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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§39 天地の覇者と幽世の隠者

 
前書き
亀更新化してホントお騒がせしました……

まだ盟約のリヴァイアサン読んでない……



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「……人違いでは?」

 引き攣った笑みでなんとか声を絞り出す黎斗。いくら彼の頭がからっからでも、こんな美少女一目見たらそう簡単には忘れない。ならばと逆ナンの可能性を考えてみるが、残念ながら違うだろう。護堂くらいイケメンならば有り得るのだがこんなうだつの上がらない容姿の自分相手にナンパは有り得ない、などと思っていると目の前にキラリと光る物体。何かと掴んでみてみれば、それは一善の箸だった。金ぴかの。黎斗が掴んだ箸を見て、幾人かが身体を強張らせる。

「……何コレ」

「私の箸として用意したようです。全く、嘆かわしい。この私がそのようなただ眩いだけの代物を使うような器ととられるとは。この程度の事も見抜けぬとは、日本の組織は所詮その程度ですか」

 なるほど。これはプライドが高い子だ。ビクビクしている人達を見て一人納得する黎斗。彼らの黎斗を見る目が救世主のそれなわけだ。一事が万事こんな調子でやられたらたまらない。

「……まぁ良いでしょう。俗物如きに拘っている暇はありません。さてお義兄様。私は今、それなりに(・・・・・)本気でした」

「は、はぁ」

 なんだ。だからなんだというのだ。この子は残念系美少女というやつなのだろうか。それとも電波か?

「私の一撃を造作も無く受け止める存在などこの世にどれだけいると思っているのですか」

「それなりに?」

たしかに、今の一撃は一般人なら視認すら出来ないレベルだった気もするけれど。エリカとかリリアナくらいの実力者ならなんとでもなるような気がする。

「……恐れ多くも私見を述べさ」

「鷹児黙りなさい。今は私がお義兄様と話しているのです」

 隻腕の少年が喋ろうとした瞬間、割り込むかのような羅濠教主の声。無造作に彼女が腕を上げる。

「おわあああー!!」

 悲鳴を上げて飛んでいく少年。彼の身体が突風により打ち上げられ、惨い回転をしながら明後日の方向へ飛んでいく。屋根を突き破り、壁をぶち抜き、あっという間に見えなくなった。

「……私の弟子が失礼を致しました」

「い、いや…… 彼拾いに行った方が良いのでは……?」

「構いません。久々の兄妹の逢瀬に水を差す愚物にはあれでも甘い位です」

 駄目だこの子。ヤンデレの素質がありすぎる。そんな黎斗の戦慄を余所に、彼女はヒートアップし続ける。

「話が逸れました。今の一撃を平然と受け止められるのはお義兄様だけです」

「……なんで?」

 さっきから阿呆みたいな反応しかしていない黎斗だが、理解が追いついていないのだからしょうがない。他の人々は先程の陸鷹化の件で萎縮してしまい口を挟んでくる気配は皆無。まぁ、人間ミンチなど見たいわけではないから犠牲者が出ないのは黎斗にとってもありがたい。

「私は武と方術を練り上げました。私を上回るのはお義兄様くらいのものです」

「なんでさ!?」

 駄目だ。話が進まない。この子はお義兄様とやらをいくらなんでも神聖視しすぎだ。

「幼子心にも残っております。お義兄様が圧倒的な武で村に襲来した神獣を蹴散らしていったのを。あの光景が私の原点です故に」

 食品の残骸で数多の神獣を蹂躙するお義兄様こそ武の体現者と呼ぶに相応しい物です、と結ぶ教主。黎斗の背筋に汗が一筋流れ落ちる。そういえば昔生ゴミで神獣とやりあったことが一度あったような。背骨の欠片を礫として飛ばし神獣を蜂の巣にした記憶はあるのだが、それは何分昔の話だ。

「……魚の背骨で神獣に挑んだ時?」

「あの時のお義兄様はとても素敵でございました!」

「「「…………」」」

 魚の背骨、なんて単語が出た途端、場の空気が緊張感のある物から一変した。呆れを通り越して変なものを見る目で見られていることぐらいKYな(くうきがよめない)黎斗でも察することが出来るほどに。

「ん? ……羅翠蓮様や、あなたいつごろカンピオーネに?」

「そんな他人行儀にならずとも結構ですお義兄様。羅濠でも翠蓮でも好きなようにお呼びください。……はて。詳しい時期は忘れましたが二百余年、といったところでしょうか」

 二百年くらい前。魚の骨。新年を大掃除で過ごし華麗に始められなかった、などというみっともない理由で幽世から家出した時が、確かそのくらいだった筈だ。そういえば、ツバメの巣を探しに大陸まで放浪したような……

「あー!! あの時の女の子か!!」

 立ち寄った村で遊んであげた幼女が黎斗の脳裏に浮かびあがる。微かな記憶を手繰り寄せ、じろじろと前に座る教主を観察してみれば、なるほど彼女の面影が残っている、ような気がするではないか。あの幼女、美人になりそうな風格はあったがここまでとは。

「おー!! おっきくなったねぇ」

「思い出して頂けたようでこの羅濠、感謝の極みです……!!」

 よしよし、と頭を撫でる黎斗と嬉しそうに撫でられる教主に、周囲は自分の眼を疑わざるを得ない。「え。誰だコレ?」、というのが彼女を知る者の共通認識で。

「……あれ? みなさんどうされました?」

「…………いえ。なんでもありません」

 不思議そうにする黎斗とご機嫌な教主、現実を認識できないその他と綺麗に分かれてしまう。空気の違いを感じ取った黎斗の問いに「羅濠教主がおかしい」などと突っ込む愚か者(ゆうしゃ)がいる筈もなく。

「……まるで借りてきた猫ですな」

 甘粕のそんな一言が、いやに虚しく部屋に響いた。





「それでですね! 雪の……」

 最初はどうなることかと思った教主と黎斗との会談は途中から雲行きが怪しくなった。きっかけは黎斗の「今まで何してたの?」という些細な一言。ここからのべ数時間に渡って羅濠教主のノンストップトーク大会が始まった。口出しをするのは当然、黎斗のみ。他の人間は沈黙維持だ。口を開こうものなら「義兄妹の逢瀬を邪魔するのではありません!!」と死が待っているのだから当然と言える。

(か、帰りたい……)

 口を挟めず、割とどうでもよい話を聞かされ、寝ることも許されず、正座で緊張状態の中にいる聴衆たちはただ切実にそれを願う。魔王同士の遭遇なのに戦闘がおこる気配が無いのは喜ばしいが、この状況はこの状況で、正直なかなかしんどい。そんな割と切実な馨の願いは最悪な形で叶えられた。

「それで、羅濠はわざわざ会いに来てくれたんだ?」

 黎斗の一言が場の空気を一気に氷点下へと誘う。その言葉で教主は本来の目的を思い出す。

「……そうでした。この私としたことが、すっかり本来の用事を忘れてしまうとは」

 さっきまでの愛くるしい猫モードから凛々しい獅子のような表情へ。

「……あら?」

 何かマズったかしら、などと口にする間もなく。

「この羅濠、本日はお義兄様に挑むために参りました」

「挑む……?」

 この子は何を言い出すのだろうか。殺し合いを知り合いとする気はないのだけれど。

「お義兄様を倒してこそ武の至尊。私を上回るであろう存在はお義兄様のみです。愚妹の願い、聞いてはいただけないでしょうか?」

 なんだ、力試しか、などと黎斗はあっさり納得する。殺し合いでなく腕試しならば別に何回やろうが構わない。

「んー、いーよー?」

「ちょ、マスター!?」

 泡を食ったエルが黎斗に詰め寄ろうとするのだが。

「ん? 別に腕試しくらいいんでない?」

 黎斗の能天気っぷりに呆れてしまう。いくら腕試しとはいえ、周囲に与える被害は計り知れないものになることを己が主は忘れているのだろうか。

「……まぁ、さ」

 暗い空気を纏って黎斗が続ける。

「家をめちゃくちゃにしたお灸くらいは据えても良いんだよね?」

 これはダメだ。エルの直感は絶望しか感じ取れなかった。

「んじゃあ甘粕さん、沙耶宮さん、立会人お願いします」

「……」

「……魔王陛下の御心のままに」

 正史編纂委員会に拒否権などあろうはずもない。もっとも今まで謎に包まれてきた黎斗の戦闘を直接見ることが出来る、というメリットは大きい上に戦場は既に荒地になっているので反対意見を出す気など毛頭ないのだが。それを口に出すことはない。

「じゃあ行こうか。外でいいよね」

 教主の前を先導し、荒地へ向かって進んでいく。歩く黎斗は気付かない。馨が「魔王陛下」と呼んだのは黎斗であり、それに大して反論しなかったことに。つまりは己が魔王(カンピオーネ)である、と認めたということを。

「さて。ここらでいいかね」

 羅濠教主と草薙護堂が激戦を繰り広げた(と思われる)跡地へ来てから教主に確認をとる。自らの家の残骸を敢えて目に入れないように家の手前で後ろを振り向く。神妙な顔をした教主が黎斗の瞳に映った。

「私はどこでも」

「では、行きますか」

 黎斗が言葉を発すると、場の空気が突如冷え込んだ。

「ずっと、ずうっと。お会いしたかった」

 言葉だけ聞くならば「あれ、いつフラグを立てたっけ?」と言いたくなるような台詞だ。

「お義兄様は遥かな昔より私の目標でした」

 ただし

「今こそ」

 それは

「私は」

 圧倒的な

「お義兄様を超えてみせます」

 殺気を除けば!!

「え? え?」

「把ァ!!」

 数十メートルはあったであろう彼我距離は一瞬にして零となり、繰り出される拳は神速を軽々と凌駕する。

「ッ!?」

 回避と同時に黎斗は悟る。

――途方もなく、強い

 黎斗自身も徒手空拳で戦うことは多々あったが、こんなの楽々とは放てない。自分の中で上手く放てた一撃で、ようやく互角になれるかどうか。

「クッ・・・!!」

 教主の止むことのない連撃を凌ぐ防戦一方。(フェイント)に最低限の注意を払い、立ち位置、地形、体勢をしっかり把握し、必殺となりうる一撃を確実に捌く。姿勢をわざと崩し、揺さぶり。回避。側転、バク転。時折バク転や酔っ払いのふらつきのような、無駄な動きで混乱させようと試みるも、それに動じる気配は無い。

「甘い!」

 声と同時に重心に仕掛けられる足払い、次いで繰り出される掌底をすれすれで躱し距離をとる。

「はぁ……」

 その光景を眺める陸鷹化は驚くことにも疲れてきた。自分の右腕を奪った彼が途方も無く強いことは予想していたけれど、まさかここまでだとは。

「おいおいマジかよ。あの兄さん、師父の攻撃受けきってるよ……」

 あの羅濠教主(ししょう)が最初から本気で挑んでいることにも驚きだが、それを防ぎ続ける彼は一体何者なのだろう? カンピオーネである、の一言で済ませるにはあまりにもひどすぎる。

「ひっどい御方に挑んでたんだな……」

 絶望とともに吐いた溜息。魔王(カンピオーネ)の師を持つからか、彼の言葉にはとてつもない重みが確かにあった。 
 

 
後書き
次からインフレ合戦開幕です(笑
めざせ今月中に教主編終了(笑


どうしようもない余談


何パターンかやってみた
斉天大聖&羅濠教主編
東京壊滅……3回
世界崩壊……2回
黎斗死亡……4回
カンピオーネ全滅(黎斗除く)……2回
結局何回も書き直してます(笑

こっちが死ぬか世界滅ぼして黎斗一人ENDか極端すぎんだよ…… 
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