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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第244話 最高の笑顔とVサインを

 
前書き
~一言~


……ものすっごく遅れてしまって本当に申し訳ないです。

 そして いつもはあまり見ないのですが、アクセスの状況? を確認する所を見てみれば こんなに更新が遅くなっているというのに とても伸びているのが判りました。

 本当に感謝です。……そして すみません!! 次は 次はなるべく早く出せる様に 頑張りたいと思います! 長らくお待たせしました!

 出来の方はちょっと自信が……。最近忙しさのせいかスランプ気味(言い訳です……涙)

 最後にこの小説を読んでくださって本当にありがとうございます。まだまだ頑張ります!



                                  じーくw 

 

 いきなりの2人の登場に関しては、正直に言えば度肝を抜かれたと言う感想が一番だろう。

 リュウキとキリト。

 その2人はここALO内において、知らぬ者はいないと言われる程かなり有名だ。
 最前線で攻略を続けているギルドにとっても、それは当然であり、22層以降はそこまで目立った活動は見られないものの、その高い実力故にこの2人が動けば……大小問わず 様々なギルドが動く、と内々では言われている程だ。

 その戦いで得られる情報が異常なまでに高く、更に言えばBOSS戦を初見でそのまま攻略をされてしまう可能性が高いから、と言うのが最大の理由だったりする。

 だが それ程の強さの噂が立つ2人だが、それはあくまで1対1、若しくはアルゴリズムで動くMobを相手にした場合のみだ、と考えている者も少なくは無かった。


 そして何より 如何に強大な相手であっても、数の暴力と言うものは存在しているし、現に新生アインクラッドの各層に鎮座する凶悪なBOSSモンスターも、その力で屠り続けているのだから。……目的がBOSSを倒す事から、2人を倒す事に挿げ替えられた、それだけだ と考える者も多い。

 何より、余りに不遜な振る舞いをされているから、引ける訳がなく、最初に反応した増援部隊の先頭に立つ部隊のリーダーであろうサラマンダーの男がその長髪を揺らせながら大きく頭を横に振った。


「おいおい。……おいおいおい、《黒ずくめ(ブラッキー)》先生に、《超勇者(マスターブレイブ)》サマよ。幾らアンタら2人でも、この人数を食うのは無理じゃね? まだまだ これから増えてくんだぜ? BOSS攻略用レイド・パーティ全員とヤれんのか?」

 全身黒ずくめ。頭のてっぺんからつま先まで黒いからこそ、そう言う渾名を着けられたのはキリト。と言うよりその黒の由来からくる渾名は山ほどあるから、今更何をどう言われても、大して反応はしない。……勿論、それはキリト()である。
 もう1人の男。……洞窟内の宙を駆けて降り立った銀の閃光を纏った男、リュウキは別である。SAO時代からこの手の話は何度も何度も上がっているんだけど、相変わらずまだ容認はしていない。……これからもする訳ない。

「まず、言いたい事がある。……お前、ソレ(・・)ヤメロ……」

 相手がよく知らないヤツであろうと、長らく苦楽を共に戦ってきた男達(エギルやクライン)であろうと、親友と呼べる(キリト)であろうと……最愛の(レイナ)であろうと、やっぱり呼ばれるのには等しく抵抗があった。

「やっぱ、リュウキのセリフはそれだな。そうでなくちゃ」

 剣を地に突き刺し、柄の部分を杖の様にして体を支え、開いた右手を口許に持っていき、笑うのはキリトだ。

「うるさいな」

 そして、そんなキリトに実力行使(肘撃ち)で黙らせようとしたリュウキだったんだが、その肩には小さな妖精、ユイが乗っているから あまり手荒な事はしたくない、と言う事で今回限りは見送った。

「……こほんっ、それは兎も角だな。どうだかな? リュウキ。この人数の相手は」
「今更聞いてどうするんだキリト。 ここに来た時から いや 以前話に乗ったその時から もう決まってるんだろう? 色々と策はあるが まずは試してみるのも面白い。……この手のは久しく無いからな」
「バレてる、か。やっぱ」
「判るだろ。知ってるヤツだったら誰だって」

 勝手に2人でコントでもしたのか? と思えば、更に人を食った様な言いように、サラマンダーの男は苦笑いをしつつ、右手を軽く持ち上げた。


「そりゃ、無ぇだろうな。こんなんに挑むなんて馬鹿な話は聞いた事無ぇよ。……だが、味わってみたいなら、たっぷりと味わってもらうぜ。……メイジ隊、最大出力だ。盛大に焼いてやんな。相手は勇者サマ御一行だ。遠慮は一切無しだ」


 パチン、と指が鳴らされる。

 それと殆ど同時に、後方からの集団から たちまちスペルワードの高速詠唱が聞こえてきた。BOSS攻略において、火力の高いメイジ部隊を備えているのは当然だ。詠唱時間がかかればかかる魔法程、その威力は比例していく。つまり、前衛が守ってくれれば、気兼ねなく高火力の魔法を撃ち放てる、と言う事だ。

 その人数は、一体何人、10数人、数10人、一体どれだけの数を用意してきたのか判らない。立ち上るスペルワードの光の螺旋が絡まりあい、正確な数が読めないが、その立ち上る光の数が膨大だという事は見てすぐにわかった。
 だからこそ、回復魔法を咄嗟に唱えようとするアスナと攻防一体の付与の歌を使おうとするレイナだったが、それは先遣部隊が赦さない。

 と、その瞬間、駆けつけてくれた2人が……、其々の最愛の人が僅かに初めて振り向いた。 

 キリトの肩に乗ったユイを含めて、意味深で そして不敵な笑みを浮かべている。例えアバターの形が変わっても、その笑みだけは忘れる事はない。数限りなく見続けてきたものだから。

 撃ち放たれる魔法は、一目で高レベルである事は判る。無数に飛来する様々な光を放つ《単焦点追尾(シングルホーミング)》型の魔法。それぞれのメイジ達が、2人に割り振って放っているのだろう。雨霰とはこの事だ、と思える程の魔法の雨が2人に迫る。
 普通であれば、この決して広くない回廊の中での多数の魔法は回避する事は不可能だ。それが誤射の殆どない《追尾(ホーミング)》型の魔法であれば尚更だ。

 だけど、この2人には普通(・・)と言う話は、あまりしない方が良い事も アスナとレイナはよく知っている。そしてそれを改めて目の当たりにする事になった。

 迫りくる魔法の雨の前に立つ2人。

 キリトは剣を構え、リュウキは左拳を握りしめながら左腕を前に出した。

 引き抜いた剣を右肩に担いで構え、その刃に深紅色のライトエフェクトを宿した。――ソードスキルの発動の証。

 前に出した左腕。……その肘から拳までにかけて、淡い紅色のライトエフェクトを宿した。――体術スキルの発動の証。

 その次の瞬間、この回廊に集まってきた70はいるであろう人数全員の驚愕が狭い回廊を満たした。

 無数に迫る魔法を、まずは、キリトが放ったソードスキル七連撃《デッドリー・シンズ》が全弾を空中で斬り伏せた。そして、リュウキがソードスキルの発動後の遅延で動けないキリトの前に出て、全ての魔法を左腕、拳で受け止めた。……いや、弾き返したのだ。
 弾かれた魔法は、対象を見失ったのか 暴走したのか判らないが、この回廊の至る所に飛び散って消失した。


「うっ……そぉ……」
「な、なな…………」


 さしもの絶剣・剣聖の渾名を持つユウキやランも信じられない、と言うようにつぶやいていた。


「魔法を……斬った?」
「偶然じゃなくて……?」
「いや そっちも驚き、だけど………。今リュウキがしたのって…… ひょっとして魔法殴った?」
「いや殴るって 表現がへんだろ。どっちかと言うと弾いた、だろ。……でも、それを差し引いても魔法を素手で弾くなんて……そんなの聞いた事……」


 タルケン、テッチ、ジュン。スリーピングナイツの頼れる男達。ユウキやラン、アスナやレイナ、シウネーにノリ。とても強い女性が集ったギルドの中の男メンバーとして、いつも以上に気合を入れていた3人だったが……、この時ばかりは、ユウキやランの2人と同じ……、以下同文だった。



「ほっほぅ。やーっと披露したな。リュウキの もう1つの伝説武器(レジェンダリー・ウェポン)
「相手は多勢だ。多勢に無勢。ここは、出し惜しみする場面じゃないだろ? それに人数が人数だ。持てる力は全部出す。……今回ばかりは流石に魔法攻撃の数が多いからな。剣より小回りが利くこっちの方が防ぎやすい」
「ああ。そうだな。ははっ、リュウキはいつもそうだったよ。本当に必要な時は、何も惜しまなかったな。……でも ま、オレは剣の方が絶対防ぎやすい、っとだけは言っとくわ。体術じゃ リーチが無いに等しいから 防ぐのが少しでも遅れたら、魔法の衝撃(ノックバック)がメチャ走るし、正確に当てなきゃ そのままダメージ。魔法に直接ぶつかっていく様なもんだ。……よくよく考えたら、んなリスキーな武器を使いこなせるのは 武術の達人かお前くらいだ」
「その辺りは反復練習。……それにキリトだって、絶対人この事 言えないだろ。披露したあの時、皆キリトを見る目や表情、全部同じような顔してたんだからな」



 それぞれが、それぞれを讃えるかの様に、言い合う2人。

「パパとお兄さんがとても仲良しさんなのはよく判ってますけど、あまりし過ぎると、ママやお姉さんたちがヤキモチをやいてしまいますよっ?」

 キリトの肩に乗っているユイのセリフに思わず吹いてしまいそうになる2人。
 そんな軽い談笑だけが、この絶句している回廊内で小さく木霊した。

「あはは…………」
「本当に、2人は…… ふふ」

 こんな大変な場所でも、いつもの2人を崩さず、何処か楽しんでいる雰囲気も出している。そんな2人を見て、アスナとレイナは思わず笑ってしまっていた。

 キリトが使用したのは、独自に編み出したシステム外スキル《魔法破壊(スペルブラスト)》だ。かつての世界……旧アインクラッドにおいて、キリトは数少ない《武器破壊(アームブラスト)》のシステム外スキルの達人レベルだった。その経験もあってか、剣と違って実体の無い魔法を斬り伏せる、と言うこれまた神業を体得するに至ったのだろう。実体が無い故に、その難易度は剣よりもはるかに高いのだから。

 そして キリト本人曰く『どんな高速魔法も対物ライフルの弾丸よりは遅い』との事。……その言葉を訊いて、呆けてしまったのは、その場に集っていた見知ったメンバー殆ど全員だった。

 因みにその中には勿論だが例外がいた。ただ呆ける変わりに、凄まじい殺気を放つ弓兵(スナイパー)シノンと、それを見て苦笑いするリュウキの2人である。

 周囲にもその圧力(プレッシャー)は伝わっていて、リズとリーファがそれとなく訊いてみると、事の真相はALOにコンバートし直す前に GGOでもう一ゲームしたらしく、そこでキリトが実際に体験したとの事。リュウキには防がれたらしく、キリトなら……と思ってたシノンにとって、それは腹立たしい記憶だったらしく、その話をALO内で得意げな顔して言っていたスカした男の顔面目掛けて、火矢を撃とうと構えた……と言うのは余談だ。

 そして、リュウキが魔法を防いだそれは、キリトが言っていたリュウキのもう1つの伝説級武器(レジェンダリーウェポン)にあった。

 嘗ての年末大イベントにて、キリトは黄金の剣(エクスキャリバー)を受け取り、そしてリュウキは小手型の武具《ティル・ヴィング》を受け取った。
 そして、魔法を迎え撃つ為に 放ったのは体術スキルである。

 元々の話は、ティルヴイングは北欧神話に登場する呪われた魔剣――だったが、ALOでは同じく魔剣ガラムの存在が先に実装されていたせいか、少々脚色されていて、呪われた魔剣から、《魔を防ぐ武具》と変更させた様だ。或いは剣と拳。読み方が同じだから~の様な単純な理由かもしれない。正確な経緯は判らないので省略する。

 そして効力を説明すると、文字通り魔法を防ぐ事が出来る。

 だが、勿論そう甘くは無いのが実情でり、キリトが言う様に使用するプレイヤーの腕で魔法を防ぐ為、拡散系の魔法であったり、高威力の魔法であれば、小手以外の部位に当たる可能性が大幅に上がってしまって、非常に怖い思いをしてしまう事が多々あるのだ。衝撃(ノックバック)はこの世界ALOでは 剣よりも魔法の方が大きいのは言わずもがなである。
 更に言えば、この世界では GGOの様な弾道予測戦(バレット・ライン)が魔法にあったりはしない為、全てあの不規則に動く実体の無い攻撃を自分の目で見て 更には軌道までを読みつくして防がなければ、無傷(ノーダメージ)はあり得ない。武器としての攻撃力はカテゴリーが伝説武器である為、優秀な部類だと言えるが如何せん拳武器。剣に比べたらやはりリーチ等もあってやはり頼りないだろう。その上、最高難易度であると言えるから完全な玄人好みの武器だと言える。
 因みに 似たような武具で、『魔法軽減~%』と言う装備も存在するが、誰一人として、それを全面に出して、魔法の全てを防ごうとする者などいなかった。

 だが、並外れた観察眼を持つリュウキは、その魔法の軌道から、着弾点。更には魔法の爆発に至るまでの時までを視抜いてしまって、全てピンポイント。いつも最適のタイミングで、更に更に、体術スキルの威力をも利用して、最高の威力で弾き返してしまうのだ。

 つまり、総括すると2人が揃えば魔法さえ通じない。

 剣士に対して絶対的有利である魔法使いの遠距離攻撃が防がれてしまうのだから。……だから、防がれてしまい、その間に接近されればもう終わりだ。

「………んだそりゃ……」

 正直に言えば、自分達を忘れたかのように談笑をし始めた2人に対して、怒りも覚えたのだが、正直な所 それどころではないのが実情だった。リーダー格のサラマンダーのつぶやきに続き、『魔法を斬った……?』『偶然……じゃないだろうな、あいつらなら……』『これだから……』 などなどの其々のご感想が沸き起こる。

 壮絶な場面(シーン)を見せつけられた為、数秒間の空白を生み出す事が出来、それを利用して声をあげるのはリュウキだ。



『ここは任せろ! 行け、みんな!』



 それが誰に対しての言葉なのかは、直ぐに理解できた。
 勿論、スリーピングナイツの皆とアスナ・レイナの2人に対してだ。

 キリトもニヤリと笑ってピースサインをこちらに向けた。
 あの笑顔はよく判る。これからの戦いに対し心底ワクワクさせている表情だ。いつも難関なクエストやボス攻略をする前に僅かだが見せる素顔。それとまさしく同質だった。

 この多勢に無勢な状況で、2人は切り抜けるだけの自信があるのだという事を、理解できた。

「て、てめぇら! やっちまえ!! 相手はたった2人だ!!」

 リュウキの言葉と不敵な笑み。
 それは、先ほどのトンでも映像を見せられて、呆気に取られていた頭を冷めさせるのには十分過ぎるものだった。何とか部隊を持ち直し迎撃態勢を整え直そうとしたその時だ。


「だーれがたったの2人だってぇぇぇ!!」


 猛り立つとはこの事なのだろうか。忘れ去られていた事への怒りなのか、或いはただの目立ちたがり屋なのか、……それは判らない。だけど、それでもアスナやレイナにとっては とても頼りになる、頼りがいのある威勢のいい雄叫びだった。

「オレもいるぜぇ! どーせ、そっちからじゃ見えねぇだろうがなぁ!」

 あまり品が良い、とは言えない声。その主は古なじみであるカタナ使いのクラインのものだった。

 そう、リュウキが言っていた策。
 手配をしていたのは キリトだけじゃなかったのだ。


 そして、喜ぶべき事が次から次へと沸き起こる。


 突然、回廊に集ったギルドの頭上に 暗黒の空間が現れたのだ。それは、紫色の幕放電を繰り返し、軈ては妖精族の中でも一番巨漢だと言われている土妖精族(ノーム)の身体2つ分はあろうかと思える大きな岩が現れた。


 いや…… 岩ではない。あれは隕石だ。強大な隕石が回廊内に出現したのだ。
 ボス部屋側からは見えない位置に立つのは クラインだけじゃなかった。


「ちょぉ! り、リタお嬢ちゃん! オレもいるんだぜ!?!?」
「アンタなら大丈夫。死にはしないでしょ」


 共に馳せ参じたのは 風妖精族(シルフ)のリタ。

 何処か緊張感の無い陽気なやり取りが聞こえたかと思えば、次の瞬間には頭上の隕石が降り注いできた。



「「「「ぎゃあああああっっ!!」」」」
「リタじょーーーちゃーーーっっっ!!」



 あっと言う間に十人単位で吹き飛ばしてしまった。

 因みに、悲鳴をあげていたクラインだったが、何とか回避する事が出来ていた様で、ダメージは無かった。……それでも あの魔法は恐怖を刻み込むから、暫くは震えてしまう事になるのは仕方ない。

「あはは……、いつ見ても怖いな。アレ(・・)は」
「……まぁ 否定はしないな。突然現れたともなれば、確かに」

 降り注ぐ隕石に見覚えがあるのはキリト。そして 勿論同じ使い手であるリュウキ。
 全攻撃魔法の中でも最も習得が難しく、最も強力で、最も広範囲に効果を及ぼす《根源元素》の魔法。


 それを使えるのは、リュウキを除けば あと1人しか知らない。そう――風妖精族(シルフ)大魔導士(マギステル・マギ)リタだ。

 そして、来てくれているのはリタだけではなかった。



「く、っそぉ!! てめぇら! 死んでねぇよなぁ!?? こっちも魔法で応戦w“どごんっっ!!”ぐべぇっっ!!」


 辛うじて隕石の直撃と言う最悪の事態を免れた者が必死に魔法部隊に指示を飛ばそうとしたのだが……、それは出来なかった。何故ならその顔面に何かが直撃したからだ。

 燃えるなにか 炎を纏った一閃を受けたから。


「……リュウキに貸しを作るのも悪くないってね。アンタだってそうなんでしょ? シノン」
「私はただ頼まれただけ。……リュウキには色々と手伝ってもらってるし」
「……ふーん」

 炎を纏った一閃の正体は 爆裂矢(バースト・ショット)と言う弓術のスキル。強力ではあるが 命中精度が著しく低い事が難点である最上位のスキルだ。

 それを正確無比に直撃させた者こそ、猫妖精族(ケットシ―)の凄腕弓兵(スナイパー)シノンだった。



 示して5人がこの場に集まってくれた。



「―――こっちが2人だけとは言った覚えはないぜ?」
「そういう訳だな」



 キリトが、またまた呆気に取られてしまっていたサラマンダーのリーダー格の男にそう言い放った。リュウキも頷く。

 誰もかれもが よく知る凄腕プレイヤーだという事はよく判る。近接、遠距離 バランスよく集ったパーティーは 脅威そのものだ。キリトとリュウキの2人だけでも 威圧されていたというのに更に3人も集まってしまえば……、と戦意が怪しくなってしまっている皆に再び一喝。

「ば、馬鹿やろう! こっちは何人いると思ってんだ! 相手は増えたとは言っても5人だぞ!! 諦めムード止めろ!! お前ら、あいつらぶっ倒すぞ!!!」

 確かに数を考えれば……普通は負けない。
 だが 普通(・・)であればだ。相手が普通じゃないのは明らかだが それでも簡単に退く訳にはいかないのが実情だったりする。

 殆どヤケクソ状態になって突撃していくのだった。
 
 そんな乱戦状態になっても 笑みを隠さないリュウキとキリト。そして すッ転んでしまったが、何とか体勢を立て直したクライン。 そして、何処か違った雰囲気を纏っているリタとシノン。

「アンタさ どっちかっていうと、新たにリュウキに引っ付こうとしてる子の事が気になったんじゃないの? あの天然ジゴロコンビは、人間(女の子限定)磁石状態だし?」
「っっ!?」

 いざ戦いの舞台へ……と言う場面でのまさかのリタの発言。
 シノンは思わず息が詰まってしまいそうになるが、それでも 迫ってくる敵には正確に矢を撃ちこんでいるのだった。
 勿論、その後しっかりと隙を見て否定の言葉をかけるのを忘れずに………。

 








 全てのやり取りを見て聞いていた訳じゃないが、とても心強い仲間達が助けてくれた事は判った。判って……、アスナとレイナは本当に感謝をしていた。

 本当に、大切な仲間達。自分にはもったいない程の大切な仲間達だと再認識する事が出来た。(因みに、シノンとリタのやり取りは、2人は全く聞いてなかった)



――ありがとう。ユイちゃん。ありがとう、クラインさん しののん リタちゃん。
――ありがとうっ! ユイちゃん、クラインさんっ、シノンさんっ リタさんっ!



 めいいっぱいの感謝の気持ちを込めて、頷いた2人。
 
 そして、何よりも……互いの最愛の人たち。


――大好きだよ。キリトくん。
――大好きだよ。リュウキくん。


 言葉に出さずに何度も念じた後、2人はユウキとランの方に向いた。
 
 

「向こうは任せておいて大丈夫。わたしたちの仕事tは、後ろの20人を突破して、ボス部屋に入る事」
「だね! 前にだけ集中できるのなら、わたしたちだったら絶対に行けるよ! 皆っ!」

 アスナとレイナの言葉に、暫く呆気に取られてしまっていた皆も 何度か瞬きをした後に反応する事が出来た。

「うんっ! 判った!」
「ですね。頑張りましょう」

 ランとユウキを筆頭に、いきなりのソードスキルを仕掛けようと構えた。
 このスリーピングナイツの前衛の全力ソードスキルとアスナ・レイナのソードスキル。
 それが一本の槍となり、突撃をすれば如何に20人の壁が存在するとはいえ突破する事は決して不可能ではなかった。
 
 それ程までに個の力が高く、チームとしての連携、その力も一線を遥かに凌駕していたから。

「シウネー。ヒール役は1人で大丈夫?」
「ええ。多分間に合うと思います」
「じゃあ、わたしとレイで敵のヒーラーを排除してくるわ」
「うん。任せておいて! 皆に付与術(バフ)はかけ終わったから。ここから先は攻撃に集中するよっ!」

 アスナとレイナが2人並びになり、構えた。
 リュウキとキリトの2人の戦いに応える為にも、最短で最速に駆け抜ける必要がある。

――あの大部隊をたった2人で支えてくれているのだからこそ、それに応えなければならない。

 そう強く思ったアスナとレイナの2人。
 
「ユウキ! ランっ!!」
「今から行くよ! 危ないから避けてねっっ!!」

「え? ……きゃっ!!」
「へ? いったいどうい……うわっっ!!」

 ランとユウキの2人の返答を待たず、アスナとレイナは二つの閃光になった。
 ソードスキルを発動させる際に発生するライトエフェクトの視覚効果を身に纏ったかの様に突進する姿はまさに閃光そのものだ。

 反射神経、反応速度が抜群。文句なしの《S》クラスであろうランとユウキの2人であっても、こればかりは想定外だ。それでも、驚き巻き込まれない様に飛び退る事が出来たのは流石の一言だ。

 2人を横切る2つの閃光は、戦士(アタッカー)を吹き飛ばし、(タンク)を貫き……、魔法使い(メイジ)達の眼前にまで迫っていた。

 ある者は吹き飛び、またある者は四散させ、まさに蹴散らしたと言える状況。

 2人が発動させたのは細剣カテゴリ最上位の長距離突進系のソードスキル《フラッシング・ペネトレイター》。その威力は、見ての通りだ。主力部隊ではないとはいえ、幾らスリーピングナイツの前衛部隊で消耗させたとは言え、(タンク)を含めた数人を蹴散らし、突き進んだのだから。

――あー、これでまた《バーサクヒーラー》とか言われるんだろうなぁ……。
――うぅ……、2人でしちゃったから、やっぱり《ツイン》を付けられちゃうよね……。

 それは、アスナとレイナの心情である。
 そしてそれは全くの正解だ。突き進み蹴散らした者達は、消滅し炎となる前に『ば、バーサク……』と口ずさんでいたから。

 でも、今はそれどころではない。
 見た通りの道を作る事が出来た。その軌跡に向かって皆が進む事が出来たから。

「さぁ! ここからが本番だよ! 行こうボスを倒しに!」
「絶対成功させるよ!」

 おうっ‼ と応じた7人が同時に駆け抜け、全ての障害がなくなり、もう目の前にボス部屋の大きな扉を残すのみとなった。右手の壁に設置されている石のボタンを押して扉を解放した後すぐに扉をしめた。……乱入を防ぐ為にだ。

 向こう側では 激闘が繰り広げられている事だろう。
 扉が閉まる瞬間に アスナとレイナは確かに見た。
 
 リュウキが キリトが シノンが クラインが リタが……。

 皆が笑って見送ってくれたのを。

 そして 完全に扉がしまってしまった。
 これで、内部の戦闘が終わるまで、例外を残して誰も開ける事は出来ない。……心置きなく ボスに集中する事が出来るのだ。

「みんな、ポーションでHPMPを全回復させておいてね。ボス戦の手順は打ち合わせ通りで」
「うんっ 攻撃力は凄く高いけど、序盤は攻撃のパターンは単純だからね? 落ち着いていれば皆だったら絶対避けれるから」

 アスナとレイナの言葉に、7人は頷いた。頷くと同時に赤青の小瓶を取り出して飲み干した。

「あの……」

 体勢を整え直した後、ランが口を開いた。

「さっきの人達は……、私達を……」

 最後まで口にする事は出来なかった。申し訳なさが心を締めていたから、俯かせる事しかできなかった様だ。

「うん……。ボクたちの為に……ボクたちを行かせるために……」

 ユウキもランと同じ気持ちだった。

 あの大部隊にたった数人で残ってくれた。理由はただ一つ ボス攻略へと行かせてくれる為に。
 本当に感謝してもしきれなかった。ユウキやラン、他の皆もボス攻略には強い思いがあったから。
 だからこそ、感謝以上に申し訳なさも強くもっていたのだ。

「うん。でもさ。皆の気持ちにはボス攻略の成功報告で応えようよ」

 俯く皆にレイナは微笑みながら答えた。
 だけど いつも笑顔なユウキでさえも今回ばかりは陽気ではいられない。

「……でも、ボクたち アスナやレイナ、リュウキの友達に助けられてばかりで……。それに リュウキも……ボク達を助ける為に、あの人たちを呼んでくれたんだよね……? 友達の皆を……。それで戦ってくれてる。皆で戦ってくれてる。ボスの攻略だってとってもお世話になってて……。そんなリュウキの事もおいて、ボク達……」
「リュウキ、さん……」

 最初のボス攻略の時に リュウキは盗み見の魔法を見破った。……その時点で今回の事を予期していたんだと思える。でも 口に出さなかったのは 少しでもボスに集中して貰いたかったからなんだと判った。とても、優しい人だという事も改めて。

「リュウキくんなら、大丈夫だよ」

 レイナはにこっと笑ってランに言った。

「この扉は もう向こう側からは開く事は出来ない。私達の戦いが終わらないと開ける事が出来ない。……だけど、例外がある事は知ってる?」

 レイナはパチっと片目を閉じてウインクをした。
 その例外については ランもユウキも、他の皆も知らなかった。このALOに来たばかりだからか、システムの細部まで詳しくは把握できてなかった様だ。
 でも、単純な事なのだ。

「リュウキくんは、私達と。スリーピングナイツの皆とパーティ登録をしてるんだよ? 今は離れているけど だから、私達の所に入ってこられるんだよ! ボスを攻略してる間もね?」
「あっ……」
「そーだった。今はHPゲージが半透明になっちゃってて 今の状態とか判らない様になってるけど、リュウキはボク達のパーティーメンバーの1人になってるよね!」

 ユウキも思い出した様に手を当てて納得をしていた。

「でも、そうなったらあのギルドの連中も入ってくるかもしれないんじゃ……」

 ジュンが思った事を口にしていた。

 確かに、それも有り得ない事ではない。
 この例外には非常にリスクを伴う。元々は何らかのアクシデント等でボス部屋に入る事が出来なかった時の救済措置として組み込まれたのだが、そうする事で 先着順となっているボス攻略に乱入が出来てしまう、と言う形になってしまうのだ。人数が上限になってしまった時点で、入る事は出来ないが、それでも 他のメンバーが入ってしまって 本当の仲間達が締め出されてしまう……なんて事も今までに少しだがあった。
 運営側は特に修正等をする事はなく プレイヤー側もそこまで遅刻する様な事はなかったからこの状態のままだ。

「うん。でも それも大丈夫なの。……ね? お姉ちゃん」

 レイナは 今度はアスナの方を見てにこっと笑った。
 それを見て、アスナはゆっくりと頷く。レイナと同じく笑顔で。

「うん。リュウキくんとキリトくんなら。……それに クラインさん、しののん、リタちゃん。皆なら ギルドの皆を倒しきるよ。きっと」
「……え?」

 きょとん……としてしまうのはユウキ。
 勿論、それはユウキだけではなくランやほかの皆も同じで ジュンに至っては思わず大きな剣をずるっ と落としてしまっていた。

「い、いくらリュウキでも あの人数を喰っちゃうなんて そんな無茶な……」
「そっ そーんな無茶をしちゃうのが リュウキくんやキリトくんなの。それにシノンさん、リタさんもついてて、クラインさんもいるから大丈夫! だから 私達は信じて 全力でボスに挑むの。……きっと きっと 駆けつけてくれるからっ」

 信じてやまないレイナ。
 
 他の皆が心強いのは勿論であるが、それ以上にリュウキの事は信じてる。

「うん」

 アスナは、レイナに笑顔で答えつつ ユウキとランの傍にたって囁いた。
 
「……それにね 私もユウキやランには 沢山大切な事を教えてもらってる。私も……とても とても貰ってる。《ぶつからなければ、伝わらない事もある》と言う事。……レイは十分すぎる程出来てるのに、私 ぜんぜん出来てなかったから。改めてユウキ達に教えてもらって……。皆には本当に感謝してるんだ」
 
 スリーピングナイツの皆を一頻り見るアスナ。
 その真意を感じ取った皆は 微笑み頷いていた。ユウキやランに その真っ直ぐな心に惹かれて集まった皆だからこそ アスナの言葉の意味が、真意が直ぐに判った様だ。

「ん? なんて? お姉ちゃん」
 
 ただ リュウキが来てくれると強く熱弁していたレイナには聞こえてなかった様で首を傾げていた。そんなレイナを見て微笑みながら答える。

「白馬に乗った王子様が来てくれるのは 凄く楽しみかもだけど、かまけないでレイも頑張ってね? って言ったの」
「ふぇっ!? なななな、お、おねーちゃんっっ///」

 手をぶんぶんと振って顔を紅潮させるレイナ。
 この時ばかりは 皆思わず吹いてしまっていた。

 笑う事で良い具合に緊張が解けた様だ。

「さ、これがラストチャンスだよ! 私達の方が早くボスをやっつけちゃって、扉の向こうで戦ってる皆に最高の笑顔と盛大なVサインをプレゼントしてあげれる様にがんばろ!」

 アスナの言葉。
 士気を上げる為に激。
 かつての世界ででも、こうやってボス直前に同じ様な事をしてきたものだ。だけど それ以上に皆には緊張もさせた筈だと思える。今だからこそ更に判る。大切な妹がそばにいてくれて どれだけ助かったのか。ぶつからなければならない事の大切さを ユウキやランに、妹のレイナに教えてもらった。

 以前の様にただ剣を強く握らせるだけで、心に伝わらない様な事はしない。

 心に響かなければ 伝わらなければ 本当の連携なんて出来ないと思えるから。


 心から皆と繋がり合えば もっともっと強くいられるから。


 それを皆に教わった。

 例え目の前に立ちはだかるのがかつてない程の強敵で かつてない程の難易度であったとしても、心が繋がった皆と一緒なら乗り越えられる。
 

「……アスナさん。レイナさん。……よしっ! みんな!」
「うんっ!!」
『おーーっ!』


 想いはただ一つ。

 あの二頭四腕の巨人を倒す事のみ。


「よぉぉーし! もいっちょ 勝負だよ!!」


 ユウキの凛とした声で最後だった。
 その直後に巨人と妖精たちの咆哮と気勢が重なり合い 周囲に衝撃を迸らすのだった。




 
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