碧い銀河
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
夢想 その1
赤毛の驍将
ジークフリード・キルヒアイスに、抜かりは無かった。
僕の話を聞いた直後から、動いていた。
最悪の事態を想定して、対策を立てる。
どの世界にも通用する鉄則、当たり前の常識なんだけど。
実際、行動に移すのは難しい事だよね。
でも、キルヒアイスは、違ったんだ。
僕の話した内容を、想定の範囲内と判断してくれた。
実際に起こり得る、と認めてくれたんだ。
打ち明けてくれなかったのは、残念だけど。
どうすれば、良いのか?
僕は全然、考えてもみなかった。
うろ覚えの通りに、大勢の人が死んで行ったのに。
大勢の人を救う事だって、できた筈なのに。
どうすれば救えるか、考えなかったんだけれど。
赤毛の上司は、僕の知らないうちに、様々な布石を打っていた。
僕の話に信憑性がある、と認めた直後から。
手の届く範囲で、用意周到に。
犠牲者を減らす為の方策を考え、種を蒔いていたんだ。
僕は、知らなかったけど。
最初は、疑っていたらしい。
そりゃ、そうだよね。
自分が若死にする、って言われたんだ。
そうならないように、気を付けるのは当然だけど。
否定したくなるのも、同じくらい当然だと思う。
キルヒアイスの蒔いた種は、確実に育っていた。
一見、何も変わっていないように見えたけど。
目立たないところで、波及効果は拡がり続けていた。
僕の上司は帝国最大の門閥貴族に仕え、陣営を支える有能な人物と接触を図った。
オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公に仕え、部下からの人望も厚い忠臣。
アンスバッハ准将との対面に漕ぎ着け、或る提案を示した。
ガイエスブルク要塞の陥落後、自分の生命を奪った張本人なんだけど。
クロプシュトック事件の際、ラインハルトとフレーゲルの衝突を仲裁した人物でもある。
尊大で傲慢な貴族の癇癪に耐え、現実を認識する相手の同意を得ていたんだ。
接触を図った相手は、キルヒアイス殺害の張本人だけじゃない。
洞察力に優れ主君に忠節を尽くす有能な部下、アルツール・フォン・シュトライト。
ラインハルトの暗殺が唯一、勝利を望めると見抜いた現実主義者アントン・フェルナー。
前線で挙げた武勲じゃなくて、後方勤務が中心だったんだけど。
平民出身なのに、30代で大佐に昇進した有能な参謀レオポルド・シューマッハ。
水色の瞳が印象的な貧乏貴族出身の艦隊指揮官、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト。
帝国軍の宿将、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ提督にも働き掛けていたんだ。
ページ上へ戻る