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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  10秒の攻防

 タネを明かせば簡単なことだ。
 アマリはゴーレムを独力で《ぶっ殺す》ことは不可能だと理解した。 そして、このままでは自分はジワジワと削り殺されるだろうことも。

 アマリは誰かと共闘することを良しとはしない。 アマリが肩を並べて良いと思えるプレイヤーは、この世界に於いてたった1人、フォラスだけなのだ。 狂気に突き動かされているアマリにとって、周りをチョロチョロするプレイヤーは邪魔者でしかなく、自身の動きを制限する障害物でしかない。

 だが、このまま何もしなければ、間違いなく自分は死んでしまう。
 そう考えた少女は、きっと近くにいるだろう3人のプレイヤーに届くよう、何度も《爆裂》を響かせたのだ。

 言ってしまえば救援要請。
 ここで颯爽とフォラスが現れてくれるシーンを想像していなかったわけではないが、期待は外れたものの思惑通りに現れてくれた3人にアマリは感謝した。

 「リゼル! レイ! 一旦退くぞ!」
 「ちっ、わかった!」
 「了解だよ!」

 アマリの最も近くに現れたリンが2人の仲間に言うと、両腕をゴーレムに切り落とされたアマリに視線を向ける。
 その目には僅かな敵意が含まれてはいるものの、それでも心配と気遣いの色が見て取れた。 先ほどの一幕を水に流すつもりはなくとも、戦闘に介入した時点で関わる腹積りを決めたらしい。

 対するアマリは、いつもの緩い笑顔で頷いて了承の意思を示す。
 いかに戦闘狂のアマリとは言え、両腕を失ったこの状態で戦闘を続行するほど無謀ではない。 それをすればフォラスの友人である2人と、どうやらフォラスの友人らしいリンの足を引っ張ってしまうことになるし、何よりアマリ自身も危険だ。 不満がないではないが、体勢を立て直すための退却を受け入れる程度の分別は辛うじて残っていた。

 「先に行け。 武器は俺たちが回収する」
 「あはー、お任せしたですよー」

 両腕のないアマリは反論せずに緩く笑って頷くと、脇目も振らずにボス部屋から退散する。
 正直に言えば、《ディオ・モルティーギ》を他人に触られることは気分が良くないが、両腕を失ったこの状況でそんなわがままを言ってはいられない。

 遁走を開始したアマリの後ろで、リンが最重量の両手斧を、レイが両手剣を拾い上げ、リゼルは他の3人にターゲットが移らないようにひたすら動き回る。
 さすがのゴーレムも、撤退に専念した4人を止める術はなかった。










 「うー、ぶっ殺し損ねたですー」
 「あの野郎、アマリをこんなにしやがって……」
 「乙女の柔肌を八つ裂きにするなんて許せないよ!」
 「とりあえず落ち着け」

 先の安全地帯まで逃げ込んだ4人は、そこでようやく一息つくことができた。

 フィールドボスはその限りではないが、ボスモンスターは原則として出現場所から大きく動くことはない。 基本的にボスモンスターは先に進むプレイヤーの妨害が目的で配置されているので、それは当然と言えよう。

 アマリが緩い口調ながらも残念そうにぼやき、リゼルが憤怒の形相でボス部屋があった方角を睨み、レイがわかりやすく怒りを爆発させ、リンがそんな3人を宥めるようにため息まじりに言う。
 それぞれの性格が顕著に出た第一声の後、両腕を失ったアマリが器用に地べたに座ったことを皮切りに、リゼルとレイも腰を落とした。 リンだけは周囲を警戒してか、あるいはアマリを警戒してか、少しだけ離れた位置で壁にもたれて腕を組んだ。

 「しっかし、あれは厄介な相手さね」
 「だね。 あんなに速いと捕まえられないよ」
 「あはー、私も捕まえられなくてボコボコにされちゃったですよー」
 「なあ、リン。 リンはあれを倒したことがあるんだろう? その時はどうやったんだい?」
 「確かに奴は速いが、ヒヨリ以上じゃない。 HPバーが3本目に入るとスピードが上がるのが厄介と言えば厄介だったな。 むしろ、今の戦闘でどうやってあそこまで奴のHPを削ったんだ?」

 水を向けてきたリンにアマリは一瞬だけ答えを躊躇した。

 詳しく説明するとなると、《爆裂》について触れなければならないだろう。 アマリ自身は秘匿にする重要性を認識していないが、フォラスから『手の内は簡単に晒さないようにね』と指示されているので、ペラペラと喋るわけにはいかないのだ。

 もっとも、沈黙は一瞬だけだった。

 「《爆裂》で足を止めて、それからやっぱり《爆裂》で削ったですよー」
 「爆裂?」
 「お兄さんたちも見たですよね? でぃーちゃんを振り下ろした時に出るあれですよー」

 隠そうにも既に《爆裂》は見られている。
 他人のスキルを詮索しないと言う不文律があるため聞かれはしなかったが、気にしているだろうことはアマリは気づいていた。
 この3人であれば明かしても問題ないと判断したわけではない。 単純に腹の探り合いが苦手なだけだ。

 「……説明してもらえるか?」
 「うー、説明は苦手なので、実際に見せるです」

 そう言うが早いか、ようやく部位欠損のバッドステータスから回復した手を動かすと、辺りに落ちている石を拾い上げて勢い良く放る。 投剣スキルを習得していないアマリが投げた石は真っ直ぐに壁へと向かい、接触した瞬間、小規模な爆発を起こして砕け散った。

 「システムが攻撃と認識した場合、攻撃の着弾地点を爆発させるスキル、か……」
 「多分そんな感じですよー。 フォラスくんが似たようなことを言ってたです」
 「……ちなみになんて言ってたんだ?」
 「えっと、『《爆裂》はシステムが攻撃って認識すれば、その着弾地点に発生する衝撃を拡張するスキルだよ。 それが武器であろうと素手であろうと、あるいはそこら辺に落ちてるアイテムであろうと制限はない。 衝撃拡張率の計算式はかなり複雑みたいだけど、《速度》《威力》《重量》が高ければ高いほどより大きく拡張される、って言う点は間違いなさそうだね』だそうです」

 なるほどね、と相槌を打ちながら、リンはその解説に背筋が凍った。

 《爆裂》の脅威は既に見ていたリンだったが、あの時アマリが使っていたあれでさえ、全力ではないだろうことは容易に想像がつく。 何しろ、アマリはあの時、ソードスキルを使っていなかったのだ。 ソードスキルを使わない素の一撃でこの安全地帯を丸々塗りつぶすほどの衝撃波を生み出したのだから、それは戦慄して然るべきだろう。

 (もしもあの時、こいつがそれを使っていたら……)

 ゾッとしているリンの心情をまるで察していないのか、当のアマリは相変わらず緩い笑顔のまま再生した自分の両腕を伸ばしたり曲げたりと遊んでいる。
 完全に引き気味のリンを放置することにしたらしいアマリが、今度はリゼル膝の上に転がって無防備に笑う。

 「あはー、膝枕ですー」
 「緊張感がなさすぎるさね、アマリ」
 「そう言いながらにやけてるよ。 て言うかマリちゃん、服ボロボロだけど良いの?」
 「うみー? うー、後で着替えるですー」

 ボスから遁走した直後とは思えない緩い空気に顔を顰めつつ、リンは小さくため息を零した。
 彼の相棒も大概マイペースだが、アマリはどうやらそれ以上らしい。 この手の人種に真面目に付き合っていると疲れるだけなので、アマリが2人と戯れているうちに作戦でも立てるかと諦めた。

 何度かこのダンジョンに潜っているリンにとって、あのゴーレムは特筆して関門ではない。
 このメンバーの中で最も速いリゼルであれば、HP全快時のゴーレムにスピードで劣ると言うことはないだろう。 HPの減少に伴ってスピードが跳ね上がる点は問題と言えるかもしれないが、今のアマリの情報からそれを解決する道筋は見えた。 後はそれを具体的に纏め、実行するだけ。

 (さっさと倒して見つけ出す。 だから、それまで無茶はするなよ……)

 ここにはいない相棒の笑顔を思い出してリンは微笑した。











 「ん、やっぱりHPは全快してるみたいだねえ」
 「そうじゃなかったらボスとして問題だ」
 「じゃあ、作戦通りで良いんだね? ボク、早くリーダーたちと合流したいよ」
 「あはー、ぶっ殺すですよー」
 「作戦通りに動いてくれればお前があいつをぶっ殺せるんだ。 頼むから勝手なことはするなよ?」
 「了解ですよー」

 平時の緩い笑顔の中に僅かな狂気を滲ませるアマリに不安を感じつつも、リンはとりあえず気にしないことにして眼前の敵を睨む。
 そこにいるのは奇形のゴーレム。
 HPは当然だが全快で、リンたちの訪れを待っているようにも見えた。

 「リン」
 「ああ、行くぞ」

 リゼルに短く名を呼ばれ、同じく短く返すとアマリを除いた3人が一斉にボス部屋へと雪崩れ込んだ。
 それに反応したゴーレムが3人の中で先頭を走るリゼルをターゲットに駆け出した。 その速度は呆れるくらいに速いが、それでもまだ1段階目。 反応できないほど速くはない。

 ターゲットされたリゼルがニヤリと悪どく笑った刹那、その身体が溶けるように消えた。

 徹底的に鍛え上げた《隠蔽》スキルと各種装備品の性能をフルに活用した絶対隠密機動。 原理としてはフォラスの《心渡り》に近いが、その隠密性はフォラスのそれを優に上回る。

 ターゲットが唐突に消えて隙だらけになったゴーレムを青く透き通った刀身を持つ長大な槍が襲う。 この場で最もリゼルとの連携に長けたレイにとって、視界から消えたリゼルの位置を予測することは容易い。 故に遠慮も動揺もない真っ直ぐな一撃は、そのままゴーレムのがら空きになった胴を容赦なく穿った。
 ソードスキルを使わない攻撃でHPを2割も失ったゴーレムはさすがに堪らず後退するが、そこにはリゼルと同じく隠蔽により隠密行動を取っていたリンが既に先回りしていた。

 リンの右手に宿る仄かな黄色の輝きにようやく気がついたゴーレムが反応しようとするが、それはもう遅い。
 回転を加えて突き出された右の拳が正確にゴーレムの背を射抜く。

 体術スキル単発技《乱痙(らんけい)
 数値的火力の軒並み低い体術の中で極めて火力が低いこのソードスキルは、高確率で麻痺を敵に与える実に悪辣なスキルだ。 ボスを相手にした場合、高度な状態異常耐性があるために真価を発揮し難いのだが、それでも一瞬動きを止めることは可能で、それはゴーレムにとって致命的な隙になる。

 スター性のあるプレイヤーたちに囲まれているため、いまいち有名になりきらないリンだが、そのプレイヤースキルや戦闘勘は他のメンバーに劣ってはいない。 彼もまた、攻略組に名を連ねる猛者なのだ。

 HPの減少に伴ってスピードが跳ね上がると言う特性があるから少しずつHPを削るわけにはいかない。 最後の1段を残せば、ゴーレムの爆発的に上がるスピードに反応ができず、対応はかなり難しくなるだろう。
 たとえ敏捷値一極でもボスはボス。 HPバー3本にもなる膨大なHPを一息に奪えるような一撃を3人は持っていない。 そう。 3人『は』……

 「アマリ!」

 一瞬だけ動きを止めたゴーレムに今まで姿を隠していたリゼルが肉薄し、その右足を背後から刻む。 リゼルの反対側、ゴーレムからすれば正面に陣取るレイもまた、正確無慈悲な一撃を以って左足を貫いていた。
 それを確認したリンは、()()()()()()叫んだ。

 「あっはぁ!」

 それを待ち望んでいたのか、一切のタイムラグのない笑声がリンの耳朶を打つ。
 低威力かつ行動阻害系のデバフを付与する攻撃でゴーレムの動きを封じていたリゼルとレイが、笑声に弾かれたかのように大きく飛び退き、そして……

 世界が轟音と噴煙とに包まれた。

 指揮や作戦立案は領分ではないが、元々頭の切れる頭脳派であり実戦派でもあるリンが立てた作戦は至極単純だった。
 リゼルが先頭になって飛び込み、ターゲットされた直後に隠蔽スキルを発動。 リゼルの姿を敵が見失っているうちにレイが攻撃し、退いたところをリンが追撃。 動きが止まった敵をリゼルとレイの同時攻撃でその場に縛り、アマリの爆裂によってトドメ。
 あるいはリゼルやレイが所属するギルドのリーダーであればもう少し確実性のある作戦を立てられるのだろうが、最速でボスを屠るにはこれ以上の作戦が思いつかなかった。

 穴だらけの作戦に文句も言わずに付き合ってくれて、そして完遂してくれた友人たちに感謝しつつ桜色の狂気が着弾した地点を睨んでいたリンの目の前で、やがて噴煙が晴れる。
 そこにいたのは、愉悦と恍惚とに震え、うっとりと笑う天使が1人。

 3人がボス部屋に雪崩れ込んだ直後、隠蔽スキルを発動したアマリは有り余る筋力値にものを言わせて壁を登り、ボコボコとした天井を掴んでゴーレムの真上に移動していた。 それからリンの合図を聞くや否や落下を開始。 それと同時に口に咥えていた《ディオ・モルティーギ》を両手に持ち替え、力一杯に振り下ろしたのだ。 しかも、ソードスキル込みで。
 そして着弾と同時に発動した《爆裂》は、まだ2本と半分以上も残っていたゴーレムのHPを完全に喰らい尽くし、ただの一撃で殺してみせたと、言葉にすればそんなところだ。

 「まさか本当に一撃とはな……」

 ポリゴン片すら吹き飛ばす勢いの一撃に戦慄したリンは、勝利に歓喜してアマリに駆け寄るリゼルとレイを余所に今日何度目になるかもわからないため息を吐いて天を仰いだ。 
 

 
後書き
 (中ボスクラスの難敵を)10秒クッキング回。
 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 アマリちゃんサイドのボス戦が終了しました。 簡単に終わりすぎじゃね?と自分でも思っていますが、まあ大目に見てください。

 今回のゴーレムさんは名前すら登場しなかった残念極まる扱いでしたが、しかし普通に考えるとかなり厄介なボスではあるでしょう。 何しろ速いですからね、奴は。
 HPが危険域に到達するとフォラスくんやヒヨリさんよりも速いと言う設定ですが、リンさんはそんな奥の手を使わせない作戦を立てました。 彼はきっと、戦隊ヒーローの変身は待たずに攻撃するタイプだと思います。 性格が悪いわけではなく、単純に効率を求めて。

 さてさて、次回は別れていたそれぞれが合流する回です。 一応、そこでこのコラボが第2部に突入となります。 まだまだ先は長いですが、どうかお付き合いください。

 ではでは、迷い猫でしたー 
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