碧い銀河
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夢想 その1
提督の衝撃
僕は、何も、しなかったんだけど。
動いていたのは、キルヒアイスだけじゃなかった。
ラインハルト最大の好敵手、不敗の魔術師とまで称えられる英雄。
奇跡《ミラクル》の演出家、ヤン・ウェンリーにも、抜かりは無かった。
ある意味では敬愛する僕の上司、キルヒアイスより、上かも知れない。
だって、ヤン提督が、僕の纏めた報告書《レポート》を読んだのは。
捕虜交換式が終わって、僕達が引き上げた直後じゃない。
いろいろ面倒な手続き、事務作業が一段落してからなんだよ?
イゼルローン要塞の最高責任者ともなれば、趣味に割ける時間は限られている。
昼寝する暇は、あったみたいだけどね。
何日後に読んだかは、聞いてないけれど。
うろ覚えで書いた報告書《レポート》の内容に、相当な衝撃を受けたみたい。
ヤン提督らしいな、って後で思ったんだけど。
ショックが一番大きかったのは、自分が地球教の狂信者に暗殺された事じゃないんだって。
シェーンコップ隊長、ピュコック提督の戦死もそうなんだけど。
フレデリカさん、ユリアン・ミンツ君が、どんな道を歩んだかって事だったんだ。
自由惑星同盟には結局、ヤン・ウェンリーの待ち望んだ民主主義の擁護者は現れなかった。
たくさんの血が流された後で、ユリアン君は最高権力者と直談判する事ができたけど。
イゼルローン要塞を放棄して、ヤン提督の箱舟隊も解散してまで勝ち取った成果は。
一定の自治権を認めて貰い、ハイネセンに民主主義の萌芽を残す事でしかなかった。
それなら、大勢の血を流す必要は、無かったんじゃないか!?
ヤン提督が、そう思っても、当然だよね。
ドーリア星域会戦、ランテマリオ星域会戦、バーミリオン星域会戦、マル・アデッタ星域会戦。
回廊の戦い、シヴァ星域会戦の戦死傷者を合計すれば天文学的な数になるんだから。
僕の纏めた報告書《レポート》が嘘か真実か、確認する方法は何にも無い。
未来の出来事を的中させる、なんて吹聴するのは地球教徒ぐらいしかいないよね。
僕だって、そう思う。
そう思ったから直属の上司、キルヒアイス以外の人間には一言も話さなかった。
迂闊にお喋りすれば法螺吹き、狂人と思われるかも知れない。
僕は、それが怖くて、口を閉ざしていた。
何の行動も起こせなかったのも、自分が可愛いからだけど。
ヤン・ウェンリーは、違った。
ある意味では、キルヒアイスよりも、凄い。
裏切者の名を浴びる事も怖れず、行動したんだ。
イゼルローン要塞を留守にする前、ばれない様に仮病を装ったみたいだけど。
暗殺される危険も冒す価値がある、と判断してくれたんだね。
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