魔王の友を持つ魔王
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§38 宿命の二人
前書き
キャラ崩壊、という意味では教主が一番酷いです(断言
斉天大聖編、よろっと後半かな、と
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「まったく、煩いな。古き王よ、一体どうしたというのだ?」
呆れたアテナの視線を受けて、黎斗はようやく正気を取り戻す。
「……いや。護堂だけに文句言えないなー、って」
アテナなんぞと関わらなければ日本にようこそ、なんてならなかったのに。疲れた表情で項垂れる彼に女神は首を傾ける。
「草薙護堂が何故出てくる? ……まあ良い。それではな、王よ。貴方を滅ぼすのはこの私ただ一人であることをゆめゆめ忘れるでないぞ」
言葉と共にアテナの輪郭がぼやけていく。そのまま一条の風と共に消失した。
「ツンデレ、はないな。ライバル理論っすか。……はぁ。ちょっとばかし手伝ってくれても」
今日何度目かのため息と共に黎斗は背後を振り返る。泣き声混じり。未だ硬直冷めやらぬエルが、弾かれたように人命救助を再開する。人命救助と言っても失神している人間を縛る縄を切って札を剥がす程度なのだけど。エルに任せておけば問題は無いだろう。寧ろ問題は別にある。
「……むぅ」
大量の荷物の山を前に唸り声が出てしまう。どの荷物が誰の私物かなんてわかるわけがない。精神操作で乗客達に記憶を持たせず荷物を回収してもらう、という案も考えたのだが下手に撃てば相手の精神を壊してしまいかねない。どの程度の呪力なら人間の精神に悪影響が出ないのかわからないのが原因だ。人体実験でも出来れば楽なのだろうけど、そんな外道になりたくはない。
「あんたらのご主人サマは誰ですかー? ……アホくさ」
茶色のキャリーバックをつんつんついて問いかけるも、答えは当然返ってこない。どうしたものかと悩む黎斗は周りをぐるっと見渡して――アンドレアに目が留まる。
「アンドレアさん、ものは相談なんですがね」
「事後処理ですね。御命、謹んで承りました」
「実は後処理を――って了解はやっ!? あ、アリガトーゴザイマス……」
ぐるぐる巻かれた状態で格好良い事を言っても笑いを誘うだけだ。オマケに元がイケメンなのだから残念感が大幅アップ。笑いを外に出さないように必死に堪えたら声が微妙におかしくなってしまった。
「マスター、乗客の皆さんの救助、終了しました」
「お疲れ、エル」
軽やかに駆け寄って来るエルの姿が、ブレる。一瞬で狐の姿に戻ったエルは黎斗の手の平の上に跳躍する。そのまま肩を通って頭の上に。熟練の技だけありあっという間だ。
「じゃあすいませんが、お願いします」
アンドレアの拘束を解除して、黎斗は軽く頭を下げる。すぐに反転し、全力疾走。姿が見えなくなったところでアンドレアの本音がほろりと漏れる。
「全く。なんてことをしてくれたんだドニのやつは……!!」
ドニが埋まっているであろう大地をもう一度見ると、後始末に向けて動き出す。大地に埋められるのはいい薬だ。少しは頭を冷やすが良い、などと主君に向ける敬意もへったくれも無く、アンドレアの通常営業が今日も始まる。
後始末を押し付けた黎斗はひたすら帰路を急ごうとした、のだが。
「……か、帰りたくねぇ。絶望がこの時点でわかるってどうなの」
見えた。見てしまった。一際高く跳躍した時に視界の片隅に入れてしまった。もう絶望しか感じない。
「……何をどうしたら、護堂様の実家以外が更地になるんですかね」
建造物がほぼ皆無の場所を見つけてしまった。そしてそこは、黎斗のアパートがある場所で。その近辺はここが日本だとは思えない。乱発するクレーター。深く抉れた大地。そこかしこに飛び散らかる何かの残骸。
「つーかさ。なんで護堂の家だけホント無事なん? ……って無事じゃねぇわアレ。一階が消滅しとる」
「……はい?」
黎斗に言われてエルはもう一度目を凝らすも、違和感があるだけで別に目立った破壊は無い。確かに屋根がところどころ剥がれているがその程度だ。
「だから一階が無い。一階の代わりに二階が地面に隣接してる。一階何処行ったし」
「……なんて器用な」
全くだ。何処をどうしたら家の一階部分だけを達磨落としのように吹き飛ばせるのだろうか?
「これ明らかに厄介事巻き込まれるパターンですよねぇ!?」
「諦めるしかないんじゃないかと……マスター元気だして?」
慰めるように尻尾で頭を撫でてくるエル。そんな彼女の仕草に黎斗は無理矢理己を奮起させる。
「……そうだよね! たかが家を失ったぐらいだし、まだ厄介事になるって決まった訳じゃないし!! ……家?」
はて、家には何があっただろう。
「…………」
ラノベが、CDが、マンガが、ゲームが、カードが。この世界から、消失した。
「あ、ああぁ……」
「ま、ますたぁ?」
恐怖に慄く黎斗を見て、エルは純粋に己の主の心配をする。何らかの精神攻撃でも受けているのだろうか。黎斗に精神攻撃など無効な筈なのだけれど。
「僕のパソコンんんんー!!」
「ぎゃふっ!」
黎斗の絶叫が響き渡り、頭上のエルの獣耳に多大な被害を与える。頭上から転げ落ちなかったのは、一重にに彼女の頭上滞在技術が優れていただけだ。
「誰だよ全く!! 謝罪と賠償を」
「わひゃっ!! マスター少し落ち着いて!」
先程までの重い足取りとはうってかわり、黎斗の歩く速度は大幅に上昇している。護堂達に文句の一つでも言ってやらないと気が済まない。
「お待ちしていましたよ、黎斗さん。すみません、お出迎えにお伺いすればよかったんですが」
家の近くに歩いてくれば、死にそうな顔をした甘粕の姿。
「いえいえ、甘粕さん達にそこまでしてもらわなくても。すみません、諸事情で遅れました」
ドニの件は言わなくても良いだろう。剣の王が浜辺に埋まってるなんて言ったところで混乱させるだけだろうし。紅茶を飲んで頭が冷えた黎斗はそう判断する。安かったので道中の自販機で紅茶を購入したのだが、どうやらお腹に物を入れたことで冷静になったらしい。水っ腹でも膨れるものは膨れるのだ。さっきまではきっと、空腹で怒りっぽくなっていたのだろう。昨夜から何も食べてないし。
「いえいえ。飛行機が消滅してしまい一時期混乱になったのですが、ご無事で何よりです」
消滅までは伝わっているようだ。まぁここまでは当然か。どの組織だって自分の手配した飛行機が突如消失すれば気付くだろう。
「その件で色々お伺いしたいのは山々なんですが、そんな件が吹き飛ぶような案件でして」
喋りながら歩いている内に目的地に着いたらしい。被害の比較的少ないエリアのファミレスだ。
「お会いしてほしい方がいます」
いつになく、硬い声。果たしてどうしたのだろうか。まぁ飛行機爆散より格段に上の案件、という時点でめんどくさそうなことは想像がつく。
「一応聞きますけどこれから会う人って僕の知り合いですか?」
内心それはないだろう、と思いつつ聞いてみる。大方どこぞの魔術結社がこの混乱に乗じて黎斗に取り入ろうとする算段、と予想する。正史編纂委員会のエージェントをパシリに使うあたり機関同士の力関係が見て取れる。
(やれやれ。想像以上にくだらないことになりそうだ)
鬱屈とした空気が肺から出ていくのがわかる。気が滅入る。これから営業スマイルで勧誘を断らねばならないのだから。平穏に暮らしていくために敵は極力作りたくない。みんなで仲良く出来れば良いのだけれど。人類皆兄弟とか最高のスローガンではないか。
「はい。少なくとも先方はそう仰っておられます」
「……は?」
ちょっと待て。なんだそれは。黎斗の知り合いなど存在する筈が無い。クラスメートか? それとも家族か? どちらにしろ彼らが甘粕を仲介者に仕立て上げる筈が無い。携帯電話で一発だ。メールやら電話が使えなければ別だろうが。
(ドニのよくわからん結界内ならば確かにケータイは使えない。だけど、あの時に連絡が通じないからって甘粕さん達に接触するか?)
否、甘粕達に接触できる筈が無い。浮かんだ思考を即消して、店前ながら黎斗は携帯電話を確認する。メールは来ていない。念のため、メールを問い合わせる。結果、新着メール無し。つまり連絡先を教えていない知り合いとなる。
(スサノオ達ならこんなまどろっこしいことしないで念話で済ませる筈。みっきー? いや違う。みっきーなら恵那の方から連絡が来るはず)
そこまで考えて、ふと思い出す。自分はなんのために飛行機で呼び戻されたのか。その件についてはまだ話されていない。
「……あぁ。この中で待っているのが護堂とガチンコやらかして僕の家を廃墟にしてくれやがったお方ですね」
敬語、敬語と必死に冷静に対応しようとするが言葉棘は隠せない。隣の甘粕が引き攣った笑みで返答をする。
「え、えぇ……そうですね」
「護堂は何処に?」
日光東照宮と言っていたがどういうことなのだろう。あそこの封印が解放されたのだろうか。
「日光東照宮が大規模な襲撃を受けまして。いくつかの情報を総合するとそれがどうもヴォバン侯爵らしいんですよねぇ」
「侯爵様が、何故?」
封印してある”アイツ”を、見つけ出したというのか。アレは見つけられないように何重にも厳重な隠匿結界を張っておいた筈だ。いかに魔王といえどもよっぽどのことが無ければ気付けないような。
「我々もわかりません」
お手上げなんですよねぇ、などと言う彼を見て黎斗の中に疑問が生まれる。正史編纂委員会もヤツの事は知らないようだ。知っていればこんな悠長に話している筈などない。正史編纂委員会ですら把握していない現状、どうやってヴォバンがその情報を知り得たのか。そこまで考えて思い出す。日光東照宮には誰が居る――?
「――ッ!? 恵那は!? 恵那は無事なんですか!?」
「落ち着いてください黎斗さん。おそらく無事です」
食って掛かるように恵那の安否を問い詰める。我に返ると少し恥ずかしい。
「……あ、す、すみません」
「恵那さん経由で護堂さんは移動されました。ウルスラグナの”風”の権能ですね」
なるほど。それならば大丈夫だ。護堂が行くまで耐えたのならもう大丈夫だろう。恵那も無闇に突撃はしない筈だ、多分。護堂が入れば死ぬことも無いな、と少し安心する。
「んじゃまぁ、我が家をズタボロにしてくださった御方を眺めるとしますかね。……そういえば高木達はどうしたんですか?」
我ながら扱いが恵那と比べて酷いがこんなもんで良いだろう。加えて言うなら甘粕が何も話してこないし、無事な可能性が高い。それにしても魔王相手にセクハラなどと勇者過ぎる。最も、勇者ならセクハラはしないか。鬼畜眼鏡。鬼畜王。色々な単語が脳裏に浮かぶがどれも彼らを示す言葉にはなり得ないな、と苦笑い。
「……いや勇者は仲間にエッチな下着装備させるからなぁ。称号としては最重要候補か」
「?」
「あぁ、なんでもありません」
口をもごもごして言ったせいか甘粕でも聞き取れなかったようだ。よかった。もし聞かれて大真面目に議論する展開になったら「ファミレスの前でゲームのエロ装備について議論する二人の男」などという非常によろしくない構図になってしまうこと請け合いだ。
「三人は無事です。……事後処理は非常に骨が折れましたが」
表情が抜け落ちた甘粕は語る。
「事後……処理……?」
「はい。あの方々の根性は筋金入りですね。「あの感触忘れてなるものかー!!」などと言い放ち記憶改竄に抵抗しましたからね。こちらのトップエースでようやく記憶改竄に成功する有様で」
「な、なんかすいません……」
彼らの変態パワーは黎斗の予想以上だった。まさかそこまでとは。甘粕達に本当に申し訳ない。
「いえいえ。あの御方を翻弄するくらいですから、予想の範囲内といえば範囲内だったんですよ、はは……っと、立ち話もなんですし、そろそろ入りましょう」
確かにあまり店前で長時間の立ち話は拙い。営業妨害になりかねないし。意を決して扉を開く。からんからん、と音が鳴った。
「貸切です。そのままどうぞ」
甘粕の促しに従い、前進。一番奥の座敷の前へ。クラス一つほどの大きさの個室のようだ。ここまでのサイズの部屋となると滅多に入らないから、粗相しそうでなんだか怖い。
「さて、鬼が出るか邪が出るか……!!」
襖を開けて入室する。恵那の師匠(らしき人)達、沙耶宮馨とそうそうたる顔ぶれだ。目に入ってきた陣容に思わず舌を巻く。
(なんでこんなことになるんだよ……!!)
これでは注目の的ではないか。心の中で悪態をつくがもう遅い。諦めの境地に達しつつも見渡すと、いつぞやの少年と視線が合う。
「あ」
黎斗が漏らした声に反応しビクッ、と震えた隻腕の少年。あの腕そろそろ返した方がよいだろうか、などと場違いな事を考えていると一人の少女が目にとまる。例によって美少女だ。この少女以外は何処かで見た顔ぶれなのだが、つまりはこの少女こそが魔王なのだろうか。まさか隻腕の少年や沙耶宮馨がカンピオーネ、というわけではないだろう。
「な、なんで正座……?」
圧倒的違和感だった。威風堂々としており覇者の気配を纏う少女が、正座。しかも両目を瞑っている。まるで何かの懺悔のように。なんでだろう。周囲も彼女をどう扱ってよいかわからず混乱しているのが手に取るようにわかる。
「改めて、名乗らせていただきます。あの時は名乗っておりませんでした故」
黎斗の声に反応するかのように、少女は目を開け言葉を放つ。あの時?
「私の名は羅翠蓮、と申します」
羅濠教主の完璧なまでの下手の対応。彼女を知る者が、軒並み驚きに目を見開く。こんな彼女は彼女で無い、と言わんばかり。
「家を破壊するご無礼、本当にすみません。後程私の方で修復をさせて頂きたいのですが構いませんか?」
「は、はぁ。ご丁寧にどうも……?」
どんな傲岸不遜が出てくるかと思いきや。毒気を抜かれてしまった黎斗は当たり障りのない返答しか出来ない。傲岸不遜とか聞いていたのだがどう考えても当てはまらない。ぶっちゃけ今まであった規格外達の中で一番まともだ。同胞の比較対象が遺産破壊のハーレム王、剣バカの狂戦士、人権ガン無視エセ侯爵しかいないのだからしょうがない。
「お元気そうでなによりです」
親しみと敬意を込めて笑顔で話しかけてきてくれる。美少女にここまでしてもらえるとは本当に良い時代になったものだ、などと見当違いなことを思う黎斗だったが。
「本当にお久しぶりです――お義兄様」
「……は?」
時間が、止まった。
後書き
アイーシャ夫人出したいけど、多分斉天大聖編終了まで情報でないので無理ですね(苦笑
チョイ役でもよいから出したかったなーなどと。
大乱闘神様☆ぶらざーず的な何かを裏タイトルに持つ斉天大聖編、企画倒れにならんようにしないと(苦笑
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