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嘘をつくから

作者:夢叶
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ここで待つのは

ずっと、ずっと、空を飛びたいと願ってる
飛行機やパラシュートなんかじゃなくて
じぶんの体が飛ぶ、それを、感じてみたいんだ

羽が生えてくれるのが一番のあこがれなんだけれど
きっと、生きてるうちには間に合いそうもないから
せめて、超能力でもてにはいったらなぁ

特別な力は、特別な人にしか与えられないのだろうか
それとも力を与えられてはじめて特別になるのだろうか

「なんでそんな話、するの」

理由は明快だと思うけどね
そりゃまあぼくときみは初対面だし、こんな場所なわけだし
変に、思うのかもしれないね
でもこれはごく自然なことだよ
じぶんと同じ夢を持ってる人がいたら、話してみたいと思うだろう?

「わたし、空を飛びたいなんて、いってないけど」

うーん、じゃあこれはぼくの勘違いってこと?

「そうなんじゃない」

今見えてる君も、全部、ぼくの勘違いなの

「そうなんじゃない」

なんだか腹の立つ言い方をするなぁ
言わせてもらうけど、勘違いをしているのはきみの方

「だったらなんなの?どうでもいいわ、そんなの」

そこから飛ぶのは、落ちることだ

「一緒よ、どっちも」

まったくもって違う
きみはさっき、空を飛びたいなんて言ってないと言ったけど
あれも君は勘違いしてる
きみが今ここから落ちることをえらんだのは、ほんとうは飛たかったからだ

こぼれるくらい傷を抱えた自分を
さいごにほめてあげようと思ったんだろう?
ごほうびをあげてから終わらせなきゃ、報われないもの

「なんでも知ってるみたいに、話さないでよ」

なんでも知ってたら怖いよ
ぼくときみって、今日初めてあったんだから

「もうどこかにいってよ、今日はもう、やめるから」

本当?
じゃあこっちにおいで

「そこからどいて、あなたのところに行くわけじゃない」

意地をはるね
わかった、ぼくはいなくなるから、さいごに聞いて

きみの痛みは、大したものじゃない
抱えきれないわけがない
乗り越えられないわけがない
両手両足はついてるし、頭で考えることもできる
そこから落ちようとするくらいの自由もある
明日を見る目だって、ぼくの声を聴く耳だって、風のにおいを感じる鼻だって
きみには全部、あるじゃないか
痛いと感じる、その心が、いま、がんばってるじゃないか

きみ自身よりもずっと、その心の方ががんばってるじゃないか

その心が飛びたいと言ったんだろう?
落ちたいなんて言ってないだろう

勘違いしてるのはきみの方なんだよ

きみの心は、もうきみにそこにいなくていいって、言ってるんだ

「なんにもしらないくせに」

これから知るよ
こんな場面で出会うなんてすごいことだ
きっと、ぼくらはひかれあう

「ここにいなくていいなら、あなたがひっぱってくれるの?」
「わたしはすごく重いし、すごく苦い」
「だからだれもわたしを触りたがらないし、ほしがらない」
「だれもわたしを傷つけないから、逃げる理由がなくて」
「傷ついてないから、逃げちゃだめだと思って」

また勘違いだ
大したものじゃないと言ったけど、きみはたしかに傷ついてる

それで十分、逃げる理由だよ

まだ理由がほしければ、いくらでもあげよう

今度は勘違いしないで
ぼくが両手を広げてるのは、だれのためだとおもう?
 
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