和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第36話 自負と矜恃
H14年4月某日 北斗通信システム社 経営企画室
「室長、また韓国の方からクレームの電話があったそうです」
「……顧客からか? 取引先か? 会社名と名前は控えたのか?」
「いえ、とりあえず韓国語っぽい言葉で喚き散らされただけだとか」
「相川君、北斗杯のフォルダに対処マニュアルが新規追加されている」
「あ、はい。これですね」
「あとはフローチャート通りに処理を頼むよ」「はーーい」
「それにしてもエキシビションマッチが終わってから反響が凄いですね」
「ネット碁の公開対局とはいえは日中韓のトップ棋士三人を和-Ai-が一蹴ですからね」
「一柳棋聖による大盤解説も大盛り上がりでしたね!!」
「東堂シオンもイイカンジに外野からコメントしてくれたし」
「ソレもですが終わった後に行われた和-Ai-のアレは事前の打ち合わせとかあったんですか?」
「とりあえず“会長は聞いてた”らしい」「社長は?」「…振…振り回されてるよ」
室長の戸刈がため息を漏らす。いつの間にか企画に関わる人員も増えた。
和-Ai-は北斗杯で最も活躍した若手棋士を指名して、その棋士と公開対局を希望すると宣言した。
お陰で日中韓の棋院と北斗杯に出場する棋士たちの許可を得るために奔走することになった。
奔放な振る舞いに多くの人間が振り回されている。
会長だけが「あの国は自尊心の高さはいつも通りだな」と言って大笑いしてる。
「実際にプロモーションとしてはどうなんですか?」
「知名度ではヤホーに勝った」「え?」「ホントですか?」
「アジアの取引先企業の反応は? 特に韓国企業」
「現場からは“話題性”は抜群あると聞いてる」
「ま、エキシビジョンマッチは韓国だけが負けたとかじゃないからな」
「現地の営業と飲みましたけど、やっぱり負けたかとか仕方ないか的な反応らしいですよ」
「あとは代表チームの成績次第で“勝った”か“負けた”かで評価されるってことですか?」
「買収したISPのサービス名がブランドとして定着してきたから、事業の主軸をポータルサイトに移して社名も変更するって噂もありますね」
「北斗の名前は持株会社で残してって案もあるな」
「また大きな組織再編ですか?会長はともかく社長は死にますね」
「これだけ予想外の反響があると会長の言う“マーケティングなんて意味ない”の説得力が増しますね」
「会長だけは“想定の範囲内”らしいけど」
戸刈は選抜戦での渡辺八段とのやり取りを思い出す。
ジュニア杯の企画も一般の人々には若い棋士の方がウケがいいだろうと思っただけのことだった。
会長の悪ふざけと和-Ai-の振る舞いはともかくとして我が社は幸運にも好企画を引き当てたといえる。
剥き出しの才能の戦い――か。
身体のスポーツでは体のできていない子供はおのずと力にも限界があるが碁は思考と感覚の勝負。
子供と大人が対等に戦える舞台か。囲碁界の子供は子供ではない――か。実に面白い。
我が社の会長も東応大学を中退して10代で起業し数年で売上高を億に伸ばした。
「まあ芸能事務所と提携したオフィシャルサイトの制作や運営から始めた会社が、インターネット関連ビジネスで急成長を遂げて株式会社に組織変更してマザーズに上場――」
「今やインターネットの広告事業やデータセンター事業にも参入して、さらにインターネット無料接続サービスと有名ポータルサイトのブランドを会社ごと買収ですもんね」
「いまさらかよ。ウチは普通の会社じゃないんだからさ」
普通じゃない会社が、普通じゃない才能を秘めた者たちを支援するというのは、たしかに会長の言う通りベンチャー企業である我が社の矜恃(Entrepreneurship)に相応しい。
私が観たものも剥き出しの才能による、プライドのぶつけ合いだった。
才能があるものこそ、自らの力や自らの仕事にそれぞれの誇りを持っている。
それが驕りや、自惚れ、思いあがりに過ぎないのか……真価が問われるだろう。
いつだって、一流と二流の差は――想いの強さだ。ビジネスの世界だとて同じだろう。
「戸刈室長、パンフレットができあがりました」
「わかった。小瀬村さんにお渡しする約束をしているので手配するように」「はい」
「関西棋院の強い子は残念でしたね」
「奈瀬女流が順当に代表入りしてくれたのはプロ―モーション的には大助かりだよ。一般ウケもいい」
「可愛い女の子だから囲碁に興味なんてない役員のおじさんたちの評判も悪くない」
「パンフの内容見ましたけど出場選手のコメントが随分と挑戦的ですね」
「活躍した選手は和-Ai-と公開対局できるからって燃えてるらしい」
「韓国の代表選手なんか上から焚きつけられてるんじゃないかと心配になりますね」
「大会MVPとなって和-Ai-を破ることで韓国の強さを改めて証明したいか――若いのに背負わされて大変だなァ」
ページ上へ戻る