魔王の友を持つ魔王
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§40 兄妹喧嘩(偽)
前書き
相変わらず表現&描写不足という課題。うーむ。
そんなこんなでようやくここまでこぎ着けました。
さぁ。敵も味方もすーぱーあばれたいむだ(何
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「……徹夜明けでこれは死ぬぅ!!」
幽世から飛び出してきてから今までで一二を争う苛烈な攻めに、黎斗は反撃の糸口を掴めない。まして、サルバトーレ・ドニと交戦した直後なのだ。しかももう日が昇り始めている。完徹である。
「明日だったら良かったのにっ、てヤッパ良くない!! ぼーりょくはんたいー!!」
こんなことならリポD飲んでくれば良かった。後悔しても後の祭りである。流石に今から買いに行く訳にはいくまい。
「くっ、まだ本気に出来ませんか…… ならば!!」
戯れ言を口にしたせいか、まだ余裕と受け取られたらしい。
「おわぁ!?」
口は災いのもととはよく言ったものだ。こっちは必死なのだが、それを察してくれない敵のギアが、更にもう一段階上がる。もはや神速と見紛うほどの速度。だんだんと対処が出来なくなっていく。彼女の速さに、追い付けない。
「うぐっ……!!」
教主の拳が肺に一撃。焦点をずらし、自ら背後に飛んだのに、重い。呪力障壁も加味すればノーダメに近い威力に抑えられる筈なのに。武の極致を豪語するだけのことは、ある。
「流石ですね。しかし、捉えました」
余裕を感じさせる尊大な口調。挑発かと思ったが、多分違うと考え直す。
おそらくは、自信。格上――黎斗としては格上のつもりなど皆無のだがおそらく彼女はそう思っているのだろう――に対して互角に挑めるという。
「……ロンギヌスゥ」
過大評価に呆れながらも、正直悪い気はしない。聖人君子では無いし、薄皮一枚程度とはいえ、プライドだってある。意外に高い自分の評価に内心小躍りしながらも相棒を呼び出す。
「単純」
「ろ、ロンギヌスゥ!?」
そんな心を読んだのか、寡黙な相方が口を開く。数百年振りの会話に黎斗は思わず気を取られ――
「余所見とは余裕ですね」
――蹴りを直接貰ってしまう。
「が…」
吹き飛ばされてる間に、後ろから再度の衝撃。肉体は四散しながら前へ跳ぶ。これでは酒呑童子の二の舞だ。殴られてひたすら死に続けながら、うっすらと思ったのはそんなこと。
「廻り廻れ刻の欠片よ。輪廻の廻りは燃えて散る。原始を告げる灰の産声、永劫なる刹那を生み出さん!」
不死鳥の権能で未来へ跳躍、酒呑童子戦と全く同じ手法。時間転移を用いて、危機の回避に成功する。
「っとと……」
不味いか。なんかもうさっきから死にまくっている。これだけ死ぬと呪力が尽きる。
「さて、反撃を……ってな!」
言葉より先に腕が出た。教主に向けて繰り出すは、突き。呆気なく避けられ接近されたところで石突を一気に前に押し出す。
「甘い!!」
余裕をもって回避する教主。回避先は――上空。
「ふっ――!!」
空へ向けて穂先を凪払う。今度は速度を数段、上げた。予想を遥かに上回る速度だったか、回避が間に合わず、直撃。吹き飛ぶ教主。
「くっ……!!」
空中で態勢を立て直す教主に追撃、左足での蹴りと教主の掌打が衝突し弾けとぶ。後退しそうになるが、槍を後ろの大地に叩きつけ、その勢いで更に前進。
「はっ、と!!」
教主の後ろをあっさりととり、ついでとばかりに石突で彼女を大地に叩きつける。
「とどめッ!!」
教主の体が地面に触れた瞬間に、ありったけの力で蹴り飛ばす!!
「嘘、だろ……?」
戦慄する陸鷹化。彼の目にすら一瞬に満たない攻防に写ったソレは、両者の人間やめました具合がよくわかる。
「最後の一撃は決まった、かな?」
油断せずに構える黎斗。会心で放ったつもりの槍の凪払いですら、完璧に防御されていたのだから油断もなにも出来るわけがない。背後からの一撃もたいして効いていないだろう。
「まさか勢いを殺しきるなんて」
回避不可の一撃を、教主は威力を殺すことで防いだのだ。穂先からくる衝撃をほぼ完全に、受け流すという神業で。
「ま、流石に受け流しで限界だったっぽいし? 蹴りは綺麗に決まったけど」
冷静に分析を続ける彼の右腕が青白く輝く。
「契約により我に従え至天の覇者よ」
あの怪物じみた少女が蹴り程度で戦闘不能になるわけがない。例えそれが高層ビルを一撃で粉砕する蹴りだったとしても。
「来れ止め処なき光の濁流。蹂躙する神鳴。事象を破壊す神の意向」
故に、待つ必要を感じない彼は更なる追撃に打って出る。黎斗の腕をプラズマがのたうち、弾ける。
「万物一切粉塵に帰さん。其は安寧なり」
魔術師が見れば失神するような速度で詠唱が完了する。超一流の魔術師が朗々と願い、乞う代物でも彼にとっては造作もない。
「天砕く稲妻」
「この速度で放つってあの兄さん化け物か!?」
鷹化の驚愕と同時に、場が青白く染まりあがる。二重に輝くプラズマの光が観戦者の網膜を焼き付くさんと、その凶暴性を存分に振るう。
「さて、どんぐらい効くかな……?」
広範囲殲滅呪文だ。戦略兵器にも相当する一撃だが、これで魔王が沈む筈が無いことは、黎斗が一番知っている。追撃の三昧真火を放とうとして。
「……流石お兄さま。私の全力をご覧あれ」
案の定、不吉な宣告と共に煙の中から立ち上がる魔王。
「ちょ!?」
黎斗の頭上に巨大な影。黎斗の感覚でもこんなにも接近されるまで気づけない程の。阿吽の金剛力士像が、彼に拳を向けてくる。当然のごとく三昧真火程度では傷をつけることは敵わない。あわてて退避しことなきを得る。
「ちょっ、まっ、タンマ!」
攻撃範囲が途方もなく広い。回避だけに一苦労だ。だが、それよりも。
「周りにボコスカ穴を空けるなー!!」
半泣きになって黎斗は叫ぶ。既に原型の無い我が家だが、更に近所がクレーターだらけになったら悲しすぎる。いや、遮蔽物が無くなってスッキリするかもしれないが。
「よっ、とっ、はっ!」
回避する度に更地が荒れ地へ変貌を遂げる。住民の皆様ゴメンナサイ。嗚呼。折角残った数少ない民家達が……
「これでも決め手になりませんか……!!」
力士の動きが更に勢いを増す。彼らの動きは既に音を置き去りにし、衝撃波を纏いながら巨躯が動く。攻撃に移らずとも、周囲が勝手に壊れていく。
「おまえも、少し、頭冷やせー!!」
護堂から"牡牛"を拝借、振り下ろされる拳を受けきる。絶妙な力配分は、受け止め際の衝撃全てを外部に逃がす。足下に罅が入ることもなく、仁王の拳は寸止めしたかのように微動だにしない。二対の力士をそれぞれ片手で押えこむ。
「馬鹿な!?」
「あああああ!!」
叫びながら力士像を掴み、勢いよく頭上にぶん投げる。
「ごどーセンセ借りますぜ。――我が元に来たれ。勝利のために。不死なる太陽よ、輝ける駿馬を遣わし給へ。汝の主たる光臨を疾く運べ!」
念じるのは"白馬"。既に辺り一面焼け野原なのだからこれ位なら使っても構わないだろう。破壊光線は却下。規模が広大すぎて使えない。使ったら周囲が消滅してしまう。これで邪魔な力士を消し飛ばす!!
「日輪か!! 無駄です!!」
麗しい声を張る教主。風が渦巻き収束する。邪眼を向けるも密度が凄まじく消去しきれない!!
「……くっ」
生み出された大気の奔流は凄まじい速度で白馬へ衝突、互いの力を競い合う。空間を歪め破壊すら可能にする空気のうねりが、太陽の槍を、粉砕する。
「うっそー……」
これでは駄目だ。あの歌を封じなければ。あんなものをポイポイだされてしまってはたまったものではない。近接戦闘に持ち込んで、聖句を唱える暇を与えないようにするしかない。
「はあぁああ!!」
「うぉおおお!!」
ひたすら打ち合う。衝撃波など起こらない。かたや歌で、かたや視線と簡単な術で。片手間作業でありながらも完全に周囲の空気の流れを読み切り制御する。拮抗しているように見えてその実、無手と槍。得物による間合いの長さで物理面では黎斗が若干有利。魔歌による呪と魔風で術の面では教主が有利。卓越した教主の実力に流石の黎斗も目を見張る。
「……強いねっ!!」
「当たり前です!! 絶対の頂点に君臨する、お兄様こそが私の目標! それは、昔も今も変わりません!! 私の全ては、今日!! この時の為に!!」
掠る。外す。触れる。避ける。
「……これが頂点、か」
立会人となった馨の目には、視認ギリギリの変態染みた速度で周囲を破壊していく二人に笑うしかない。――――それは引き攣った笑み以外の何物でもないが。
「……権能などなくても、やはり羅刹の君は恐ろしいものです」
怯えを隠そうともしない剣の師範。剣の王とすらも剣の腕だけならば張り合える、そんな彼ですら目を必死に凝らしてようやくわかる領域だ。
「私でもお二方は回避していないようにしか」
神速を発動させていないはずなのに心眼でないと捕捉困難。そんな速度での応酬はまさに武の極致と呼ぶに相応しい。避ける気配が全くないのに当たらない。
「いやー。当たり判定が消失してますな」
やんまーに、などと呟く、あいも変わらず呑気な様子の甘粕だが、声がいつになく硬い。
「世界は広い……」
師範は未知との遭遇に、恐怖だけでなく感動も覚える。――だがその贅沢が味わえるのはほんの一部だけ。
「これほど、か……」
大多数が受けるのは恐怖と戦慄。恐れの感情だった。
「はあっ、はあっ…… 武技は僅かにお義兄様が上、ですか」
隠しきれない疲労を滲ませて教主が言う。
「……いや、なんでついてこれんのよ」
身体強化を最大限に駆使し行う神速もどきでの戦闘。下手な闘神ですら圧倒する領域なのに当たり前のように追随された黎斗は若干凹む。黎斗優勢の試合運びなのだが、決め手を出せない。絶好のタイミングを、教主の呪風がひっくり返す。攻めているはずなのに、攻めきれない。盤面を支配されているような気もしてくる。
「お義兄さまの義妹として、恥じることの無いように修練に励んで参りましたゆえ」
何処か得意気に教主は笑う。
「それに私の権能をいとも容易く防ぐとは。流石です」
感じ入った教主の視線は、黎斗の背後に注がれる。そこには、二体の金剛力士が八匹の雷龍に拘束されている。雷龍は仁王を絞殺せんと、スパークを飛び散らせながら雁字搦めに絡みつく。四匹もの雷龍に拘束された力士は、動くこともままならない。無類の怪力を誇る仁王はこれで完全に封じられた。
「こっちも正直キツイけど。まぁ負けられないかな、と」
超高密度に圧縮された風の塊を避けて躱すのは一苦労だ。呪力障壁を貫通し、鋼すら破砕する一撃。接近戦をこなしながらそんなものを撃つ芸当すら見せるとは、本当にこの少女は強い。だが女の子相手に無様な所は見せられない、などと俗物染みた思考回路で戦い続ける。
「お義兄様の前では幻惑の術も無効のようですね」
教主は諦めたようにそう呟く。
「ならば」
轟!! 予備動作皆無での大気の奔流。雷龍を粉砕せんと振るわれる恐怖の力。螺旋の渦が周囲を包み、全方位から襲いかかる。
「させないって。――我は大罪背負いし悪神。焔で全て断絶させよう。定義"空間"。疾く、絶て」
根源分かつ無情なる焔が、黎斗の掌から迸る。焔の線は魔風と力士の間の空間をこちらとあちらに"分離"させる。直後、空間の断層に衝突する風。絶対の壁にぶち当たり、行き場を無くした風のうねりが周囲を根こそぎ破壊する。
「隙有り!!」
爆風が砂塵を立ち上らせて、視界を根こそぎ奪い去る。そして、その隙をついて死角からの無音の一撃。限りなく希薄な気配を辿り、黎斗の位置を探り当てるなど果たして幾人出来るだろう?
「うん、詰めが甘いかな」
彼女の耳に入ったのは、そんな黎斗の勝利宣言。
「馬鹿な……!?」
剛力で死角から急所への一撃は、たしかに会心のものになっただろう。――相手に気配を気取られなければ。
「気付かないとでも思ったかーふはははー」
黎斗の気配察知能力は教主にかなわない。だが、一線級のものであることに変わりはないのだ。教主が闘志を隠していればまた別だったかもしれないが、これだけ近距離で殺気を放っていれば、黎斗が気付かぬ訳がない。
「そう。つまるところ自滅、かな」
あとは流転する輪廻と破滅の呪鎖の必殺コンボで、終幕だ。未来より現在に向かって展開される破滅の鎖の回避は何人たりとも出来はしない。
「僕の、勝ちだね」
壊死して変色した右腕をぶらつかせる少年が呟く。彼の首まであと一歩。紙一重の所で少女は鎖に巻き取られ。言霊で風を操ろうにも、この距離では一切合財邪眼に抹消されてしまう。ここまで、だ。見苦しくあがくのも悪くはないだろう。だが。
「……完敗です」
そう言って倒れ込む。大地に寝転ぶ少女の頬をなでる風は、心地よかった。
後書き
大聖編に敢えて入らずここで終了(何
ちなみに教主、原作よりも強いです。黎斗っていう明確な目標があったので。
……初期段階の話では二人して神速でガチやってたんですがそうすると護堂が教主相手に詰むのでデフォ=神速のノリは却下されました(爆
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