真田十勇士
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巻ノ九十二 時を待つ男その二
「すぐにじゃ」
「行くことが出来ますな」
「そうじゃ、我等の脚ではな」
「ですな、我等は山道では風の様に勧めます」
「実際に風の様に進むぞ」
幸村達はそうして天下を巡っている、彼等だけが知っているその道では彼等はまさに風となることが出来るのだ。
「陸奥までな」
「はい、しかし」
「立花殿が陸奥におられることはか」
「違和感がありますな」
九州にいた彼がというのだ。
「そのことはどうしても」
「仕方あるまい」
「転封は、ですか」
「大名の常というのが幕府の考えの様じゃ」
「転封を常とするのですか」
「その様じゃ、立花殿もな」
大名に戻れてもというのだ。
「これからはわからぬが」
「今は、ですか」
「陸奥におられる」
縁も由もないその地にというのだ。
「そうなっておられる」
「また正反対の場所ですな」
「そうして時折転封してな」
「そこに何かあるのですか」
「大名にその地に根付かせないのじゃ」
「そうですか」
ここで望月もわかった、幕府の考えが。それではっとして言った。
「それはまた」
「よく考えておるな」
「はい、実に」
「国人が何故力があったか」
「その地に強く根付き確かな力を備えていたからです」
「それを防ぐ為にじゃ」
「そうしてですか」
「大名に力を持たせぬのじゃ」
幕府としてはというのだ。
「そこまで考えておるのじゃ」
「まさかそこまでとは」
「幕府はとかく天下を治めることに腐心しておる」
「一つにした天下を」
「その為に大名もそうしていくのじゃ」
「鎌倉や室町とは違うのですな」
「遥かによく考えて天下を治めるつもりじゃな」
幕府、そして家康はというのだ。
「見事じゃ、そしてな」
「それが、ですか」
「天下を上手く治めるであろう」
「そうなっていきますか」
「しかし我等の考えは一つ」
それはもう決まっているというのだ、幸村達のそれは。
「だからな」
「はい、それでは」
「これより陸奥に行くぞ」
「さすれば」
こうしてだ、幸村と望月は二人ですぐに九度山を出てだった。そのうえですぐに陸奥まで向かった。確かに陸奥は遠いが。
富士山を西に見てだ、望月は彼の前を進む幸村に言った。
「いや、もうですな」
「富士を越えたな」
「あっという間に」
「そうじゃな、前もこの山を見た」
「鎌之助と共にですな」
「風魔殿にお会いした時にな」
この時のことをだ、幸村は思い出しつつ望月に話した。
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