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テキはトモダチ

作者:おかぴ1129
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ケッコン協奏曲 ~赤城~
  2.大淀、演習場に立つ

 提督が砲台子鬼さんの編入書類を作成するということで、私達は一時解散となった。天龍さんや電さんはそのまま資材調達の遠征にでかけ、ロドニーさんと戦艦棲姫さんは夕方の提督の外出に向けての出撃準備。集積地さんは、電さんが帰ってくるまで資材貯蔵庫でゲームをやるとかで、ぐふぐふとキモい笑い声を上げながら消えていった。

 私はというと、自分の艤装を受け取るために工廠で待機しているらしい、大淀さんの元に向かうことにした。目的はもちろん、彼女の艤装装備の手伝いと、大淀さんいじりだ。

「やあ大淀さん。お手伝いに来ました」
「ぁあ、赤城さん。ありがとうございます」
「ついに大淀さんも、軽巡洋艦として出撃するんですね」
「といっても、もう戦争も終わってますし……」
「何言ってるんですか。これからバシバシ練度を上げていきますよ!」
「でも、いいんでしょうか……私じゃ、足手まといにならないでしょうか……?」
「足手まといにならないために、練度を上げるんですっ!」
「……ハッ!!」

 私の口が適当なことを次々と口走り、大淀さんがそれに対して『深イイ』とでも言わんばかりにハッとした顔をしている。大丈夫かこの人? 人のことを信用し過ぎではないだろうか? 無責任にあること無いこと口走ってるだけなのに……

「た、確かにそうですよね……うん……」

 あなたにはもっと大事な理由があるでしょー!!!

「それはそうとして大淀さん。今日はもうひとつ艤装が届いたそうですよ?」
「へ? そうなんですか?」

 なるほど。提督は、指輪の事を彼女には伝えてないらしい……。任務娘である彼女が知らないというのは少々解せないが、ひょっとすると提督に直接届いたものなのかもしれない。……ひょっとして、サプライズにするつもりとか!?

「で? どんな艤装なんですか?」
「……」
「赤城さん?」
「……あ、新しい砲です」
「なるほど……ロドニーさんに配備されるんでしょうか?」

 『あなたのマリッジリングですよ!! やりましたね大淀さん!!』とはバラせず……かといって完全なウソも言えず……とりあえず砲台子鬼さんのことを艤装ということにしておいた。

「分かりません……彼女にはフィットしなさそうですし……」
「では意表をついて赤城さんとか?」
 反射的に、私の頭に砲台子鬼さんが乗っかっているところを想像した……。

――一航戦・赤城!! 砲台子鬼さんとともに出撃します!!!

――『……!! ……!!!』(ぱちんぱちん)

 私のイメージの中の砲台子鬼さんは、私の頭の上でBB弾をパチンパチンと撃っていた。そのBB弾はまっすぐ飛んでいき、私のイメージの中の天龍さんのおでこにペチンペチンと当たっていた。

――姐さんいてえ!!! 敵を撃て敵を!!!

 これは案外アリなのかもしれない……今度の対空演習の時、『距離を詰められた時の切り札』として、提督に提案してみようか。対天龍さん兵装として使えそうだ。

「シャキーン」
「赤城さん?」
「あ、いや失礼」

 そんなこんなで、大淀さんととりとめのない話をしながら待つこと1時間。一隻のクルーザーが到着した。体格のよい、制服姿の屈強な男性が二人がかりで、大きな木箱がいくつか降ろされていく。無骨なつくりの木箱の一つひとつには、『危険! 艤装在中!!』と書かれてある。こんなバレバレの梱包でいいのか。これでは機密情報が駄々漏れだ。

「まぁ、戦争も終わりましたし、この荷物を狙う人もいませんしね」

 大淀さんが受け取り票に提督の名前を書き、提督の認め印を押して、荷物を運んできた男性と一言二言言葉を交わした後、敬礼をして送り出していた。

「女房役……」
「? 何か?」
「いえ……」

 なんだか、旦那さんの代わりに宅急便を受け取る主婦みたいだなぁ……と私はその時思った。なんだ。指輪を受け取るまでもなく、二人はもう夫婦なんじゃないか。役割的な意味で。

 海軍のクルーザーが去ったのを確認した私たちは、しずしずと木箱を開封していく。木箱の中はたくさんの緩衝材が詰められている。その緩衝材に守られるようにして、艤装が姿を表した。磨かれた金属の鋭さと輝きをたたえた艤装たちが、大小さまざまな木箱から姿を表していく。

「大淀さん。あなた、艦種は軽巡でしたよね?」
「ええ。そうですよ?」
「その割には、随分と艤装が大きい気が……」
「まぁ、私の元になった艦そのものが結構大きいですからね」
「なるほど」

 二人で十数分格闘し、すべての艤装が姿を表した。私達艦娘は、基本的に艤装をすべて装備した状態で建造される。だからこうやって艤装だけを改めて準備し、装備するという機会があまりない。故に私にとっても、この光景は新鮮だ。

「あ、赤城さん……」
「?」
「い、いいんでしょうか……私が、その……これを、使っても……」

 大淀さんは大淀さんで、別の意味で違和感を覚えているようだ。長い間、任務娘として過ごしてきた彼女には、これまで自分用の艤装というものはなかった。そのことに対し、彼女が引け目を感じていたのは知っている。私達が最前線で命がけの戦闘をしている中、自分だけが安全なところで指を咥えて見ていることに、ある種の申し訳無さを感じていたことは、私たちもよくわかっている。

 そんな自分が、艦娘として皆と肩を並べて戦う立場になれる喜びと、そんな自分が艤装なんてものをつけて戦ってもいいのだろうかという葛藤を感じているようだ。

「いいんですよ。この艤装は、あなたの艤装なんですから」
「でも……私、今までずっと……」
「大丈夫。あなたもこれからは任務娘ではなく、最前線で戦う軽巡洋艦なんですから」
「……」

 それに、ロドニーさんも言っていた通り、彼女は強い。だからきっと良い艦娘になる。ロドニーさんだけでなく、私もそれは保証するところだ。

「だからつけてみましょ」
「はい」

 私が背中を押したことで、大淀さんの心も決まったみたいだ。彼女の艤装の装備を私も手伝うことにする。私はもちろん、彼女も自分の艤装の実物を目にするのは初めてだ。マニュアルを片手に、二人で試行錯誤の時間が続く。

「えーと……これは偵察機のカタパルトですから、腕でいいんですかね……」
「これは背中に背負えばいいんでしょうか……」
「これは主機ですね。赤城さんのものとは見た目がちょっと違いますが……」
「空母と軽巡じゃあやっぱりちょっとね……」

 そんなこんなで、二人であーでもないこーでもない……と頭を抱えながら、大淀さんの身体に艤装が装着されていく。

 そして二人で20分ほどがんばって、ついに……

「では、主砲を持ちますね」
「はい」

 大淀さんが、艤装をすべて装備し終わった。その姿はまさに、威風堂々。

「ほぁぁぁ〜……」
「いいですね。上々です」
「そ、そうですか?」
「ええ。せっかくなんで、全身を見てみてください」
「え、でも……」
「いいからいいから〜」

 遠慮がちな大淀さんの背中を押し……といっても大淀さんは艤装を背負っているけれど……全身を写せる大きさの鏡の前まで二人でやってきた。

「ほら大淀さん」
「これが……これが私……?」
「そうですよ。軽巡洋艦、大淀の勇姿です」

 大淀さんは、鏡に映る自分の全身を見た途端、ほっぺたをほんのり赤く染めた。初めて見る艦娘としての自分の姿に、ぽうっと上気したのかもしれない。

「ぽぉー……」
「……」

 そんな大淀さんを眺めながら、なんだかダイヤモンドの原石を磨き切り、一介の女の子を一人前のレディーに仕立てた、あしながおじさんになった気分を抱いた私。私までつい上気してしまう。

「ぽぉー……ハッ」
「ぽぉー……ホッ」

 二人で数分ほど見とれた後、私たちはほぼ同時に意識を取り戻した。いけない。私はおじさんだなんて年齢じゃないのに。そういうことは、提督にまかせておけばいい。

「赤城さん……私……私、これからがんばります!!」

 意識を取り戻し、私に対してそう宣言する大淀さんの顔は、今まで見たどの大淀さんの表情よりも、希望に満ち溢れ、キラキラと輝いて見えた。

「ですね!」
「はい! ですから、これからたくさん演習の相手をしてください!」
「もちろんです!!」

 なんせあなたのケッコンがかかっていますらねぇグフフフフフフフ……!!! とは口に出せず。

「それじゃあ、あとで提督に進言して、さっそく演習に出てみましょう!」
「いいんですか?」
「いいんです! 鉄は熱いうちに急いで打つジャスティスですから!!」
「ありがとうございます!!」

 そうして私達はその日のうちに、提督に演習の許可をしてもらい、演習場に出た。

 『大淀、演習場に立つ!!』このニュースは青葉さんの号外によって、またたく間に鎮守府を駆け巡り、遠征帰りの電さんや集積地さん、外出前のロドニーさんをはじめとしたこの鎮守府の主要メンバーが知るところとなった。

「大淀さん、ついに演習はじめたのです!?」
「ええ! 電さんも演習のお相手をおねがいします!」
「はいなのです!!」

 そして演習場に集まったみんなが、大淀さんの練度向上に尽力してくれた。電さんと球磨さんは雷撃戦、天龍さんは私との演習で培った対空戦……

「いいか。初弾から当てようとするな。何よりもまずは夾叉を狙っていけ」
「はい!」
「口径が大きかろうが小さかろうが基本は変わらん。水上機を活用した観測射撃も積極的に狙うんだ」
「はい!!」

 ロドニーさんと戦艦棲姫さんは戦艦らしく、砲撃戦。

「水上偵察機と私たちの艦載機では運用方法は違いますが……お力になれる部分も多いと思います」
「やはりまずは、自分の周囲のすべてを捉えるところから……」
「はいっ!」

 鳳翔さんと私は、水上機の運用方法……みながそれぞれ、大淀さんの練度を上げるため、自身の得意分野を、大淀さんに惜しみなく伝えた。

「みなさん……ありがとうございます! ありがとうございます!!」
「いえ。みんな、あなたにお世話になってますから」
「そんな……私は今まで、みなさんに戦いを任せっきりだったのに……」
「いや。オオヨドが後方でしっかりと鎮守府運営をしてくれていたから、私たちは安心して戦いに集中できたんだ」
「ロドニーさん……」
「そうクマ。だからみんな、大淀に感謝してるクマ!」
「だから、電たちはみんな、大淀さんの力になりたいのです!!」
「球磨さん……電さん……ぐすっ……みなさん、ありがとう……ッ!!」

 ……私には、見える。

 みんな大淀さんに対して、思い思いの激励と感謝の言葉を述べているが……

「だから大淀さんよ! 頑張ろうぜ!!(早くケッコンするためにな!!!)」
「練度をいっぱい上げるのです!!!(早くケッコンするために!!!)」
「そのための助力、このロドニーは惜しまん!!!(早くケッコン! ケッコン!!)」

 私の耳には聞こえる。みんなの真の目的が……

「ええ。だから、がんばりましょうね(お祝いの時の献立は何にしましょうか……)」

 鳳翔さん、気が早いですよ!! あ、いやでもこの英才教育を受けてたら、時間の問題かも。

「がんばれオオヨド!!(よくわかんないけどイナズマがんばってるし)」
「そうだ! 強くなれ! オオヨド!!(なんかよくわかんないけどとりあえずしばく)」

 ……まぁー、深海棲艦さんたちにしてみれば、ケッコンカッコカリなんて、よくわかんないでしょうしね……結婚するのに練度が必要ってのも、考えてみれば妙な気もしますけどね……ツッコミを入れるのはやめておきますか。

 そんなわけで、それぞれのエキスパートによる英才教育を受けた大淀さんは、短期間のうちにメキメキと練度を上げていった。それは、この鎮守府始まって以来の最速記録による近代化改修を受けることになることからも、よくわかる。

 そんな信じられないスピードで練度を上げていく大淀さんを見て、私たち全員が……あ、いや、深海棲艦さんたち以外の私たち全員が確信していた。

――ケッコンカッコカリ第一号は、大淀さんである

 しかし、物事はそううまく行かないのが世の常。

 この後私たちは、まさに天地がひっくり返り、空から槍が振り、そしておばあちゃんが相方のおじいちゃんを勢い良く張り倒すほどにありえない、あるショッキングな出来事に襲われることになる。

「大淀、潜水艦は海中から引っぱり出してしまえば、何もできなくなるクマ」
「魚じゃないんだから、そんなことできませんよ……」
「そうクマ? 川を遡るサケを弾き飛ばす感じでやれば意外と……」
「いやいや球磨さん、私、ヒグマじゃないんですから……」

 だがその時の私達は、まだそんなことが起こるだなんて、夢にも思っていなかった……。
 
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