ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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幻影の旋律
再会と抱擁
「今更許しを請うつもりはないよ。 せめてあなたたちの眠りが穏やかなることを……」
おやすみ。
八重桜の長い硬直が解けた僕は、地面に墜落する前に体勢を整えると、最上位の狼と異国の狼男に鎮魂の祈りを捧げた。
それを初めて見るヒヨリさんとティルネルさんは首を傾げているけど、事情を知っているクーネさんとニオちゃんは揃って少しだけ悲しそうな顔をしている。
「それ、まだ続けているのね」
「ん? うん。 我ながら女々しいとは思うけど、もう癖になっちゃてるからさ」
「そう……」
「ふふ、クーネさんは優しいよね」
心配そうにしているクーネさんに微笑みかけてから、僕は雪丸とエスペーラスとマレスペーロをストレージに戻した。
雪丸は狭い道程が続きそうなので使えないし、双剣は万が一にも誰かに見られたら面倒なのでなるべく使いたくない。 今まで一般的なモンスターと遭遇しなかったのでなんとも言えないけど、ボスモンスターを相手にした感触で判断すれば体術と短剣だけでも問題ないだろう。
「さて、湿っぽい話しはお終い。 みんなはこれからどうするのかな?」
「当面の目的はリゼルたちとの合流ね。 全員と合流でき次第、クエストを再開することになると思うわ」
「へえ、クエスト、ね……」
クーネさんの発言で気になった箇所を声に出してみると、当の本人は露骨に『しまった』と言う表情を浮かべてくれる。
状況が状況だったので今まで何も聞かなかったけど、どうやらそれが彼女たちがここにいる理由らしい。 更に言えば、今の反応を見る限り、そのクエストは秘密にしている部類のものだと言うこともわかった。 つまり実入りがいいか、あるいは実入りがいいと予想しているクエストなのか、とにかくそれは一般には出回っていない隠しクエストなのだろう。
そう言うことなら、このダンジョンにヒヨリさんとティルネルさんがいることにも説明がつく。
何しろ、2人のパートナーであるお兄さんは、その手の隠しクエストの専門家だ。 大方、そのクエストにクーネさんたちが便乗したと言う形だろう。
「えっと、クエストについては『絶対に秘密にしろ』って言われてて……」
「いいよ。 別にそこまで気にしてないから。 ただ、これだけは教えて欲しいんだけど、合流するための算段はあるの?」
「……このダンジョンは1本の環状構造よ。 だから、とにかく先に進んで次層に続く階段で待っていれば合流できるわ。 多分、みんなもそう考えると思う」
「なるほどね」
クーネさんの返答に頷いて小さく息を吐いた。
クーネさんが言う『みんな』って言うのは、リゼルさんとレイさん、それからあのお兄さんのことだろう。
リゼルさんとレイさんなら、多分クーネさんが言うような手段で合流を目指しているはずだし、お兄さんに関しても伝え聞く人物像からそうするだろうと予想できる。 少なくとも仲間を置いてさっさと先に進むような薄情者ではないだろう。
ここで問題になってくるのはアマリだ。
アマリも僕と合流することを望んでいるはずだけど、果たして次層に続く階段を前にして待っていられるだろうか? と言うか、もっと切実かつ危険な問題が頭をよぎる。
あのお兄さんをぶっ殺してはいないだろうか?
僕が隣にいないアマリはリミッターが完全に外れている。 僅かな敵意に対してでさえ、全く躊躇いなく反撃してしまう危険な状態だ。 リゼルさんやレイさんと合流できていれば少しはマシだろうけど、もしもお兄さん単体でアマリに遭遇していたら、最悪、お兄さんを獲物認定しかねない。 そして、獲物の末路は死だ。
「じゃあ、すぐに合流しなーーーー」
瞬間、世界が震えた。
洞窟全体が振動しているかと思えるほどの衝撃と、遠くから聞こえる爆発のような音。
「い、今のは何かしら?」
「アマリ!」
「フォラス君⁉︎」
その音を聞いて自制は完全に振り切れた。
暫定的にパーティーを組んでいる4人を置き去りに、出せる限りの最高速度で走り出す。 短剣以外の武器を何も装備していない僕の全力に4人がついてこられるわけもないだろうけど、そんなことを気にする余裕は僕にはなかった。
今の衝撃と爆音はアマリの《爆裂》だ。
それを使っていると言うことは、きっとアマリも戦闘中なのだろう。 アマリの腕を信頼していないわけではないけど、それでもアマリは筋力値を徹底的に鍛え上げているパワー型。 もしも現在進行形で戦っているであろう敵がスピード特化のボスクラスモンスターだった場合、苦戦する可能性もある。
「アマリ……」
爆音が遠すぎて正確な位置は特定できない。 それでもおおよその方角はわかるし、ここが環状構造ならこのまま走り続ければたどり着けるはずだ。
「お願いだから無事でいてよ……」
掠れ声で祈りながら、道中現れた敵を一蹴(体術スキルを使った、文字通りの一蹴だ)して、僕はひたすらに走り続けた。
数秒なのか数分なのか、はたまた数十分なのかの感覚も希薄なまま走り続けた先で、視界が唐突に開ける。 先ほどまでいたボス部屋と同じ造りの広い空間。 そしてそこにアマリはいた。
「アマリ!」
姿を視認するや否や叫んだ僕を、アマリの双眸が捉える。 いつも通りの緩い笑顔が更に緩く華やいで、その小さな唇が動いた。
「フォラスくん?」
コテンと傾げられた首が戻りきる前に、僕はアマリを抱きしめていた。
それが幻ではないことを確かめるように。 アマリの熱を感じるように。 初めはそっと、次第に強く抱きしめ、柔らかい桜色の髪を手で梳いた。
「あはー、フォラスくんですよー」
耳のすぐ横から聞こえるアマリの声に心が洗われる。
こうして僕は久し振りにアマリと再会した。
「あのー、アマリさん。 そろそろ離してくれないですかね?」
「フォラスくんですよー」
「いやいやアマリさん。 さすがにハグが強烈と言いますか……」
「あはー、フォラスくんですよー」
「ほら、僕のHPが少しずつ削れてるんですけど?」
「フォラスくんフォラスくんフォラスくんですよー」
「ああ、聞いてないんだね……」
まるで聞く耳を持たないアマリにため息を吐きつつ、僕はそれでも笑っていた。
膨大な筋力値を用いたハグは結構な速度で僕のHPを削っているけど、それはどうにか特製のポーションを飲むことで相殺可能だし、さすがのアマリも僕をこんな形で殺したりはしないだろう。 放っておけばそのうち止めてくれるはず、と適当に納得しながら、僕はアマリの同行者に目を向けた。
「ボス戦以外で会うのは久し振りだね、リゼルさん、レイさん」
「ああ、久し振り。 元気だったかい?」
「もちろん。 アマリがいれば僕はいつでも元気だよ」
「うわ、会って早々に惚気られた!」
リゼルさんとレイさんの幼馴染コンビは、今日も変わらず平常運転のようだ。
状況を見る限り、ここに出たであろうボスをアマリと協力して殺してくれたらしい。 つまり、先ほどの爆裂の音はその戦闘中のものだろう。
無茶をするアマリを諌めながらのボス戦は大変だっただろうと同情しつつ、もう1人の同行者に目を向ける。
そこにいたのは、知らない男の人だ。
と言っても、僕はその人を情報として知っているし、ボス戦でも何度か見たことがあるので、まるっきり知らないわけではない。
ヒヨリさんとティルネルさんのパートナー。 クーネさんたち《片翼の戦乙女》の設立メンバーの友人であり、友達の少ないキリトの友人でもあるその人は、周りから《リン》と呼ばれているプレイヤーだ。
アインクラッドに於いて数少ない、隠しクエスト攻略の専門家。 アルゴさんとの仲も良好らしく、彼女が発行している攻略本に記載されている隠しクエストの項目はその殆どが彼からの情報だとか。
僕やキリトと同じく、全身を黒系統の装備で統一しているその人は僕を見て、それから僕に引っ付いているアマリを見て微妙な顔を浮かべた。
「ふむ……」
その表情とオレンジに染まったアマリのカーソルを見た僕は、それで大体の事情を察した。
「リンさんも、久し振りだね」
「っあ、ああ、久し振りだな」
僕の挨拶に若干詰まったお兄さんは、それでもすぐに平静を装って返してくれる。
これは推測になるけど、アマリがオレンジ化しているのはこのお兄さんを攻撃したからだろう。 全力の攻撃だったら既にこの世にいないはずなので、恐らくは何かしらの理由で触れようとしたお兄さんを突き飛ばした、と言う線が濃厚だ。
そしてそうなった場合、アマリを止める簡単な方法は《僕の友人である》と嘘をつくことだ。 それを知っているリゼルさんかレイさんがそう嘘を吐いたのだろう。
嘘。
人に興味を示さないアマリは、しかし人の悪意や害意には敏感だ。 だから当然、騙そうと言う悪意も簡単に見破れるけど、そこに僕の友人が絡めばその限りではない。
もっとも、僕の友人が言ったからこそ効果があるだけで、そうでない人が言えば僅かたりとも信じないし、そもそもアマリが信じているのはリゼルさんやレイさん本人ではなく、《僕の友人である》リゼルさんやレイさんなのだ。
やれやれと内心で首を振っていると、遠くから数人が走る足音が聞こえてきた。
そこでようやくクーネさんたちを放置してきたことを思い出した僕は、この後に待っているだろう《お話し》に肩を竦めて苦笑する。
「それで、フォラス君。 何か言うことはあるかしら?」
追いついてきたクーネさんは仲間たちとの再会の挨拶を終えて僕にそう笑いかけてきた。 その表情は綺麗な微笑だけど、背後に黒いオーラが噴出しているように見えるのは、果たして気のせいだろうか?
まあ、暫定とは言えパーティーメンバーを放置してきた僕に全面的な非があるので、ここで抵抗するつもりはない。 別にクーネさんの微笑に屈したわけではないとここに記しておこう。
「ごめんなさい」
「……まあいいわ。 あなたの中の優先事項はいつだってアマリちゃんだものね」
はあ、とこれ見よがしにため息を吐いたクーネさんはそれで気が晴れたのか、あるいは諦めたのか、黒いオーラを引っ込めてようやく普通に苦笑いを浮かべてくれる。
「それにしても、ようやく合流できたわね」
「ん、そうだね。 こうして見ると結構な大所帯だけど」
「フォラス君とアマリちゃんを含めて9人。 こうも多いと狭い通路に苦労するけれど、それでもボスとの戦いは随分と楽になるわ」
「あれ、僕たちの同行は決定事項なの?」
「当然です。 あなたたちのカーソルはオレンジ。 万が一他のプレイヤーに見られたら面倒なことになるでしょう?」
「あー、確かにそうだね」
僕と僕にひっついたままのアマリを見ての言葉に納得させられてしまう。
僕とアマリは現在、カーソルの色がオレンジだ。 こんな状況で他のプレイヤーと遭遇しようものならあらぬ誤解をされかねない。 攻略組のフォラスとアマリは実は犯罪者、なんて噂が出回ったらさすがに面倒だ。
その点、クーネさんに同行していればオレンジ化の理由を説明してもらえるし、《騎士姫》の説明であればそこまで疑われることもないだろう。 何しろ、僕たちとは信頼度が違う。
正直に言わせてもらえば同行は嫌だ。 僕たちはコンビでの行動が基本であり、先ほど共闘したのだってヒヨリさんに押し切られただけのこと。 元々僕は1人でアマリと合流して、それから2人で行動するつもりだったのだ。
とは言え、今はそんなわがままを言っていられる状況ではないことくらい、さすがの僕にだってわかる。 相変わらず僕にひっついたままのアマリが理解しているかは微妙だけど、それでも僕が同行を決めれば何の疑問もなく一緒についてくるだろう。
「やれやれだよ、本当に」
「自業自得よ」
「あはは、全く以ってその通り……」
はあ、とため息を吐いて僕はクーネさんたちとの同行を決めた。
後書き
8時じゃないけど全員集合回。
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
ようやく全員が合流しましたが、本格的な絡みは次回に持ち越しです。 これぞ迷い猫クオ(以下略
さてさて、これで今回のコラボが第2部に突入いたしました。
今まで触れてこなかった色々な謎を明らかにしていきつつ先に進みますので、どうぞお付き合いください。
ではでは、迷い猫でしたー
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