ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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アイングラッド編
紅き剣閃編
Sword×Sword ―決闘
55層 血盟騎士団本部
「キリト君、レイ君。アスナ君は今やKobにはなくてはならない存在だ。欲しければ、剣で――《二刀流》と《両刀》で奪い給え。私と戦い、勝てばアスナ君を連れていくがいい。だが、負けたら君達がKobに入るのだ」
疑問を感じながらやって来た。ギルド本部にて、アインクラッド最強と言われる男がそう言った。
「ちょっといいか?」
「なんだね、レイ君」
「アンタに自殺願望があるのは意外だったが、アンタに今死なれると困るんだが?」
「……それは私が君に負けるということかな?」
「いったい、それ以外に何が?」
俺の言葉に周りの幹部陣がいきり立つが、ヒースクリフに手で制され、しぶしぶ引き下がる。
「私とて、何時までも君に劣っているつもりはない。……だが、君と剣を交えるのはまたの機会にしようと思う」
「ほう?つまり、自分に匹敵する、信頼の置ける使い手がこのギルドに居ると?」
「そういうことだ。紹介しよう。……入り給え」
俺達の後方にある重厚な扉が開き、1人の男性プレイヤーが入ってきた。意外なことに、俺はそいつを知っていた。
「……ロイドさん」
アスナが驚いて護衛の名前を呼ぶと、ロイドは軽く会釈して俺に向き合った。
「レイさん、貴方の御相手は僭越ながら俺が務めます」
まだ受けるとは言ってないが……とも思ったが、個人的にはこのプレイヤーに興味があった。
理由は間違いなく昨日が初対面――つまり、俺が序盤に干渉してない――ということで、自分の力でヒースクリフの目に留まる程に剣を極めた、ということだ。
無論、そんなプレイヤーは他にもいるが、ロイドから感じる一種の《気》のようなものがキリトやアスナといった真の意味でのトッププレイヤーと同質のものだと感じた。
「……そうだな……個人的な興味がある、ということを加味して俺の方は了解した」
キリトもしばらくヒースクリフを見つめていたが、やがて条件を飲んだ。
_______________________
アスナはエギルの店に戻るまで終始ムスッとしていたが、2人で必死に宥めると機嫌はいくらか回復したようだ。
日時と場所は明日、75層のコロシアムで1vs1。
決闘を売ってきた側の譲歩としてどちらかが勝てばアスナを連れていって良し。ただし、引き分けはこちらの負け、ということになった。
「……また面倒なことに巻き込まれたわねぇ」
「言うな……なんか頭痛がしてきた」
「でも、キリト君が負けてもレイが勝てばいいんでしょ?だったら余裕じゃん」
「先輩、Kobの団長がここまで買っているのだとしたら、何かあると考えるべきだと思いますよ?」
「4人目のユニークスキル使いとか?」
「……そんなポンポンでたらここまで騒がんだろ。まぁ、一応何かしらの手は考えておくか」
場所は移って低層にある俺の家。多少の広さはあるが、今のように一度に3人も入ると小さく感じる。家具は備え付けのタンスとテーブル、ベッド以外には光源確保のためのランプがいくつかとソファーベッド、音楽が流れる観葉植物ぐらいだ。
クッキングスペースはあるものの、料理スキルがないため使うことは皆無だ。今日のように友人が来たときは別だが。
友人――ホルンとユウリ――は持ち込んだ器具で何やら香しい匂いのする料理を作っている。
2人が来るまですっかり忘れていたが、1週間程前に夕食の約束をしていたのだった。まさか、作りに来るとは思ってなかった。
「よーし、完成!」
普段のキャラからは想像出来ないが、2人とも料理スキルは一流だ。何度か手作り料理を振る舞ってもらったことがあるが、文句無しに旨い。ただ、ネタで激苦スープを飲まされた時は3日ほどその味が口から去ることはなかった。
「「「いただきます」」」
そんなやんちゃを時たましでかす2人だが、ただ何の理由も無くこんなとこまで料理を作りに来るはずがない。
つまり、何が言いたいかというと、この後何らかの対価を要求するはずだ。しかも面倒事の。
そうは思いつつ、料理を綺麗に平らげ、食後の飲み物を鬱々と煤りながら本題を訊いてみた。
「……で、今回は何をさせたいんだ?」
「げ、やっぱバレてる」
「はぁ……」
半分程はまだ希望を持っていたが、世の中そんなに甘くないようだ。
「えっとね……アスナに聞いたんだけどさ……」
「恋愛相談所はもう廃業だ」
そう言うと今度は2人して何で分かったの!?的な顔をする。
……ってユウリもかよ。
「そう言わずに少し聞いてくれない?」
「……あのな、自慢じゃないが俺はリアルじゃ彼女どころか同性の友達だって少ないんだぞ?他を当たった方がいい」
むぅ~、と唸る2人に呆れ果てながら、しかたなしに一飯の恩を返すべく話を進める。
「で、どっちがどっちだ」
「へ?」 「え?」
「カイトとアード」
「「えぇっ!?」」
実に判りやすい。本人達が気づかないのが不思議で仕方ない。
俺の周りの男共は朴念仁しかいないのか。
「リオが『最近のギルドが居心地悪ぃ!!』って言ってやけ酒してたから鎌かけただけなんだが……どうやら当たりだな」
「……そんなに判りやすいの?」
「本人達が気づかないのが不思議なくらい、な」
「うかつだわ……」
原因は大体わかる。
カイト→一途
アード→そっちに思考が行かない
リオ→勘がいいため、余計悩む
やれやれ、リオが不憫でしかたない。
「……カイトは……まだアスナのこと……」
「先輩……」
あいつは冷静ながらも結構熱い男だ。人間性は大いに尊敬する部分がある。だが、一途故に彼女の想いに気づけないのだろう。
「カイトはお前のこと嫌いじゃない、むしろ好きだと思う」
「…………」
ホルンは俺の言葉を黙って聞いている。
「でも、あいつは未だに心の整理がついてないだけなんだ……。だからさ、もう少しだけ待ってやれないか」
「……うん」
あの調子じゃアスナがカイトを間接的にふるのは時間の問題だろう。こちらは問題ない。
「で、アードだが……おわっ!?」
ユウリがホルンを押し退ける勢いでずいっと乗り出してくる。真剣な表情だから迫力がある。怖い。
「……正直、小細工無しでいけると思う。幸い、あいつが一番なついているのはユウリだ。自信を持って言ってみるといい」
「……わかった」
しばらくしてから、2人は満足したような笑顔で帰っていった。
人が減って広くなったリビングに戻り、ソファーベッドに寝転び久々に回想にひたる。
小学生の頃、たまたまできた訓練も稽古も何もない夏の休日。
暇をもて余した俺は当時、居候していた叔父の家の近くにある公園に来ていた。
何かやりたいことがあるわけでもない。ただ、その公園には遊ぶ子供達に考慮して全面に芝が張ってある珍しい公園だった。
その副次的結果で木陰は丁度いい具合に涼しいのだ。
今から考えると、公園に昼寝をしにくる小学生は相当おかしい。
案の定、後から来た子供連れの夫婦にぎょっとされた。
誰もいないと思った公園に先客がいて、あろうことかすやすや寝ているではないか。しかも、小学生が1人で。
公園は大して広くもないが、子供が隅で寝ているだけで邪魔になるような狭さではなかった。
同い年かそれより下の子供達は姉妹だった。あまり似ているとは思えなかったが、双子だと聞いた。
今ではあまり記憶にないが、その公園での邂逅がその姉妹との出会いだった。
物静かな姉と活発な妹、そして俺でよく遊ぶようになった。
一番年上なのは俺だったが、無口な年頃だったため振り回されてばかりだった。
やがて、俺は彼女達の秘密を知ることになる。
それはとても残酷で理不尽で、俺は初めて自分の無力を悟った。
いくら自分だけ強くあっても何も救われない。《世界》はあまりに強大だった。
そのことを知ってから4年の月日が流れた現在。
遠く離れたこの世界でその事実を思い出した。
《仮想世界》であっても《世界》は強大で残酷で理不尽で……。
(勝てない)
不意にそう思った。
《両刀》ではヒースクリフは愚か、ロイドでさえも。
ゆっくりと状態を起こし、タンスに向かう。
タンスをつついて操作メニューの《解錠》をクリック。
中に入っているものは2つの装備アイテムだけ。
それらをストレージに格納すると、扉を再び閉めた。
________________________
75層のテーマは古代ローマ石を積み上げて造られた、神殿風の建物や水路、そして決闘の開場となる巨大コロシアム。
「……ど、どういうことだこれは……」
「さ、さあ……」
コロシアム前に並ぶ長蛇の列。明らかに本日の観客だ。
「おい、あそこで入場チケット売ってるのKobの人間じゃないか!?なんでこんなイベントになってるんだ!?」
「さ、さあ……」
「ま、まさかヒースクリフの奴これが目的だったんじゃあるまいな……」
あり得る。何を考えているか判らないあいつならやりかねない……。
「……逃げようアスナ。20層あたりの広い田舎に隠れて畑を耕そう」
「わたしはそれでもいいけど」
「……お幸せに。たが、ここで逃げると後が大変だぞ」
「くっそ……」
チケットを売っていた肥えた団員に控え室に案内され、準備をする。先ずはキリトvsヒースクリフ。
控え室に残された俺とアスナは観客席に上がる。
「あれ?」
「ん?」
アスナがふとこちらを見て声を上げた。
「レイ君、いつもと違う格好?」
「ああ……これね」
俺はいつも上に羽織っているマントを変えていた。色は同じ紅色だが、全体的に丈が長い。見た目は魔法使いのローブのようなものだ。
「こっちの方が防刃性能が高いんだ。敏捷値が低いから防御力で補うのさ」
「へぇ~、魔法使いみたいだから魔法でも使うのかと思った」
アスナの言葉に苦笑し、視線を闘技場に戻す。
キリトの神速の剣撃をヒースクリフが防ぎ、打ち返す。
双方のHPは徐々に減少し、やがて後一撃で勝負がつくところまでいった。
キリトが必殺のスターバーストストリームを敢行する。
徐々にヒースクリフの反応が遅れ、最後の一撃は絶対に防げない。
しかし――、
鋭い金属音をたてて、キリトの一撃は弾かれた。
ヒースクリフのカウンターが決まって終了。アスナは、はぁ…とため息をついていた。
「アスナ」
「うん?」
「キリトを拾っとけよ。俺は行く」
「うん、頑張ってね」
「おう」
選手が入れ替わり、俺とロイドが対峙する。
「団長からの伝言です。『こんなことになっているとは知らなかった。すまない』と」
「断じて許さん(笑)。と言っとけ」
「……了解しました」
双方がニヤッと笑って構える。
背から刀2本を抜いて、『白蓮妖ノ刀』を地面に突き立てる。
いぶかしむロイドに向かって芝居めいた口調で言う。
「舐めている訳ではないが、最初はこっちでやらせてもらう。……《両刀》を使うかどうかはお前しだいだな」
「……1分で使わせてやりますよ」
「なに、そんな時間は取らせない」
右のローブをたくしあげ、腕の《環》を露出させる。
それに触れると《世界》が紅蓮に染まった。
「………ッ!?」
光はすぐに落ち着いたが、まだ鳴動するように光っていた。そして、『沸々ノ太刀』は――
紅蓮。いや、もはや真紅か……。刀身が紅々と燃え、刀の軌跡は炎の道となった。
熱くはない。たが、この寒気は一体何であろうか?
「30秒で終わる。さあ……」
ゴウッと前方を切り払い、相対者に告げる。
「《両刀》を使わせることができるか?」
これが答え。例え世界が強大でも残酷でも理不尽でも、それに全力で抗い、時に圧倒する。
俺は弱いから……そんなことしか出来ない……。
なあ、―――。お前ならどうするんだ?
後書き
急にオラトリオの中で恋愛旋風が巻き起こりましたが、急展開なのは気にしないで下さい。
「姉妹」の正体は簡単ですね。あの子達です。
次回、遂にレイが「本気」になります。お楽しみに!
木野下先生がレイ君のイラストを書いてくださいました。
遅ばせながら、お礼を申し上げますm(_ _)m
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