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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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アイングラッド編
紅き剣閃編
  Make a vow and fidelity―誓いと忠誠

 
前書き
さて、クラディールさんの命運は? 

 




Side キリト



―狂ってる。

ゴドブリーともう1人の団員を殺したクラディールを睨みながらそう思った。

昼飯の水筒に麻痺毒を混ぜ、自分以外の全員の体の不自由を奪い、殺した。


「よォ」


無様に這いつくばる俺の傍らにしゃがみこみ、ささやくように言う。


「おめぇみてえなガキ1人のためによぉ、関係ねえ奴を2人も殺しちまったよ」


「その割りには随分と嬉しそうだったじゃないか」


なんとか会話を繋げながら打開案をひねり出そうとする。


「お前みたいな奴がなんでKoBに入った。犯罪者ギルドのほうがよっぽど似合いだぜ」


「クッ、決まってんじゃねぇか。あの女だよ」


「貴様……!」


「そんなコエェ顔すんなよ。心配すんな、おめぇの大事な副団長様は俺がきっちり面倒みてやるからよ。いろいろ便利なアイテムもあることたしなァ」


そう言って傍らの毒入りビンをチャプチャプと鳴らしてみせた。


「それによ。おめぇさっきおもしれー事言ったよな。犯罪者ギルドが似合うとかなんとか」


「……事実だろう」


「褒めてるんだぜぇ?いい眼してるってよ」


左のガントレットを外し、インナーの袖をめくったその前腕の内側には………。


――殺人ギルド《笑う棺桶《ラフィン・コフィン》》のタトゥーがあった。


その時、俺が言葉を失っているとその場にいないはずの、だが聞き覚えのある声が聞こえた。


「なるほど、最近残党がうろちょろしてると思ったらこういうことか」


「あぁ!?誰だ」


俺たちより後ろの岩陰から出てきたのは薄紫色のコートを羽織った人物。

攻略組最強ギルドの一角、《オラトリオ・オーケストラ》の団長、《雷閃》カイト。

剣の速さでアスナに匹敵し、その人柄に惹かれた猛者が集まるギルドを束ね、まとめ上げる。

そして、レイが信頼する友人の1人。


「なんでてめがこんなとこにいやがんだ、すっこんでろ!!」


「いや、特にどうしてって訳じゃないが……ぶっちゃけアンタを待ってたんだよ。クラディール」


「あ?」


「おかしいと思わなかったのか?いきなり謹慎にされたと思えばすぐに解かれて因縁の相手をもっとも始末しやすい位置に配置されたことが」


「……んだと?」


「哀れな傀儡だな……」


はぁ、とため息をついたそのスキにクラディールはカイトに斬りかかった。が、

その時、一陣の疾風が吹いた。

白と赤の色彩を持った風だった。


「ま、こんなもんかな。……レイ君や?」


「助かったぜカイト」


少し遅れてやって来たレイがカイトの肩をポンポンと叩いてから、俺を解毒結晶で助けてくれる。


「さて、助かったついでに……アレ止めて」


レイが指差した先には今にもクラディールに斬りかからんとするアスナがいた。


「アスナ!!……抑えろ」


「…………」


アスナは振り向いて俺の方に駆け寄ってくる。


「生きてる……生きてるよねキリト君……」


俺の傍らにひざまずいたアスナが美しい声を響かせる。

その肩にそっと手を置いたレイがアスナにこれまで聞いた中で最上級に優しく、慈しみのこもった声で言う。


「大丈夫だ。ちゃんと生きてただろ?」


「……うん」


「……済まなかった」


今度は俺達2人に話しかける。表情には懺悔の色合いがあった。


「………?」


「後で話すよ」


そうして、レイはすっと立ち上がってクラディールと対峙した。


「………何も心配しなくていい。誰にも2人を傷つけさせはしない。だから―――」


――俺を見るな




不思議とその言葉には逆らえないような気がして、俺はただアスナの綺麗な顔を、アスナは俺をじっと見ていた。






……



………



…………



どれぐらいたったろうか?

ふと、顔をずらすと2つの人影があった。

いや、1つは既にその形を崩していた。

四肢を死なない程度に切断され、動くことも出来ずに襟を掴まれ、宙にただ、吊るされていた。

その顔は恐怖ね表情で固まっている。

もう1人のHPは無傷。

クラディールに向かって何かを質問し、クラディールがそれにつっかえながら答える度に満足そうに笑顔で頷く。

答えに詰まれば、表情が消え、大太刀をピクリと動かす。

やがて全ての質問が終わったのか、不意に回廊結晶を取りだし、開くとその中に持っていた物を無造作に放り込んだ。


「………見るなっつたろ」


「ごめん……」


それ以上何も言えずにいるとレイは「はぁ……」とため息をつき、パンっと手を打ち鳴らした。


「撤収だ。カイト、帰るぞ」


「……少し、待ってくれ」


「……お好きにどーぞ」


カイトは俺の近くにひざまずくアスナの横に来ると何かを耳打ちした。

アスナがそれの言葉に対して、ハッと顔を上げたときにはもう彼はそこにはいなく、街の方に走り去って行くところだった。

俺は、何となく彼が言ったことを悟った。そして、それに激しく嫉妬した。


「キリト」


レイが再び優しく声を発した。


「自分に嘘はつくなよ。必ず、後悔する。あいつは自分の気持ちに嘘はつかなかった。悩んで、苦しんで、泣き叫んで出した結論だ」


……ああ。俺はさんざん嘘をついてきた。本当は気づいていたんだ。アスナが俺の事をどう想っているか。

レイもアスナの気持ちを知って俺達を精一杯応援していたんだ。気づかないフリをしていただけなんだ。人を恐れるあまり、自分に嘘をつき、アスナの想いを踏みにじり、レイの行為を無為にしていた。

レイはそれを許し、彼女に報いろ、と言ったのだ。


「アスナ……」


「……ごめんね……わたしの……わたしのせいだね……」


悲痛な表情で、震える声を絞り出した。大きな目から涙があふれ、次々と滴り落ちた。

全身に不快な痺れが残っているが、かまうものか。あの暗い迷宮の中で見た孤独な流星は、よく笑うようになったんだ。


「ごめんね……。わたし……も……キリト君には……あ……会わな……」


だから、お願いだ。そんな顔をしないでくれ。

力の入らない両腕でアスナをそっと抱き寄せる。そのまま、彼女の桜色の美しい唇を自分の唇で塞いだ。顔を離すと首筋に顔を埋め、呟く。


「俺の命は君のものだ、アスナ。だから君のために使う。最後の瞬間まで一緒にいる」


そう言っていっそう強く抱きしめると、アスナも震える吐息を漏らし、ささやきを返した。


「……わたしも。わたしも、絶対に君を守る。これから永遠に守り続けるから。だから……」


その先は言葉にならなかったが、俺は固く抱き合ったまま、いつまでもアスナの嗚咽を聞き続けていた。





____________________________







Side レイ



濃密なラブシーンを垣間見てしまった俺は永遠とも感じる間、2人から僅かに目を逸らしていた。

反対向きにならなかったのは、露骨過ぎて逆に雰囲気を壊しそうだったから、なんだが……いまいちそれが合ってたかは判らない。


「…………」


まだ、ギュッとしている2人は取り合えず置いといて帰ろうか。

いや、それもなんか不自然?ていうかここ安地ですらないんだが……。故に危ない、だがこうしていつまでも立っているのもアレだ。

やむ無し、と割りきるか?

いやいや、こういう時はアレだ。話を繋げて何か話すんだ。無理矢理に。………いや、ムリ!!

などと、思考が暴走して脳内がカオス極まりない状況になりつつあったところ、遅まきながら2人が俺の存在を思い出してパッと離れた。手は重なってるけど。


「……よかったな、2人とも。幸せになれよ」


「……うん。レイ君も今までありがとう」


「どういたしまして」


「……その、レイ。俺もお前には色々と面倒をかけた……すまん」


「いや……俺の方こそ……」


そして、俺は自分の罪を告白する。


血盟騎士団に戻った理由、その対価と犠牲。


「俺は……お前達を利用した最低な奴だ。俺に、謝られる資格はない……」


「……それはそれ、これはこれだ」


「はぁ?」


思わず間抜けな声を出してしまう。

最悪、罵倒されることまで想定していた俺としては拍子抜けだ。


「いつもお前が言ってんだぜ。『たらればの話をしたってしょうがい』って」


「馬鹿だな……お前」


「……レイ君は何でも背負いすぎだよ。少し、息抜きしたらいいよ」


「余計なお世話………ん?」


頬が濡れている……雨か?

いや、ベタなボケはよそう。


「…………っ」


この世界に来て初めて、俺は泣いている。

4年前のあの日、俺は自分に弱音を吐くことを禁じた。

喜怒哀楽、それらは全て無用の長物、と断じて。

そして、この世界に来て大切な人たちと触れ合った。

喜び、怒り、哀しみ、楽しんだ。それらをしても良いのだと教えてもらった。

一番、教えてくれたのはこの2人だ。

安堵した。この2人が居なくなったら俺は立ち直れないと今思った。

おもむろに、2人の傍まで歩いて行くと片膝をつき、頭を垂れる。

まるで、主人に忠誠を誓う騎士のように。


「……2人は何時如何なる時も俺が守ってみせる。これは絶対の誓い、何があっても破られることはない」


驚いた表情をしているだろう2人にむかってさらに続ける。


「2人に害をなすものは何人たりとも許さない。必ず、守り通す」

この誓いを立てるのは2度目。

これが、せめてもの恩返しだ。







________________________





ヒースクリフに事の顛末と3人分の一時退団申請をすると、しばしの黙考の上、了承された。


「……面倒をかけたな」


「なに、大したことではない」


「なるべく早く戻ってくる」


「待っていよう」


2度目の退団は1度目と違って心に波をたてずに終わった。

キリト達とは転移門で別れた。しばらく会うことはないだろう。

新居が決まったら連絡するとは言ってたが、いつになるかはわからない。辺境の家でも買わないと、アスナの結婚を知られたら一大事だ。






__________________________





Side カイト




「…………」


ギルド本部に戻ってきても気持ちがざわついていた。


――結城明日奈さん、貴女のことが大好きでした。どうか……幸せになって下さい。


我ながら、なんと言いますか……恥ずかしいセリフだ。

ゴンゴン、と机に頭をぶつけて恥ずかしさを紛らわしていると、カチャッとドアが開いた。

ここは本部にある俺の私室。

そこに断りもなく入ってくる人物には2人しか心当たりがない。

だが、うち1人はギルド内部にすら入れない筈なので、必然的に誰かは分かる。


「……ノックぐらいしてくださいよ、先輩」


「以後気を付けまーす!」


「そのセリフ……この間も聞きましたよ」


「そりゃこの間も言ったからね」


「……つまり、守る気がないと」


「あんまし……」


「はぁ……」


机に突っ伏す。多少気が紛れたとはいえ、憂鬱なのは変わらない。

嫌なことに、この先輩は人の感情を読むことに長けている。

今回も例外ではなく、後ろから手をまわすと耳元でささやいてきた。


「……カイト」


「……はい」


いつになく艶っぽい声。固まっていた心が僅かにトクン、と動いた。


「大好き」


「……俺、今失恋したばっかなんですけど……」


「じゃ、心置きなくわたしに乗りかえなさい」


「……強引です」


「女は少し強引な方がいい女なのよ」


「……とっても強引です」


「あー、ひどーい」


クスクスと耳元で笑うのでくすぐったくってしょうがない。つられて笑ってしまう。

まったく……こういうことは得意なんだから……。それにしても、


「……ご飯でも行きましょうか、奢りますよ」


「えー、財布ももう共通にするから関係なーい」


「それは流石に急展開過ぎでしょ!?」


この人には一生敵いそうにない……。






_______________________






Side アード




こんにちはみなさん。初の僕Sideです。

え?なんでこんなメタな発言をしているのかだって?

怖いんです、ユウリが……。


「アーくん、おかわりどう?」


「……もう大丈夫。ご馳走様」


ギルドの食道、とは言っても作るのは自分達なので、使うのは料理スキルを選択した少数のプレイヤーだけ。

百人は入れそうな巨大食道には今は2人きり。

以前から約束していた、ユウリの手料理を食べさせてもらった。

とても美味しかった。


「……アーくん」


「な、何?」


「わたしね、これから毎日、アーくんのためにご飯を作りたい」


「え……?」


……告白!?いや、待て待て。


「アーくんは……わたしのこと、嫌い?」


それ、誘導尋問……。

だけど、自分でも気づかなかったのは驚いた。だって、こんなに……


「じゃあ……お願いしようかな」


「……うん!」


その時の笑顔を僕は一生忘れないだろう。





 
 

 
後書き
自分で作っといて言うのもアレだけど、アード君のしゃべり方ってどうにも苦手な今日このごろです。
今回は、レイ君が怖くてその他はラブい展開でした。

なんで、最後に無理やり2つのおまけを入れたかというと、レイ君の尋問(拷問?)を脳内でビジュアル化したら陰惨さが半端なかったので、あまーい話を入れてみました。

とは言ってもおそらく前世から彼女いない歴を積み重ねている私めの拙い妄想ですが……。
経験豊富なもしくは、そうゆうシーンを書くのが得意な方、ぜひともご教授下さい。

『朝露の少女』は多分、三話構成で、できるだけ今年中に投稿します。

SAOアニメは今日が最終回です。
いったい、来週から何を糧に生きていけばいいんだか……。

いつになく長くなりましたが、今日のところはこれで。
感想、質問、誹謗中傷(はオブラートにお願いします)、イラスト、お待ちしております。
 
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