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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第247話 森の家に皆と

 
前書き
~一言~

お、遅れてしまいましたが、何とか一話分投稿する事が出来てよかったです……すみません……。

原作から判ると思いますが、きっと次話からが、多分シリアスな展開になるかと……。一番難しい所ですね。何せこの小説では 彼女達はぜ~~~~~ったい生存ですから! それに代わる物語を考えないといけないので……w

 色々と忙しくてまた遅れがちになってしまってほんとにすみません……、でも これからも頑張ります!


 あ、後ちょっとしたお願い……と言うよりは希望なのですが 絵を描く事が出来る先生!
 おひまがあれば 凄く描いてもらいたいです♪ 

 勿論、ただの願望なので、スルーしてくれてOKです!


                             じーくw 

 



 2つの太陽、その目も眩む圧倒的な輝きが部屋の中を照らす。
 だが、その光にも決して負けない2つの光が巨人の身体を彩っていた。

 交差する十字の閃光、円形の閃光。それはあまりの速度と威力故にだったのろうか、太陽の光を瞬く間に消し去り、飲み込んだ。

 いや――違う。太陽の光と一体化したのだ。

 2つの太陽と2人の妖精は1つとなり 巨人を、邪を払った。
 
 軈て光は役目を終えたかの様にその輝きを消失させていき 遅れてくる巨人の絶叫と空中で停止しているかの様な2人。時間そのものが停止した様に感じられた。
 
 そして それはメンバー達にも言える事だ。不自然な体勢のまま全身を凍らせていたから。
 時間が動き出した、とはっきりと判ったのは ()が聞こえてきたから。

『……見事』

 たったそれだけの呟き。
 誰のモノであるかもはっきりと判った。まずは傍にいたレイナがその声の主の方をちらりと視線だけをくばせて、巨人に特攻をした2人も優雅に宙に着地をした。

 そして其々の呼吸音さえも響く静寂な空間に、最も大きな音が木霊する。

 それは、黒光する巨人の強靭な肌に無数の亀裂が発生した音だ。如何なる攻撃にも耐えて耐えて、全ての攻撃を跳ね返してきたあの凶悪強靭な身体が、その内から白い光を放ちながら、立ち木が裂けるような乾いた大きな音を響かせて、2つの首の接合部から、巨人の身体は真っ二つに分断された。
 そして その巨体は無数のガラス片へと姿を変えて、四方八方へと四散させたのだ。
 それと同時に、この層の主を失った部屋は その姿を変えた。妖しく照らしていた青いかがり火が一瞬だけ激しく揺れて、その後に通常の炎に、橙色の炎に変わって暖かい光で部屋満たされたのだ。

 何度か経験をした事のあるアスナやレイナだが、それでもこの時程 安堵感が包まれた事は無いだろう。絶望的な戦力差を直に感じて、ユウキがやられてしまいそうになり、パーティーが崩壊しかけた。
 それでも、乗り越える事が出来たのだ。……戦いに勝った勝者だけが味わう事が出来る達成感は本当にどう表現したらいいか判らない。

「は、はは……や、やった……」
「う、うんっ……。ほ、ほんとに……」

 漸く言葉を発する事が出来たのはアスナとレイナ。掠れた笑い声を漏らしつつ、思わずぺたりと座り込んでしまった。

「お疲れさま。2人とも」

 そんなアスナとレイナに声をかけるのは、この戦いにおいての救世主だって言っていい人物。『見事』と巨人に最後の一撃を撃ち放った2人を称賛した声の主。

「あはは……、うんっ リューキくんも、ね?」
「本当にたすかったよ……」

 にこっ、と笑顔を返すだけにとどまる。
 これ程までに緊張感の連続には、流石の百戦錬磨の2人であっても いつもの2~3倍以上は疲れてしまった様子だった。
 涼しい顔をする事が出来るのは…、労いの言葉を間髪入れずにかけてくれる目の前の勇者様だけだろう、とアスナは苦笑いをしていると。

「変な事、考えてないよな?」

 そんな 心を読んでくる眼にも正直脱帽だったアスナ。
 レイナも大体悟った様で、にこにこと笑みを見せていたその時だ。

 メンバーの一同。ジュンやテッチ、ノリ、タルケン、シウネーはアスナやレイナ同様に、歓喜の声を盛大に上げる事は出来ず、その場に武器を落として座り込んだ。仰向け、大の字になって倒れ込んだ者だっている。
 そんな 通常のボス戦勝利後とは思えない静けささえ感じる場に、短い間隔の足音が聞こえてきた。その音が近くなり、軈て聞こえなくなったと同時に。

「うわぁぁぁいっっ!! やった、やったよぉぉぉっっ!」

 喜びを爆発させる……とはこういうことなのだろうな、と思える様な笑い声。そして丁度リュウキの背中に思いっきり飛びついてきて、その衝撃を受け流す事が出来なかったリュウキは、そのまま座り込んでるアスナとレイナへとダイブしてしまう

 一瞬 ぎょっ! とした2人だったが それでも 何が起きたのかくらいは判る。そして 反応が出来たのは奇跡だって思える。キリトやユウキ、ランに負けない程の反応速度を見せる事が出来た、と思える程だった。
 倒れ込むリュウキをスローモーションの様に感じる事が出来、レイナとアスナの2人は座ったままではあるものの、抱きとめる事が出来たのだ。

「ぐはっ!」
「あぅっ!」

 それでも、少々威力が高かった事もあって大袈裟ではあるが、小さく悲鳴を上げた後に、身体から力を抜いてごろんっ、と倒れ込んだ。この時アスナは呻き声がやや女子力を下げかねない……と反省したのはまた別の話。(レイナの声の『あうっ』の方が圧倒的に可愛らしかったのに姉として……、と思ったのも別の話)

「あ、あはははは! やったよ、やったー! リューキっ! アスナっ、レイナっっ!! 勝ったんだ、勝ったんだよーーーっっ!!」

 リュウキの背中に腕を回し、頬ずりした後に、視線をアスナとレイナに向けて ロックオン。器用に動いて今度はアスナとレイナの2人に抱き着いた。

「あははは。やったねっ! ユウキさん」
「そうだね。あ―――、ほんと、疲れたかな……?」

 完全に身体から力を抜く2人。
 そんな事は御構い無く、2人の上ではしゃぐユウキ。

「ふふ。ユウったら ほんと 子供みたいに……」

 そんなユウキを微笑ましそうに見守るのはランだった。
 ユウキが落とした黒曜剣をそっと拾い上げると、胸に抱えて戻ってきたのだ。
 そんな姿を見たリュウキは、座ったままだが ランの方を見て笑った。

「でもラン。こう言う時は……良いって思うよ。ユウキの様に 喜びを爆発させてもな。……面倒見が良いのはよく判るけど、こういう時くらいはさ。それに ラン。最後の一撃は……本当に見事だった。って、ちょっと偉そうだったか……」
「っ………。は、はいっ! いえ 偉そうだなんて 思えないですよ。リュウキさんは……私にとって その……目標、ですから」
「……そうか」

 ランは少し恥ずかしそうにしつつも 頷いた。
 軈て我慢が出来なくなったのか、或いはユウキが何度も何度も言っている『勝った』と言う言葉が実感させたのかはわからないが、胸に抱いたユウキの剣と自分自身の剣を床に落とすと。少し俯かせつつ、ゆっくり呟く。

「では……お言葉に甘えたいと思います……。リュウキ、さん。…………やりましたっ!」
 
 笑顔を花開かせて、ランもリュウキに飛びついた。
 いつも落ち着いている印象。お転婆なユウキを見守る印象だったランの行動はちょっと予想外だったが、ユウキの様な予告なしのロケットスタートじゃなかった為、リュウキは余裕を持って そして笑顔で その身体を抱きとめた。

「やりました……、やりましたよ……。私達……本当に…………っ」

 何度も何度もつぶやくランの言葉。そして 顔を埋めているのではっきりとはわからないが、その眼にはきっと涙が浮かんでいるのだろう。声色から察する事が出来た。だから、リュウキは。

「ああ。……やったな」

 言葉は短く、余計な事は言わない。ただただ、その背を何度も摩ってあげていた。

 僅かにだが嗚咽がリュウキの腕の中で聞こえてくる。


「……見ていて、くれてますか………?」


 ここから先は、きっとラン自身も無意識だったのだろう。
 その言葉は、リュウキやほかの皆に向けての言葉とは思いにくかったから。


「私達は……やりましたよ。皆と一緒に……足跡を、証を……残す事が……できましたよ………」


 涙声になっているその言葉は、徐々に輪郭を帯びていった。
 追及は決してしようとは思わなかった。ユウキやラン、他のスリーピングナイツの強い想い。ボスを倒し その証をこの世界に刻みたい。残したい、と思った理由なのだろう、と言う事はよく判った。
 
 次に思うのは――それを訊いてもよいのだろうか? と言う点だった。

 共に戦った間柄とはいえ、まだ核心に触れる様な事は知らない。その心の奥までは知らない。誰にでも触れられたくはない心の絶対領域と言うものはあるのだから。無意識であっても、初めに訊いてしまうのは良いのだろうか? と想い、ランに声をかようとした時だ。



「あなたが好きだった……太陽と。あなたが好きだった……ひとと一緒に……。…… 見ていて、くれてますか……?」



 紡がれる言葉は、全くの予想外の言葉。
 ランの言葉で 過去から未来へと続く道が、何故か 目の前にはっきりと開けた気がした。



『――――……』

 


 その(・・)名を訊いて、今度はリュウキ自身の時間が止まった気がした。
 暖かい光に包まれているというのに、軈て皆が集まってきて騒がしくなったというのに、凍った様に止まってしまう時の矛盾を感じた。
 そして 動き出す切っ掛けも突然訪れた。

 それは、背後の方で重々しい音が響いてきたからだ。

 次の層に続く扉は目の前に有り、それが入り口の大扉であるという事は直ぐに皆は理解出来た。ゆっくりと左右に開いていく音。それが、件のギルドの連中が開いたものなのだろう、と思ったアスナやユウキ、そしてレイナは にこっ とVサインを準備していたのだが……、この時の光景に 再び衝撃が走った。


『ほらな……? 絶対やれるって言っただろ?』
『そりゃ、オレだって完璧疑ってた訳じゃねーさ。……んでもよぉ、あの鬼畜ボスをこの人数でって、中々信じにくいわけで……』
『お兄さん、お姉さん、それにママがいるんですっ! 負けませんよ!』

 本来、思い描いていた者達の登場であれば、狙っていたボスを倒されたのだから、信じがたい光景が広がっている筈だ。唖然としたり、悔しそうに呻いたり、と簡単に想像が出来るのだが、そのどれでもなかった。

『……ま、私もキリトと一緒の考えね。……リュウキがいるんだから』
『はいはい。アンタもよっぽど好きなのね。ここでまごまごしてて良いの? 完璧な人間磁石状態になってるわよ? ほら、レイナやアスナ似のあの子と。レイナが見てないからって、抱き合っちゃってるわ。あのジゴロ。さっさと行かないで大丈夫?』
『っっ!! もうっ! アンタは一言多いのよ! アンタこそ、直前までは一緒に行けてたかもしれないのにってイライラしてたくせに! 絶対リーファやサクヤと一緒に来られなかったからって、不機嫌だったんでしょ!』
『なっっ、何言ってんのよ! てきとーな事言うんじゃないわよ!』
『その言葉 そのまんま返すわ! こっちのセリフ!』

 フシャーーッ!! と、シノンとリタ。猫と猫の対決でも行われているのであろうか、けん制し合っている。けん制し合ってるんだけど……何処か、本当に楽しそうだったのは気のせいじゃないだろう。

「……ま、まさか。あの数を全部? ぜんぶ、やっちゃった? 僕たちを合わせても10倍以上は揃っていた筈……なんだけど」

 ぼーぜんとしているのは、入り口に最も近かったジュンだった。
 ずるっ、と装備のアーマーがズレた気がしたのは気のせいじゃないだろう。

「あ、ははは……、信じてたよ。……でも、ほんとに全部やってきちゃったんだ……。すごい」

 レイナもリュウキがいるなら、大丈夫! と最初に豪語した通りの展開になっていて、信じていたものの、やはり衝撃が大きかった様だ。

「キリトくんだもん。それに、ユイちゃんだって一緒にいる。クラインさんや、しののん。リタさんだって来てくれたんだから。だから、とーぜんだよっ!」
「だね? キリトくんだもんねー」
「っ……、え、えと ……うんっ」

 アスナとレイナは、穏やかな顔になり、押し留めてくれた 打倒してくれた皆に。アスナにとっては最愛の人のキリトとユイは勿論、クラインやシノン、リタと大切な友達である人たちに笑顔を向けていた。

 その表情に、或いは言葉を地獄耳で聞いていたのか、クラインが盛大にキリトに肘撃ちしていたのはまた別の話。

「ってな訳で、オレらは戻るな。リュウキ。それにアスナ、レイナ。皆も。今回はお前達の戦いだったから 黙って戻るつもりだったんだけど……、見届けたかったから」

 キリトは、頭を軽く掻きながらそういっていた。
 止まっていたリュウキの中の時計の針も動き出した。

「勝てるって信じてたよ。キリト達ならさ。……オレは」
「その辺は同じだな。オレ達だって心配しちゃいなかったさ。そっちのパーティの事もな」
「おおともよ! リュウの字に貸し作れる事なんざ、滅多にないからなぁ。盛大に使っちまったアイテム類とかの分も上乗せしとくからなぁ、リュウの字」
「………こっちもそれなりに埋め合わせして貰うから」
「ま、私は魔法スペルの件で色々とリュウキに聞きたい事や、やりたい事だってあるし。その辺はまた回収するわー」

 和やかになるのも束の間。
 これ以上は勝利パーティの邪魔になる。勝利の余韻はそのパーティーだけのモノだという事を理解して 足早に退出していった。スリーピングナイツの皆が引き留める間もなくアッと言うまに。

 最高の笑顔とVサインと言う目標も無事に叶える事が出来た。

 それも本当に、最高の形で。








 後々に大型ギルドとは面倒な事に巻き込まれるよなぁ、と少なからず頭に過ったアスナとレイナだったが、笑顔のまま部屋の奥の大扉を開ける皆の姿を見たら、それこそ些細で小さな問題だ、と思って一蹴していた。

 長い螺旋階段を登り切る頃には、完全に頭の中からは無くなっていた。

 そして東屋風の小さな建物から飛び出すと そこはもう前人未到の28層だった。新たな層にやってきた実感を胸に抱きつつ、直ぐに近くの主街区まで一息に飛んで、中央広場の転移門を有効化(アクティベート)した所で、ボス攻略は完全に終了となった。

 解放された門は、直ぐにその役目を果たして、皆をロンバールまで運んでくれた。

 その門から出た広場の片隅で小さく輪になると、あらためてばしん、ばしんっ! と高く大きくハイタッチを全員と交わした。

「みんなっ、おつかれさま! ついに終わったねえー」
「うん! なんだか、ずーーーっと戦ってきたって感じだったよー。でも あっという間にも感じたし、とっても不思議で、楽しかったよっ!」

 アスナとレイナの笑みは、何処となくそこはかとない寂しさも含まれていた。
 その気持ちは、直ぐ横で聞いていたリュウキにも察する事は出来る。あくまで自分達は傭兵。そして 今回の依頼は《27層のボスの討伐》。
 仮に、これがイベントNPCの類であれば、ここでお別れが通常だ。契約の終了はひとまずの別れを意味するのだから。

 そんな2人を軽く見た後……、リュウキは意味深に笑った。

『あの世界、SAOでは……。2人は 何度も何度も来た筈だったけどな……』

 リュウキは、2人を見てそう思ったのだ。
 アスナはキリトを、レイナは自分を、何度も何度も追いかけて、何度も何度も会いに来て……関係を持てた。そんな2人なら、この皆とこれで終わりとして諦めるなんて、思える筈がない。
 あの世界と違って――、ここででは沢山の時間があるのだから。

 リュウキは口に出していなかったのだが、言わんとしている意味がよく判った。だからこそ、もう一度お友達に――と考えていた矢先に、不意に肩に感触があった。アスナとレイナの2人に。

「いいえ、待ってください。アスナさん。レイナさん。まだ、終わってません」

 感触の正体は、不意にシウネーが2人の肩を叩いたものだった。
 何処か天然さも持ち合わせているが、それでもランの様に穏やかなにのほほんと見守っているお姉さんポジションのシウネーだったのだが、いつになく真剣な表情をしていた。

「「………え??」」
「何かまだあったか?」

 アスナもレイナも、リュウキも判らず、首を傾げていると、真剣な顔のままシウネーは言った。

「大切な事が残っていますよ」

 その表情を見て、アスナが咄嗟に浮かべたのは黒鉄宮の《剣士の碑》の事だ。考えてみたら、目的はこの世界に証を残す事。存在した証を刻む事。……全員で名前を残す事にあったのだ。
 だとすれば――まだ、浮かれるには早いだろう。はっきりとその証をこの目で見て確認するまでは。

「…………」

 リュウキもアスナと同じ結論に至った。
 そして、もう1つ――――

 全てを確認した最後に、皆に ランに訊いてみたい事があった。

 黒鉄宮はSAO時代とは少し作りが違っていて、天井部の一部が吹き抜け状態になっている。そこから、朝昼は外の陽が降り注ぎ、夜は月明りが剣士の碑を照らしているのだ。

 ――太陽。
 
 生きとし生ける者にとってなくてはならないもの。

 このギルドにとっては、どんな意味を持つのだろうか? そして――ランに訊いてみたかった。太陽(・・)の事を。


 と、色々と複雑な事を考えていたのだが、次の言葉は、アスナとリュウキの予想をはるかに大きく裏切るものだった。

「――打ち上げ、しましょう」

 真剣な表情のまま紡がれた言葉は、この後の打ち上げ、お疲れ様会。
 まさかの発言に、思わず膝から崩れそうになるが。

「あはははっ! そうだねっ! 忘れてたっ!」

 レイナはそうは思っていないようで、ただただ笑っていた。 レイナは、シウネーの人柄と言うものを、自分達の中では誰よりも早く判っていたのだろうから、予想する事が出来た様だ。

「やろう! どーんと盛大にやろう! 前代未聞のボス攻略だもんっ。おっきく盛大にやらないと、損だからね」
「そうだな。……久しぶりに色々と騒いでも良いかもしれないな。……随分と高揚したからな」

 アスナは勿論の事、普段クールなリュウキも同じ気持ちだった事に嬉しかったのだろうか、真剣な表情をしていたシウネーは ぱぁっ、と笑顔になった。ジュンも続けて言う。

「なんせ、予算はたっぷりとあるしな! それで場所はどうする? どっかの大きな街のレストランでも借り切ってやるか!」

 ジュンの提案は良いものだ。主要都市の主街区、その大きなレストランともなれば、かなり値を張るが それでも豪勢な作りのものばかり。現実世界で言う3つ星レストランなど、目がくらむ程で ファンタジーな世界観だからか、その装飾も鮮やか。

 だけど、それよりも良い場所がある……とアスナは思った。それは22層の森の中にある小さなログハウス。まだ仲良くなって日は浅い。でも、きっと皆とも仲良くなれる。先に帰ってしまったキリト達の事もあるし、皆の事を改めて紹介したいという気持ちもあった。

「えっと、そういうことなら………、わたしたちのプレイヤーホームにこない? ちっちゃいとこだけど……。レイとわたしのホームも直ぐ傍だし、合わせたらそれなりには……」
「あっ、それさんせーだよ! 皆の分の家具とか、追加用意出来るしねー!」

 とアスナとレイナがいった途端、ぱぁっ、と顔を輝かせたのはユウキだった。

 だが、それは一瞬だけだった。ユウキの笑顔は直ぐに陰る。まるで雪が解ける様にたちまち消え去ってしまった。そして 一瞬だけ ユウキはランの方を見た。

 ユウキは ランに何かを言ってほしかったのだろう。自身の感性と感覚で解決出来る戦闘なら兎も角、それ以外の事はランに頼る事が多いのがユウキだったから。
だが、ランからは何も無かった。ユウキには何も言わなかった。

 いや ラン自身も答える余裕が無かったのかもしれない。

 ランもユウキの様に いや……或いはユウキ以上に表情を落とし、唇をかみしめていたのだから。

 その様子を間近で見ていたリュウキは 『大丈夫か?』と声を掛けようとした。先程(・・)の事もありランには注視する事が多くなっていたから、いち早く気付けた。
 でも、長らく共に過ごしてきている仲間であるシウネーの方が早かった。いつもは控えている彼女が、2人の代弁をするように口を開いた。

「………あの……ごめんなさい。皆さん。お気持ちは本当に嬉しいんです。ですが、気を悪くしないでいただきたいんですけど……私たちは………」

 シウネーは、ランに言った言葉を思い返しながら言葉を必死に選び続けた。

『気にしなくていい――』

 それは先日、ランに言った言葉。そして 自分達に関係する事柄であり、引いてはスリーピングナイツのギルドの核心(・・)でもある事だ。
 そして、シウネー自身は『気にしなくて良い』という言葉をランに言ったが ランはその言葉を拒否した。本気で怒ってそう言っていた。ランが皆を想う気持ちに嘘偽りがないからこそ、心に響いてきた。
 でも シウネー自身もその気持ちは負けていない。

 その揺れる気持ちの間の中で シウネー自身ももがいていた。

 そんなシウネーの気持ちを決定づけたのが、ユウキだった。
 今の今まで俯いていたユウキだったが、そっと伸ばした手でシウネーの手を掴んだのだ。無言のままだったが、何か言い聞かせるように唇が2度3度と動いた。
 それを見て、シウネーは深く考え続けていたが、考えるのを止めた。やや険しい表情をしていたのだが、柔らかいものに変わり、ユウキを見た後ランの方を見て にこりと微笑んだ。右手でユウキの手を握り返し、空いた方の左手でランの肩に添えた。
 
「アスナさん、レイナさん。ありがとう。お気持ちに甘えてお邪魔させていただきますね」

 正直な所 今の一幕に関しては意味が全く理解できなかった。アスナやレイナはただただ首を傾げていた。何かを感じ取っていたリュウキだけが、ただ表情を引き締めて ランとユウキを見ていた。

 だけど、詮索をさせない様にしたのか 或いは雰囲気を変えたかった、場の空気を吹き散らしたかったのか、ノリがいつもの豪快な声で言った。

「そうと決まったら、まずは酒だな! 樽で買おう! 樽で! リューキもつええだろ? あんだけつよいんだから、とーぜん、酒だって!」

 雰囲気を思いっきり吹き飛ばしたのは間違いない。それは雰囲気だけじゃなく――リュウキの表情も。

「っっ……」

 酒、と言う単語を訊いた途端に リュウキはびくんっ と身体を痙攣させていたのだ。

「んー?」

 ノリは その反応が気になったのか リュウキの傍に近寄っていく。
 ある程度近づく間に、大体の事情を察したのか、想像ついたのかはわからないが、ニヤニヤと笑いながら。

「おねーさんのお酌は付き合わないとだぜー? 良い男ならよ?」
「ぅ……そ、それは……」

 リュウキは、ノリの言葉に口籠ってしまっていた。
 お酌については 一応はそれなりのマナー的なものは知っている。それに クラインからの薦めであれば、ちゃちゃっとスルー出来るのだが、……女性からのお誘いは無碍には出来ない。酒に関しては依然のトラウマがあるから 正直難しい、と言う気持ちが非常に強かったのだが 綺堂源治の紳士としての嗜み、教えがあったから、こちらもその板挟みになってしまっている様だった。

「ノリ。絡み酒はよくありませんよ。後、ノリの好きな芋焼酎はありませんから」
「ああー? なんだ! それじゃあ いつもアタシが絡んでるみてーじゃねぇかー!」
「………絡んでるじゃないですか」

 ぼそっ、と言うタルケンのツッコミ。標的をタルケンに変えたノリ。
 先程までの空気は、もう完全に霧散していた。表情を俯かせていたユウキとランは 次第に笑顔に戻っていったから。

「なんだとー! ああ、それにアタシが好きなのは泡盛! 泡盛の古酒なんだぞ! 芋焼酎好きだなんて、いつ言ったか!」
「ははっ、色気のなさが一緒じゃんかよ」

 タルケンに続いて、ジュンもツッコミを入れて、笑顔に戻っただけでなく、皆の笑い声も響いてきていた。

「それにしても、リュウキは酒駄目なんだなー? 何だか意外だ。夜とか、タンブラー片手に月明りの下で、晩酌~とか似合いそうなんだけどなぁ」

 暴れそうになってるノリを何とか制しつつ、リュウキの方を見てそう言うジュン。
 酒が駄目だというのは、先ほどの反応を見ただけでよーく判ったから。

「う……、そ、それは……」

 ジュンの言葉を訊いて、言葉に詰まるリュウキ。それを見てレイナはニコニコと笑っていう。

「あははっ、リュウキ君は以前にお酒でちょっとあってね? だから、勘弁してあげてくれないかな? その分 料理は存分にお姉ちゃんと振る舞うからさっ!」 
「わっ、それなんだか楽しみだよー! レイナやアスナはお料理上手なんだ??」
「え、えへへ……それなりに、ね?」
「それは本当に楽しみです」
「ええ、本当に……」

 料理の話になって、恥ずかしそうにしながらも アスナは何処か気合が入っている様だった。やや戦いではランやユウキ、そしてリュウキの影になりかけていたから、と言う事もあるだろうけど、やっぱり料理が好きだから。

 この世界で新たに出来た暖かい繋がり。そんな人たちに振る舞いたい、と思ったから。

 だから、アスナはレイナに、『グッジョブ』と言わんばかりに、ぱちんっ、とウインクをし、レイナもそれに答えるのだった。

「それでリュウキー。酒で何があったんだよー。おねーさんに話してみ?」
「あ、それ僕も気になる!」
「そうですね……。リュウキさん程の人が。レイナさんが勘弁して、と言うまでですから」

 片や料理の話、片やリュウキの酒の話の追及……と、場が一気に賑やかになった。払拭する事が出来た。 それを確認したシウネーは大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐きだした。落ち着かせる様に、と言い聞かせた所で テッチと目があう。
 人一倍大柄な体形のテッチだが、見掛けと違って誰よりも大人しく、大らか。その細い目が少し開いてシウネーと目があった。

 互いに事情を知っているからこそ、お互いに頷き合うのだった。


 そして、皆は22層へと向かった。


 胸を躍らせて、まだか、まだかと、うきうきとさせているユウキは 宛ら散歩に連れて行ってくれる前に喜びを爆発させている子犬の様だった。
 

 そんな可愛らしいサブリーダーを皆で一頻り笑い、軈て森の中の家が見えてきた。


――さー おもてなし、だね。腕を存分に振るわなくっちゃ。


 アスナは、くすっ と笑みを見せつつ 今日の戦いで入手したユルドで買った高級食材をレイナと共に振るおう、と気合を入れ直していた。



 そして、家の中では 思っても無かった光景が広がっているのだった。
 

 
 

 


 
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