テキはトモダチ
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ケッコン協奏曲 ~赤城~
3.魅惑のプロポーズ
大淀さんの艤装とケッコンカッコカリ用の指輪が届き、キモいことこの上ない砲台子鬼さんがこの鎮守府の新しい仲間の一人となったあの日から、二週間ほど経過していた。
「大淀さん。無事、近代化改修、終わりましたね」
「はい。おかげさまで、装備できる艤装の数が増えました」
「しかし早かったですね〜」
今日、大淀さんは近代化改修を受け、軽巡洋艦としては最大数の艤装を装備出来るようになった。改修内容もさることながら、一番驚いたのはそのスピード。彼女が艦娘としての活躍を許可されたあの日から、二週間しか経過してない。これは、この鎮守府始まって以来の快挙だ。
「それも、みなさんが演習に付き合ってくれたおかげです」
私とともに執務室に向かう途中、大淀さんが微笑みながら、そんなうれしい言葉を言ってくれた。実際、この鎮守府の主要メンバーだけでなく、集積地さんや戦艦棲姫さんも彼女の演習に付き合ってくれ、各々の得意分野をしっかりと大淀さんに教えてくれていた。日本広しといえど、姫クラスの深海棲艦が演習をしてくれる鎮守府なんて、きっとここだけだろう。その意味では、大淀さんは、幸運の持ち主といえる。
「ところで、近代化改修を受けた感想はどうですか?」
「やはり身体が軽いですね。その分、たくさんの艤装を持てるんだと思います」
「なるほど」
「あとは、体の調子もとてもよくって。さっき試しに演習場で少し動いてみたんですけど、身体のキレというか……とにかく、機敏に動けるようになった感じです」
「いい傾向です。この調子でいけば、さらなる練度向上が見込めますね」
「ですね」
『そしてあなたのケッコンも目前ですねぇぇええええ!!?』といじりたくなるのを、グッとこらえる。今は真面目な話をしているのだ。
「……ニヤ」
「? 赤城さん?」
「あ、いや失礼しました」
その後もとりとめのない話をしながら執務室に向かう私達。
「そういや赤城さん」
「はい?」
「最近、みんなが妙にヤル気に満ち溢れてる気がするんですが……」
「……」
「何かご存知ですか?」
みなさん、もっと自重しましょうよ……楽しみなのは分かるんですけど……。
確かに大淀さんが演習を始めてからずっと、みんなの心の声は駄々漏れだった。大淀さんは気付いてなかったかも知れないが、演習中のみんなは、常に大声で心の声を叫びながら、大淀さんの演習に付き合っていた。
――はやく! はやく練度を極限まで高めてケッコンするのです!!
――早くケッコン!! うちの鎮守府のケッコンカッコカリ第一号は大淀で決まりだぜ!!
――オオヨド……愛する男のためにがんばるお前は輝いてるぞ!!!
――よくわからんけどとりあえずしばく!!!
――コワイカー!!!
うん。天龍二世さんと戦艦棲姫さんの心の声は置いておいて……みんな大淀さんのため……というよりは、やっぱり色恋沙汰は気になりますよねぇ。
青葉さんは青葉さんで、演習には付き合わない代わりに、新しいカメラや機材の準備に大忙しだと聞いた。なんでも、ケッコンのその瞬間を、最高の機材で切り取りたいそうな。先日、彼女の部屋を覗いたら、新しいデジカメだけでなく、ビデオカメラやレフ板、なんかこうもり傘にライトを取り付けたような照明器具など、よくわからないものがたくさん増えていた。
――なんせこの鎮守府のケッコンカッコカリ第一候補ですからね!!
まぁ青葉さんが色めき立つ気持ちもわかりますしね……。
そうこうしているうちに執務室に到着する。相変わらずヒビが入ったドアを軽くノックし、中の提督の返事を待った。
「とんとん。提督、入室していいですか?」
「赤城か。いいよー入ってー。大淀もいる?」
「はい」
「りょうかーい」
提督の許可も受けたし、ドアを開くべく、私はしずしずとドアノブに手をかけた。
――俺達は天龍夫妻……
フフ……コワイカ?
ドアノブを握った時に聞こえる天龍組ボイスが、何やらおかしなことになっている。これもケッコンカッコカリ指輪が届いたことで、皆が色めきだっている証拠なのだろうか……あまり考えないようにしつつ、私はドアノブを回し、ドアを開けた。
執務室では、妙な光景が展開されていた。
「砲台子鬼、万年筆」
『……』(ぽこん)
「ほい。ありがと」
『……』
「……ホイ書けた。ん。砲台子鬼」
『……』(すぽん)
「んー。印鑑ちょうだい」
『……』(ぽこん)
「んー」
提督は何か書類を書いている最中だったらしく、手元の白い紙に万年筆で自筆のサインを書き込み、ついで自身の印鑑で押していたのだが……その万年筆と印鑑を、机の上に佇む砲台子鬼さんが自身の砲塔から撃ちだしていた。
提督は砲台子鬼さんから受け取った万年筆でサインを書くと、その万年筆を再び砲台子鬼さんの砲塔へとすぽんと戻し、印鑑の捺印が終わると、その印鑑をやっぱり砲塔へとすぽんと突っ込む。……なんだこの息ぴったり感。
「……提督」
「おー赤城。大淀も待ってたよ」
「砲台子鬼さんと妙に仲いいじゃないですか」
「いや仲いいというわけじゃないけどな。普通の砲弾やBB弾だけじゃなくて、他にも色々なものを装填出来るって聞いたからさ」
「それでなぜ万年筆や印鑑を……?」
「だって、必要なときにぽんって渡してくれたら、すごく便利じゃない?」
「それはそうですが……」
そもそも砲台子鬼さんは、この執務室の最後の守りの要として、深海棲艦さんたちから託されたのではなかったか? 私の頭を疑問が走り抜ける。
「提督……そもそも万年筆とか印鑑とかを装填させるために、ここに預けられたのではないと思いますが……」
「大丈夫だよ。こう見えて、ちゃんと執務室の安全を守ってくれてるし」
「はぁ……」
「多分、もうしばらく経てば……」
「?」
提督が、死んだ魚の眼差しを砲台子鬼さんに向けた。しばらく微動だにしなかった砲大子鬼さんが、急にピコンと反応し、ギギギギと音を立てて、天井に砲塔を向ける。
「ほら」
「……?」
提督が得意気にそう言い、私を見下ろすように顎を上げた。その様子が鼻についたが、我慢して砲台子鬼さんを眺めていると……
『……!! ……!!!』(ぱちんぱちん)
いつぞや天龍さんを狙撃したように、砲台子鬼さんは天井に向かってBB弾を打ち始めた。
「提督、これは?」
「上に青葉がいるんだよ」
私はつられて天井を見た。
――……。
言われてみると、天井から人の気配を感じないこともないが……よくこれを見抜くなあ提督と砲台さんは。
「あなたたちはどうして青葉さんの潜伏に気づくんですか……?」
「まぁ俺は昔、人間関係のるつぼにいたしね」
『……!! ……!!!』(ぱちんぱちん)
意味が全く分かりません……。それはそうと、ここまで砲台子鬼さんと提督が仲良くなっていて……大淀さんは気分を害さないのだろうか?
「大淀さん?」
「はい?」
「いいんですか? なんだか砲台子鬼さんが提督の秘書みたいなことになってますよ?」
「私もよくボールペンとか出してもらってますし」
あなたまで砲台子鬼さんに馴染んでいたんですか……!?
「い、いつの間に……ッ!!」
「それに、見慣れると意外とかわいいですよ?」
「そそ。意外とね」
まさかこの二人がここまで砲台子鬼さんに慣れ親しむとは……ペット感覚なのか?
砲台子鬼さんを見ると、相変わらず一定のリズムでBB弾をぱちんぱちんと射出している。大淀さんが執務室の片隅からほうきとちりとりを持ってきて、床に散らばるBB弾を掃除し始めた。手際がよくて、なんだかBB弾の処理に慣れている感じだ。
「大淀、ありがと」
「いえいえ」
提督と大淀さんの二人が仲が良いのはいいんだが……その中に砲台子鬼さんがいるのがなんとも違和感がある。
「ところで大淀」
「はい?」
『……!! ……!!!』(ぱちんぱちん)
「あとで少し出かけなきゃいけなくなった。突然で申し訳ないけど、準備しておいてくれる?」
「了解しました。砲台さん。ボールペンと付箋を」
『……』(ぽこんぽこん)
「ありがとうございます」
……何だこの光景……大淀さんも砲台子鬼さんに慣れている……大淀さんは砲台子鬼さんから射出されたボールペンと付箋を受け取り、自分の席に座って付箋に何かをメモっていた。その後その付箋をなれた手つきでめくり取ると、自身のバインダーにペタンと貼り付けた後、提督にボールペンと付箋の残りを手渡ししている。
「提督」
「んー」
提督はそのボールペンと付箋を受け取ると……
「……」
『……』(すぽんすぽん)
非常に慣れた手つきで、ボールペンと付箋を砲台子鬼さんの砲台の中に流し入れていた。
……砲台子鬼さんって、便利な文房具収納器具なのか? そういう方ではないはずなんだけど……。
「ところで提督」
「んー? どしたー大淀」
「今日の外出ですが……」
「護衛の二人には伝えてる」
『……』(ぽこん)
「了解です。砲台さん、クリップありがとうございます」
「あと、大淀に目を通してもらいたい資料があるから……」
『……』(ぽこん)
「了解しました」
「んー。砲台子鬼、ホチキスありがと」
『……』(すぽん)
とても妙な光景だ。提督の大淀さんの息の合った会話を見るのは、とても微笑ましい。でもそのポイントポイントに、いちいち砲台子鬼さんのワンアクションが挟まれている。しかも、二人とも『クリップ下さい』とも『ホチキスちょうだい』とも言ってないのに、砲台子鬼さんはそれぞれを射出し、二人に渡している……
確かにこれは便利だ。常にこちらの仕事内容と進行度合いを把握し、その作業に必要な文房具を、その都度自動的に射出して渡してくれる。デスクワークが多いこの二人からしてみれば、かなり便利な機能だこれは。
でも、砲台子鬼さんの本当の存在意義って……それだっけ?
「生きる意味ってのはね。自分で見出すものなのよ?」
「人の気持ちを読まないでくださいよ……しかも何偉そうなこと言って『上手いこと言ってやったぜ』て感じでドヤってるんですか……」
「あら手厳しい」
話によると、二人はこの後外出する用が出来たそうで。帰りは深夜になると言っていた。晩ご飯は鎮守府では食べず、外出先で食べるそうだ。
あと、考えてみると当たり前だが、砲台子鬼さんはお留守番だそうだ。護衛にロドニーさんと戦艦棲姫さんもいるし、砲台子鬼さんは執務室を守る最後の砦だからか。
「そんなわけで砲台子鬼。留守番頼むよ?」
『……』
「……そんな寂しそうな顔しないでちょうだいよ……俺だって本当はお前さんにもついてきてもらいたいんだから……」
驚愕の事実……提督……いやひょっとすると大淀さんも……砲台子鬼さんの感情の機微が読み取れるのか……二人は砲台子鬼さんとここまで心を通わせていたのか……提督が困った笑顔をしながら、砲台子鬼さんの砲台を優しく撫でている。砲台子鬼さんは砲台子鬼さんで、その砲台なでなでを受け入れるように、少しだけ砲塔の角度を下げていた。
「だから機嫌なおしてちょうだいよ……」
『……』
……私は知らぬ間に、執務室と同じ作りの異空間に迷い込んでしまったようだ。提督が困った笑顔で砲台子鬼さんの砲塔を撫で、大淀さんがその光景を微笑ましく見つめる……困った。違和感しかない。
「て、提督!」
「ん?」
「わ、私はこれで、失礼します!!」
「あいー。みんなに外出の件、伝えておいてくれる?」
「し、承知しました!! 失礼します!」
「あいー。よろしくー」
耐えられない……この、違和感しかない魅惑の異世界から少しでも早く脱出したくなった私は、早々に提督に別れの挨拶を済ませ、そして急いで執務室を出る。
「な……何だったんでしょうか……?」
いや、何もクソも、単純にあの二人と砲台子鬼さんが仲良くなっただけなのだが……
「と、とりあえず外出の件をみんなに報告しないと……」
自分の理解の範疇を超えて起こっていた出来事から目をそらしたくて……私はとりあえず提督の外出の件をみんなに伝えるべく、行動を開始する。特にこの鎮守府の食堂責任者である鳳翔さんには、まず最初に伝えなくては……。
私は、まず最初に鳳翔さんにこのことを伝えるべく、食堂に向かうことにした。この時間なら、鳳翔さんがすでに晩ご飯の準備に勤しんでいるかも知れない。よしんばいないとしても、食堂ならそう遅くならないうちに、鳳翔さんの方から顔を出してくれる。ヘタに動きまわるよりは、食堂で待ち構えていた方がいいだろう。
……ところが、魅惑の異空間と化していたのは執務室だけではなく、食堂もだった。
食堂入り口に到着した私を待ち受けていたのは……
「あ、鳳翔さんと、天龍二世さんじゃないですか」
「ああ、赤城」
「コワイカ……」
食堂入り口の扉を閉め、その隙間から食堂内部をジッと覗き見る、鳳翔さんと天龍二世さんだった。
「……鳳翔さん、何やってるんですか?」
「シッ……赤城、今食堂に入ってはいけません……」
「?」
「コワイカ……」
「静かに……」
鳳翔さんは、頭にはてなマークが浮かんでいる私に対し、自分の人差し指を口にあて、シーッと言って音を立てるのを禁じた。その後、至極真剣な表情で振り返り、再び扉の隙間から食堂内を覗いている……
「……何なんですか?」
天龍二世さんだけでなく、鳳翔さんまでがそんな行動をしていたら気になる……私は提督お出かけのことを伝えることよりも、鳳翔さんと天龍二世さんが心奪われているものが何かが気になった。二人にならい、私も扉の隙間に顔を近づけ、中の様子を覗くことにする。
「んー?」
中にいるのは……
『どうしたイナズマ? 話があるというから来てみたのだが……』
『集積地さん……電と集積地さんが出会って、もうだいぶ経つのです』
『そうだな。お前には感謝してるよ。深海棲艦の私と……友達になってくれて』
電さんと集積地さんのようだ。そこかしこに椅子はあるのに、なぜか食堂のど真ん中に立っている。集積地さんは電さんの方を向き、電さんはそんな集積地さんに背を向けて、窓の外を眺めて立っている。二人は一体何をしているのだろうか……
『お前と仲良くなれて本当によかった……』
『集積地さん……』
『これからも仲良くしてくれ。ずっと友達でいてくれ。イナズマ』
『電は……イヤなのです』
『え……』
電さんが集積地さんの方を振り向いた。真っ赤な顔で両手をギュッと握りしめて、何か固い決心を秘めた眼差しで集積地さんを見つめているのがよく分かった。まさかとは思うが……
『集積地さんと友達はもう……イヤなのですっ!』
『え……も、もう私とは、仲良くしてくれないの……か……?』
『違うのです! 集積地さんとは、もっと仲良くなりたいのです!!』
え……ちょっと待って下さい。これってまさか……
『しゅ、集積地さん!!』
『……!? は、ハイ!』
『電と……け、ケッコンしてほしいのですッ!!!』
電さん本気ですか……? いや相手が深海棲艦さんだから心配してるんじゃなくて、そもそもあなたも集積地さんも女性でしょうに。
『イナズマ……!!』
あなたもあなたで何憧れのバスケ部の先輩から告白された女子中学生みたいな顔して感激してるんですか集積地さん。あなたもう大人でしょ。そこは大人の余裕で電さんのプロポーズを受け流して下さいよ。両手で口押さえて涙目でうるうるしてるヒマがあるなら、早くそのプロポーズをうまく受け流して下さい。
「電さん、大胆ですね……」
「コワイカ……」
こっちの二人は二人で、ほっぺたを少し赤くしながら、電さんと集積地さんの行く末を見守っている。その様は、まるでかわいい後輩同士の告白を見守る、先輩OLのようだ……あ、いや、以外とその例えは例えになってない気が……
……おっと危ない。あまりに予想外な光景を目の当たりにして、本来の目的を忘れるところだった。
「えーと……鳳翔さん」
「ドキドキ……ぁあ、はい?」
「えと……提督から伝言です。今晩は外出する予定なので、夕食はいらないと」
「あ、そうなんですね。大淀さんや護衛の皆さんの分もですか?」
「ええ。あのお二人も外出されるというお話でしたよ?」
「うん。わかりました」
「後、電さんと集積地さんの二人にも、お伝え下さい」
食堂内の魅惑のプロポーズは、見なかったことにしよう……今見たことは、忘れるんだ……。
その後、食堂内の違和感しかないプロポーズをなんとか記憶の片隅に追いやりたくて、私は提督から賜った『外出の件を皆に知らせる』という任務に没頭することにした。
「コワイカー」
「ああ、天龍二世さんも一緒に行きますか?」
「キャッキャッ」
「んじゃ行きましょっか」
いつの間にか私の足にまとわりついていた天龍二世さん(既婚)を肩に乗せ、私は自身の任務遂行のために食堂をあとにした。さっきの光景を早く無かったことにしたいという気持ちもある。
提督の外出を皆に知らせるといっても、護衛の二人はすでに知ってるだろうし。あとは演習場にいる球磨さんと天龍さん(既婚)、自室で機材の手入れに余念のない青葉さんぐらいだ。私と天龍二世さん(既婚)は、順番に提督お出かけのお知らせを伝えていった。
……ぁあそうそう。青葉さんに提督の件を伝えたとき、妙なことを言っていた。
――そうなんですか? ……ぁあーそういえばさっき執務室でそんなこと言ってましたね。
一見すれば、なんてことないいつもの青葉さんのセリフなのだが……
『そういえばさっき言ってましたね』という部分は問題ない。彼女はよく、執務室の天井裏で、提督の監視を私的な理由で行っている。ここに疑問を感じることはない。
私が疑問を感じるのは、『そうなんですか?』の部分だ。
これは、常日頃天井裏で提督の監視を日課としている青葉さんが、今日の提督の外出は把握していなかったということを表している。ずっと提督を監視している青葉さんが、今回の外出の件を都合よく把握出来てなかっというのは、考えにくい。
つまり、提督は意図的に、今日の外出の件を隠していたということになる。これが一体何を意味しているのか、皆目見当もつかないが……。
……まぁいい。私と天龍二世さん(既婚)は、提督からの重大任務を完遂した。あとは任務完遂の旨を提督に報告すればすべて終わりだ。
「じゃあ天龍二世さん。提督に報告しに行きますか」
「コワイカー!」
「怖くないですよ」
私は天龍二世さん(既婚)を肩に乗せたまま、のんびりと執務室へと向かう。後に外出が控えている提督と大淀さん。のんびり向かうと、ひょっとすると間に合わないかもしれないのだが……
「まぁ別にいいでしょ。知りませんけど」
いつの間にか伝染していた提督の口癖が口をついて出た。まさか自分がこんな無責任な言葉を発してしまうとは思ってもなかったが……そもそもこれは提督が悪い。いつもいつもこの言葉で私たちを翻弄して……思い出したらむかっ腹が立ってきた。今晩は鳳翔さんにお願いしてやけ食いだ。鎮守府の運営を傾けてやる。
さて、執務室に向かいましょうか。
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