなことが続きます。終わらないんです。目の前の現実から目を逸らして逃げ続けるのか、痛みに耐えて戦って沢山の命を救って未来を掴むか…あなたも分かってるんじゃないんですか?」
「…………」
賢の言葉にミミは沈黙する。
「…………」
賢は黙ってヌメモン達を解放する。
他人が彼女に言えるのはここまで、後は彼女が答えを出すまで待つだけだ。
「待て~!!」
「待てと言われて待つ馬鹿がいるかよ。お前見た目以上の馬鹿だな」
「き、貴様~!!貴様は絶対に捕まえて扱き使ってやる!!」
「あらやだ怖い。まあ、お前が俺を捕まえるなんて1億2000万年早いけどな」
ブイモンはただ1人、ワルもんざえモンとの追いかけっこを繰り広げていた。
「うおっと、行き止まりだぜ」
目の前には猛烈な勢いで下水が流れている。
ワルもんざえモンはいやらしい笑みを浮かべながら近付いてきた。
「へっへっへ!!追い詰めたぞ…」
「寄るな!!…埃臭い上にドブ臭いんだよお前」
ニヤリとしながら言い放つブイモンにワルもんざえモンがキレた。
「~っ!!死ねええええ!!」
「ケッ!!」
ギリギリのタイミングでスライディングしてワルもんざえモンの真下を通過。
「え!?あ、うわわわ…!!」
バランスを崩し、下水に落ちる寸前のワルもんざえモン、しかしブイモンは容赦なく次の行動に移行した。
「落ちろ」
ワルもんざえモンの片足に蹴りを入れる。
いくら鍛えていてもブイモンは成長期なのでワルもんざえモンにダメージは無かったのだが、僅かな衝撃が運命を決めた。
「あ、あわわわ…ああああ!?」
完全にバランスが崩れ、ワルもんざえモンは下水に真っ逆様。
ボチャンと言う音と共にワルもんざえモンは流されていった。
「下水で腐った性根を洗い流して来やがれ」
吐き捨てるのと同時にブイモンはこの場を後にした。
一方、大輔達はヌメモン達を全員を救助したが、ヌメモン達は予想以上に弱っており満足に動けない。
「ヌメモン達を休ませようにもここじゃいつ敵に見つかるか…」
「ヌメモン達…可哀想…」
「ヒカリちゃん…ん?」
強制労働させられ、ここまで弱ったヌメモン達に同情しているヒカリ。
大輔がヒカリの方を向いた途端に違和感を感じて紋章を取り出すと紋章が光っている。
「これは…」
「私の紋章も光ってる…」
「これはヴァンデモンの時と同じようだね。ヌメモン達を想う気持ちに紋章が反応して2人の紋章が共鳴しているんだ。どうやら奇跡と光は響き合う性質があるようだね」
ワームモンの言葉に金と白の光が部屋を満たしていく。
「何か…暖かいわ…」
パルモンが素晴らしい天気と素晴らしい土壌で光合成をしているような極楽の表情を浮かべ、他のデジモン達やヌメモン達の疲労が瞬く間に抜けていく。
光が弱くなった時には全員の顔色が良くなっていた。
「凄え、これも紋章の力なのか?」
「みんな元気になってる…」
「若しくは…君達の…」
賢は大輔とヒカリの力なのではないかと考えていた。
紋章が超常的な力を発揮することがあるが奇跡と光の紋章は他の紋章以上だ。
「ただいま~。おお、何だこれ?疲れが抜けてくぜ」
ワルもんざえモンを倒したブイモンが戻ってきた。
「タイミング悪かったわね~。私達も体力は全快よ。お腹は空いたままだけど…」
「流石に空腹は満たしてくれないよね。」
テイルモンとワームモンがほっこりしたように笑う。
「むぐぐ…まあ、これならサジタリモンまではいけるか?」
究極体のアーマー体のマグナモンの維持は厳しいが、完全体のアーマー体なら維持は可能だ。
【大輔様~!!ヒカリ様~!!大輔様~!!ヒカリ様~!!】
「何か大輔とヒカリ、ヌメモンから崇められてんだけど?」
「大輔とヒカリの不思議パワーで元気にしてもらったからじゃないの?」
「…ふーん」
疑問符を浮かべるブイモンとテイルモン。
ヒカリはヌメモンが元気になって嬉しそうにしているが、大輔は困った顔だ。
「別に俺がしたわけじゃないのになあ。凄いのは紋章なのにさ」
「でも、きっと大輔君だから応えたんだよ紋章も」
「そっかなあ?」
「そうだよ」
「でもそれを言ったらヒカリちゃんもだよな。ヒカリちゃんだから光の紋章も応えたんだよ。やっぱりヒカリちゃんは凄えよ」
「えへへ」
ほのぼのとした空気が流れる中、ワルもんざえモンが入ってきた。
「よ、ようやく追いついたぞ…」
「うへえ、気持ち悪い。やだお前」
体が下水と同じ緑色っぽくなっているため、見た目が気持ち悪い。
「ん!?ヌメモン達が解き放たれている!?誰がやったんだ!?」
「それは俺達だ。見れば分かるだろ」
「畜生おおお!!」
ワルもんざえモンが殴りかかろうとするが、それよりも早く動いた者がいた。
「デジメンタルアップ!!」
「ブイモンアーマー進化、サジタリモン!!メテオギャロップ!!」
サジタリモンに進化してワルもんざえモンとの間合いを詰めると一気に蹴り飛ばした。
「ぐおおお!?て、てめえ…」
「ジャッジメントアロー!!」
ワルもんざえモンが立ち上がった瞬間、サジタリモンは矢を発射した。
両腕、両肩、両足を潰していく。
「ひ、ひいぃいい!!や、止めろ!!もう、もう戦えないんだああああ!!」
「お前がヌメモン達にしたことを忘れたか?抵抗も出来ない奴を無理やり従えてたろ」
「あ、あれは…す、少し調子に乗って…お、覚えてないんだ!!」
「そうかそうか、覚えてないか。なら仕方がないな」
サジタリモンは弓を地面に放ると優しい笑みを浮かべて歩み寄る。
「(た、助かっ…)うぎぃ!?」
安堵した瞬間、ワルもんざえモンの顔面にサジタリモンの拳がめり込んだ。
「覚えてないならこの俺が特別に再現してやる!!お前のぼろ屑の体でなあ!!」
全身に打撃を浴びせた後、とどめの跳躍蹴りを叩き込んで吹き飛ばした。
ワルもんざえモンはいくつもの壁をぶち抜いていった。
「ケッ、デジタルワールドのゴミが」
サジタリモンがブイモンに退化して唾を吐き捨てた。
ズタボロになったワルもんざえモンは必死に体を引き摺ってある部屋に向かっていくのであった。
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