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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第245話 ボスを倒したいⅡ

 
前書き
~一言~

こ、今回は頑張りました……。
ほんとーに珍しく結構長めの時間が出来たので せっせとまとめてみたら、ちゃっかり1万字超えました!! 何とか早めに投稿できてよかったです! 今後もこの速さを継続……と約束はちょっと出来ないのが申し訳ないです……。でも頑張ります!

 最後にこの小説を見てくださってありがとうございます。これからも、頑張ります!

                             じーくw 

 
 

 戦ってみて――よく判る。

 本当に、身に染みるというものだ。

 いやはや、流石は新生アインクラッドの各階層の最終ボスだとも言えるだろう。
 この強敵は各層に1体しかいない。
 そして 本来であれば レイド・パーティーを上限にまで組み 更に攻略法を何度も何度も挑み続けて、身に付けてから 回復アイテム等も可能な範囲で限界まで所持して挑むというのが本当の正しい攻略だって言える。……だから今自分達がしているのは、本当に無茶……かもしれない、と改めて感じる。

 これらの感想を、このボス攻略の間に、一体何度頭の中で過った事だろうか、と自虐的に嘆いてしまうのはアスナだった。

 手早く腰に備え付けてあるポーチの中の小瓶を取り出し、その栓を親指で弾き飛ばして中の青い液体を一気に飲み干す。限りなく0に近く減少していたゲージが、ぐんぐんと回復していく。マナ・ポイントが完全に全回復したのを確認しつつ、マナ回復薬の残量も確認した。
 やはり、と言うより間違いなく減り続けている。無限にある筈もないから当然の事だ。

 その腰のポーチにぎっしりと詰まっていた筈のポーションは30分を超える激戦の間にみるみる消費されていったのだ。

 途中で、タイミングを見計らって レイナのマナ回復薬も受け取ったのだが、それでも まるで足りなかった。隣で回復役(ヒーラー)として補助をしているシウネーもまず間違いなく同じだろう。シウネーもレイナから受け取っていたが自分の状況を考えたら当然だ。

「(リュウキ君の攻略法が無かったら…… 多分こんなに上手くいかなかったと思うけどね……)」

 そしてもう1つアスナの脳裏に浮かぶのは 改めてリュウキへの感謝だった。

 このBOSS第一戦で リュウキは可能な限りの情報収集も攻撃と一緒に担っていた。そしてその要点を頭の中で完璧にまとめていたのだ。

 そこは流石と言うか、ここまで来たらやっぱり あきれ果てるというか……。
 旧アインクラッドで一番の情報屋と名高い《鼠のアルゴ》がリュウキの情報を重宝する理由がよく判るというものだ。彼女は2年もの間 リュウキの情報には世話になりっぱなし、と言う話だから。
 非常に贅沢な話だ。もしもアルゴがちゃんと皆に情報を回してくれてなかったら、と思ったらゾッとする。だけど、アルゴがそんな性質を持ったプレイヤーであれば、リュウキは長く付き合わなかったと思うが、それはまた別の話。


 そして極め付けは BOSS第一戦後の僅かな時間。たった30分の特急会議(それは アスナ自身が設定した時間だが……)にて、頭の中に描いていたボス攻略の情報を判りやすくまとめてしまったのだ。


『不可能な物量の仕事を効率化して実現を可能にするのがプログラマーの仕事である』


 と、確か何処かで聞いた事があった様な気がするが……、間違いなくリュウキそのものの事だ。世界一のプログラマーと言う肩書。仕事っぷりは何度か拝見した事があって疑った事などは全くないのだが それでも圧倒されてしまうのは無理ないだろう。

 そして、特筆すべきはスリーピングナイツの皆にもあった。

 全員の頭に100%とは言えないかもしれないがはっきりと入っていて、更に全員が実現するだけの実力を持ち合わせている。巨人の攻撃パターンの殆どを回避していると言う事だ。それも流石の一言。

 だけど、《勇者様の攻略法》(ユウキ命名) であっても非常に難しいと言わざるを得ないのが 巨人の二つの口から放たれる毒属性の超広範囲ブレス。

 これに関しては、ある程度のパターンは把握していても わずかな巨人の挙動や瞳の無い白い目から読み取る視線。……即ちリュウキの様な《眼》が無かったら 完全に攻撃の初動を見切るのは難しい。……と言うよりムリゲーだ。

「ふぁ……、流石ランさんとユウキさんだね……」

 先程まで中間距離で戦いつつ付与術をしていたレイナが一度下がってきて 呟いていた。
 そう、リュウキと同等な事が出来ると思えるのはラン。
 剣聖と呼ばれていた彼女は、巨人の太刀筋も見切っているかの様だった。

 ……同じ様な眼を持っている。シノンが以前そう言っていたのが間違いではないというのがよく判る。そしてユウキは 完璧にランに合わせている。恐らくは現実でも姉妹であろう彼女達の息がぴったりなのは当然なのかもしれない。
 息を合わせるのは、アスナとレイナも得意中の得意なのだから。

 とは言っても、スリーピングナイツの全員が同じような動きをするのは、事実上不可能だ。其々の配置やテッチに至っては、皆の壁になる様に徹しているのだから尚更無理。複数の人数のHPがごっそりと削られてしまうから、その度に全体回復魔法を詠唱し続けているから、どうしてもマナポイントが足りなくなってしまうのだ。

 確かに回復のタイミングを計る事やボスの初動を見切る事、それらも精神力を削る。だが、それ以上に苦しみつつ懸命に攻撃をし続けている前衛の皆の為にも、ここで下手る訳にはいかない。喉元にまでせりあがってくる焦燥感をポーションと一緒に無理矢理に飲み下して、アスナは精一杯声を上げた。

「みんな! もうちょっとだよ! あとちょっとだけ、頑張ろう!」

 何度目かは判らない。精神論しか言えない状況になってしまってる事にどぎまぎをしてしまうが、それでも笑顔で返してくれる皆がいて、更に頑張らなければならないと改めて思えてしまう。

「うんっ! みんな頑張ろう! 勝てるよ、絶対っ! ―――――――♪」

 アスナに続きレイナの檄。そしてその美しい歌声がフロア中に響いた。使用していた付与の効果が切れたからかけ直している。

 このボス相手には心許ない、焼け石に水、と言えるかもしれないがそれでもその効力は非常に魅力的であるレイナの戦いの歌(バトルカンタービレ)

 戦力アップの付与の歌は 皆の時間を精一杯稼いでくれている。その高い効果を持つ歌である為か、或いはその歌声に魅了されてしまったとでもいうのか 標的にされてしまうリスクが高いかった。よくよく考えてみれば、ボス戦で歌声を響かせている為仕方のない事だろう。

「シウネー!」
「はい。任せてください!」

 この時だけ、アスナの手には杖の代わりに細剣が握られているのだ。レイナをカバーする為に。

 これらを完全にパターン化して この少人数で出来うる最高の攻撃方法で攻め続けているのは間違いない。
 だが、それでも攻撃をする時にはどうしてもダメージが通らないのが実情だ。
 
 更に凶悪なのが、時折見せる四本ある巨腕を交差させて取る防御姿勢。
 それは、身体の中心線を覆い隠すだけでなく、隠され切れていない他の部位に至ってもまるで鋼鉄にでもなったかの様に堅くなるのだ。凶悪な防御力はこちらの如何なる連撃にも魔法攻撃でも、ソードスキルであっても 全てを弾いてくる。そのせいで徒労感も増していってしまっているのだ。

「負けないっ!」
「まだまだだよ!」

 そんな徒労感に見舞われても 最初から勢いが殆ど衰える事が無いのが、絶剣と剣聖。ユウキとランの2人だった。他のメンバー ジュンやノリ、タルケン、テッチも憔悴しているとまではいかずとも、肩で息をしている場面が見て取れる。
 だというのに、先頭にたっているリーダー2人は憔悴の色は勿論、疲れている様子も見えない。凶悪極まりない多腕の攻撃、多彩な槌の攻撃や変則な攻撃軌道の鎖を軽快で華麗なステップで掻い潜り続けている。
 鎖の防御は 剣で約1秒間だけ受け止め 後は鎖を滑らせる様に剣を添え続けると 衝撃(ノックバック)をキャンセルする事が出来る。判定があるのは鎖が当たった1点のみの様で、動かす事で判定を変え続ける事が出来る様だ。

 勿論、それもリュウキの攻略法ではあるのだが、こうまでものの見事に体現してしまう2人の技術にはやはり感服する。

 2人を支えるのは、超絶的な反射速度 そして 防御や攻撃の要の観察眼。其々が持つユニークスキルだと言っていいものだけではなかった。

 キリトやリュウキ……、あの世界で最前線を戦い続けてきた者達にも匹敵する強靭な意思の強さを 見た気がした。


――必ず倒す。倒して見せる。


 その1つ1つの気持ちの強さが、剣へと宿り数少ない攻撃チャンスで当て続けている。
 あの巨人にとっては小さく拙い攻撃なのかもしれない。だけど、それでも何度も当て続ける事で、少しずつ少しずつ 巨人を後退させる事が出来た。

「何か……、何か弱点は………」

 アスナは、勇戦し続けてくれている前線の皆を見守りつつ、巨人をその蒼い眼で睨み付けた。
 リュウキの様な全部見通してしまう様な《眼》は自分は持ち合わせていない。……だけど、これまで戦い続けて培ってきた経験則は活きる。それも間違いない。

 何よりも リュウキやキリトがいなければ、何もできない……では2人と一緒に歩く事など 隣で歩き続けるなんて、出来る筈もないのだから。

 まだ初戦は比較的短いと言っていい時間だったから 弱点までは視通す事が出来なかったのか、リュウキの攻略法にそこまでの記載は無かった。曰く『パターンが変わって初めて顔を出す弱点もある』との事で 通常バージョンでは無い。巧妙に隠されている等ではなく、全く見当たらない、と言う事があるらしい。

 だから、今からの 追い詰め続けて変化する巨人の挙動の1つ1つを決して見逃さない様に、アスナは目を光らせたのだ。

「うー……、あの腕はずるいよ。隠せれてない足とか、胴の部分とか開いてるのにそこも鉄壁なんて……」

 つい愚痴を言ってしまうのは、一時離脱しているレイナ。
 その気持ちは痛いほど判るというものだ。殆どランダム仕様なのか あの防御態勢になられてしまえば、本当に攻撃が通らない。されればされるほど 非効率的になってしまう。それだけ 皆の気力も下がってしまうのだ。 
 
 だけど弱音を吐き続ける訳にはいかない。ぐっと飲み込んで突破口を見出さなければ……勝てない。

 それはレイナもよく判っている様で、愚痴は言いつつも決して目を逸らせたりはせずに、回復ポーションを使いながらも、巨人を見続けていた。些細事からでも決して見逃さないのはレイナも同じ。……いや アスナ以上だと アスナ自身も思っている。
 
 心を通い合わせた相手と一緒に長く戦い続けてきたからか、その力の一端がレイナにも宿っている、と思わせる。

 2人の眼が……巨人の全てを見通そうと集中した。

「………あっ!」
「っ!!」

 巨人が防御態勢をとった時だった。
 レイナとアスナ、殆ど同時に小さく声をあげていた。そのせいでか アスナは詠唱ミスをしてしまってぼふんっ! と周囲にファンブルした時の黒煙が立ち込み、レイナも盛大に歌をミスしてしまった為、まるで鐘が1度鳴った? と思う様な独特の効果音が鳴った。

「だ、大丈夫ですか??」

 少なからず慌てたシウネーが視線を僅かに横に向けて2人を見る。
 シウネー自身もつられてミスする様な事はなく、全体回復魔法をしっかり使用し皆の回復は間に合っていた。

「ご、ごめんなさいっ。シウネーさん! ちょっと、判ったかもしれないの」
「うん。私も――見えた!」

 アスナとレイナの言葉を訊いて、シウネーの目が輝きをみせたかの様に明るくなった。

「本当ですか??」
「うん。ちょっとそれを試してみる! お姉ちゃん」
「了解。私は氷の魔法で。レイは、歌の攻撃で」

 アスナが放つのは氷の魔法。氷をナイフの形に象り対象にぶつける魔法で非追尾型(ホーミング)の魔法。故に照準は自分自身で付けなければ外してしまう難しい魔法ではある……が、この時は最も都合が良い魔法でもある。

 そして、レイナが放つのは歌声を攻撃に変えて放つ()の力。この力も非追尾型(ホーミング)に分類されるものではあり、更に言えばアスナの放つ氷魔法までの攻撃力はない。だが 良い点は攻撃判定の範囲が広いという面にあった。氷のナイフの様に外せばゼロではなく、音による攻撃、実体の無い攻撃である。だからか効果範囲が広く、その代わり攻撃力が落とされている。

 狙いを付けやすいレイナの音の攻撃と 狙いは付けにくいが攻撃力が高いアスナの氷の魔法。

 2人の放つ2つの攻撃は――巨人の喉元へと軌跡を描きながら向かっていった。



「グォォォォォォォッッ!!!」



 途端に、巨人が呻き声を上げて、ハンマーの攻撃を中断し防御態勢をとった。そのまま約5秒間攻撃はせずに防御姿勢を取り続け、軈て解除して再び戦槌を思い切り石畳にたたきつけ、衝撃波の攻撃を放っていた。

「見つけた……!」
「間違いないよ」

2人は小さく頷きあう。
 そして把握した事をシウネーに伝える為、一時後退した。

「あの防御行為は、ランダムかと思っていたけどそうじゃなかった。首元が弱点(ウィークポイント)になってて、そこを攻撃するか、その近くを攻撃するかすれば 回避しようとあの体勢に入るみたいだわ」
「うん。ユウキさんやランさん、皆の攻撃は届かない筈だけど、属性のソードスキルの効果範囲があって、その攻撃判定が首元に近かったから 回避しようとしてあの体勢に入ったんだね」
「な、なるほど。では そこを攻めれば倒せますか!?」

 シウネーの期待に満ちた視線を受け取ったのだが……、まだ安易な事は言えなかった。
 パターンが変わる可能性が高いからだ。弱点を見破られた時、或いはHPを削った時に……変わる。その危機を打開しようと、変わってくる。少なくとも攻略をしてきた22層までのボスはそうだったから。

「少なくとも効率は良くなる……としか言えないけど、今までよりは良い筈だよ」
「うんっ。……でも それ以上に注意しなきゃいけないかも……。何せ あの部分が弱点なんだから。集中砲火したら、どんな攻撃や防御パターンになるか まだ判らないから」

 2人の説明を訊いて、楽観的にはなれないという事はシウネーには判った。でも、好転する事実には変わりない。そこから先はどうなるかはわからないが、何もしないよりは良い、と言う事も判った。

「うぅーん…… でもお姉ちゃん。あの部分は……」
「だね。ちょっと場所が高すぎるかな……。翅が使えないダンジョンでの戦闘での空中戦は、ちょっと危険だから……」

 巨人の身長は恐らく目算でおよそ4m程はあるだろう。首筋を狙おうにも、タルケンの長槍でも、ジュンの両手剣でも まだ届かない。そして アスナが言う様にダンジョン内では翅が使えないのは周知の事実だ。

「では、カウンター覚悟でソードスキルを使うしかないかもですね。……あの2人は勿論、皆 得意分野です」

 シウネーの言葉、そして その中にある覚悟、信頼。
 全てを訊いて、アスナもレイナも顎を退いた。

 空中戦が危険であるのは、当然ながら空中で動く為には突進系のソードスキル、或いは習得しているのでれば、脚を使った体術スキル、そして スキルではないが 連撃系のデフォルト技を使うのが通常だ。

 だが、それらを使用するには、対人であっても対BOSSであっても等しく最大のリスクである遅延(ディレイ)に注意をしなければならない事にあった。

 スキルを使った後には当然ながら硬直してしまう時間がある。空中で止まる訳ではないから落下はするのだが、その落下時間が このコンマレベル戦いの中において 気の遠くなる様な時間なのだ。無防備に落下していく所に、あの巨大な戦槌での一撃を貰えば……その身体は粉々になってしまって、あっという間に(リメインライト)になってしまう事だろう。

 仮に死亡しても魔法で蘇生を試みる事は出来る。……だが、バトル中の蘇生魔法は成功率100%ではなく、更に言えば詠唱時間もこれまた気が遠くなる程の時間を要する。その為、他の皆のヒールの時間が間に合わなくなって、パーティが崩壊する可能性も有り得るのだ。

 そうやって、散っていったパーティたちを……何度か見た事があるから。

 でも――そんなリスクがあっても、目の前で戦い続けている少女たちは。ユウキとランは、臆するだろうか? 

 いや、答えはNOだ。

 まず間違いなく、きっと『迷わずにやってみよう!』と2人そろって言うだろう。容易に目に浮かぶと言うものだった。

「お姉ちゃん」
「うん。判ってる! よし レイはシウネーのカバーを。まだマナ回復薬があったら上げて。シウネーはもう少しだけ回復役をお願い! 私は皆に作戦を伝えてくる」
「任せてください!」
「うんっ! 大丈夫だよ!」

 シウネーとレイナは力強く頷いた。
 手早くアイテムウィンドウを出して、スクロールさせ レイナはシウネーに残りわずかなマナ回復薬を渡しつつ、細剣に持ち替えた。
 シウネーも小さく『ありがとうございます』と礼を言って すかさず戦況を見定める。

 それを確認したアスナは、すかさずダッシュをした。
 役15m程の距離を一瞬で詰めた時、巨人の間合いに入ってしまったのか、鉄鎖がアスナに迫ってきた。じゃりぃんっ!! と劈く様な音が響き 唸るように迫ってくる。自分自身の細剣じゃ あの勢いの攻撃は防ぐ事も受け流す事も出来ないと悟ったアスナは 素早く身を屈む事で回避。
 僅かに霞めてたちまちHPが削られてしまうが、それでも走り続けて前衛に合流する。

「ユウキ!! ラン!!」
「アスナ!? どうしたの!??」
「だ、大丈夫ですか!? 攻撃が……!」

 ランが再び迫る鎖を渾身のソードスキルではじき飛ばした。ただのパリィであれば、ダメージは必至だが より強い技であれば威力を相殺する事が出来る。……それでも巨人の攻撃力は凶悪である為、五体満足で済む事は殆ど無いのだが ランの正確無比な攻撃とその放つタイミング、角度もあって この難関を突破した。

 アスナは、小さく『ありがとう』とランに言うと同時に。

「訊いて、2人とも。あいつには弱点があるの。2本の首の付け根中央を狙えば大ダメージを与えられる筈だわ」
「えっ!? 弱点っっ!!」
「本当ですか!?」

 願って止まなかった情報だ。
 リュウキの攻略法にものってなかったと記憶している。だけどひょっとしたら、と言う事もあるから 時間があれば、また隅から隅まで拝読したいのだが……、この状況ではそうも言ってられない。

「うぅん……でも あそこじゃ……」
「ちょっと高過ぎ……ですね。私やユウがジャンプしても、……いや 2人で飛べば何とか届きますね……」
「え……、2人で?」
「あ、うん。ボクがジャンプした後に姉ちゃんがジャンプして ボクが失速した時まだ余裕がある姉ちゃんがボクを捕まえて上に投げてもらうヤツだよ。倍以上ジャンプ出来るから、届くかもしれないけど―――」

 まさかのアクロバティック過ぎる技、システムに頼る様なジャンプではないから、システム外スキルだと言える。《飛翔連携》とでも言うべきだろうか。
 その口ぶりを訊けば、何度かしている様だからぶっつけ本番だという事ではなさそうだ。

 そして、ユウキが暫く考え込む仕草をした……が、その直ぐ後 予想していた答えと全く同じ答えが返ってきた。

「やってみよう! ねぇちゃん!」
「うん。このままジリ貧になってしまうかもしれないからね。……やってみましょう!」

 2人の返答は、リスクを恐れずやろうというもの。……アスナの思っていた通りの答えだった。だから、アスナも笑顔で頷いた。

 そして ユウキは周囲を見て。


「みんなーーっ! いっちょ やってみるよ! 成功を願ってて!」


 ユウキの凛とした声が響く。
 それを待っていました! と言わんばかりに一斉に全員が頷いた。

 ユウキは、クラウチングスタートの様に身を屈めると。

「いくよ! 姉ちゃん!」
「ええ。いつでも」

 ランに合図を送り、一気にダッシュ。
 ランも違う角度から少しタイミングをずらしてダッシュ。僅かな助走のずれ、飛ぶタイミングのずれが命取りになるであろう力技。……だが この2人にはまるで関係ないとも思える。……成功するとしか思えなかったから。

「やぁ!」

 ユウキがめいいっぱいの掛け声と共に宙へと飛び出した。
 
「やっ!」

 やや遅れてランも跳ぶ。
 軈て ユウキの跳躍の勢いの失速、そこに現れる滞空時間。その刹那の時間帯で追いついたランがユウキの手を取った。

「ユウ……行って!!」
「うんっ!!」

 通常よりも遥か高く――駆け上がったユウキ。
 そして、間違いなく届いた。巨人の喉元へと刃を突き立てる事が出来る場所にまで。

 このまま 喉元へ最大のスキルを…… ユウキのオリジナルソードスキルである11連撃を食らわせれば、間違いなく大ダメージは必至だろう。

『行けるよ! ユウキ!!』

 アスナは、細剣を構えつつ ユウキに心の中でエールを送った。
 あの超絶スキルがあれば、一撃で倒す……まではいかなくとも、かなり減らす事は出来る筈だ。運が良ければダウンして 一気に総攻撃が出来る可能性だってある。

 だけど――この時 いやな気配が、気味が悪い電流ににた何かが 身体を流れた気がした。

 不穏な気配。それはキリトやリュウキが言っていたシステム外スキル超感覚(ハイパーセンス)。それを――感じた。あの旧アインクラッドではある意味命綱だったと言っていい感覚。死の感覚。

「っ…… なっ!?」

 アスナは、はっきりと見えてしまった。
 巨人は喉元を攻撃。或いはその近くを攻撃する事で、5秒ほど完全防御態勢になっていた。
 それは、自分自身とレイナの攻撃で再確認したから間違いない。

 だが、あの巨人は……まだユウキが攻撃していないというのに、防御体勢に入っていたのだ。それもただの防御態勢じゃない。4本ある内の2本を防御に集中させて……残りの2本を攻撃に備えていたのだ。

「えーーーっ、ずっこい!!」

 ユウキもそれは判っていた。目の前でされたのだから。
 そして、その行動は今までは全く見せていないものだったから、ユウキがずるい! と言ってしまうのも判る気がするが……。

「だめっ!! ユウキ!」
「ゆうっ!!」

 はっきりと見えたのは、ユウキやアスナだけではない。ユウキ程まで高くは飛んでいないが、まだ宙にいるランも同じだった。
 2本の凶悪な腕がユウキを捕らえる場面が はっきりと予測出来たのだ。ユウキの攻撃は最小限度に押し留め、残った2つの腕で攻撃に転じる。
 最悪の一手だ。間違いなく ユウキの耐久力だったら、粉微塵になって吹き飛んでしまうだろう。

 だけど、最も近くにいるランは 宙にいて落下中であり、アスナは届かない。ユウキを助ける事が出来る場所へ誰も辿りつく事が出来ないのだ。

 そして、ユウキはスキルの発動が完全に終わって硬直時間が解けるまで 別の動きをする事は出来ない。



「ぁ……、これは まずいかも………」



 思わずそう呟いてしまう。
 一瞬と言っていい時の流れの筈なのに……気の遠くなる様に長く感じてしまうのは、まるで走馬燈の様だった。これを感じてしまうという事はどういう事なのか。ユウキ自身にもよく判っていた。極限状態でのボス攻略は何度もした事があるから。

「(くっそー……、せっかくアスナが弱点を教えてくれに来てくれたのに……。ボクがやられちゃって 皆は大丈夫かなぁ……? 姉ちゃんにも心配かけちゃうし……。もうちょっと落ち着いて考えてみればよかったのかなぁ……。あ、でも 姉ちゃんだって了解してたんだし、仕様がない、かな? ……でも 悔しいなぁ)」

 一瞬が何時間にも感じる事が出来る。
 巨人の攻撃が迫ってくるのがよく判るのに、考える事が出来ていた。
 それでも、完全に時間が止まっている、と言う訳ではない。……必ず訪れる。

 最後に、ユウキが強く感じていたのは やっぱり悔しいという気持ちだった。

 頑張ったのに、次こそは、と頑張り続けていたのに、と。

 
 最後の瞬間。その巨腕が迫ってきたその瞬間 ユウキは目を閉じてしまった。

 それは 無理はないというものだ。如何に類を見ない程の力を持ったユウキとはいえ 彼女はまだまだ幼さが残る少女なのだから。

 そして、その巨腕がユウキの華奢な体に触れるその刹那だった。




――待たせたな。




 声が、聞こえた気がした。
 気のせいだったかもしれない。だけど、確かに耳に届いた。

 その次の瞬間、どかっ! と何かにぶつかった様な衝撃と 同時に力強くだき抱えられた感触に見舞われた。

 力強く抱かかえてくれる。一瞬だというのに……とても暖かい気持ちになる事が出来た。
 もう、随分昔に感じてしまうけど―――。

 それは 大好きなママやパパが抱いてくれた時の様な……暖かい感触。

 それに似ていた。
 永遠に感じ続けたい、とユウキは思っていたが 流石にそうはいかない様で。いつまでも衝撃が来ない事もあってゆっくりと目を開いた。

 抱きかかえてくれたのは……。



「待たせたな。ユウキ、それに皆」



 外で、自分達の為に戦ってくれている筈の男―――リュウキだった。
 突然現れたリュウキに驚きを隠せられないメンバー。


「リュウキさんっ!」
「リュウキくん!?」 


 それはアスナとランも同じだ。本当に突然の事だったから。

 空を飛ぶ事は普通は不可能だ。……が それを可能にするのは先ほどにも説明した通り何通りかある。リュウキが使ったのは、あの回廊で披露した体術スキル。それを駆使して ユウキの窮地を救ったのだった。

 そして 今は後衛に位置しているレイナも、最愛の人が来てくれた事に 目元を潤わせていた。大丈夫だったことの安堵感もあったから。


 
「さて……、遅れてきて詫びも出来てないが、……最終ラウンド と行こうか? 皆」



 ユウキを片手で抱き、残った手に持っていた剣が巨人を見据えていた。

 それは リュウキの言うように最終ラウンドが、終盤戦が始まった瞬間だった。 






















 そして余談ではあるが……、いや 当然ではあるが ユウキを抱きかかえている姿は皆が目撃している。何処かほんわか~ と表情を緩ませているユウキの顔も 見ている。

 だから、もー ほんと当然の成り行き。仕方が無かったという事は判るし そんな事を考えてる暇はないという事も頭の中では判っているんだけれど、それでも ヤキモチをしてしまう事が止められない。勿論直ぐ切り替えたんだけど……それでもちょっとだけ。

 そんな可愛らしい乙女達がユウキの事を 羨ましい――と言う視線を向けていたのだった。
  
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