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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第37話 天元の存在

H14年 4月前半 日本棋院 流水の間

 手合いが終わった桑原は検討しながら対局した相手と軽口を交わす。

 本因坊防衛戦では最年長タイトル記録の更新がかかる。古希の祝いも近い“囲碁界の大妖怪”

 還暦を過ぎてからポカやうっかりミスで好局を落とすことも多くなったが、未だ現役ということで名乗ってはいないが本因坊の永世称号を持つ大棋士である。

 その棋風は豪放磊落であり、異常感覚とも称される鋭い着想を見せ、「序盤は桑原先生に聞け」というのが、かつての日本棋院での決まり文句だった。

「なんだって!? 塔矢先生が!?」 突然、廊下から大きな声が聞こえて来た。

「おい! そんなことで立ち話などするな! 検討のジャマだ!!」

 普段は飄々とした桑原も流石の無礼に声を荒げる。

「す、すいません」「塔矢行洋がどうしたというんじゃ」

 あやまる棋院の職員に桑原が発言を促す。

「塔矢先生が韓国のアマ棋戦に出場申し込み打診されたそうです。三星火災杯の参加権利を得るために――」

「塔矢先生がアマ棋戦に!?」「フム。昨年に何処かで聞いたような話じゃの」

「出版部のものがネット知った情報なんですが……」「そんな無茶は通らんじゃろ?」

「東堂シオンを全日本早碁オープン戦に推薦した桑原先生が他人事のようにように言わないでくださいよ」

 記録係の若手棋士が思わずツッコミを入れる。たしかに東堂シオンの騒動の一旦は桑原にあるだろう。

「……コホン。三星火災杯の主催者はそれを聞いて塔矢先生が出てくださるならシード枠を用意――」

「なんだって!? それはホントか!?」「こんどはなんじゃ」

 再び廊下から別の大声が響く。

「中国棋院が主催する春蘭杯世界囲碁選手権戦ですが――」「次々となんじゃ」

「優勝者と和-Ai-がネット碁で番勝負を行うことが公式に発表されました」「……なんじゃと?」

「しかも選手の出場枠の内訳が中国8、日本5+1、韓国6、台湾2、欧米1、アマ1の、24名で――」「ほう」

「アマチュア枠として東堂シオンの参加が決まったと所属事務所を通して公式発表がありました」

「となるとアノ娘のことじゃ。招待されておった三星火災杯の出場は辞退するかもしれんの」

「え? シオンちゃん韓国棋院から招待受けてたんですか? スクープですよ」「いや、それよりも」

「日本枠のプラス1は中国リーグに参戦してる塔矢先生ですか?」「そう聞いてます」

「まァ、アヤツらにしては一人はプロを引退した身、一人はプロにさえなってない身ということで、
 いちアマチュアとして振る舞ってるまで――――ということじゃろうが、人騒がせなヤツらじゃ!!」

「いやいや、そのうちの一人を煽ってたのは桑原先生と聞いてますから……」

「ホホホ。にしてもプロでなくとも参加できる数少ないオープンな国際棋戦のお株をまんまと奪われてしもうたの」

「梯子を外された三星火災杯の関係者は面子を潰された和-Ai-に対して激おこぷんぷんまるでしょうね……」

「残りの日本枠の残りにしても一柳先生や緒方先生を始めとした対局禁止令に不満を持ってたプロ棋士が黙ってませんよ」

「それにしても……まさか国際棋戦の舞台にまで正体不明の棋士が上がってくるとは」

「フム。まだまだ何かやらかしそうじゃの」

「しかし和-Ai-はプロにもアマにも自分に勝てそうな人間がいないので、負けることがなければ今年いっぱいでネット碁を辞めると宣言していますが?」

「となると泡沫の夢か……それとも運命を変えるような一手があるのか――」

 パチッと桑原本因坊が手合いが終わり片付けられた盤面の中央“天元”に黒石を置く。

「突然現れた和-Ai-という存在はまるで天元に打たれたこの石のようじゃ」

「日本、中国、韓国、そして三国を追う台湾、中央から四隅をニラミながらも、その手はネット碁を通じてプロとアマチュアの垣根を越えて世界にまで広がっておる。
 まさに盤上を超越した一手よ。ただの天元の一手ではないわ。とてもヒトの仕業とは思えんわい」

「では碁の神様か何かですか?」「フム。なにか大きな意志を感じたりはせんかの」

「碁の神様のお気持ちなど、凡人の私にはさっぱりわかりませんな。お先に失礼させてもらいますよ」

「私も失礼します」「では私も」「あの……桑原先生は?」

「あっちがそろそろ決まるかもしれん。もうしばらくここで待つ」

「にしても碁の神様がおるとしたら随分と“孤独”じゃろうが少々戯れすぎるわ……」

 どことなくあいまいな表情を浮かべ桑原が言い放つ。その言葉を聞くものはいない。

「今年いっぱいでアレの領域に届くほどの棋士が育つかどうか見ものよの」

 しばらくすると、そこに6つボタンの三つ掛けのダブルステッドの白スーツを決めた濃いカラーの入ったシャツに薄い色のネクタイを合わせたホスト風の男……ではなく緒方十段・碁聖の二冠が姿を現す。

「座間先生との対局、今終わりましたよ」

「そうか。本因坊戦の挑戦者は緒方クンに決まったか」

「五番勝負の挑戦手合いでは倉田のヒヨッコに二敗と追い詰められておるが大丈夫かの? 緒方“十段”?」

「昨年のヒヨッコ坊主にも楽しませてもらったが、キミもまたワシを楽しませてくれるんじゃろ?」

「一昨年、封じ手にうろたえたキミは愉快じゃったかの。期待しておるよ」

「くっ、言ってろ。ジジイ。首を洗って待ってろ」 
 

 
後書き
春蘭杯は刃牙の最強トーナメントやジャンプ漫画の天下一武道会、暗黒武術会といったノリをヒカルの碁でやりたくなった。行き詰ったわけじゃなくて、むしろスポーツものはトーナメントがメインだと思ってる。

え?囲碁はスポーツじゃない?いやいやマインドスポーツだよ!! 
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