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真田十勇士

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巻ノ九十二 時を待つ男その三

「そうしておった」
「そうでしたな」
「拙者がこの山を見たのは最近では二度目じゃが」
「どういったお気持ちでしょうか」
「やはり何度見てもよい」
 富士、この山はというのだ。
「見ているだけで心が清められる」
「そうしたものがあの山にはありますな」
「実にな、そしてあの山を越えれば」
 そうなればとだ、幸村はこうも言った。
「東国じゃ」
「ですな、あの山が丁度境です」
「駿河、甲斐までが西国じゃ」
 富士があるこの国々がというのだ。
「しかしそこからな」
「東はですな」
「東国じゃ」
「そちらになりますな」
「我等はもうその東国におる」 
 富士を越えた、だからだというのだ。
「そしてな」
「これよりですな」
「陸奥に向かう、関東よりな」
「ですな、陸奥に入りますか」
「そうしようぞ」
「では」
 望月は幸村の言葉に頷いてだ、そしてだった。
 主従は関東を横切って陸奥に向かった、その関東はというと。
「江戸も他の場所もな」
「日に日にですな」
「人が増えて家々も増えてな」
「栄えてきておりますな」
「そうなってきておる」
 実にというのだ。
「幕府の中心となりな」
「西国だけでなく東国もですな」
「これからは豊かになる」
「田畑も多くなってきておりますし」
「関東はよい国々になるわ」
「そうなりますな」
「戦国の世の時以上にな」
「泰平の中で」
「そうなる、やはり泰平があってこそじゃ」
「人は栄えますか」
「そうなる、我等が最初見た江戸は何もなかった」
 まさにだ、一面草原で朽ち果てかけの城があるだけだった。
「しかし今やな」
「日に日にですな」
「巨大な城が築かれその周りに家々が出来てきており」
「さらに周りには田畑も多くなり」
「栄えてきておる」
「泰平であればこそ」
「国は栄える、そのうえで」
 そしてというのだ。
「人も幸せになれる」
「やはり泰平こそですか」
「天下はよい、このまま泰平であれば」
「民は幸せですな」
「それが一番じゃがな」
「しかし我等は」
「戦の時が来ればとも思っておる」
 そこに因果を感じてだ、幸村は眉を曇らせた。江戸の人々とそこにある家々を見つつ。 
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