和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第20話 天元を目指す碁 後編(倉田厚七段 vs 奈瀬明日美)
side-Atusi
長考していた奈瀬女流が対局中に突然立ち上がる。驚いた記録係が流石に声をかけた。
「すいません。盤から目が離れなくって勢いで。」
気にしてないと謝罪を受け入れる。そして黒番は再びの長考に入る。
背筋に悪寒が走る。やべえじゃん。このゾクゾク感はやべえよ。これは……間違いなく来る。
国際棋戦やタイトル戦で感じた様な超ド級のプレッシャー。
局面をひっくり返すような一手が来る。
オレの勝負勘が最大限の警告音を発している。
どこに打ってくる?読めるか?読み切れるか?じゃないと負けるッ!
黒の手が置かれる。白が応戦する。
けど、あっという間に黒石がつながっていく。
「あれー、なんでこうなるのかなあ?」
対局中だが思わず口から弱音が漏れる。
打ったときは空回りしてるように感じた石さえ巻き込んで黒石の宇宙が盤上に広がる。
そうか。これが和-Ai-の碁、いや……奈瀬明日美の碁か。
彼女から天元を目指す意気込みが一つ一つの手に乗って伝わってくる。
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side-Asumi
この碁で後悔はしない! 天元に至る碁で私は諦めない!
彼が消えてしまっても私は彼との出会いに後悔なんてしない!
視野を広く―遠い夜空に輝く星々のように可能性は遠くにある。
きっと、この碁にも可能性が広がってる。わたしが気づかないだけだ。
私が諦めたちゃ駄目だ。倉田七段相手に終盤の時間がないのは怖い。
けど越える。倉田七段の読みを、私の中にある和-Ai-先生の読みを――。
わたしが大事にしてきた気持ち。
これまで温めてきた地力。私の可能性をすべて繋いで――。
私は私自身の碁を越える。これが私、奈瀬明日美の碁よ!!
気が付けば思考がつながっていく、止まらない。止まらない。
こまいかい。盤面が隅の隅まで視えて繋がっていく。
出会ったときから彼が言っていた。読みの力、地力がないと和-Ai-の碁は打てないって。
だから私はずっと和-Ai-と打てないときは読みの力を鍛えていた。
細かい部分に答えを出せるように地力をつけるように心がけて来た。
苦手だった詰碁もたくさん取り組んだ。
ずっと窮屈だと思って嫌がっていた地味な努力を続けて来た。
すべては和-Ai-の碁を知るために。
深く、深く、つながっていくことが楽しい。
そうか、こんな風に、和-Ai-のように、自由に宇宙を飛び回るには地力が必要なんだ。
わたしが選んだプロ棋士という生き方。
勝者だけが前へと進む道程、男も女も老いも若きも関係がない勝負の世界。
この世界の自由は、強い人だけが手に入れることができる。
上手くなりたいじゃ駄目なんだ。わたしも強くなりたい。
わたしも彼が心から信じる桐嶋和さんが戦ってるような輝ける舞台に――。
はやくそこへ、もっとちかくに、盤上の中心に輝く一つ星―天元の位に。
―――――わたしはもっと自由になりたい!
私が打ってるのに私が打ってないような不思議な感覚があった。
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side-Atusi
くっ!何とか持ちこたえろ!折れるなオレ!
彼女の碁に、のみこまれそうになるのを必死に抑える。
どこかで弛むときがくる。あきらめるな!しがみつけ!
中央の黒は完全に左辺に繋がている。しかも地が着いてる。
右辺の白模様は制限できてるし、白の薄みが残ってるいる。地合いも黒リードだ。
鮮やかな手品を見ているようだった。
中央付近に打たれた黒の手が全てを睨む。
中央の3子取り、上辺の2子取りも残る。圧倒的な黒のペース。
ここから先はほぼ決まった手順。
結構白地もあって細かいかもしれないがプロレベルではもう無理だと判断できる。
時間はある。けど、最後まで読み切ってしまった。もう逆転はない――。
投了を告げる。
165手まで黒の中押勝ち。倉田七段が敗れ奈瀬二段が天元戦の決勝へと進む。
同日、全日本早碁オープン戦の準決勝でアマチュアの東堂シオンが座間王座を破ったことがニュースで大きく報じられた。
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