世界に痛みを(嘘) ー修正中ー
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アキトとビビ
時は深夜
太陽は既に地平線に沈み、沈黙と闇が支配する。
「─」
甲高いいびきが室内に鳴り響く中、アキトは目を覚ました。
痛みがその身を走り、眉根を寄せる。
身体は寝台に深く沈み込み、幾度も眠気を引き起こす。
見れば自身の上半身には包帯が何重にも巻かれ、処置が施されていた。
覚束ない意識で周囲を見渡せば、ルフィ達がそれぞれの寝台にて眠りに落ちていた。
ある者は甲高いいびきを掻き、ある者は寝台から滑り落ちている。
そして、何故か自身の寝台にはナミの姿があった。
アキトの右肩に頭を預ける形で、彼女は静かに寝息を立てている。
何故、ナミが自身の寝台にいるのだろうか。
「……ッ!」
思案するアキトの身体に再び、激痛が走る。
やはりあの爆発の余波を受け、ただでは済まなかったようだ。
だが今、自分は生きている。
生きてさえいれば儲けものだ。
どうやら賭けにも等しいものであったが上手くいった。
あの瞬間、刹那の刻に、自身の身に迫る爆炎と爆風から最後の力を振り絞り、能力を発動させた。
衝撃波を放つことで爆弾の威力を殺し、衝撃を分散させ、自身は流れに任せる形で眼下の大地へと落ちたのである。
そこで自分の意識は途切れているが、自分は今、生きている。
高笑いでも浮かべたい気分だ。
「……」
能力により身体を浮遊させ、寝台から静かに起き上がる。
ナミを起こさないように彼女を先程まで自分が寝ていた場所に運び、アキトは寝室を後にした。
深夜の廊下を浮かび上がる形で進み、とある部屋へと足を進める。
とあるに部屋に入室すれば、室内にはビビが1人で星々が煌めく夜空を眺めていた。
月光に映えるビビの姿はとても綺麗だ。
アキトは額に巻かれた包帯を解きながら、彼女の下へと足を進める。
「アキトさん……」
アキトの存在に気付いたビビは呆然と、まるで目の前のアキトを幽霊でも見るようにビビは驚愕した表情を浮かべる。
「……アキトさん、目を覚ましたのですか?」
少しばかり身体が痛むが、問題ない。
彼女は月光を背中に受けながら、覚束ない足取りで此方に近付いてくる。
だが、彼女の安否を心配する声音とは裏腹に、アキトの頬に張り手が炸裂した。
「……ッ!私がどれだけ心配したと思っているんですか……!」
「……」
ビビの瞳は涙で濡れ、静かに泣いていた。
振りかぶった右手は震えている。
「いえ、私だけではありません!ルフィさん達は勿論、ナミさんは泣きながらアキトさんを看病していたんですよ!?」
「……」
広場の上空で爆弾が爆発した後、アキトは物凄い勢いで地上へと墜落した。
既にその身に意識はなく、服は無残にも消失し、身体からは血を垂れ流しながら、満身創痍の状態で倒れていたのだ。
その場に居合わせた誰もがアキトの余りの酷い状態に息を呑み、驚愕を隠せなかった。
ナミは涙を流しながらアキトを抱え上げ、助けを呼んでいた。
今でもその時の状況を詳細に思い返すことが出来る。
「何であんなことしたんですか?」
「ビビ……」
胸倉を掴みながら、ビビはアキトへと詰め寄る。
「何で私とペルに何も言うことなくあんな危険なことしたんですか……っ!?」
「……あれが最善にして最高の策だった。ビビもそれは分かっているはずだ」
思案気な表情を浮かべながら、アキトは彼女の問いに応える。
「……」
「ペルさんが爆弾を上空に運び、後は俺が対処する。その方法が一番成功する可能性が高かった」
「あの時の俺の状態ではペルさんを守り切るのは難しい」
「ペルさんは飛行に優れ、俺は防御に優れていた」
所謂、適材適所というやつだ。
そこに何の疑問があるというのだろうか。
「ですがそれではアキトさんが死んでしまうかもしれなかったんですよ!?」
「……」
当然、アキトだって死ぬのは怖い。
しかし、それ以上にあの場ではあの策が最善にして最高の策であったことは間違いないのだ。
それを確実な方法で実行できるのは己のみであった。
「本当に心配したんです」
「アキトさんが死んでしまったのではないかと本当に心配で、心配で……」
見ればビビはアキトの身体に縋り付きながら、泣いていた。
肩を震わせがら、額を胸元に押し付け、アキトの身体を抱き締めている。
「アキトさん、反省してください……」
「……ビビ、すまなかった」
アキトはむせび泣くビビの腰に手を回し、抱き締める。
アキトは自分を心から心配してくれたビビに対して嬉しく感じると同時に、強い後悔の念も感じざるを得ない。
深夜のとある寝室にて2人の男女が月光の下に照らし出される。
アキトはただ、自身の為に涙を流してくれる女性に悔いながら、抱き締めることしか出来なかった。
▽▲▽▲
大浴場にて湯気が立ち昇る。
ナミとビビの2人は互いの背中を流し合っていた。
そんな中、頭上から感じる邪な視線
男風呂と女風呂を仕切る壁を見上げれば、ルフィを含む男勢達が女風呂の中を覗き見ていた。
ルフィにいたってはガン見である。
「ちょっと、皆!?」
ビビは頬を赤らめ、身を抱きしめる。
いくらタオル越しとは言え異性に見られるのは恥ずかしいのだろう。
「あいつら……」
ナミは呆れ返る余り、嘆息してしまう。
ビビはそんな彼女に縋りつく。
だが、慌てふためくビビとは対照的にナミは至って冷静であった。
「ナミさん、何でそんな冷静なの!?」
「落ち着きなさい、ビビ。あっちにはアキトがいるのよ?」
背後を振り返ることもなく、ナミはそう豪語する。
ナミの言葉にはアキトに対する信頼が溢れていた。
「何をやっているんだ、お前ら?」
そして、ナミの想いに応えるようにアキトの声が大浴場に響く。
「何だ…!?」
「体が引っ張られる……!?」
途端、ルフィ達は不可視の力で引き寄せられ、地面に叩き付けられた。
「何か弁明は?」
そんな彼らの眼前には静かに腕を組みながら仁王立ちしているアキトの姿が
顔が全く笑っていない。
恐ろしい程の真顔である。
少し遅れて遅れて風呂場に到着したアキトが大浴場に入れば覗きをしているバカどもの姿があった。
言うまでもなく絶許ものだ。
「こ、これはアキトくん……」
「ははは、アキト……」
「先ずは話でも……」
「ちょっと待って頂けないでしょうか、アキト様」
ウソップがアキトを落ち着かせようと懇願する。
冷や汗が止まらない。
この場にて覗きをしていた全員の顔が真っ青であった。
普段穏やかなアキトが怒ったときの恐ろしさは凄まじい。
見れば普段、あの無頓着なルフィまでもが正座している。
ゾロとチョッパーは我関せずといった様子である。
「お前らに言っておくことがある」
「女性の体を軽い気持ちで覗き見るのはやめろ。そういったことは交際している男女が合意の上で進める行為だ。軽々しい気持ちで覗きなんてするもんじゃない」
常識を兼ね備えているアキトは覗きをいう行為が許せない。
それを軽々しい気持ちで行うことが
怪我人とは思えない程の凄まじい眼光で、ルフィ達を威圧する。
見れば感情の高ぶりの影響か、周囲には微風が吹き、大浴場の湯気を一掃している。
ルフィ達は余りのアキトの迫力に首肯することしか出来ない。
「お前ら二度と覗きなんて真似するなよ」
アキトはルフィ達に念を押し、話を締めくくる。
許してくれたのだろうか。
「わ、分かった。すまねえ、アキト」
皆一様に安心したようにほっとし、脱力した。
「まあ、許すなんて一言も言っていないんだがな」
しかし、それで許すアキトではない。
さあ、リハビリも兼ねた運動の時間だ。
「ルフィー!?」
「邪魔をするな、アキト!」
「狼狽えるな、お前らァ!アキトも一人の人間だ、人海戦術だ!」
「無駄無駄ァ───!」
アキトはサンジを中心とした反撃を迎え撃つ。
だがサンジ達の威勢は長くは続かなかった。
スクラップの始まりである。
「腕はそっちの方向には曲がらな…!?」
「すいません、調子乗ってました!お許しを、アキト様……ッ!?」
「アキト君、落ち着けェ!?」
「チョッパー、この辺か?」
「おう、そこを洗ってくれ、ゾロ。」
「国王様ー!?」
聞き耳持たず。
アキトの蹂躙が止めることはない。
暫くの間、ルフィ達の絶叫は止むことはなかった。
「ね、大丈夫だったでしょ?」
「そうだけど、少しやり過ぎなんじゃ……」
「ビビ、甘いわ。あいつらは私達を覗き見していたのよ?」
そう、当然の報いだ。
覗き犯、死すべし、慈悲はない。
「そんなことより今度は私の番よ、ビビ。」
ビビは事態に付いていけず、呆然とするしかない。
アキトの気遣いへの嬉しさ半分、驚愕半分と今の彼女の心情は荒れに荒れている。
覗き犯達の悲鳴を背景に、ナミとビビの2人は穏やかな時間を過ごした。
後書き
覗き見・駄目、絶対(至言)
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