転生×魔弾の王×萌えもん=カオス
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六本目
何か、硬く冷たい物を口に突っ込まれ、目を覚ました。
目を開けると、ログハウスだった。
そして、天井を二つに割る銀色。
「やっと起きましたか」
口から引き抜かれたのは、剣だった。
その剣の持ち主はくすんだ金髪にサファイアの瞳を持つ背の高い女だ。
「珍しい起こし方だな」
「このようなやり方で人を起こしたのは私も初めてです」
だろうな。
こんな起こし方があってたまるか。
「どれだけ呼んでも返事が無いので自殺でも謀ったかと思えば…。
捕虜の身でどうして熟睡できるのですか」
「特技の一つなんだ」
そんな軽口を叩きながら、さっきの捕虜という言葉の意味を考える。
今朝、エレオノーラと名乗った女に連れて来られたログハウス…
時間になったら呼びに来ると言っていたので、寝る事にしたのだが…
「エレオノーラ様が貴方を呼んでおります。
ついてきてください」
急いでベッドの横の靴を履き、靴紐を結ぶ。
「よろしく。えーっと…」
名前がわからない…
「私の名前はリムアリーシャです。
覚えてもらう必要はありませんが」
彼女について外に出ると、そこは町だった。
ログハウスやツリーハウス、レンガ造りの家があり、ニンゲンやポケモンが暮らしている。
見れば、店のような物さえある。
ビルのような近代建築こそ無いが、マサラタウンよりは確実に大きく、発展している。
だが、その全員がヒト…人間ではないのだろう。
各々が火を吹き、水を纏った拳を放つ。
擬人化ポケモンの街。
擬人化ポケモンになれるのは、1U以上の個体。
確率的にはかなり低い。
しかし、目に入るだけでも十数名はいるだろう。
ここはさしずめポケモン達の楽園と言った所か…。
もし、もしも【文明】という人類の専売特許を手にした彼らが、人類に牙を剥いたら?
きっと人類は、なす統べなく滅ぶ。
暫く歩くと、修練場のような所へ着いた。
「ここです。少しでもおかしな動きをすれば…いえ、むしろしてくださった方がいいですね。
色々と手間が省けます」
と見せつけるように腰に差した剣の鞘を叩いた。
いやいや…この身長差でどうして俺がそんな危ない真似をせにゃぁならんのだ。
「ん、きたか。
ご苦労だった。しかし思ったより時間がかかったな」
俺達に気付いたエレオノーラが、こちらを向いた。
やはり、美しい。
「申し訳ございません。この男がなかなか起きなかったので」
「起きなかった?
ふむ、捕虜の身で熟睡とは、見かけによらず肝が据わっている」
「鈍いだけでしょう」
「ティグルヴルムド・ヴォルンだったな。
その名前、日本人ではないな」
「俺は捨て子でな。俺と一緒にあった紙にそう書かれていたらしい。
呼びにくければティグルでいい」
「それなら私の事はエレンでいいぞ」
「エレオノーラ様」
とリムアリーシャが諫める。
「コイツは私の捕虜だ。これくらいはいいだろう?」
まただ…
「エレン。その捕虜ってのは何だ?」
「ん?我々と人間の間にある古き盟約だよ。
我々の土地に踏み行った者の殺傷与奪権は我々に、外に出て人間に捕まった者の殺傷与奪権は人間に、という訳だ」
ほーん…成る程…ポケモンの国との盟約ね…
「では盟約に乗っ取って…
貴様の身柄と引き換えに、我々は昨日森に火を放った者達の身柄を要求したい」
つまり、ロケット団の身柄って事か…
「はっきり言って、不可能だ」
「ほう?」
「奴らはロケット団。珍しいポケモンや強いポケモンを求めて暗躍する組織で、その構成員は万に昇る可能性もある。
その中から昨日の奴らを探す気か?
そもそもロケット団自体の足取りを、人間側の政府が掴めていない。
他の条件を提示しろ」
「だめだ」
ちっ…
「お前にはしばらくこの街で暮らしてもらう。
言うまでもないが、脱走を試みれば死刑だ」
くそっ…どうすればいい…?
はっきり言って政府は動かない。
今回の要求が通るなら、既にロケット団は壊滅している。
いや、それ以前に、政府とそれに連なるポケモン協会日本支部はロケット団と通じている可能性すらある。
そうでなくてもサカキの存在がある。
奴が中枢にいる限り、ロケット団の捜査は正しく進まない…
俺は…マサラタウンに帰らなきゃいけないんだ。
ティッタに、帰ると約束したんだ。
「それで、俺をこんな所に呼んだ理由はそれだけか?」
おれは、内心の不安を見せぬよう。
有らん限りふてぶてしく、問いかけた。
「もちろん、これだけではないぞ。
お前に是非ともやってほしい事がある」
そう言って、エレンは遠くの的を指差した。
「ここから矢を射て、あれに命中させてくれ」
その距離ざっと300メートル。
「なんだ、そんな事か」
まったくどんな無茶振りをされるかと思えば…
いや、まぁ、普通の人からしたら無茶振りなんだけどね。
あれ?俺って普通じゃない?
もしかして気付かない内にスーパーマサラ人に…!?
そう思っていると、近くにいた男が弓と四本の矢を差し出した。
かなりイケメンだ。
擬人化ポケモンは総じて容姿端麗だ。
きっとこの街の顔面偏差値の平均はかなり高いだろう。
で、受け取った弓矢だが…
「ひどい弓だな…」
素材も、造りも、てんでダメだ。
エレンを見ると、少し離れた場所で見惚れるような顔に子供のように純真無垢な笑みを浮かべてこちらをみていた。
どうやらエレンの仕業じゃないようだ。
リムアリーシャを見るが、こちらにも悪意を感じられない。
「確認したいんだが、これ全部当てなきゃいけないのか?」
「体調が悪いのならば、エレオノーラ様に申し上げて別の日に…」
「自分の弓じゃないから自信がないんだ。
当てるのは一本にしてくれ」
矢をつがえ、一本目を放つ。
しかし、途中で失速。
たぶん、200も飛んでない。
周りの男達から嘲笑が聞こえる。
どうやらコイツらの仕業らしい。
どさくさに紛れて打っちゃおうかなぁ…なんて考えたが、リムアリーシャの剣閃から逃れられる気がしないのでやめておく。
二本目。
風を切って放たれた矢は、今度は300ほど飛んだが、的から大きく外れた。
「真面目にやっているのですか?」
怒気をはらんだリムアリーシャの声。
「ちゃんとやってるさ」
さっきの男達が、大声で騒ぐ。
特に気にしていなかったのだが…
『戦姫様もなんでこんな奴を捕虜にしたんだ?』
せんき? <せんき>とはなんだ? エレンの事か?
三本目。
矢をつがえようとした刹那。
「エレン!伏せろ!」
森の中から、火炎弾が飛んできた。
エレンが俺の予想通りエアームドなら、炎は弱点だ。
技の名前は解らないが、それが炎タイプの技である事は、それこそ火を見るより明らかである。
世界が、遅くなる。
その火炎弾が、少しずつ少しずつエレンに近づいていく。
「アリファール」
その呟きと共に、莫大な風が吹き荒れた。
そして、火炎弾は風に掻き消され、消滅した。
なんだ…? 今のは?
技…か?
さっきエレンはなんと言った?
【アリファール】?
そんな技は、存在しない。
日本語でも英語でもない。
「あの族を捕らえよ!」
リムアリーシャの掛け声で、修練場に居た者が思い思いの武器を取り、技を放つ。
俺には関係ないな…
『いい腕をしているな』
エレンの言葉が、脳裏を過る。
「奴は生かして捕らえるのか?」
「そんな贅沢が言える状況ですか!?」
「OK、足にする」
森の奥に、走る何者かが見える。
恐らくは、人化ポケモン…
弓のコンディションは、掴んだ。
あとは、そう。
弓の癖に、合わせるだけ。
弓弦が振るえ、矢が風を切る。
森の奥で、何者かの悲鳴が聞こえた。
「で、でたらめだ…あんな粗末な弓で…」
と俺に弓を渡した男が呟いた。
それを聞いてかなりスカッとした。
リムアリーシャや、他の奴はフリーズしていた。
あー…やり過ぎたかな…?
そう思ってエレンを見る。
「一応聞くが、四本目を撃つのか?」
「あとは嫌味にしかならんだろ」
その顔に嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「よくやった」
何処からか吹いた風が、俺の頭を撫でた気がした。
その風が、エレンの腰にある長剣が起こした物に思えてならなかった。
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