Blue Rose
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第三十話 幸せの影その十四
「そうじゃないかしら」
「そこまでは考えてないけれど」
「私の思ったことよ、ただね」
「ただ?」
「笑顔でいられたみたいね」
優花のその顔を見た、今はそのうえで言ったのだった。
「療養所でも」
「わかるの?」
「笑顔は笑っていないと自然にならないのよ」
「そうなの」
「そうよ、普段笑っていない人の笑顔は不自然でね」
「暫く笑っていなくても」
「そうなるのよ」
不自然な笑顔になるというのだ。
「どうしてもね」
「そうだったの」
「そうよ、けれど今の貴女は自然ね」
こう言うのだった、優花のその顔を見て。
「よかったわ、ずっと笑顔でいられたのね」
「本当にそうだったわ、時々外出も連れて行ってもらって」
「岡島君や副所長さんに」
「その人達にね」
まさにというのだ。
「長崎の街に」
「それは何よりね」
「とにかくね」
まさにというのだった。
「私療養所にはいい思い出ばかりよ」
「よかったわ、それだったら」
「ええ、じゃあね」
「アイスを食べて」
「また長崎を巡りましょう」
「それじゃあね」
「それで」
さらに言う優子だった、今度言うことはというと。
「お家に帰ったらね」
「また飲むの?」
「お酒は忘れたらいけないわ」
そこは絶対にというのだ。
「夜はね」
「姉さん本当にお酒は好きね」
「私は煙草を吸わないしドラッグもしないけれど」
「ドラッグは当然だけれどね」
「お酒は飲むのよ」
これは絶対だというのだ。
「だからよ」
「お酒は飲むの」
「百薬の長だし」
「その言葉ってお酒に溺れていた人が言った言葉だよね」
一説には前漢末期の政治家、もっと言えば前漢を簒奪し皇帝となった王莽が自身の失政で各地で叛乱が起こったがそれに対応出来ず心が沈み酒ばかり飲む様になって言った言葉だ。王莽は結局簒奪者として首を切られた。
「あまりね」
「よくないっていうのね」
「私はそう思うけれど」
「言う人によるのよ」
「その言葉も」
「そう、溺れていない人が言ったらいいでしょ」
「今の姉さんみたいに」
その姉を見てだ、優花は言った。
「いいっていうのね」
「そうじゃないかしら」
「そんなものなのね」
「と、私は思うわ」
「じゃあそうかしら、ただね」
「ただ?」
「姉さん甘いものも好きだから」
酒だけでなく、というのだ。
「わかってると思うけれどね」
「食生活には気をつけろ」
「そうしてね、どっちも過ぎるとよくないから」
「わかってるわ」
と、だ。その甘いチリンチリンアイスを食べつつ答えるのだった。
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