ソードアート・オンライン〜Another story〜
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マザーズ・ロザリオ編
第246話 ボスを倒したいⅢ
前書き
~一言~
な、何とか投稿出来ました!
決して早いとは思えませんが……、これからも頑張ってなるべく早く出せるようにします!
さて――この話で出てくる 《アレ》は…… 当然ながら元ネタがありますw と言うか名前も一緒ですから、知っている人であれば直ぐにピンとくる様な気がしますね。……安直ですから 苦笑
最後に、この小説を見てくださってありがとうございます。これからも、頑張ります!
じーくw
彼は突然現れた。
絶体絶命の大ピンチ。そんな時 空から突然現れて……
風の様に早く、そして暖かく この絶体絶命の窮地を救ってくれた。
身体の大きさは殆ど変わらないというのに、抱きかかえてくれた腕の中はとても大きくて 何よりも暖かい。触覚エンジンが120%。いつも以上に絶好調に調整して機能しているのだろうか? と思ってしまう程だった。
「(わ、わぁー! こー言うのって、あれだよね!? 『危ない所を白馬の王子様が助けてくれたー!』って言うやつだよねっ??? わぁーわぁーっ ボクも女の子だからねー。ちょっぴり憧れちゃったりしてたんだよーっ♪ リューキってば 近くで見てみるとよく判るっ。とっても恰好良いじゃんっ♪ んん? いや 可愛い……のかな? う~ん……かっこう……かわいい? やっ もーどっちでもいいやっ♪)」
まだ空の上にいて 長く感じられる滞空時間。その間目を輝かせながらリュウキを見ているのはユウキだった。
漸く下へと降りるとリュウキはひょい、とユウキの身体を起こした。
「差し出がましい事をしたか? ユウキ」
「……へ? どゆこと??」
下ろしてくれたリュウキが軽く笑いながらそう言っていた。ユウキは言っている意味がいまいち判らない様子だ。
「いや、ユウキならあの場面でも アイツの攻撃を躱しそうだな、と今になって思ったからな。前の戦いでは アスナのソードスキルも全て見切ってカウンターを当てていた。……だから 余計な事をしたかと思って」
リュウキはそう言っていた。
ユウキの腕はまず間違いなくこの世界でもトップクラスだ。あのキリトを破った事もそうだが、これまでの戦いでも猪突猛進な所はあるもののここ一番では判断力も極めて優れている。頼りになるラン達と一緒になって戦ってる姿を見れば、負ける気はしないものの決してリュウキは、キリトや自分を含めた、SAO時代からの自分達のパーティより劣ってるとは思えなかった。それ程までに 完成された強さだと思えていたのだ。
後 仲間であれば助けるのは当然だ。
だが、それでも其々プライドと言うものがある、というもの判る。長年共に戦ってきた相手ならいざ知らず、唐突に突然パーティになったと言ってもいい間柄だから、リュウキはそう思った様だ。
そして、言っている意味が漸く理解した所でユウキは、にかっ! と良い笑みを見せていった。
「そーんな事ないよー! えへへ~ ボク今ね、すっごい良い経験させてもらったーって思ってるんだよっ! う~ん、リューキってば王子様だよね~♪ こんなに格好良く、颯爽と助けてくれたんだからー♪ えへへっ こんな経験なかなかできないよっ♪」
にっしし~ と無邪気な笑みを浮かべてそう言うユウキ。そんなユウキの姿を見て、言葉を訊いて リュウキは思わずそっぽむく。
ユウキは 無邪気で真っ直ぐにストレート。決して自分の眼を逸らせる様な事はせず、真っ直ぐに覗き込んでいる。そしてあまりにストレートなその視線と言葉を受けてリュウキも何処か恥ずかしかった。
でも それはリュウキだって同じなんだが、やはり自分の事は判らないものなのである。
「……はぁ、無事で いや ゲンキそうで何よりだよ」
「えへへっ! さぁー みんなっ! リュウキが来てくれたよっ!! もういっちょ、頑張ろう!」
ユウキは、くるくる~と回りながら皆の方へと若干下がった。
笑顔で迎えてくれているのが殆どなのだが、何だかとてつもなく怖い表情をしてる人がいる事に気付くユウキ。
「あれ? え、えっと……、ねぇちゃん?」
「ほら。頑張ろって言ったのユウだよ? 早く体勢を整えないと。ボスは待ってくれないよ」
顔は笑っているんだけど、何だか判らないけど、とても怖い。
ユウキはこの顔をよく知っている。とてもよ~~く知っている。
そう、今は昔の話。
悪戯をして遊んでいた時の笑顔にそっくりなんだ。あまり度が過ぎた事をしてしまえば、ごつんっ☆ と非常に痛い拳骨が待っている。あの笑みは その一歩手前のものだという事。
もしも、ユウキがリュウキにまた勢いとかで抱き着いてしまっていたらと思うとちょっと怖い。もう 一歩手前どころじゃない、と思えるから。
いや既に……半歩手前? いやいや 着火直前?
「……ユウ?」
笑っているのに怖い。まるで般若の様な……、と頭に過った瞬間にユウキは行動をとった。
「ひぃっ ね、ねえちゃんごめんなさいっっ!!」
「なんで謝るのよ。ほら 早くなさい」
ひぃっ! と両手で頭を抑えながら必死に謝るユウキ。
そして、自分自身がどんな顔をしているのか、ユウキが感じているのか判っていないか、それら全部 或いは判っていて黙ってるのかは ランだけのものだった。とりあえず、ユウキを引っ張っていった。
「あ、あははー ランさんってば」
「あぅ…… 何だか 私タイミング……逃したのかなぁ……」
「レーイ? 妬かない妬かない」
「わ、私妬いてなんかないよっ!! りゅ、りゅーき君は ユウキさんの助けてくれただけなんだからっ!! ら、ランさんだって そんな他意なんか……。そ、それだけなんだからぁ……、ぅ~ ぁぅ……」
徐々に小さくなっていく レイナの声。
ランの様子を見ていたら……こちらもユウキの様にレイナはよく判る。違う女の子だけれど その芯は 今までも 何度も見てきた女の子達の表情と全く同じだったから。
でも そして その姿を見てしまえば自然と笑ってしまうというものだ。ユウキのピンチがあって緊迫した雰囲気があっという間に吹き飛び 笑いに包まれた。
それも、リュウキが作ってくれたのだとしたら。やっぱりリュウキは皆のヒーローだ、とアスナもレイナも再認識する。レイナにとっては旦那様だから特に特別なヒーローであるだけで。(虎視眈々な人達もいると思えるが……)
そして、そんなヒーローなリュウキはと言うと。
「和んでる所を悪いと思うし、それとオレ自体遅れてきといて言うのも悪いと思うんだが……」
轟音が 衝撃音が 辺りに響きわたってる。
さっきまで笑い声やのほほんとしたのどかな雰囲気が漂っていた筈なのに、突然それをかき消すかの様に 戦塵と共に轟音が轟きだしていて、その中心にリュウキがいた。
勿論、あの巨人も健在だ。左右の戦槌を自在に操ってリュウキに襲い掛かっている。
「オレはソロプレイは駄目だって皆に昔から色々言われててな。だから 手を貸してくれるとありがたいんだが」
『あ……!!』
あまりの事に思わず呆気に取られてしまう皆。
でも当然の事だ。ここはボス部屋内であり まだ倒しきっていない。目の前には大きな大きなボスが睨みを利かせている間に、こんなコメディをしてたら(ラブコメとは言われたくないらしいから……)如何にアルゴリズムで動くただのAI。BOSS Mobだとしても怒る事だろう。
『ボスを前になめるな! それに此処に来た本分忘れんな!』と、怒っている様にも見える。
「わぁぁ!! ご、ごめん。リュウキ!!」
「す、すみませんっ! 直ぐに援護を……! 皆っ!」
ユウキとランは慌てて先頭に立った。
他の皆も。
「あっちゃあ……、なんか 今マジで忘れちゃってたよ。ほんのちょっとの間だったけど」
「いつも通りのユウキがいつも通りにやらかしちゃったからなぁ……。それに 珍しい場面だった、っつーのもあるし」
ノリとジュンも笑いつつも己の武器を構えて飛び出した。
「わ、ワタクシも行きます! すみません」
「支えないとね。皆を」
タルケン、テッチも同じく。
そして、最後にアスナとレイナ。
「どんな時も。うん……! リュウキ君はリュウキ君だね。やっぱり」
「あははっ そうだねっ!」
アスナとレイナは笑っていた。
確かに、リュウキの事をちょっぴり忘れちゃっていたのは本当だし 悪いとも思った。
だけど、2人は皆程は慌てていない。
慌ててるのはリュウキの事をあまり知らないからだと判るから。
それは あまり良い思い出とは言い難い過去の事。
ずっと昔に戦ってきた世界では リュウキはたった1人で巨大で強大な相手と戦ってきた経験が幾度となくあった。
『仲間と言うものを本当の意味で信じられなかったから』
とあの時の事をリュウキ自身は悔いていた過去。だが 実現できると言う事は、それだけの技量が昔から備わっていたと言う証明でもあった。幼少期よりずっと培ってきた力。
積み上げてきたからこそ、過信ではなく絶対的な自信となって、リュウキは口にしていた事もある。
――相手がただのデジタルデータの塊なら負けない、絶対に負けない。
そう言っていた。
その姿には圧倒された事もあったが、その圧倒的な光の中に、僅かにだが寂しさに似たものも 彼をよく知っている人達は感じ取れた。何も出来なかった事に歯痒さも覚えた。
だけどその後に、仲間達との本当の意味での絆が出来たんだ。
その後は リュウキは1人で危ない事をする事は無くなった。
危険などないALO内は兎も角、死と隣り合わせだったSAOの世界ででも、仲間達を心から信じられる様になって、更に強くなったんだって思える。だから1人よりも皆と一緒が良い事にリュウキは気付いたんだ。
話が逸れてしまったから元に戻そう。
リュウキは確かに1人でも十分すぎる程戦える。心配する様な事はないのかもしれない。だけど、1人で戦わせてはダメなんだ。絶対に寄り添わなければならないから。
「うん。でも 幾らリュウキ君でも絶対しんどい筈だよ! ここのボスの強さはおかしいから!」
「そうだね。私達も行こう! レイ」
頷きあったアスナとレイナの2人は駆け出した。
美しい歌を皆に伝え それを力に変えて付与するレイナ。
数多くの魔法を操り 皆を支え続け護り続けるアスナ。
2人は 其々の役割を変えた。
剣1つで戦ってきたあの世界を思い出して、腰の武器を細剣に持ち替えたのだ。
「絶対、次は決めるからね! だから すみませんシウネーさん! 私達の事もよろしくお願いしますっ!」
「うん。シウネー お願い!」
気合はレイナとアスナ2人とも十分。だけどしっかりともう1人のヒーラーに伝える事も忘れていない。シウネー自身も皆を支える為 気合を入れ直していた。
「任せてください。お願いします! みなさん!」
シウネーに見送られ、アスナとレイナの2人は地を蹴って駆け出した。
――シウネーは この時思った。
駆け出していくアスナとレイナの背中を見て。
あの強大で巨大な相手と問題なく渡り合ってるリュウキの姿を見て。
そして、自分達の仲間達《スリーピングナイツ》の皆を見て。
3人とはまだ 出会って本当に間もない。
昨日リーダーの2人がホームに3人を連れ帰ってきて紹介されただけだ。いわば臨時の簡易パーティーとも呼べるものだった。だけど、本当に暖かく感じられる。何年も、何年も 共に戦ってきた仲間の様に――感じられた。
人は大きな光に寄り添って生きていく。
その光は、自分達にとっては ユウキやランの事。
……そして もうここにはいない人達の事。
リュウキやアスナ、レイナは同じ様に思えた。変わらない光を、その暖かさを感じる事が出来た。
それは シウネーにとって いや ギルドの皆にとってもとても嬉しい。
だけど――それ以上に 悲しかった。
巨人との戦いは終盤戦に差し掛かっていた。
「恐らくは、これ以上攻撃・防御のパターンが変化する事は無い。――これがラストラウンド、と言う訳だな」
相手を射貫く様に視るリュウキの眼。
基本的には眼は使わないリュウキだが、ユウキとラン、そして テッチ、ジュン、タルケン、ノリ、シウネー。皆の真剣でとても熱い想いを訊いているから。ギルドの妨害にあっても決して折れる事の無かった信念を感じられたから。だからこそ 負けるつもりは毛頭ないとは言え、100%と言う数字はこの世界には存在しない。万が一、という言葉もある。
だからこそ、出し惜しみをする様な事は一切せず、持てる力を全て使って巨人と対峙していたのだ。
だがそれでもやはり、新生アインクラッドのフロアボスは圧巻と言わざるを得ない。
「ぅー 凄く硬くなってるよ。それもガードしてない状態で、剣のダメージが殆ど通らないなんてずっこいっ! ハンソクだよっ!」
「全く……ね。これだけ防御力が上がったのなら攻撃力も落ちても良いって思うんだけど……そんなに甘くないって事」
ユウキが憤慨しつつ、現状を冷静に分析も出来ていてぼやいていた。
ヒドイと言えるのが その防御力の向上だ。通常の攻撃では殆どダメージを与える事が出来ない。かといってソードスキルを乱用しようものなら、発動後の遅延が致命的になりかねないのだから。
そして 基本的な性能は プレイヤーや通常のMobとは文字通り桁が違うし、パターン変化した最終局面であれば、その能力を遺憾なく発揮してくれるというサプライズだ。
この巨人の場合は多腕を存分に活かした戦法に変わった。2本の腕が攻撃をそしてもう2本の腕が防御と言う攻防一体。ランの言うように確かに4本の腕の2本を防御に、残りの2本を攻撃に分担している以上、攻撃する腕の数が減っているのだから 極端に言えば半減したっておかしくない。だが……そんな気配は全く見えなかった。
先程の全ての腕を使った完全防御体勢程の固さは流石に無いが、それでも十分すぎる程硬い。元々70人と言う巨大なレイド・パーティで攻略する事を前提として設定されているから、仕方ないとは思えるが。
「私の歌の効力も あの固さの前にはちょっと心許ないね…。防御力がずっと上がってるなんて……」
レイナも一緒に戦っていたのだが 防御力が常に上昇している状態に気付き、直ぐに歌を使って皆を支援した。
それでも、ダメージを与える量が少なすぎるのだ。
「シウネーにポーションを全部渡しておいてよかった……。渡してなかったら危なかったかも……」
リュウキが来る前に、シウネーに渡した事に安堵感をアスナは覚えていた。
だがこのままではジリ貧になってしまう可能性が高く、シウネーに渡した、とは言ってもマナ・ポーションも後数える程度しかないだろう。それらを踏まえたら、この強大な巨人に押し切られてしまう可能性も高くなってくる。ゴールの見えない道を走り続ける様な徒労感もまた感じ始めてしまうというものだ。
それに、皆はもう肩で息をしている。
「はぁ……はぁ……、ったく こんなきっつい戦いなのに ユウキは元気だなぁ。ああやってボヤいてる内は、まだ1時間は大丈夫だな」
「確かに……、いつも通りだとは思いますが……、それでも凄く頼りになります。ユウキも、ランさんも。それに リュウキさんやアスナさん、レイナさんも。負けられませんよ」
ノリとタルケンは、正直な所激戦が続いて疲労困憊だった。だがそれでも ユウキ達の姿をみて、戦い続けてる皆を見て 自分だけ下手ってられない、と今は気力だけで戦っていると言ってもいいだろう。諦めるとすれば 視界の端に見えている自分のHPゲージが全て無くなった時だけだ。
「ははっ、僕だって負けられないってね! 今日はしっかりと叩かれる、ってアスナと約束したしな!」
「完全ガードが無くなった事で、少しもダメージが通らない、何てことはなくなった。そこを突けば勝機は十分にありますよ」
前衛として、ずっと対峙してきたジュン。そして その巨大な攻撃を皆の壁となって支え続けた壁のテッチ。
2人もノリやタルケン同様に疲労が当然溜まっていたが、それでも まだまだ踏みとどまる事が出来ていた。
アスナは ギルドを率いてきた経験があるから、その士気にはいつもいつも気にかけてきている。だからか、そんな皆の顔を見て心配が徐々に消えてゆき、安心する事が出来た。
「………リュウキ君、どうする? まだ、皆は頑張れる。でも 明確な道が見えた訳じゃないから厳しいのは間違いないよ。レイの歌とシウネーの回復魔法が切れだしたら、一気に崩れる可能性だってあるし」
「ん。そうだな。……突破口を見出すのは、直ぐには難しい。ボスの設定外の弱点部分は確かに視える。だが それでも 10のダメージが12くらいに増えた程度。それを続けた所で持久戦は必至だ。だが、首元が狙えれば話は変わってくる。そこに到達するにしても、持久戦だな」
「そう……」
アスナは、歯軋りをした。
千載一遇のチャンスだと思っていた首元の弱点。ユウキとランの連携で届きかけたのに崩されてしまった。改めて思うのは 理不尽極まりない強さだという事だ。
「ふむ……フロアボスとのタイマンは経験がない。だから 一度くらい経験しておくべきだったかもしれないな……。よく考えたら ボスを視るのも結構久しぶりだ。少しばかり怠っていたか」
「駄目だって。それは皆が許してくれないってば。特にレイがね? アルゴさんとの邪神狩りツアーでも、レイってば結構ふくれちゃったんだからね?」
「……それはよく判ってるよ」
アスナの言葉に巨人をけん制しつつも軽く苦笑いをするリュウキ。ヤキモチ妬きだという事はレイナやアスナを見ていれば十分すぎる程判る。問題なのはリュウキ自身が全く自覚なく、更にはそういう展開に何故かなってしまうという所にあるが、その辺りは止めようがないので 仕様がないのです。はい。
因みに機嫌がよく無かったのはレイナだけでないのは勿論である。
そして、リュウキは飛来する隕石の様な巨人の槌の一撃を可能な限り防ぎ、じゃりぃんっ! と言う甲高い金属音を奏でつつ、後方へと衝撃を逃がすために跳躍。アスナも同じく身軽さを活かして回避した。
「うー、リュウキどーする? HPは絶対高くない、って思うんだけど」
ぷくっ と頬を膨らませているユウキが着地地点のすぐそばにいた。
「そうだな。ダメージを最小限に抑えつつ攻撃を加えて、今は様子見が一番だ。まだ視えていない突破口が視えるかもしれない」
「そっかぁ。……よーし! 文句ばっかし言っても始まらないもんね! ボクまだまだやるよ!」
気合を1つ入れ直すと、ユウキはその黒曜の輝きを持った剣をすっと立てらせて切っ先を巨人に向けた。
「私も、ここまで来て諦める訳にはいきません。……皆で勝って、皆で残すんです。……証を。皆との絆を……、見せてあげるんです」
ランの決意も強いと言える。前衛で戦う者達の中でも最も攻撃を掻い潜り、捌き、加えている1人なのだから。それでも臆することなく戦い続けているのは、それを支える強い想いがあるからだ。
ただ、皆の名前を石碑に残したい。
それだけじゃない強い想いを。
そして、『見せてあげる』と言う部分にリュウキは少なからず、引っかかるものがあったが その疑問は飲み込んだ。ユウキの一言によって。
「よーし!! あのおっきい腕を皆でえいっ! って抑えつけたら防御力落ちないかなぁ?? 交差してる腕を止めさせればダメージだって通るよ、きっと! 首元が開くしね!」
「なーに言ってんだよユウキ! まずあんな高い位置にどーやって皆で行くんだ? ランに全員投げてもらうのか?」
「……それは、無理ですね。巨人が待ってくれないです」
ユウキのとんでも作戦。飛び上がって、防御してる腕をどうにか広げさせて、体勢を解ければ何とかなるのではないか? と言うもの。
だが勿論そんな事が出来る訳がないというのは判る。現実的に考えても体躯に差がありすぎるし、部位破壊出来る様な部分ではない。
各フロアのボスによっては、爪や尾、牙など破壊可能部位と言うのは存在して、破壊に成功すると攻撃力ダウンや防御力ダウン、特殊攻撃無効などと、様々なアドバンテージがある。だが、その部位には特徴的な紋様があったり、エフェクトが発生していたりと比較的わかりやすいし、リュウキなら、更にそれを見逃さない。
だが 生憎腕を切り落とす! などと言う離れ業は出来るとは思えなかった。
だが――ユウキの言葉に突破口を見出す事は出来た。
「ユウキ」
「んー? なーに??」
振り向くことなく、巨人から視線を逸らせる事なく返事をするユウキの頭を、くしゃっと撫でた。
「わぷっ!? な、なになに?」
「ナイスだ」
「へ?」
ユウキは、今回はリュウキの言っている意味が判らなかった。
だが、リュウキはいつもの様に説明する様な事はせずに、直ぐに行動を開始。
「皆! 悪い。30秒だけ頼む」
リュウキは、周囲に散開している前衛のメンバー、シウネー以外の皆にそう伝えた。訳は話さずに、時間を欲する旨を。
勿論、30秒というのはこの極限の戦いの中で(それでも色々と会話出来ているが……)は気の遠くなる様に長い時間だ。おまけにリュウキが前線を抜けるともなれば、負担が一気に全員に掛かってくる。
それは重々承知だった。それでも皆は――
「おう! 任せとけ!!」
「「了解です!」」
「判ったよ!」
「りょーかいだよ!」
と口々に皆がそう答えた。
この局面を打開してくれる策を、思いついたのか、と期待感と新たな気合を胸に秘めて。
「何するんだろー。リュウキ」
「あはっ、ああいう事を言う時のリュウキ君は期待してくれていいよ! だけど――驚く準備だって必要だからね? ユウキさん」
「えー、これ以上驚く事があるの??」
レイナの助言を訊いて、舌をぺろっ、と出して目を丸くさせるユウキ。
「ふふ……。私もそんな予感がしますね」
ランもにこやかに笑うと、その次には凛とした表情に戻り、迫る巨人の鎖分銅をユウキやレイナと共に弾いた。
30秒を――なんとしても稼ぐ為に。
「よし………」
リュウキは、攻撃の届かない地点 中間距離まで下がると、マナ・ポーションの栓を親指ではじき、一気に飲み干した。マナ・ゲージがみるみる内に回復するのを見届けた後にすぐに詠唱に入る。
使うのは魔法の様だ。そして 30秒という気の遠くなる程の時間がかかる理由はその膨大な詠唱時間によるもの。
ALO内での呪文のワードがリュウキを囲み螺旋階段の様に頭上高くにまで登っていく。通常では考えられない程の高さであり、このボス部屋の天井を突き破らん勢いだった。
「あ、あれは……」
後方で支援をしているシウネーだけにその光景を見る事が出来ていた。
考えられない程の詠唱文の量。詠唱文は少しでもミスをしてしまえば、その時点で失敗となり、煙の様なエフェクトと ぼうんっ! と言う音が出て止まる。
つまり、高難度の魔法程成功させる難易度が遥かに高いという事だ。記憶力が非常に良いという事がよく判った。言葉で表すだけでは足りない。30秒間と言う時間であれだけの量を唱えるというのも圧巻だった。
――15秒。
「たぁーー!」
「やぁっ!!」
ユウキとランの連携が、巨人の攻撃を遮り。
――10秒。
「はぁっ!」
「せいっ!」
アスナとレイナが、一瞬で巨人の足元にまで接近し攻撃を加える。
――5秒。
「おらぁ!」
「てやっ!」
「このっ!!」
「ふっ!!」
ノリ、タルケン、ジュン、テッチも持ち前のチームワークで一切のダメージも寄せ付けない。
そして 唱え続けるリュウキまでの道も、決して開かせない。30秒間と言う長い時間を守り続ける為に。
決死の攻防。軍配が上がったのは《スリーピングナイツ+α》。
「よし! 皆離れろ!!」
リュウキの言葉に反応して散開。
螺旋状に伸びていた詠唱文は一斉に輝きだし、光の矢となって空高く放たれた。
そして巨人の頭上に2つの闇が現れる。
「わっ、ひょっとしてさっきの人が使ったのと同じヤツかなっ!?」
ユウキは、回避しつつこれから放たれる攻撃魔法(多分)に胸を躍らせていた。
先程の回廊でリタが放った隕石の魔法を思い返している様だ。
だが。
「ううん、違う。……これ 違うよ。あの魔法じゃない」
レイナは直ぐに気付いた。
リュウキの根源元素の魔法、隕石を当てる魔法は何度か見ている。リタも何度も使用しいたから発生までのエフェクトも大体覚えていた。頭上に現れるのは同じだが 光の矢の様なのは放たれる事は無かったし、闇が2つ現れる様な事は無かった筈だ。
全員が巨人から距離を取れた所で――魔法の正体が明らかになった。
黄金の輝きが部屋を照らしたのと同時に、黄金の中に赤い輝きも発生した。大きな大きな光は1つではない。2つの闇の中から現れたのだ。
光り輝く―――太陽が。
「………根源元素の上位魔法の1つ《デュアル・ザ・サン》。……コイツは 防御力は増している様だが、魔法抵抗は通常防御程は増してない。あの魔法を防ぐ為には、ああするしかないだろ? いつまでも隠してるんじゃない。見せろよ」
リュウキは、にやりと笑った。
2つの太陽は、巨人の頭上より降り注いだ。当然、無防備でその魔法を受ける様な事はしない。防御態勢を取る為に 4本全ての手を頭上に掲げて、受け止めたのだ。
あのエクスキャリバーのクエストで防御した霜巨人の王スリュムがそうした様に。
『ぐぅぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!』
低く唸り声を上げながら、叫ぶ巨人。
2つの太陽はその存在感を存分に示す。巨人をも押し潰してしまう勢いだったが、巨人も負けてはいない。地面に脚がめり込む勢いではあったが、堪える事が出来ていた。
ここで――アスナとレイナはリュウキの意図に気付いた。
「ユウキ! ラン! 今だよ。今しかないっ!」
アスナは2人に叫ぶ。
4本の腕の全てを使っている為、首元の弱点部分がはっきりと視認できている。あの部分に攻撃を当てる事が出来たなら、間違いなく大ダメージが見込める。最終戦で最後まで守ろうとした部分なのだから。
そして、アスナはレイナに目配せを贈る。その意図を察したレイナは頷き。
「今度は私達が2人を上まで送るから! 2人が決めてっ! リュウキ君は根源元素の魔法を使ってる間は、動けないから!」
そう叫んだ。
ユウキとランの2人の飛翔連携。当然だがアスナもレイナもそんな事は試した事はない。いきなり実践してみて成功するかどうかは判らないのが実情だった。だけど、この千載一遇のチャンスなのだ。最も強力なユウキとランの2人のソードスキルを同時に打ち込める最大のチャンス。
――試した事はない。……だけど、お手本は見せてもらった。イメージがあれば、可能性は十分にある!
強い光が宿る2人の瞳。
それに答える様に、ユウキとランは頷いた。
「今度こそだよ!」
「行こう! ユウっ!」
ユウキとランはは助走をつけて走り出し、アスナとレイナもタイミングをずらして走った。
跳躍するユウキとランは殆ど同時。いや完全にぴったりだった。
そして 同じく――アスナとレイナも全く同じタイミングで、ユウキとランに続いた。
目の前には巨人の他に、リュウキが放った攻撃魔法が存在しているが恐怖の類は全くなかった。
2人にとって……太陽とは 特別なものだから。……太陽が大好きだから。
――だから、直ぐに光の中へと飛び込めた。……太陽の中へと。
「「やぁぁぁぁぁぁ!!!」」
ユウキとランは、太陽の中へと、自分達にとってかけがえのないとも言える太陽の中へと飛び出していくのだった。
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