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220部分:ラグナロクの光輝その七十四
ラグナロクの光輝その七十四
「総帥、どういうつもりだ」
「今は戦いの時だぞ」
「いえ、それはまだです」
だが彼は六人の言葉にそう返した。
「まだ。彼には何かがあります」
「その何かとは」
「トリスタン=フォン=カレオール博士」
「私に何の用だ」
クリングゾルはトリスタンに声をかけてきた。
「クンドリーのことだが」
「彼女がどうかしたのか」
「あれは。よい部下だった」
彼はクンドリーについてこう述べた。
「イドゥンを私にもたらせてくれた」
「その技術で以ってファゾルトとファフナーを作り上げたのだな」
「そう、そしてそれでバイロイトを破壊した」
「皇帝と我が叔父、そして多くの命と共にか」
「そうだ、ローエングリン=フォン=ブラバント司令」
またしても冷たい声で述べる。
「邪魔者は消し去るのが私の流儀だ」
ローエングリンにそう応えた。
「そしてそれは上手くいった」
「ミーメもか」
「あれは粛清だ。ニーベルングでありながら私に歯向かおうとするとは。だから消したのだ」
「ではクンドリーが死んだのも」
「そうだ、私がホランダー達のところへ誘ったのだ。本人が知らないうちにな」
「クンドリーは自由を求めていた」
トリスタンは言った。
「その自由を与えなかったのか」
「自由!?そんなものが何だというのだ」
そんなものはクリングゾルにとっては何の価値もないものであった。
「全ては法により定められ治められる。そんなものは不要なのだ」
「卿が法だというのか」
「その通りだよ、ヴァルター=フォン=シュトルツィング執政官」
今度はヴァルターに述べた。
「私が法であり私が絶対なる存在、それが新たなる帝国のあるべき姿なのだ」
「その為に多くの者が犠牲になってもか」
「秩序の為には犠牲はつきものだ」
それがクリングゾルの言葉であった。
「その為の破壊ならば。当然のことだ」
「メーロトもそうだったのかよ」
「ジークムント=フォン=ヴェルズング提督か」
「そうだ、メーロトの連れだったジークムントだ」
彼はそう名乗った。
「メーロトも御前にろっちゃ単なる犠牲だったのかよ」
「そうだと言ったならばどうする?」
「手前!」
「ふふふ、まあ聞くがいい」
クリングゾルは激昂を見せたジークムントに語りはじめた。
「全ては駒なのだ。帝国の為のな」
「メーロトは駒だったのかよ」
「そうだ、全ては私の駒なのだよ」
「ニーベルング族そのものが」
「ある時は私自身でさえも」
ローエングリンにまた応えた。
「駒なのだ。新たなる帝国にとってはな」
「人としての価値等は不要だというのだな」
ジークフリートが問うた。
「ジークフリート=ヴァンフリート首領、アースとスーラの血を受け継ぎし者か」
「知っていたか。私のことを」
「無論。そして卿の夢のこともな」
「そうか。それは私の思い描く国家ではない」
嫌悪感を見せながらクリングゾルに語る。
「私の国家は人の国家だ。法だけの国家ではない」
「人なぞ何になるというのだ」
クリングゾルはその人というものをまず否定してみせた。
「人なぞ幾らでも作ることが出来るというのに」
「作るだと」
「そうだ、今それを見せよう」
「それはまさか」
タンホイザーはクリングゾルが呼ぶ者が誰なのか、わかる気がした。
「その通りだよ、タンホイザー=フォン=オフターディンゲン公爵」
するとクリングゾルの方からも声がした。
「彼女だ。さあ我が妻よ」
「公爵」
「大丈夫だ」
彼は仲間達の声に応えた。その顔は至って落ち着いたものであった。
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