英雄伝説~灰の軌跡~
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第11話
同日、17:10――――
メンフィル軍がバリアハートを占領したその日の夕方、大手柄を立てたL小隊の代表者であるリィンはリフィア達に公爵夫妻の殺害やアリサ達との戦いの経緯を説明した。
~バリアハート・元アルバレア公爵城館~
「―――なるほどな。レンから”カレイジャス”がバリアハートに現れた話は聞いていたが、まさか本当にレンの予想通り仲間の救出の為に幾ら”光の剣匠”達が共にいるとはいえ学生が”戦場”に現れるとはな……あの放蕩皇子が腐敗したエレボニアに”新たなる風”を巻き起こす為に選ばれただけあって、覚悟は相当なもののようだな。しかもよりにもよってお主達とその者達が剣を交える事になるとは……皮肉な話じゃな。」
「……?それはどういう事でしょうか?」
事情を聞き終えた後溜息を吐いたリフィアのある言葉が気になったリィンは不思議そうな表情で訊ねた。
「今の余の言葉は忘れろ。今となってはお主には無関係の話だ。」
「……?御意。」
「それよりもよくぞ公爵夫妻の首を取り、更にはアルバレア公爵の次男を捕縛し、予想外の乱入者である”光の剣匠”達を撃退した!褒めて遣わす!」
「恐悦至極に存じます。ですが今回の戦の手柄は俺だけでは決して成し遂げる事はできませんでした。全てL小隊の仲間達やベルフェゴール達のお陰ですから、俺自身は大したことはしていません。」
リフィアの称賛の言葉に対してリィンは謙遜した様子で答えた。
「ふふっ、優秀な人材を仲間にできる人望や運もまた貴方自身の実力ですから、謙遜する必要はありませんわ。」
「今回の戦の大手柄は間違いなくお前達L小隊である事は明白。お前達が大手柄を立てた事、お前達の上司として誇らしいぞ。」
「勿体無いお言葉でございます。ただ俺としては殿下達に相談もなく”光の剣匠”達をみすみすと逃がしてしまった事に責任を感じております。どうか罰するのならばL小隊の小隊長である俺だけにしてください。」
シグルーンとゼルギウスの称賛の言葉に謙遜した様子で答えたリィンはリフィア達に頭を深く下げ
「兄様………」
その様子をエリゼは心配そうな表情で見守っていた。
「なんじゃ、そんな事を気にしておったのか。その件に関して余達はお主達を罰するつもりは最初からない。話に聞くところその者達は仲間の救出の為に止むを得ずお主達と剣を交えたとの事。中立勢力にまで危害を加えたら、リベールとの”契約違反”になり、戦争終結後に余達の戦後処理にリベールが口出しできる口実を作ってしまうからな。むしろ、これ以上ユーシス・アルバレアの件でオリヴァルト皇子達に手出しさせない事を約束させたのだから、褒められるべき事だ。」
「リベールとの”契約違反”………もしかして俺達メンフィル軍が貴族連合軍の殲滅を命じられている一方、正規軍に関しては向こうから戦いを仕掛けて来ない限り手出し無用と厳命されているのはリベールとの何らかの取引によるものなのでしょうか?」
リフィアの話を聞いてある事に気づいたリィンは不思議そうな表情で訊ねた。
「うむ、そんな所じゃ。ちなみにお主達が捕縛したユーシス・アルバレアじゃが、”光の剣匠”の言う通り貴族連合軍について大した情報は持っておらんかった。」
「そうですか………その、殿下。俺如きが殿下に直接嘆願するのは身の程知らずな事だと理解しているのですが――――」
リフィアの話を聞いて頷いたリィンは決意の表情でリフィアを見つめ
「それ以上は言わなくてもわかっておる。既にエリゼから嘆願されているしな。ユーシス・アルバレアに関しては戦争終結まではこの城館にて軟禁、勿論奴への危害は厳禁、戦争終結後は”アルバレア公爵家”の財産の4分の1を現金にして渡して解放、お主達から預かった”宝剣ガランシャール”については明日にはレグラムにある”アルゼイド家”の屋敷に返還する手筈になっておる。」
「!寛大なお心遣い、ありがとうございます……!」
リフィアの答えを聞いたリィンは目を見開き、すぐに頭を深く下げて感謝の言葉を口にした。
「……殿下。今回の戦でリィンを含めたL小隊の手柄を考えるとL小隊は”次の作戦”に参加させてもよいかと思われます。」
「あなた………確かに言われてみればそうですわね。それにリィンさんはご自分が契約している異種族の方達の能力を適正なやり方による協力で今回の手柄をたてたと言っても過言ではありませんから、”次の作戦”でも彼らL小隊は必ずお役に立つと思われますわ。」
「うむ!余もお主達と同じ意見じゃ!」
その時ゼルギウスがリフィアに助言し、ゼルギウスの助言を聞いたシグルーンは目を丸くした後すぐに納得した様子で頷き、シグルーンはゼルギウスの助言の補足をし、二人の助言を聞いたリフィアは力強く頷いた。
「”次の作戦”……?それは一体どのような内容のものなのでしょうか……?」
「殿下、説明をしてもよろしいですか?」
「よい。」
不思議そうな表情で訊ねて来たリィンを見たゼルギウスはリフィアに確認を取った後説明を始めた。
「”次の作戦”……―――それは貴族連合軍の旗艦である”白銀の巨船”―――”パンダグリュエル制圧作戦”だ。」
「ちなみに諜報部隊が調べた所”現在のパンダグリュエル”には結社の”執行者”を含めた貴族連合軍の”裏の協力者”達の数多くが乗船し、更にはエレボニアの帝位継承者の一人であり、今回の戦争の発端の一因でもアルフィン皇女や貴族連合軍の”総参謀”であるルーファス・アルバレアも乗船しているとの事です。」
「貴族連合軍の旗艦を……!しかもアルフィン皇女や実質貴族連合軍のNo.2である”総参謀”まで乗船しているのですか……!」
ゼルギウスとシグルーンの説明を聞いて驚いたリィンは目を見開いてゼルギウス達を見つめた。
「うむ。次の作戦で裏でこそこそと動く貴族連合軍の”裏の協力者”共を”総参謀”を含めて殲滅し、貴族連合軍の旗艦を余達メンフィルが奪い、今後メンフィルの軍艦として有効に活用する為の作戦じゃ!」
「”パンダグリュエル制圧作戦”は滞空する敵艦に直接突入しての作戦になる為、突入できる兵達は陸での戦いと違い敵艦の兵達とすり替わった兵達を含めて数が限られている。その為作戦に参加する兵達は厳選されている。」
「ちなみに”パンダグリュエル制圧作戦”では余やプリネ達どころか、リウイも直々に出陣する事になっておる。」
「!今回の戦争のメンフィル軍の総指揮官であられるリウイ陛下が直々に出陣なさるのですか……!」
リフィアとゼルギウスの説明を聞いたリィンは信じられない表情で声を上げた。
「情報によると一人だけリウイやゼルギウスクラスでなければ討ち取る事が困難な”執行者”がいるとの事だからな。その為リウイも出陣し、その”執行者”をゼルギウスと共に討ち取る事になっている。」
「また他の”執行者”を含めた貴族連合軍の”裏の協力者”達も殿下やプリネ皇女殿下達が討ち取る予定となっております。……ここまで言えば敵艦に突入する他の兵達の役割が何なのかわかりますわよね?」
「……敵艦に潜入している兵達と連携して敵艦の兵達の殲滅並びに”総参謀”ルーファス・アルバレアの討伐、そしてアルフィン皇女の捕縛でしょうか?」
リフィアの説明を補足したシグルーンに問いかけられたリィンは静かな表情で答えてリフィア達に確認した。
「その通りじゃ。それで次の作戦、お主達L小隊も参加させるようかと思っておるが、どうだ?」
「ちなみに既に貴方達L小隊の大活躍はリウイ前皇帝陛下の耳にも届いておりますわ。恐らく現時点でも表彰は確実でしょうが次の作戦でも手柄をたてれば、直接出陣なさるリウイ陛下もいらっしゃるのですから、直々に表彰される事も早まると思われますわ。」
「!ハッ!L小隊、殿下達の抜擢にお応えし、ありがたく参加させて頂きます……!」
リフィアとシグルーンの話を聞いて目を見開いたリィンは次の作戦に参加する事を答え
「うむ!エリゼもしっかりとリィン達を補佐するのじゃぞ。」
「お任せ下さい。」
「”パンダグリュエル制圧作戦”は2日後に遂行される。詳しい時間は後で知らせる。今夜と明日は次の作戦に備えて英気を養っておくように。」
力強く頷いたリフィアに話を振られたエリゼは会釈をし、ゼルギウスはリィンに今後の事を伝えた。
~同時刻・カレイジャス~
同じ頃オリヴァルト皇子達は作戦に失敗したアリサ達を回収し、経緯を聞いた。
「……そうか。ユーシス君の救出は失敗し、アルバレア公爵夫妻も殺害され、更には”アルゼイド家”の家宝である”宝剣ガランシャール”まで奪われてしまったのか……」
「何はともあれ、みんなが無事に帰って来て本当によかったよ……」
「ああ……しかしまさか今回の戦争の発端となったユミルの領主の子息達がアルバレア公爵夫妻を殺害し、ユーシス君を救出しようとした君達と戦い、子爵閣下達もいるのに圧倒的な勝利をするとはね……」
経緯を聞き終えたオリヴァルト皇子は重々しい様子を纏い、安堵の表情をしているトワの言葉に頷いたジョルジュは複雑そうな表情をした。
「ハハ……まさかリィン君がエステル君のように多くの異種族と契約していたとはね……しかもそのうちの一人は単独で子爵閣下を剣術のみで圧倒するとは……ちなみに子爵閣下を圧倒したその異種族は一体どんな人だったんだい?」
「ど、どんな人って言われても……」
「見た感じは私達と同じ”人間”の女性にしか見えなかったわよね………?」
「―――あくまで”見た目”はね。あの女が異空間から取り出した”剣”といい、あの女に秘められている膨大な霊力といい、どう考えても人の身では決してかなわない類の”化物”よ。」
「そうね………一体どうやって彼―――リィンさんは私達が戦った女性を含めて”人”でありながらあんな高次元の存在を使い魔にしたのかしら……?」
オリヴァルト皇子の問いかけにエリオットとアリサは戸惑いの表情で答え、目を細めたセリーヌの言葉に頷いたエマは不安そうな表情をした。
「フム………実際に剣を交えた子爵閣下はその人物について何かわかったかい?」
「……いえ、私も彼女の事について把握しているのは彼らと大して変わりません。唯一わかった事と言えば彼女が扱う剣技―――”飛燕剣”とやらは高速で振るわれる剣技である事くらいです。」
「―――”飛燕剣”だって?」
アルゼイド子爵の話を聞いたオリヴァルト皇子は目を見開いた。
「その様子ですと殿下は父上と剣を交えた女性が扱っている剣技について何かご存知なのですか?」
「……ああ。―――”飛燕剣”。”飛燕剣”は異世界の東方の剣技だそうなのだが、使い手は様々な理由により非常に少なく、”伝説にして最強の剣技”とも呼ばれている事があるとの事だ。」
「で、”伝説にして最強の剣技”………」
「エレボニア最高の剣士と謳われている子爵閣下を圧倒したのですから、少なくても子爵閣下と剣を交えた女性は”結社最強”と謳われている人物と同等の実力はお持ちなのでしょうね。」
ラウラの質問に答えたオリヴァルト皇子の話を聞いたマキアスは信じられない表情をし、シャロンは真剣な表情で呟いた。
「ちなみにその女性の名前は?」
「アイドス・セイルーンと名乗っておりました。」
「!?バカな……まさか……いや、名前も違うし、そもそもサティアさんは…………」
「その様子だともしかしてラウラのお父さんを圧倒した女性と知り合いなの?」
アルゼイド子爵の答えを聞いて血相を変えた後複雑そうな表情で独り言を呟いているオリヴァルト皇子の様子が気になったフィーはオリヴァルト皇子に訊ねた。
「あ、ああ。ただ、確かに私の知り合いで”セイルーン”性の人物はいるがその人物である事は”絶対にありえないんだ。”」
「何でそんなハッキリと断言できるんですか?」
「……もしかして、その人物は既にこの世を去っているのですか?」
オリヴァルト皇子の答えを聞いて不思議に思ったトヴァルはオリヴァルト皇子に訊ね、ある程度察しがついたサラは複雑そうな表情でオリヴァルト皇子に質問した。
「ハハ、申し訳ないが色々と複雑な事情があって、その人物については話す訳にはいかないんだ。第一そもそもその人物は剣術を嗜んではいるが”飛燕剣”は扱えなかったし、名前も違うから恐らく私が知る人物と関係がなく、偶然ファミリーネームが一致しているだけだと思うよ。―――それよりも問題はユーシス君を助けられなかった件と”ガランシャール”を奪われてしまった件だね………」
「―――申し訳ございません、子爵閣下、ラウラさん。私達をあの場から逃がしてもらう為とはいえ、アルゼイド家を長年受け継いで来た家宝を敵に渡す事を御二方に確認をする事もなく、答えてしまったのですから……」
「クレア大尉が謝罪する必要はないかと。冷静になって考えてみればあの場から脱する為には彼――――リィン殿が出してきた条件を呑むしかなかったと今では私はそう思っております。」
「ラウラの言う通りだ。確かに”ガランシャール”は”アルゼイド家”にとって非常に重要な剣ではあるが、そなた達の命と比べれば、どちらが大切なのか答えは明白だ。」
クレア大尉に謝罪されたラウラとアルゼイド子爵はそれぞれ落ち着いた様子で答え
「ラウラ……子爵閣下……」
「ま~、そんなに気にしなくていいんじゃない~?ボクはその時気絶していたから聞いていないけど、エリオット達の話だとそのリィンって人は”ガランシャール”は必ず返すし、ユーシスの身の安全の保証もするって約束したんだよね~?」
二人の様子をガイウスは辛そうな表情で見つめ、ミリアムは呑気な様子で答えた。
「ミリアムちゃん!例え一時的とはいえ、先祖代々受け継いで来た家宝を奪われた子爵閣下達の気持ちを考えて発言してください!」
「君な……いい加減空気を読んだ言い方か、もう少しオブラートに包む言い方を学ぶべきだぞ……」
ミリアムの呑気な答えを聞いたクレア大尉は声を上げてミリアムに注意し、マキアスは疲れた表情でミリアムに指摘した。
「ユーシス……本当に大丈夫なのかな……?」
「あのリィンという人物や彼の妹はユーシスの身の安全の保証はすると約束してくれたが……」
「ま、それはそれとして、アタシとエマにとっても大問題よ。よりにもよってアタシ達が導くべき”起動者”が敵だなんて………本当にあらゆる意味で愚かな事をしてくれたわね、アルバレア公は……」
「………………」
エリオットとガイウスが心配そうな表情でユーシスの身を案じている中セリーヌは疲れた表情で溜息を吐き、エマは辛そうな表情で黙り込んでいた。
「ラ、”起動者”……?」
「そう言えばエマ君達はあのリィンと言う人物を見て驚いていたようだったが……」
「教官も彼を見て驚いていたようだが、彼の事を知っているのだろうか?」
セリーヌの言葉が気になったエリオットは戸惑い、マキアスとガイウスは不思議そうな表情でエマとサラを見つめ
「そ、それは………」
「………エマ達の事情は知らないけど、あたしもリィン・シュバルツァーの事について知ってはいるわ。―――最も今となっては関係のない話だから、あんた達は気にしなくていいわ。」
「………………」
エマが答えを濁している中サラは静かな表情で答え、サラの答えにアリサ達が不思議そうな表情で首を傾げている中唯一人サラが答えを濁している事情を知っているオリヴァルト皇子は重々しい様子を纏って黙り込んでいた。
「そういやユミルで結社の”蛇の使徒”―――”蒼の深淵”が結社の”幻焔計画”の成就の為にリィンにエレボニアの内戦に関わってもらう事が必要で、リィンにエマを探せみたいな事を言っていたな。」
「え……ね、姉さんがですか?」
「一体何を考えているのよ、ヴィータ―――いえ、結社は。」
ある事を思い出したトヴァルの話を聞いたエマは戸惑い、セリーヌは目を細め
「”幻焔計画”……恐らく”リベールの異変”の”福音計画”のような結社の新たなる大掛かりな計画でしょうね。」
「その……シャロンは何か知らないの?」
「申し訳ございませんが、私は”幻焔計画”の内容について全く把握しておりませんわ。」
「フン、ヨシュアと違って結社から完全に抜けた訳じゃない癖にそんなシラが通ると本気で思っているのかしら?」
「サ、サラ教官。」
クレア大尉は真剣な表情で考え込み、複雑そうな表情のアリサに見つめられて答えたシャロンの答えを聞いたサラは鼻を鳴らして厳しい表情でシャロンを見つめ、サラの様子にエリオットは冷や汗をかいた。
「ちなみにトヴァルさんはユミルでその”蛇の使徒”から一体どんな話を聞いたんですか?」
「ああ、それは――――」
そしてジョルジュの質問にトヴァルはユミルで知りえた情報――――結社の新たなる計画である”幻焔計画”での”蒼の深淵”ヴィータ・クロチルダの役目が現代の”騎神”という存在同士の戦いの舞台を導き、戦いを見守る事で、”蒼の騎神”の”起動者”がアリサ達”Ⅶ組”のクラスメイトであり、エレボニア全土でテロ活動を行っていたテロリストのリーダーでもあるクロウ・アームブラストである事、そして”灰の騎神”を駆る”起動者”がリィンである事を説明した。
「クロウ君がその”騎神”っていう存在の”起動者”………」
「……そう言えば学院が襲撃されたあの日、帝国解放戦線が駆る”機甲兵”をわたし達が無力化した後、他の”機甲兵”とは全く別物に見える人形に乗ったクロウが現れてわたし達を無力化して降伏しろって言っていたね。」
「うむ……まさに”格が違う”とはあの事を言うのだろう。幾ら機甲兵との戦いで疲弊していたとはいえ、私達は瞬く間に無力化されてしまったからな。」
事情を聞き終えたトワは呆けた表情で呟き、フィーの話に頷いたラウラは複雑そうな表情をした。
「えっと……今更だけど委員長とセリーヌって何者なの?」
「……ノルドでの”特別実習”やレグラムでの”特別実習”の時も不可思議な現象について知っていたようだが………」
「それは……セリーヌ、もう隠さなくてもいいわよね……?」
「”手遅れ”どころか”最悪”の状況なのだから、今更隠す必要なんてないわよ。」
エリオットとガイウスの疑問を聞いたエマは辛そうな表情で黙り込んだがすぐに決意の表情になってセリーヌに問いかけ、問いかけられたセリーヌは疲れた表情で答えた。その後エマとセリーヌは自分達の正体はエレボニア帝国に伝わり続けている伝承の一つである”魔女”がエマで、セリーヌはエマをサポートする使い魔という存在である事を説明した。
「エマがエレボニアに伝わっている伝承の”魔女”……」
「えっと……エマ君は”蒼の歌姫”であったクロチルダさんと知り合いのようだけど、クロチルダさんもそうなのか……?」
「はい。ヴィータ姉さんも私と同じ”魔女”で、”姉弟子”にあたります。魔女としては凄まじく優秀で、沢山の人に響く歌声も持っていて……私にとっては憧れの存在でした。禁を犯して故郷を出て行った今も………とても追いつける気はしません。そして……私が士官学院に入ったのは、”使命”のためでした。古より続く一族の末裔……”魔女の眷属”としての。」
「……”魔女”の使命……」
事情を聞き終えたアリサは驚いた表情でエマを見つめ、マキアスの疑問にエマは頷いて答え、ガイウスは呆けた表情でエマを見つめた。
「……それは、遥か昔から受け継がれてきたものでね。地下深くに封印された”巨いなる力”を見守り、その行く末を見届けること……それがエマにとっての”果たすべき使命”だったってワケ。」
「”巨いなる力”……それって、まさかみんなの話にあったクロウが駆っている”騎神”という存在の事かい?」
セリーヌの話を聞いてある事が気になったジョルジュはセリーヌに訊ねた。
「ええ。で、その”巨いなる力”はあの学院の旧校舎の地下の奥深くに眠っているのよ。」
「ええっ!?きゅ、旧校舎の地下にクロウが駆っていたような人形が!?」
「旧校舎の件は報告で聞いていたがまさかそのような存在が眠っていたとは……」
セリーヌの説明を聞いたエリオットは驚き、オリヴァルト皇子は信じられない表情で呟いた。
「なるほどね~。それで委員長とセリーヌは”これからどうするの?”」
「え…………」
「……………」
「これからどうするって……一体どういう意味で訊ねているんだ?」
ミリアムの疑問を聞いたエマは呆け、ミリアムの疑問の意味を理解していたセリーヌは複雑そうな表情で黙り込み、マキアスは戸惑いの表情でミリアムに訊ねた。
「だって、委員長達の”シメイ”ってあのリィンって人と一緒に旧校舎の地下にある”騎神”を手に入れるって事で、エレボニアの内戦やメンフィルとエレボニアの戦争には関係ないって意味にもなるって事だよ?と言う事は、委員長達はその”シメイ”を果たす為にあのリィンって人の仲間にならないと果たせないんだよ~?」
「ミリアムちゃん!」
「そ、それって………」
「……委員長達が”魔女の使命”を果たす為にあのリィンという人物と共に行動する為にオレ達と別れてメンフィル帝国側に付かなければならないという事か……」
「エマ………」
ミリアムの説明を聞いたクレア大尉は声を上げ、エリオットとガイウス、アリサは辛そうな表情でエマを見つめ
「……それができたらこっちもそんなに悩んだりしないわよ。バリアハートの件で”起動者”にアタシ達が”敵”として認識されてしまったから、普通に考えてみれば向こうの仲間になるなんて無理な話よ。」
「それに幾ら”使命”の為とはいえ、皆さんを裏切るような事はこれ以上できません。今までも皆さんに私達の事を話さず、何一つ警告する事ができなかったのですから……”魔女”として……”Ⅶ組”の仲間として失格な私ですが、せめてもの償いに、どんな結果になろうと最後まで皆さんの力になるつもりです。」
「……………」
「……本当にいいんちょはそれでいいの?」
セリーヌは疲れた表情で溜息を吐き、エマの決意を知ったサラは重々しい様子を纏って黙り込み、フィーは複雑そうな表情でエマに訊ねた。
「ええ……それにどの道リィンさんと接触できたとしても、今のリィンさんはメンフィル軍に所属している人だから、”魔女の使命”の為に私達と行動を共にする事を頼んでも絶対に断られるのはわかりきっているもの。」
「エマちゃん………」
エマの答えを聞いたトワは心配そうな表情でエマを見つめた。
「……―――いずれにせよ、今後の方針を決める為にも今は情報収集が必須だ。」
「そうだね。まずはユーシス君の安否を確かめる為に再びバリアハートに潜入して情報を集めるべきだと思われるが………」
アルゼイド子爵の言葉に頷いたオリヴァルト皇子は重々しい様子を纏って呟き
「問題はバリアハートを占領しているメンフィル帝国軍だね。普通に考えたら警戒体制は領邦軍の時よりも厳しいと思うし。」
「しかも俺達の顔も割れちまっているしな………」
フィーは真剣な表情で答え、トヴァルは疲れた表情で溜息を吐いた。
「―――いえ、バリアハートでの情報収集についてはそれ程厳しくありません。」
「へ……それってどういう事なんですか?」
その時クレア大尉が静かな表情で答え、クレア大尉の言葉が気になったエリオットは不思議そうな表情で訊ねた。
「実は貴族連合軍の動きを探らせる為にオーロックス地方に潜んでいた部下達を先の戦いによって生じる混乱を利用してのバリアハートへの潜入を命じていたのですが……先程連絡があり、無事にバリアハートに潜入できたとの事です。」
「ふええっ!?」
「ったく、相変わらず油断も隙もないわね……」
「アハハ、さすがクレアだね~。」
クレア大尉の説明を聞いたアリサ達がそれぞれ血相を変えている中トワは驚きの声を上げ、サラは呆れた表情でクレア大尉を見つめ、ミリアムは無邪気な笑顔を浮かべた。
「と言う事はその人達にユーシスの安否を頼めば……!」
「ええ。既にユーシスさんの安否の件も含めてバリアハートでの情報収集を命じてあります。」
明るい表情をしているマキアスの言葉にクレア大尉は静かな表情で頷いて答え
「そうか……と言う事は今はバリアハートに潜入している彼らからの情報を待つ為に下手に動かない方がよさそうだね。」
「ならばバリアハートに潜入している者達からの連絡があるまでカレイジャスをレグラムに停泊させて待機するべきかと。燃料も限られていますから、節約できる時は節約をするべきです。」
「ああ、頼むよ。」
アルゼイド子爵の提案にオリヴァルト皇子は頷いて答えた。
こうして……アリサ達はバリアハートに潜入している鉄道憲兵隊からの連絡を待つ為にレグラムで待機する事になり……カレイジャスはラウラとアルゼイド子爵の故郷であるレグラムへと向かった―――――
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