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テキはトモダチ

作者:おかぴ1129
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ケッコン協奏曲 ~赤城~
  1.新しい仲間

 
前書き
最終回からしばらく経過した頃の話です。
3話から、世界線が2つに分岐する予定です。 

 
サクラバイツキ大尉殿

貴鎮守府及び貴君の停戦に向けての多大な功績に鑑み、
特例としてケッコンカッコカリ必要書類一式及び、
指輪型艤装を進呈する

また、かねてより本人から希望が上がっていた、
任務娘大淀の、軽巡洋艦としての運用も併せて許可する
ついては大淀型軽巡洋艦の艤装一式も合わせて送付する
工廠に直接搬入するため、受け取り確認の人員を配置すること


 昼下がりの執務室。私と電さん、天龍さんやロドニーさんといったいつものメンバーと、今日も遊びに来た集積地さんと戦艦棲姫さん……みんなが見守る中、提督は司令部から届いた封筒を開け、私たちにその書類内容を読み上げて聞かせてくれた。

 提督が読み上げる司令部からの通達書類の内容に、この鎮守府に所属する艦娘とよく遊びに来る深海棲艦さんたちが、色めき立たないわけがなかった。

「し、司令官さん……こ、これは……!」
「うん。大淀、前から『私も皆さんとともに戦いたいです』って言ってたからねぇ。今となってはもう遅いけどさ」
「そ、そうではなくて……ニヤニヤ」
「ん?」

 提督にそう言い寄る電さんの顔は、だらしなくほころんでいた。本人はきっと必死に隠しているのだろうけど、顔がもうニヤニヤしっぱなしだ。

 大淀さんが提督のことを想っているのは周知の事実だ。その大淀さんが今後は任務娘としてだけでなく、軽巡洋艦の艦娘として前線に出ることが許可された。今後大淀さんは、私たちと同じく戦う側の艦娘となる。提督の言うとおり、今となってはもう戦争も終わっているから、前線に出て戦うことはないだろうけど。

 そしてもうひとつ。練度を極限まで高めた艦娘は、特別な艤装として指輪型の艤装をつけることを許される。この指輪型の艤装は装備者の潜在能力を限界まで引き出し、さらなる練度向上が期待できるというものだ。『艤装』といえばずいぶん物騒に聞こえるが、装備する指が左手の薬指な点や、提督との深い絆がなくては正常に機能しない点などから、私たち艦娘の間では通称『ケッコンカッコカリ』とか言われている。司令部もそれは把握しているらしく、今ではそれが正式名称になったようだ。

 『大淀さんが軽巡洋艦として今後は練度を上げる』『ケッコンカッコカリの指輪がある』この二つの事実が何を意味するか。この計算式の答えにたどり着くのは、そう難しくない。グフフフフフフフ。

「ニヤニヤ……提督」
「ん? 集積地どしたー?」
「私がこの鎮守府を去るときに言った一言、覚えてるか?」
「? なんか言ってたっけ?」

 提督は覚えてないようだが、横で聞いていた私は覚えている。『身の振りを考える時ではないか?』確かそんなことを提督に忠告していたはずだ。

「それはそうと、お前さんたちはなんでそろいもそろって顔がにやけとるの?」

 提督は不思議そうにそんな質問を私たちに投げかけてきた。いけない。自覚はなかったが、私も顔がにやけていたようだ……ニヤニヤ……ダメだ。気を引き締めないと。キリッ……ニヤ。

 伸びきったゴムのように緩んでしまった自分自身の戦闘意欲を刺激して、なんとか元の引き締まった自分に戻りたい。……そうだ。ロドニーさんならきっと、私を引き締めてくれるはずだ。私はロドニーさんに向けて、あらん限りの殺気をぶつけてみた。ロドニーさん……あなたを絞め落としますよ……ほら……だから私を威嚇してきて下さい……戦闘意欲を刺激してください……ギンッ!!

「司令官……ぶふっ……そろそろ……年貢の納めどきではないか……? ニヨニヨ」

 ダメだ。人のことは言えないが、ロドニーさんも緩みきっているようだ。

「ところで司令官さん」
「ん?」
「その指輪はどこにあるのです? もう届いてるのです?」
「届いてるよ? 見てみる?」

 集積地さんの隣で、やっぱり顔をニヤニヤさせっぱなしの電さんの言葉を受け、提督は机の引き出しから小さなワイン色の小箱を取り出した。見間違うはずもない……これは……紛れもなく指輪のケースだ……。ケースの隙間から、青く淡い光が漏れ出ているように見えるのは、私の気のせいではないはずだ。ここにいる全員にその光が見えているはずだ。

「うわ〜……」
「なんか……凄そうだな……」
「せっかくだから中もちょっと見てみる?」

 司令官の興味なさげなその言葉を受け、私とロドニーさん以外の皆が首を元気よく縦にブンブンと振っていた。電さんなんかはもう身を乗り出して食い入るように指輪のケースを見つめている。

「ダメだッ!!」

 唐突にロドニーさんの怒声が響いた。あまりに突然のことで私たち全員、呆気にとられてロドニーさんを振り返る。彼女は眉間にシワを寄せ、ひどく怒っているようだ。ほっぺた赤いけど。

「お前ら! その指輪を見るのはダメだ! 司令官もしまえ!」
「何がなのです?」
「そうだー。ちょっとぐらいいいじゃねーかー!!」
「ぶーぶー!!」
「理由を言いなさいよーぶーぶー」

 ロドニーさんの突然の制止に対し、電さんと天龍さん、そして提督までもが口をとんがらせてロドニーさんにブーイングを送っている。電さんと天龍さんはまだ分かるけど、提督……なぜあなたまで一緒になって『見せなさいよー』とシュプレヒコールを上げているんですか……?

「そ、それはー……」

 ロドニーさんが顔を真っ赤にし始めている。いつものキリッてしてツンツーンてしてる彼女からは考えられない挙動だ。真っ赤な顔で恥ずかしそうにうつむいて、両手を後ろで組んでもじもじと恥ずかしそうに身体をよじらせる彼女の姿は、まるで憧れのバスケ部の先輩を前にした、恋する女子中学生のようだ。

「そ、それを最初に見る人物は……決まってる……だろう?」

 ロドニーさんは落ち着かない様子で、今度は両手で剣をもじもじといじりながら、真っ赤な顔でぽそりぽそりとそう言った。……あーなるほど。要は『それを一番最初に見るのは大淀だ』と言いたいらしい。意外とロマンチストだなこの人。

「なんせ騎士の国の艦娘だからな……礼節には意外とうるさいんだよこいつは……ハァー……」

 ロドニーさんの相棒ともいえる戦艦棲姫さんが、ため息混じりにそうつぶやいていた。顔の半分には斜線が入り、いかに日頃礼節に口うるさいロドニーさんに苦しめられているのかが、その瞬間手に取るように分かった。

「戦艦棲姫さん……心中お察しします」
「ありがとうアカギ……」

 彼女の肩を叩き、労をねぎらう私。とは言っても彼女の代わりにロドニーさんとコンビを組むのはイヤだけど。あくまで他人事。だから優しくなれる。

「そ、そういうわけで、中身の確認はダメだッ!!」
「どんなものか見てみたかったんだけどなー……」
「見てみたかったのです……」

 ロドニーさんの制止と叱責を受けた電さんと天龍さんは全く同じ表情で口をとがらせ、ヘソを曲げていた。二人のその反応はまぁ予測できたけど、どうしてあなたまでまったく同じ顔してるんですか提督……上官としての威厳はないんですか……?

「だって見たかったんだもん……」

 あなた子供ですか……。

「うう……集積地さん〜……指輪が見られなかったのです……」
「残念だったなイナズマ。まぁこれは仕方ない」
「慰めてほしいのです……うう……」
「仕方のないやつだ……」

 一方で本当の子供といえる電さんは、友達兼保護者兼恋人の集積地さんに甘えて頭をくしゃくしゃとなでてもらっていた。最近は、ホントもう二人はこのまま付き合っちゃえばいいじゃないかという気がしてくる。

「うう……集積地さん……」
「そろそろ機嫌を直せイナズマ」

 電さんの柔らかい髪を、乱れない程度に優しくくしゃくしゃとなでてあげる集積地さんと、涙目で口をとんがらせてるけど、ほんのりほっぺたを赤くしてそれを受け入れている電さんの二人は、どこからどう見ても恋人同士に見えてしまう……それは私の目が濁っているからか?

「集積地さ〜ん……うう……」
「お〜よしよしイナズマ〜……」

 前言撤回。恋人同士を通り越して、もはや孫とおばあちゃんだ。こんなことでいいのかこの二人は……。

「まぁそれはそれとして……集積地」
「かわいい奴めイナズマ〜……ん?」

 薄っすらと光る指輪のケースを机の引き出しにしまい、提督はいつもの濁りきった死んだ魚の眼差しになって、涙目で自分にしがみついている電さんの頭を撫でている集積地さんに、ヤル気のない声で問いかけていた。

「お前さん、何か用があったから執務室に来たんじゃないの?」
「ああそうだが……指輪の件はもういいのか?」
「だって指輪見られないんだもん。お前さんの話を聞くよ……」

 明らかに興味なさげな感じで集積地さんに話を促す提督。その態度はあまりに失礼過ぎて諌めようかとも思ったが、よくよく考えてみたらいつもどおりの提督だった。……逆に言えば、普段はこんなにも自分の鎮守府のことに無責任なのか。集積地さんたちと仲良くなる前の頃の提督と、その提督に感じていた自分のいらだちを思い出し、少しだけむかっ腹がたったが……まぁいいか。あとで鳳翔さんに頼んでやけ食いでもしよう。

「今日は鎮守府に新しい仲間を連れてきた。ついては、私たちとお前たち人類との友好の証として、この鎮守府付の深海棲艦第一号としてもらいたい」
「この鎮守府付って……お前さんたちもそんなもんじゃないの。俺は集積地がこの鎮守府所属の深海棲艦第一号だと思ってたよ? 電とも仲いいし」
「確かにそんな感じだし、私達もそう捉えてはいるが、あくまでそれはなし崩し的だ。今回紹介する仲間は、正式にこの鎮守府付にしてもらいたいんだ。キチンと書類を作って、ちゃんとこの鎮守府に登録してもらいたい」
「ほーん……」

 なるほど。要は新しい仲間がこの鎮守府のメンバーになるようだ。それも艦娘ではなく深海棲艦……少しだけ戦闘意欲がうずいた。そしてそれはロドニーさんも同じだったらしく……

「なにッ!? 新しい深海棲艦だとッ!?」

 と急に目をクワッと見開いて、久しぶりにバトルジャンキーの横顔をちらつかせ始めていた。

「その仲間は局地戦における防衛能力と砲撃能力に優れている。この鎮守府は提督が不在の場合も多い。そういう場合に、この執務室を防衛する最後の砦として活躍することだろう」
「戦艦棲姫がそういうのなら、かなり強いんだろうねぇ?」
「陸上型だから海上に出ることは出来ないが……その分防御も固く、並の砲撃では傷つきにくい。手強いぞ?」

 確かに。ここでいつもロドニーさんや電さんと漫談を繰り広げているので、ついつい忘れがちだが……集積地さんと戦艦棲姫さんは、元は深海棲艦の勢力の中でも抜きん出た力を持つ、いわゆる『姫クラス』と呼ばれる立場。その実力は、本来なら私たちですら太刀打ち出来ない強さを誇る。

 そんな戦艦棲姫さんが『手強い』というあたり、その新しい仲間は相当に強いのだろう。やりあってみたい……そう思う私もまた、ロドニーさんと同じく、バトルジャンキーなのだろう。先日嬉々としてロドニーさんとの“稽古”に臨んだあたり、認めたくはないけれど、私も立派なバトルジャンキーだ。

「で、そのお方はどちらにおいでなの?」
「実は今、天龍二世と廊下にいる」
「あらそうなの? んじゃ入ってもらって」
「分かった」

 電さんの頭をくしゃくしゃしながら、入り口のドアに向かって『おーい。入っていいぞー』と声を掛ける集積地さん。その後ドアが静かにカチャリと開き、ドアの向こうから天龍二世さんが姿を見せた。

「コワイカー!!」

 いつものようにバンザイをして、天龍イズムを発揮しながら。

「怖いかー!!」

 天龍さん……あなたまでいっしょになってやらなくていいんですよ……。満面の笑顔でバンザイまでしちゃって……やっぱりこの二人、似たもの親分子分だ。

 そしてそんな天龍組を尻目に、天龍二世さんの後ろから、ちょうど天龍二世さんと同じぐらいの背丈の、なんだかボールに足と砲塔がついたような、妙な出で立ちの子がとてとてと執務室に入ってきた。

「お?」
「集積地、この子が?」
「ああ。名前は砲台子鬼だ」

 集積地さんにそう呼ばれる砲台子鬼さんは、その人間の子供のような足でとてとてと歩き、私たちの前を素通りして提督の机の前までやってきた。

「ほら、砲台子鬼」
『……』
「挨拶をしろ。お前の新しい提督だぞ」

 集積地さんにそう促された砲台子鬼さんは……会釈の代わりなのだろうか。ギギギと音を立て、その砲塔の角度を一度下げ、再び上げていた。

「よ、よろしく……」

 その様子を見ていた提督は、死んだ魚の眼差しのままあっけに取られつつも、なんとかがんばって挨拶を交わしていた。

 提督があっけにとられる気持ちも分かる。今まで出会ってきた深海棲艦さんたちは、なんだかんだいいながら人間型の人たちがほとんどだった。それに比べて、この砲台子鬼さんはどうだ。

『……』
「……ハハ」
『……』

 どう見ても人間以外だ。顔つきがキモいPT子鬼の天龍二世さんでさえ、なんだかんだで人間の姿形に近い。ところが砲台子鬼さんは、もはや形状が人間ではない。

「「「「……」」」」
「ん? みんなどうした?」
「いや、まぁ……その、なんだ……」
「?」

 集積地さんに言い寄られ、提督がしどろもどろになりながら言葉を選んで答えている。いや提督だけではない。天龍さんやロドニーさん……そして私ですら、集積地さんの問に対してスムーズに答える口を持ち合わせていない。……いや、端的に感想を述べることはできるが、それを口に出すのはダメだということを理解し、忠実に守っているに過ぎない。

『……』

 砲台子鬼さん……端的に言うと、キモい。キモすぎる。

「ま、まぁーあれだな」

 口は悪いが根は面倒見がよくて優しい天龍さんが、ついに口を開いた。必死に掛けるべき言葉を探して、決心したゆえの発言であることが、彼女の表情から見て取れる。

「お前さ……迫力あるよ」

 天龍さん、それは褒め言葉ではないですよ……そう言おうとした時。

『……!!』

 砲台子鬼さんが、ジャキンと音を立てて、その小さい砲台を天龍さんに向けた。

「お、なんだーやるかー?」

 天龍さんがそんな砲台子鬼さんに向けて、ファイティングポーズを取っている。左ジャブからの右ストレートのコンビネーションを繰り出して、おのれの実力の高さをアピールしたいのだろうが……その腰のサーベルは飾りなのですか……とツッコミたい気持ちをグッとこらえた。

「おい天龍」
「なんだよ集積地。邪魔すんじゃねー。シュッシュッ!!」

 コンビネーションを右ストレートからさらに左フック、そして左アッパーとつなげて行く天龍さんに対し、集積地さんは呆れたように声を掛ける。私の気のせいか。砲台子鬼さんの額……いやそれ以前に丸い部分が頭なのかどうか定かではないが……なんだか青筋ができているように見えるが……。

「天龍。砲台子鬼は喧嘩っ早いぞ。不審な影や自分を敵視するやつ、バカにする奴には容赦なく撃ってくる」
「撃てるもんなら撃ってみやがれ! シュッシュッ!!」
『……!!!』

 砲台子鬼さんの砲台がキリキリと動き、照準が天龍さんにガッチリと合ったことが分かった。

「おっ。テメーもヤル気になったみてーだなーこいやーオラー」

 どう見ても調子に乗っているとしか形容出来ない天龍さんが、砲台子鬼さんの周囲を華麗なステップで回り始めた。まるで身軽なボクサーか……ともすればジークンドーの使い手のような軽やかなステップは、見ていて非常に鼻につく。次の演習で轟沈判定20回を硬く誓うほどに。

 そんな天龍さんの挑発を受けても、砲台子鬼さんはまったく動揺することがない。冷静に照準を合わせている。天龍さんの動きに合わせ上下左右に砲塔を動かし、クールに狙いを定めているようだ。キモいけど。

 そして次の瞬間……

「いでッ!?」

 『パチン』という軽い音とともに、天龍さんが自分のおでこを抑えて大きくのけぞった。

「な、なにしやがったてめ……あだッ!?」

 おでこを押さえた天龍さんが急に悲鳴を上げる。目が涙目だ。何か相当痛い思いをしているようだ。天龍さんは『いたいッ!?』と悲鳴を上げながら逃げまわっているが、その悲鳴に紛れて聞こえる『パチンパチン』というこの音は何だ? まるで何かがはじけているような……そんな軽い音なのだが……。

「……ん? これは……?」

 先程までらんらんと目を輝かせていたロドニーさんが何かに気付いたようだ。片膝をついてしゃがみ込み、自身の足元に転がる小さい何かを指でつまむと、それを手にとってじっくりと観察する。

「……BB弾?」

 その小さいツブのようなものを指でつまみ、まじまじと観察するロドニーさん。確かに彼女がつまんでいるそれは、小さなBB弾だ。

「集積地さん、これは……?」

 ロドニーさんのつぶやきを受け、たまらず集積地さんに話を振ってみた。集積地さんは、自分の足にしがみついている電さんの髪の毛をくちゃくちゃといじりながら、キリッとした顔で私の方を向き、メガネを光らせて答えてくれる。

「……砲台子鬼は喧嘩っ早い。故に今は大事に至らないよう、実弾の代わりにBB弾を装填させている」
「あ、なるほど。通りで……」

 執務室に鳴り響く、『パチンパチン』という砲撃音。そしてその度に『いでぇえ!?』という天龍さんの悲鳴がこだまする。しかし砲台子鬼さん、すばしこく逃げまわる天龍さんに対して、よく百発百中でBB弾を当て続けることが出来るな……。

「感心してないで俺を助けてくれ姐さん!!」
「いや弾道計算も完璧ですし、何より天龍さんの動きを読むその腕も見事ですね」
「だろう? 砲撃の正確さなら誰にも負けない」
「いいからまず被害に遭ってる俺を助けろって!!!」

 涙目でそう悲鳴をあげる天龍さんだが、元はといえば天龍さんが砲台子鬼さんを挑発したのがマズかったわけだし。自業自得じゃないか。

「なるほど。観測もせずに、この正確無比な砲撃……参考になる」
「そうだろう。単純に砲撃精度だけを取れば、この戦艦棲姫もこいつには負ける」
「分かったからやめさせろ! そして俺を助けろ!!!」

 滝のように涙を流しはじめた天龍さんを尻目に、ロドニーさんと戦艦棲姫さんが冷静にそう評価を下していた。特に、ロドニーさんは戦艦だ。砲撃の精度はそのまま自身の戦闘力の評価にもつながる。この百発百中の砲撃をBB弾で繰り出し続ける砲台子鬼さんの砲撃ノウハウが、非常に気になるらしい。キモいけど。

「……集積地、砲台子鬼を止めてあげて。天龍が不憫だ」

 いい加減天龍さんが不憫になってきたのか、それとも単純に執務室がBB弾で散らかるのがイヤなのか……提督が相変わらずの死んだ魚の眼差しで、集積地さんに対してボソッとつぶやいていた。

 それを受けて集積地さんは、電さんの頭をくしゃくしゃするのをやめて、砲台子鬼さんの元にしゃがみ、その頭? 砲台部分? に綺麗な手を置いていた。

「ほら、砲台子鬼」
『……!! ……!!!』
「そのへんで勘弁してやれ。天龍も痛いって泣いちゃってるじゃないか」
「うるせー集積地! 黙れこんちくしょー!!」
「だって本当のことじゃないか……」
『……』

 集積地さんの命令だから、それとも天龍さんを不憫に思ったからなのかはよく分からない。しかし砲台子鬼さんはBB弾の射出を止め、砲台を下ろした。そしてその直後、その頭? 胴体? にはところどころモールドのようなものが見えるのだが……そのモールドからプシューッと蒸気を排出して、余計な圧力を抜いているように見えた。何この子キモい。この子マジキモいんですけど……。

「まぁそんなわけで提督」
「お、おう」
「この砲台子鬼をよろしく頼む。常に執務室に待機させておいてくれれば、この執務室の警備は万全になるぞ?」
「う、うん……」

 集積地さんは、返答に困って額に冷や汗を垂らしている提督を尻目に、両手で大事そうに砲台子鬼さんをだっこすると、だまって砲台子鬼さんを提督へと差し出していた。

 提督は、きっと今質量が500トンぐらいになっている激重な腰をなんとか持ち上げ、そして恐る恐る砲台子鬼さんを受け取り、そして大事そうにだっこしはじめた。

「うう……」
『……』

 その様子は、まるで自分の姉に生まれた赤ちゃんを抱き上げる弟のようにぎこちなく、そして腰が引けている。

「と、ところで集積地?」
「ん?」
「この子は、執務室のどこに配置しとけばいいの?」
「どこでも構わない。こいつは足が生えているから、自分の判断で勝手に動く。
「な、なるほど……では……」

 何を思ったのか……提督は、砲台子鬼さんを、しずしずと自分の机の上に置いた。人間、余裕がなくなって頭が回らなくなると、意味がよくわからない行動を取ることがある。

「……提督」
「……ん?」
「なんで砲台子鬼を机の上に置く?」
「あ、いや、あの……」
「……?」
「いやだって、ここなら執務室内が見渡せるでしょ? だから執務室内のどこにでも砲撃出来るなぁと思って……」

 もっともらしい事を言っているが、あれはきっと口からでまかせのウソだ。提督は、きっと何も考えてなかった。彼の顔を見ていれば、それぐらい分かる。

 とはいえ、集積地さんいわく『自分に向けられる敵意や悪意に敏感』らしい砲台子鬼さんが、提督には素直に従い砲を向けてないところを見ると、提督はなんだかんだで砲台子鬼さんのことを仲間として受け入れてはいるようだ。

『……』
「はは……」

 キモいけど。
 
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