ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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幻影の旋律
平和な語らい
さて、アマリも落ち着いたことだし、情報交換でもしよっか?
僕のその一言を機に、僕たちは主のいなくなったボス部屋でそれぞれが持つ情報を開示し合うことにした。
同行が既に決定しているので、何も聞かない話さないが通用しないだろうことは明白だ。 互いの情報を開示しなかったせいで危険な目に遭う、なんてことはさすがに避けたい。
クエストでここを訪れていること。 アマリと別々に転移させられたこと。 ヒヨリさんを助ける時にオレンジ化したこと。 ティルネルさんを伴って逃走したこと。 クーネさんとニオちゃんと合流したこと。 急造パーティーでボスに挑戦したこと。 ボスをぶっ殺した直後に爆裂の音を聞いてここまできたこと。
それらを手短かつ大まかに話した。 僕のオレンジ化に関して、付き合いの長いクーネさんたちや当事者であるヒヨリさんとティルネルさんが何も疑わないのは予想通りだったけど、まさか初対面のリンさんまで疑わなかったのは意外だった。
もっともそれは僕を信じているから、ではないだろう。
リンさんが信用しているクーネさんたちが僕を信用しているから、あくまで暫定的に信用しているだけだと思う。 僕がヒヨリさんを暫定的に信用して双剣だったりの情報を開示したのと同じ理屈だ。
その辺りを考慮すると、どうやら僕とリンさんはよく似ているらしい。
次いで、今度はリンさんがここに至るまでの経緯を説明してくれた。
やはりクエストでここにいること。 その進行中、別々に転移させられたこと。 リゼルさんレイさんと合流してからアマリと遭遇したこと。 アマリにぶっ殺されかけたこと。 アマリに触ろうとして反撃されたこと。 アマリの狂気を垣間見たこと。 1人で安全地帯を出てボスと交戦し始めたアマリを助けてくれたこと。 アマリと協力してボスをぶっ殺したこと。
大体は予想通りの展開ではあった。 アマリがオレンジ化している理由も予想通りすぎて笑えてくるけど、だからと言って笑ってばかりもいられない。
今は非難するつもりはないらしいリンさんがもしもこのことを公にするつもりなら、その時は口止めの必要がある。 どんな手段を用いようとも、だ。 明らかにアマリが悪い(全面的にどころか完全に)とは言え、そんなことは関係ない。 アマリの敵は僕が潰す。
「さてと。 みんな、お腹空いてないかしら? ご飯にしましょう」
ふと、クーネさんが努めて明るい声でそう言った。
さすがに僕との付き合いが長いだけあって、感情の機微には敏感だ。 多分、僕の思考を読んでの提案だろう。
「あ、じゃあ、私も手伝うよ、クーちゃん」
「ありがと。 と言うわけで、ご飯の用意まで自由時間よ」
「よし、ニオを貸せ! ニオが切れた」
「あ、あの、私をニコチンが切れたみたいに言わないでください⁉︎」
「装備のメンテするから、耐久値が怪しい人はこっち来てねー」
「相変わらずだな……。 ティルネルはどうする?」
「私は秘薬の調合をしようかと」
「アマリはどうするの?」
「うー、ちょこっと寝るですよー」
途端に始まるカオスな会話はさすがと言える。 ダンジョンにいる緊張感なんてまるで皆無だ。
クーネさんとヒヨリさんは食事の準備。 リゼルさんはニオちゃんとの戯れ。 レイさんは鍛治スキルを活かして装備のメンテナンス。 ティルネルさんは薬師らしく秘薬の調合。 アマリは床に直接丸くなって仮眠。
それぞれがそれぞれのやりたいことをやり始める自由な空気の中、手持ち無沙汰になったリンさんと僕は軽く目を合わせて肩を竦めた。
「リンさんは何かやることってある?」
「いや、特には。 お前は?」
「特には。 ああ、でも、僕も調合しようかな。 さっきの戦闘で毒をいっぱい使っちゃったしね」
「お前、調剤師なのか? さすがは《ドクター》と言ったところか」
「お褒めに預かり光栄の至りだよ、《スレイド》さん」
実に嬉しくない異名で呼ばれた仕返しは、リンさんの本来の名前を呼ぶことで完遂させてもらう。 思惑通り嫌そうな、あるいは警戒したような顔をしてくれたので微笑みが止まらない。
早々に寝息を立て始めたアマリにストレージから取り出した薄い布をかけてから、僕はニコリと更に笑った。
「えっと、スレイドさんって呼んだ方がいいかな? それともリンさん?」
「……リンでいい。 そっちで呼ばれるのはもう諦めた」
「寛大だね。 普通のネットゲームだったら大問題だって言うのにさ」
「お前の場合も深刻、か……。 有名人は辛いな」
大事なところをぼかしながらの会話は、横で聞いていると要領を得ないだろう。 それでも事情を知っている者たちからすれば理解可能な話しだし、僕は当然理解できる。 そしてリンさんも理解できているはずだ。
ニコニコと笑う僕の笑顔の裏にある『これ以上その話題に触れないでね』と言う無言のお願いが聞こえたらしく、話しが不自然に途切れた。
と、そのタイミングでーー
「おい、フォラス! ニオを虐めたってのはどう言う了見だ!」
ーー密かに恐れていた事態が発生した。
「あれ、リゼルさん? どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃねえ! アタイのニオをよくも虐めてくれたな!」
久し振りに聞いた女マフィアさんの怒号は相変わらず凄い迫力だけど、その両腕でニオちゃんを抱きながらなので微妙に締まらない。
さて、遂に恐れていた事態が発生したわけだ。
クーネさんとニオちゃんとの接触時にやったあれこれをどうやらニオちゃんから聞いたらしい。 虐めた相手はニオちゃんだけではなくクーネさんもなんだけど、そこに関して怒っていないのは苦笑を禁じ得ない。 もっとも、今の状況が既に苦笑ものではあるけど。
ちなみに当のニオちゃんはリゼルさんに抱かれながら苦笑しているし、事情を知らないリンさんはどうするべきかわからないのか何の反応も示さない。
「あれはクーネさんにいきなり斬りかかられたから咄嗟に反撃しただけって言いますか」
「そんなこと知るか! ニオを虐めた報い、あんたの身体で贖ってもらうよ!」
「いやいや、その言い方はセクハラの香りがするって」
「リーダーを蹴ったりもしていました」
「ちょっ、ニオちゃん、それは言わないお約そーー「フォラス!」
黙った。 と言うか黙らされた。
戦闘であれば負ける気はないけど、こう言う状況だとリゼルさんには絶対に勝てない。 だからこそさっきの情報交換で何も言わなかったのに、どうやらニオちゃんが告げ口したらしい。 まあ、こうなるだろうとは思っていたけど。
「なあフォラス。 スク水とミニスカメイド。 好きな方を選びなよ」
「このままって言う選択肢はないのかな?」
「あると思うか?」
「ないですよねー……」
はあ、とため息を吐きつつ首を振る。
リゼルさんは何を隠そう小さい女の子が好きなのだ。
これだけを聞くとそこはかとなく犯罪臭が漂うけど、実際はそんなに甘いものではない。 僕が昔ギルドマスターを務めていた《白猫音楽団》のメンバーは僕を除いて全員が女の子だったけど、僕を含めた全員がリゼルさんの毒牙にかかっている。
彼女の趣味は、小さい女の子を着せ替え人形にすること。
ニオちゃんがお気に入りではあるけど、美少女を前にすれば見境なしにコスプレを要求する危険人物だ。 彼女の奇行は枚挙に暇がない。
中層ゾーンの有名プレイヤー、《竜使い》と呼ばれる女の子を追い掛け回していたのは有名な話しだ。 しかも、自分のギルドのメンバーと共にだったと言うのだから、その女の子も災難だっただろう。 乙女の貞操を賭けた鬼ごっこが果たしてどう言う結末を迎えたのかは知らないけど、その《竜使い》さんが無事であることを祈るばかりだ。 トラウマが残っていなければいいけど……
さて、そんなリゼルさんは僕と同様に《裁縫》スキルを完全習得している。 彼女が作る布や革の防具類はかなり高性能だけど、そのスキルの真価は別のところで発揮されている。
コスプレ衣装の作成。
女の子を見ただけで大体のスリーサイズがわかると言う恐ろしい特技を活かして作られるそれらは、その筋のマニアには絶大な人気を誇り、それと同時にリゼルさん本人の欲求を満たしている。 メイドやナースと言った定番衣装は当たり前。 果ては民族衣装やアニメキャラのコスプレ衣装まで用意できるのだから驚かされる。
そして、そんなリゼルさんの手には、言葉通りにスク水(ご丁寧に平仮名で《ふぉらす》と刺繍がされている)とミニスカメイド服が。
僕は男の子だと言うツッコミが意味をなさないことは既に学んでいる。 今回の件に関して言えば僕に非があるので、我ながら諦めるのは早かった。
「……じゃあ、ミニスカメイドで」
外見だけで言えば女の子だと自覚している僕だけど、それでも付いている身だ。 スク水は色々とまずいだろう。
観念して差し出した手に渡されたそれは驚くほど軽く、しかもウインドウを開いて確認すると各種パラメーターが中々高い。 それだけでなく、《隠蔽》と《軽業》にボーナスが付く特殊効果まである。 あいにく僕は《軽業》を習得していないけど、それでもこのまま戦闘が可能なほど高性能だ。 ここまでくると呆れを通り越して感心してしまう。
「リゼルさん、これって何を素材にしたの?」
「白地の部分は《ラグー・ラビットの毛》だな。 黒地の部分は《ミッドナイト・ボアの毛》と《黒紬の糸》。 細かい装飾に使ってる素材も結構レア物だ」
「……《戦乙女》ってそんなに財政が潤沢なの?」
「いや、そんなこたぁねえよ。 これはアタイが自前で揃えた素材さ。 いつかあんたに着せようと思ってね」
性能と両立させるのが大変だったんだよ? と笑うリゼルさんだけど、その情熱をもう少し別の場所に向けてほしいものだ。
とは言え、了承した身であり性能も十分以上なので文句は言わない。
SAOでの着替えは装備フィギュアを操作すれば数秒で終わるけど、その数秒間は下着姿になってしまうので、さすがにこのまま着替えるわけにはいかない。 装備フィギュアを介さないで着替えることも可能ではあるものの、それをすると服飾類を装備していないと言う判定になってしまい、耐久値が徐々に減っていってしまう。 借り物であることを考慮に入れて、耐久値全損で壊すなんて以ての外だ。 まして、S級の素材をふんだんに使用した超高級品なのだから、弁償もできない。
となると装備フィギュアを介して着替えるしかないわけだけど、さて、どうしたものか?
と、僕が思案しているのを察してか、ニオちゃんがストレージから数枚の盾を取り出してくれた。 これをパーテーションにして、その中で着替えたらどうか、と言うことらしい。
「ありがとね、ニオちゃん」
「いえ」
短いやり取りで簡易更衣室に入ると、僕は手早く装備を更新する。
黒と藍色の中間にある落ち着いた色合いのミニスカート。 上衣はエプロン状の肩紐が付いていて、それがウエストの辺りでリボン結びに縛られている。 全体に散りばめられたフリルがいかにもメイド服然としていて思わず苦笑いを浮かべてしまうけど、こう言うのは恥じらったら負けだ。 ポニーテールにしている髪を解いて、それから低い位置でふたつに縛り直す(いわゆるローツイン)と、頭に愛らしいカチューシャを乗せた。 以前、リゼルさんから押し付けられたボーダーのニーソックスと踝丈の踵が高いブーツを履いて完成。
どうせやるなら徹底的にやらないと恥ずかしい。 照れるなんて禁物だ。 さあ、羞恥を捨てろ。 僕は今からメイドだ。
3回繰り返そう。
僕はメイド。 僕はメイド。 僕はメイド。
よし、いける。
色々と錯乱した思考をどうにか取りまとめて僕は簡易更衣室から出る。
さてはて、一体どんなリアクションが待っているのやら……
後書き
完全にネタ回。
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
久しぶりの更新になりましたが完全にネタに走りました。 そんなわけでフォラスくんが男の娘です。
今回のコラボ中にsonasに頂いたメッセージでのネタでしたが、本編に採用です。 いやもう、完全に調子に乗っていますね、はい。
次回も引き続きネタ回になりますが、諦めないで付いてきてください。
ではでは、迷い猫でしたー。
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