和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第21話 未来の可能性
H13年10月某日 日本棋院 side-Asumi
「ため息ついてどうしたんですか? 冴木さん?」「今日は大一番なんだよ」
「なにかあるんですか?」「塔矢門下の芦原さんが相手」「あー。森下門下は大変ですね」
「そうそう。負けたら師匠のカミナリが」「プレッシャーですね」
「奈瀬さん、おはよーっ。緒方さんが桐嶋研だっけ?
和-Ai-の研究会の定期開催を決めたんならスケジュールを送ってって言ってたよー」
「芦原さん、わかりましたー。緒方先生にはメールしときます」
「あ?冴木くんも今日はヨロシク!」「「……」」
「あのお? 森下門下の塔矢門下に対するライバル意識って――」「それ以上はいけない」
「奈瀬、冴木さん」「あ、進藤、おはよー」
「そうそう。和谷がプロ試験合格したって?」
「ホント!? 伊角さんが全勝してるってのは聞いてたけど」
「そうそう。次の人が一敗で合格。和谷は本田さんに勝って三位合格だって。
わたしは伊角さんに会ったとき『よろしく先輩』って言われちゃったよ」
「フン、伊角さん受かったんだ」「真柴さん」「チッ!長いこともたついてたのに」「ましばっ」
「プロに来たら上がっていくのは早いだろーな。実力あるからあの人も」
「毎年、毎年、新しいヤツがどんどん来やがる。くそっ!」
「奈瀬! 天元戦で倉田さんに勝ったからって調子に乗るなよ。今日は負けねぇぞ!」
「奈瀬の相手は真柴さん?」「ええ」「進藤は塔矢でしょ?」「ああ」
「あかりちゃんに指導碁打ってあげたの?」「ああ、あーあ? 急に何言ってるんだよ!」
「うふふ。少しくらい対局前の緊張が解けた?」
「はあ、ありがとうな。昨夜打ったよ」「へー。やるじゃん」
「進藤は院生になったとき塔矢のライバルだって言ってたでしょ?」「あーそうだな」
「最初はみんなデマだって言ってたし、私も信じてなかった」「そっか」
「でもプロになってから分かった。ホントにライバルなんでしょ?」「ああ」
「大事な一局?」「ああ!」
「じゃあ気合入れていきなよ、進藤!」「おう! 奈瀬も頑張ろうぜ!」
「あ、そうそう。私さー。進藤とは不戦勝になってるから、早く追いついて来てね。
進藤が二カ月間休んでた分、先に進んで待ってるから。
。プロ試験のリベンジはちゃんとしたいしね。楽しみにしてるから!」
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H13年 10月某日 週刊碁編集部
「金康日九段に勝った韓国のこの子はなんて読むの?」
「えっと、洪でホン。秀英でスヨン。ホンスヨンですね」
「洪秀英、14歳か。またすごい新人が現れたな韓国は」
「今、連勝記録を更新してるのが16歳の高永夏(コヨンハ)」「韓国は低年齢も層が厚いですね」
「高永夏は例の騒動で韓国の高段棋士たちがガタガタしてるから、タイトル取るかもって言われてますよ」
「もし高永夏がタイトル取ったら出場はどうなるのかな?」「なんの話ですか?」
「まだ噂だが、日中韓のジュニア杯。
18歳以下の棋士が対象の団体戦をある企業がスポンサーについてやろうとしてるらしい」
「日中韓ジュニア杯!?」「18歳以下!?」
「そんな!日本でその年齢で中韓に対抗できる棋士なんか―」
「塔矢アキラがいる!」「お!」
「それに天元戦で倉田先生に勝った女流の奈瀬明日美!」「おおっ!」
「いや奈瀬女流は天元位の可能性が僅かにあるし、女流棋戦でも活躍してる。そうなると来年は日程が……」
「そうなると塔矢君くらいかあー」「越智君はどうだ?」
「越智君か大手合いではまだ負けナシだっけ?」「そう彼は14歳だし年齢的にも評価できる」
「でも中韓相手じゃキビシイでしょ。国内で期待できそうなのは塔矢君に奈瀬女流くらいかー」
「進藤君がいる」「え?」「進藤くん?」
「ああ彼も二人に並ぶ素質の持ち主だと思う」
「進藤君って手合いをサボって子?」「あの子がですか?」
「塔矢行洋、桑原本因坊、緒方二冠という錚々たる人達が、何故か彼を気にかけているんだ」
「塔矢先生が新初段シリーズで直々に指名したってやつですか?」
「でも対局の内容は酷かったですよね。」「逆に奈瀬女流は新初段シリーズで名を挙げましたよね」
「――うん。だが不思議なことに桑原先生達はそれでも進藤君の評価を下げなかった。
そして塔矢君がハッキリと進藤君をライバルと見ていることを知ってからボクも進藤君に期待する一人になったよ」
「塔矢君が!?」
「あ、ボクは奈瀬女流のインタビューで聞きました二人のようなライバル関係に憧れるって」
「桑原先生が進藤君を評価してるってウワサなら聞いたことがあるな」
「桑原先生の人を視る目はヤバイくらい確かですからね。ほら推薦したアマチュアの東堂シオンとか」
「そういえば倉田さんが週刊碁を広げて『お、進藤と塔矢の対局日決まったのか』って――」
「倉田君まで?」「手合いに出てくるようになってからの成績は?」
「8戦して全勝だよ」「へぇ!」
「でもいいですね!その調子でアマチュアの東堂シオンだけじゃなくって――。
やっぱりプロになった若い人が上を凌駕していって欲しい」
「いやあ古豪の連中は一筋縄じゃあいかんぞ」
「棋風を一新して見事に復活を果たした一柳棋聖に、王座に復位した座間先生」
「でも、緒方先生が一角に切り込んでますよ!」「倉田君だっているじゃないか!」
「いやいや、新名人になった畑中先生も緒方先生と同じ世代ですから!忘れないでくださいよ」
「いや、やっぱり本命は塔矢君ですよ。彼なら十代での名人誕生もありえるかもしれませんよ!」
「もー、女流初のタイトル挑戦がありえる奈瀬二段を忘れたらいけません!」
「そうそう。奈瀬女流とアマ棋士の東堂シオンのお陰で週刊碁も部数が増えてるんだから」
「あ、塔矢君と進藤君の対局は今日やってるんだ」「奈瀬女流は真柴君とか」
「未来の可能性に胸が踊るな」「天野さん?」
「塔矢君がいる。奈瀬女流がいる。それに新藤君たちも加わって大きなうねりになっていく――」
「そうそう!若い力!新時代の到来!」
「塔矢君を筆頭に時代の敵、和-Ai-を倒すのは日本の棋士たちか!?」
「そしたら世界中の話題になりますね!」「勢いに乗って国際棋戦でも日本の巻き返しです!」
「いいな! そうなりゃ好調の週刊碁の部数も更に倍増か??」「わははは。」
「まァ、しかし若き夢に可能性を広げるのは良いが――」
「今は棋院の抱える問題が……少々複雑ですからね」
「棋院の理事の入れ替わりに、昇段規定が改定されるってウワサ、本当ですか?」
「規定は既存の方針では再来年の改定だったが1年前倒しになる可能性がある」
「大手合いの廃止ですか?」「費用の面から前々から検討されてましたよね?」
「ああ。それもだが皮肉なことに塔矢君や奈瀬女流の活躍が世間の声を後押ししてる」
「嫌なスクープもありました」
「プロ界の頂点である最高位の九段が、今や全棋士で最も多い2割以上を占めるですか……」
「確か九段が75人。初段がその3分の1でしたっけ?」
「それは日本棋院だけの話で関西棋院を入れたら九段は100人は軽く超えるよ」
「約400人いるプロの内、五段以上が4分の3を占めてますからね。
道策が段位制を確立した江戸期の九段を頂点としたピラミッドとは真逆のかたちですもんね」
「弱い九段が多いからアマチュアのネット棋士に実力十三段って名乗られるって言われてますもんね」
「しかも東堂シオンが全日本早碁オープン戦で九段ばかり倒してますからね」
「アマチュア棋士が九段を倒す! 何回、紙面を飾ったか」「先日はついに現王座を破りましたしね」
「再び! 三度! また! 何度目? とか紙面のタイトルが途中からはギャグみたいになってましたもんね」
「世間の声もあって改革派が波に乗って動き出してる感じはあるね」
「それでも囲碁界は日本棋院と関西棋院の分裂構造もあって利害の調整は大変ですからねー」
「比べて将棋連盟が関東・関西・中部と一枚岩なのは羨ましいですね。あちらは会長も剛腕ですから」
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