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リング

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221部分:ラグナロクの光輝その七十五


ラグナロクの光輝その七十五

「むしろ」
「むしろ?」
「いや、その先は言う必要はないか」
 彼にはわかっていたのだ。今のヴェーヌスが何であるのか。少なくとも今の彼女はヴェーヌスではない。彼はそれがわかっていた。だが。それを知らない者がここにいたのであった。
「さあここに来るのだ我が妻よ」
 クリングゾルが呼ぶとそこに彼女が姿を現わした。ヴェーヌスが。
「ヴェーヌス」
「そうだ、我が妻ヴェーヌスだ」
 クリングゾルの傍らにあの黒い髪と瞳を持つ女が現われた。それは確かにヴェーヌスであった。
「ヴェーヌスは我が妻となるべく生み出されたのだ」
「子を創れぬ卿がか」
「子もまた創ることができる」
 トリスタンの言葉にこうふそぶいた。
「こうして妻が作られるようにな」
「戯言を。卿はそうして己の臣民を創り上げていくつもりか」
「その通りだ」
 ヴァルターに答える。
「今や命さえも作られるようになった。この私の手によって」
「へっ、それが手前の帝国かよ。何から何までまやかしじゃねえか」
「提督にはわからぬようだな。世界を創るということが」
「へっ、わかりたくもねえぜそんなことはよ」
「卿は神にでもなったというのか」
「そうだ、私は神だ」
 ヴェーヌスを側に手繰り寄せながらローエングリンに返す。
「今これから神になるのだ。卿等を倒してな」
「どうやって我等を倒すつもりかは知らないが」
 ジークフリートはクリングゾルを見据えて言う。
「卿の妻は。ヴェーヌスなのだな」
「そうだ、それ以外の何者でもない」
「そうか」
 七人はその言葉を確かに聞いた。これで全てがわかった。
「私はこの全てを創り出す力により銀河を支配するのだ。全ては私の意のままに」
「すなわちヴェーヌスもまた貴方の人形なのですね」
 パルジファルがクリングゾルに問う。
「意のままになるという意味では」
「意のままになるということを人形と呼ぶのならそうだ」
 クリングゾルはそれを肯定さえした。
「絶対者の手によって。全ては治められるのだ」
「ならばニーベルングよ」
 タンホイザーが彼に言う。
「卿は。絶対者たりえない」
「何っ!?」
「何故なら。そこにいるのはヴェーヌスではないからだ」
「戯言を。今ここにいるのがヴェーヌスでなくて何だというのだ」
 タンホイザーのその言葉を一笑に伏した。
「ヴェーヌスの黒は。私と共に」
「黒か」
「そうだ、黒の髪と瞳は。私のものだ」
「ならば見るがいい」
 タンホイザーはまた言った。
「彼女の髪と瞳を」
「愚かな。黒は永遠に変わりはしないのだ」
 その筈だった。だがそこにあったのだ。
「なっ!?」
 それを見たクリングゾルの顔が見る見るうちに強張っていった。そこにあるのは彼が思いもしなかったことであったからである。
「馬鹿な、卿は一体」
「私はエリザベート」
 そこにいたのはヴェーヌスと同じ顔と姿を持ちながらも黄金色の髪と青い瞳を持つ女であった。それはかつてタンホイザーの夢に現われたあの乙女であった。
「ヴェーヌスでありヴェーヌスとは別の存在」
「馬鹿な、何故ヴェーヌスが」
「貴方の知らないうちにヴェーヌスの中に私が生まれた。そして私になった」
「そんなことが」
「有り得たのよ。それは何故か」
 エリザベートは語る。
「貴方は人だから。神とはなれないのだから」
「私は神だっ」
「なら貴方は完璧な筈。私もヴェーヌスであった筈」
「くっ」
「それが何よりの証拠。その神でない貴方にこの銀河を治めることはできはしない」
「だが私は」
「観念するのですね、クリングゾル=フォン=ニーベルング」
 パルジファルが愕然とするクリングゾルに対して言った。
「この銀河は貴方の手には入りません。そして勝利もまた」
「まだだっ」
 クリングゾルは叫ぶ。だがそれは最早敗者の叫びであった。
「私はこの宇宙の支配者となるべき者。それは誰にも」
「否定出来ないというのですね」
「そうだ」
 彼は言い切った。
 
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