ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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アイングラッド編
紅き剣閃編
Crimson Sword―紅蓮
前書き
暇だからUP!
Sideロイド
燃え盛る刀を上段で構え、突進系単発強攻撃『轟山剣』を発動する。
「………ッ!!」
システムアシストにより加速された剣が真紅の尾を引いて振り下ろされる。
ロイドは横にステップし、これを避け、反撃のソードスキルを放った。
硬直時間を狙ったカウンター攻撃だったが、それは予想外の動きでかわされる。
大太刀から片手を放し、ロイドの剣の腹にそっと沿えた。
刀はなぜか起動がぶれて、レイの体をなぞるように逸れた。
それに驚いていると、顔の側面に圧力を感じた――時にはすでに、レイの回し蹴りでロイドは宙をまっていた。
(……強い)
『紅き死神』の噂は聞いていた。また、ボス戦ではその強さを間近で見ていた。
彼が戦っている時はボスは攻撃することが出来ない。全ての攻撃を封じ、反らし、弾き返す。時には絶体絶命のプレイヤーとボスの間に躊躇なく立ちはだかり、助け出す。
団長とはまた違う意味でプレイヤー達を導く存在だと思っていた。
今の一撃で勝敗を決するつもりだったのか、まだデュエルが続いていることに驚いているようだ。
「……やっぱり、見くびり過ぎてたようだ。すまなかったな」
「……いえ、咄嗟に後ろへ跳んでなかったら危なかったです」
「では、2分持ちこたえたら『両刀』を使うとするかな」
「後、30秒で十分です!」
お返しとばかりに、今度はこっちが突進する。大太刀はカテゴリでは《カタナ》の一種だが、長モノ武器だ。懐に入られるのは 苦手なはず――
入り込んだ所にはすでに、レイの手が突き出されていた。
勢いづいた体は止められず、気づいたときにはもう地面に転がされていた。
(……もう少しだ)
それは逆転への一手、その為にこの場所に誘導したのだ。
「ん、1分経ったな」
終わらせようとでも言うかのように剣を振りかぶる。
(今だっ!!)
敏捷値補正全開のバックステップで5メートル後方の壁まで退き、その勢いのまま壁を駆け上がる。観客席の手前まで登った所でソードスキルを起動。
システムアシストの加速と筋力値、敏捷値の補正により、超高速の弾丸となり突進する。
避けられたらおしまい、捨て身の一撃だった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
レイは動かない。
代わりに剣を捨てて右手の平をこちらに向け左手は右腕に添えられる。
(何だ!?)
接触の刹那、右手の甲で剣先を逸らされ、後方へ受け流される。次に、左腕がロイドの体を受け止めレイの体は大きく後方に下がった。
―パアァァァァン
大音響が一瞬遅れて鳴り響き、同時に勝敗も決した。
―勝者、ロイド
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歓声、或は罵詈雑言が鳴り響く間、両者は短い会話をしていた。
「……どうして最後、避けなかったんですか」
「アホ、そんなことしたらお前のHPが吹っ飛ぶだろ。下手したら死ぬぞ」
「……すいませんでした」
「ま、結果オーライってことで。たらればの話をしたってしょうがない。相方も負けたことだしな。それより……」
彼はまだダメージエフェクトの残る右手を差し出し、言った。
「これからよろしくな、ロイド」
「はい……」
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Sideレイ
2日後、俺は例の紅白のユニフォームに身を包み、エギルの店に向かっていた。
何をしにかって?
もちろんキリトを笑いに行くためだ。
俺の場合、白が所々増えただけなので、さして違和感はないが、やつはさぞかし面白いだろう。
「よお、エギル。繁盛してるか?」
「ウハウハだ」
エギルがウハウハした顔で向かえてくれる。
キリトが避難先と利用する代わりにアスナが店を手伝っているそうだ。ビバ〇ームの店員みたいな作業エプロンをした姿を思い浮かべてみるといい。集客率はうなぎ登りだ。
「そいつは良かったな」
そう言って2階に上がる。そこにいたのは―――
「……笑いたきゃ、笑えよ」
「いや…ぐふっ、似合ってる。ククッ………ゴホン。そんなに変じゃないぞ……ゴフッ……ゴホン」
「めちゃくちゃ我慢してんだろ!!」
「いや、ただの風邪だ」
「んなわけあるかぁ!!」
そんなやり取りを聞いてアスナがクスクス笑う。キリトはフンッとそっぽを向いていじけてしまった。
「あ、ちゃんと挨拶してなかったね。ギルドメンバーとしてこれから宜しくお願いします」
急に改まって頭を下げるので、柄にでもなく照れてしまう。
「お、おう」
「よ、よろしく。……と言っても俺達はヒラでアスナは副団長様だからなあ」
キリトが右手を伸ばし、人差し指で背筋をつーと撫でる。
「こんなこともできなくなっちゃったよなぁー」
「ひやあっ!」
ハラスメントだぞそれ……。
それはそうと、
「1つ訂正しとくが、俺はヒラじゃなくてフォワード部隊の総指揮官になったからな。幹部だ」
「何でだよ!?」
「誰が黎明期における血盟騎士団の前衛を一手に引き受けてたと思ってんだ」
「……コネだね」
「コネは使うためにあるんだ」
晩秋の昼下がり。気だるい光の中で、しばしの静寂が訪れる。
ふと、キリトの方を見ると目が合った。
その視線に込められた意志を感じ、俺は座っていた椅子から腰を上げた。
「じゃ、お2人さん。また明日な」
「うん」
「……ああ」
キリトが1人で向かい合い、彼女に話すと決めたのだ。
俺が世話を焼く場面じゃない。
下に降りるとエギルが何か言いたそうな顔をしていた。
「……その、何だ……あいつは……大丈夫なのか?」
「……わからん」
キリトの過去を知るエギルも不安なのだ。
あれからずっと傍にいた俺ですらあいつの心境にどのような変化があったのかわからないのだ。
それから、おどけた口調で言う。
「まあ、あれだ。後は愛の力を信じる、ってことで」
「ははは。お前にしちゃ随分とメルヘンな言い回しじゃないか、え?」
「うっせ」
そう言って苦笑いしながらエギルの店を後にした。
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アルゲート南エリア―通称、スラム
とはいっても別にオレンジプレイヤーが居るわけでもなく、少し柄の悪いNPCがいるだけだ。
そこにあるこじんまりとした、NPC喫茶店に入った。
「待ったか?」
「いや、今来たところだ」
待ち合わせの相手はヒースクリフ。相変わらずのポーカーフェイスで飲み物を口へ運んでいた。
他にプレイヤーはいない。
「悪かったな。急に無理難題なポジションに就けてもらって」
「以前から、君を帰属させようという意見が絶えなかったのさ。反対意見はほとんど無かったよ」
「ほとんど、ねえ?」
「易いものだよ。君が提案してくれた計画でギルド内の危険分子の排斥の準備が整った」
「所詮は、俺も駒の内。てね」
「戻ってきてもらって、いきなりビショップを失うのは手痛いが……」
「キングとクイーンに今消えられると困るわな」
「……関係のない者を巻き込まずには出来ないものか……」
「……良い位置にあるポーンも時には捨てなければならないだろ?」
「…………」
「善処はするさ」
カランと飲み干したコップから音がした。
俺が戻ってくる条件として提示したのは2つ。
1つ、重役に就ける。
2つ、攻略組内の危険分子の排除に力を上げる。
結果として俺は再びギルドから消える手筈になっているが、それほど今の攻略組内の空気は険悪だ。
理由の1つにこの頃の攻略のモチベーションが下がり、効率が低下。プレイヤー間での優劣にこだわりはじめたことがある。
そこで、手始めとしてターゲットにわざと騒ぎを起こしてもってそれを皮切りにその他をあぶり出す。
それにおける犠牲もやむ無し、というのが2人の結論だった。
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翌日、55層のグランザム血盟騎士団の本部には機嫌が激悪の副団長様と新米幹部こと、俺がお留守番をしていた。
「……まったく、ゴドブリーったら……」
ぶちぶち……。
さっきから険悪なオーラを出している美少女にやれやれとため息をつき(同時に罪悪感を押し込めながら)、声を掛ける。
「そんなんだったらフィールドの門の前で待ってればいいじゃないか」
「……いいの?」
「何が」
「そのまま追いかけちゃうと思う!」
自信満々に言われてもねぇ……
まあ、いい。
「じゃ、追いかけよう」
「え?」
予定は変わるが、やつにも依存はないだろう。
シナリオが多少早まるだけだ。
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グランザム南広場
「前見ながら歩かないとぶつかるぞ」
「…………」
ギルドを出てからアスナはキリトを常時マップ追跡をしている。
やはり、あのクラディールが同行しているとあって不安らしい。
(そろそろか……)
そう思って背に刀を吊った途端、アスナが大きく目を見開き、コンマ数秒の内にフィールドに飛び出して行った。
「やっば………」
よく考えてみたら敏捷値は完全に向こうの方が上じゃん。
それでもその2秒後、俺は僅かに遅れながらも街を飛び出した。
後書き
つなぎの回なんで面白みがありませんね…。やれやれ
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