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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第十七話 派遣任務 3

サーチャーの監視の合間を縫って、食事を始める機動六課の面々。

合流した現地協力者との和やかな交流の中アスカは……





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





outside

「運転お疲れさま、フェイトちゃん」

「うん……私よりアスカが」

コテージに戻ってきたメンバーが車から降りる。

その車の後ろを見ると、アスカがゼェゼェと肩で息をしていた。

エリオとキャロがアスカにペットボトルを渡しているのが見える。

「ちょっとかわいそうだったね」

ティアナに押し切られた形でこうなったが、よくよく考えてみたら自分とリインがまた飛んで帰れば良かったのでは?と考えるなのは。

「スバル、ティアナ。おまえ等この任務終わったらキッチリ話つけてやるからな」

汗だくのアスカが二人に詰め寄る。

「別にいいでしょ?減るもんでもないんだし」

「ティアナさん?オレの体力が減ってるんですけど?」

「ゴハン食べれば回復するよぉ」

「スバル、お前と一緒にするな」

何やら揉めてる三人の鼻に、食欲のそそる香りが漂ってきた。

「ん?なんだ、この良い匂いは」

ヒクヒクとアスカが鼻を動かす。

「はやて達がもう晩ご飯の用意を始めてるのかな?」

肉の焼ける香りに気づいたフェイトがそう言った時だった。

「あ、お帰り!」「なのはちゃん!フェイトちゃん!」

アリサと長い黒髪の女性、月村すずかが駆け寄ってきた。

「すずかちゃん!」「すずか、久しぶり!」

お互いに抱き合うと、楽しそうに話し始める。

その様子を、珍しそうにスバルが眺める。

『ティア、やっぱり隊長さん達が普通の女の子だよ』

『同感。エリオとキャロはどう思う?』

わざわざフォワードの共通回線を使ってまで、ティアナはエリキャロに聞く。

『あの、ボク的には、なのはさんもフェイトさんも普通の女性ですので』

『そっか。エリオ君は私達の中だと、一番昔からなのはさん達の事、知ってるんだもんね』

キャロが納得する。

『まあ、普段見れない貴重な一面を見たよな』

アスカはそう言って、ヴァイスに自慢してやろうと考えた。

その時、一台の車が近づいて来たのを目撃する。

「……」

身構えそうになるアスカ。だが、ティアナが肩を押さえる。

その意味に気づき、アスカは身体から力を抜いた。

「悪い」

アスカは短く謝る。

「気にしないで。でも、まだ緊張する?」

さっきまで一緒になってバカやっていたのだが、まだアスカの緊張は解けそうにない。

「ああ。もしかしたら、派遣任務中は続くかもしれない。ティアナ、迷惑かけるけど、頼む」

「大丈夫。ちゃんとアタシ達が注意してあげるから、安心して」

笑ってティアナが答えた。

そうこうしているうちに、その車が止まって中から美由希が降りてきた。

「はぁい!」

その後に続くように、小さい犬耳少女とショートカットの女性が降りてくる。

「みんな~お仕事してるか~」

「お姉ちゃんズ参上!」

「エイミィさん!」「アルフ!」

エリオとキャロは突然現れた見知った顔に驚く。

「美由希さんも」「さっき分かれたばかりなのに」

スバル、ティアナもここに来た美由希に驚いている。

「いやあ、エイミィがなのは達に合流するって言うから。アタシも丁度シフトの合間だったし」

美由希の説明に納得するスバルとティアナ。

「……だったら、オレその車に乗せてもらえばよかったなぁ。走って帰ってくる事なかったよ」

「え?あの距離を走って帰ったの?」

「ええ、どこかの誰かさんズが異論を挟む余地もなくです」

スバルとティアナをジト目で見るが、二人はエリオとキャロと話している犬耳少女の方を見ていて、アスカの話を聞いてない。

「 」

「まあ、人生色々だよ、アスカ君」

美由希がアスカを慰める。

「あざーっす」

アスカと美由希がそんなやりとりをしている中、スバルとティアナはエリオとキャロが話している人達を見ている。

一人は、エイミィ・ハラオウン。

フェイトの義理の姉で、六課後継人の一人、クロノ・ハラオウン提督の妻。

面識こそ無いものの、二人も名前くらいは聞いた事がある。

だが、もう一人の犬耳少女が誰なのか分からない。

『うーん、誰かの使い魔かな?』

『犬耳とシッポ、ワンコ素体?』

ひそひそと念話する二人。

『見た目10歳くらい?ちっちゃくて可愛い!』

思わずスバルの頬が緩む。

「アルフー!」

そこに、フェイトがやってきて犬耳少女に声をかけた。

「フェイト!フェイトフェイトフェイト!」

ピクンと耳を立て、パタパタとシッポを振って、アルフと呼ばれた犬耳少女がフェイトに飛び込んで行った。

しっかりとそれを受け止め、優しく抱擁するフェイト。

「アルフ、元気だった?」

「げんき!」

アルフは嬉しそうに答え、フェイトの胸にグリグリと顔を押しつけて甘える。

「……」

その様子を見ていたスバルが、ふとティアナの胸元に目をやり……

ガバッ!

ベキッ!

「ぎゃん!」

飛び込もうとした途端、右ストレートを食らってしまった。

「ア・ン・タ・は!いいかげんにしなさい!」

「え~!最近スキンシップしてないからティア分を補給しようと…」

「うっさい!」

じゃれ始めた二人を無視して、アスカはフェイトの胸に埋もれているアルフを見ている。

「おやぁ?アスカ君。もしかして、アルフが羨ましいとか?」

美由希がニヤニヤと笑ってアスカの頬をツンツンと突っつく。

「はい!メッチャ羨ましいです!」

包み隠さず、力一杯頷くアスカ。あまりの即答具合に美由希は唖然とする。

「いや、美由希さん。男だったらズェッタイ夢に見ますよ、あの胸は」

「うーむ、素直でよろしい!私から見ても、あの胸は羨ましいよ。枕にしたい」

「わかります!」

……妙な所で気の合うアスカと美由希。

ぐぅ

「…しかし、今は色気より食い気です」

アスカは鳴った腹を押さえる。

「本当、君は素直だねぇ」

ある意味、本能むき出しのアスカに感心する美由希。

アスカは先ほどから鼻をくすぐる肉の焼ける匂いの方を見る。

そこには…

「ぶ、部隊長!?」

はやてが、見事な手捌きで食材を鉄板で調理していた。

「お、みんな、おかえり!」

料理の手を止めて、はやてがフォワードを迎え入れる。

「部隊長自ら鉄板焼を?」

思わぬ事態にティアナが慌てた。

「そんなの、私たちがやります!」

キャロも慌ててはやてに駆け寄る。

だが、はやては優しく笑ってキャロを止める。

「ん?ええよ、待ち時間あったし。お料理は元々趣味なんよ」

「はやて隊長の料理はギガ美味だぞ。ありがたく頂け」

普段は仏頂面の多いヴィータが、笑ってフォワードメンバーに言う。

「「「「「はい!」」」」」

元気に答えるフォワード5人。

そこに、少し心配そうにシグナムが合流してきた。

「シャマル。お前は手を出してないだろうな?」

その不安そうな声は、これから起きる惨劇を予言しているかのようだ。

「あぁ!シグナムひどい!」

シグナムの言葉に、シャマルがムクれる。

「ちょっと手伝ってくれたよなぁ?材料切りとか」

あはは、と笑いながらはやてがフォローを入れる。

「はい!」

嬉しそうに答えるシャマルだが、ヴィータとシグナムが追い打ちを掛ける。

「まあ、切るだけなら…」「大丈夫だな」

真顔の副隊長ズの言葉に、スバルが恐る恐るシャマルに目を向ける。

「…シャマル先生、もしかして…」

「違うもん!シャマル先生、お料理下手なんかじゃないもん!」

力いっぱい否定するシャマル。だが、

「「「「「……」」」」」

その言葉を鵜呑みにするほど、フォワードメンバーも命知らずではない。

「疑ってるわね?疑ってるでしょ!いいもん!じゃあ、はやてちゃんの目を盗んで作ったお料理、出してあげるから!」

「んな!シャマルいつのまに!」

はやてが大慌てでシャマルから離れる。

「お前!ここを戦場にするつもりか!」

シグナムも間合いを空ける。

「落ち着け、シャマル!お前はまだ何もしていない!今ならまだ間に合う!」

ヴィータも後ずさる。

(突っ込みどころは色々あるけど、ひどい言われようだね)

傍観者を決め込んだアスカが苦笑した。

「みんなひどいんだから。大丈夫よ。はい、コレ」

散々な言われようのシャマルが取り出したのは、お皿にグチャッと盛りつけられた、二つの濃い緑色をした物体だった。

それを見たアスカの顔が引きつる。

(なんだよ、アレ?)

「はい、食べたい人!」

ザッ!

シャマルの声に反応した全員が、一歩後退する。

「え?え?」

唯一、アスカだけが反応できず、シャマルには彼が一歩前に出たように見えたのだ。

「はい、アスカ君♪」

ニコニコと笑って、シャマルはアスカに皿と箸を渡す。

『お、お前等~!』

非難の目でフォワードメンバーをみるアスカ。

『す、すみません!』『ごめんなさい!』

エリオとキャロは素直に謝るが、目を合わせようとはしない。

『アスカ、グッドラック!』『頑張りなさい』

スバルとティアナは、完全に他人事である。

隊長達に目を向けるが、誰も目を合わせてくれない。

「さ、どうぞ、召し上がれ」

嬉しそうにシャマルが死の宣告をしてくる。

「え、えーと、これは何でしょうか?」

ダラダラと汗を流し、アスカは悪足掻きで時間を稼ぐ。

「んー。何だと思う?」

ニコニコと可愛らしい悪魔の笑顔で、シャマルは質問を質問で返した。

「えーーと…グリーンスライム?」

アスカは見た目のマンマ答える。その途端、

「…グス…ひどいよ、アスカ君…」

涙目になるシャマル。

さっきまで愛らしく笑っていたから、そのギャップは激しかった。

周囲から”女の子泣かした”的な空気が漂う。

(たぶんヒドイのはシャマル先生の方だと思いますけど!?それとアンタ達、オレを非難できる立場にねぇだろ!)

泣きたいのはオレだ!と内心思うアスカであった。

「え、えーーーと……た、卵焼き、だったりして?」

まさか、と思いつつ二度目の答えを言う。すると、

「なーんだ!分かっていたのね。もう、アスカ君もお茶目なんだから!」

パァ、とシャマルの機嫌が直る。

(当たったけど嬉しくない!何をどうやれば卵焼きがダークグリーンになるんだよ!)

アスカはプルプルと震える手で箸を掴むと、グリーンスライムをつまんでみる。

「ほうれん草のペーストを混ぜて作ったの。オイシイと思うから食べてみて!」

テンションの高いまま、シャマルは答えを教えてくれる。

「ホ、ほうれん草ですか!この毒々しい…いや、濃い緑は!」

「うん!その他モロモロ!」

(モロモロの方を教えてください!)

そう思ったが、聞いたら食べられなくなりそうなので言葉を飲み込んだ。

チラッとシグナムに目を向ける。

『これも試練だ。乗り越えて見せろ』

『せめて目を合わせてくださいよ!家族なんでしょ!責任とってください!』

『いいから早く処理せんか!』

逆ギレされる始末である。

(食べろじゃなくて、処理ときたか)

なかなか決心のつかないアスカ。しかし、いつまでもこのままではいられない。

そこに、シャマルの追い打ちがくる。

「…食べてくれないの?」

再びシャマルが涙目になる。もう逃げられない!

「ええい!ままよ!」

アスカは覚悟を決めて緑色の卵焼きを口に放り込んだ。次の瞬間、

スポーーン!

アスカは勢いよくグリーンスライムを口から射出した。

ピューン、とグリーンスライムは闇夜に消える。

「ぐああぁぁぁ!」

アスカは奇声をあげて、湖めがけて走り出した。

そして、湖に顔をドブンとつける。

「ぐは!ぐえ!ごは!」

バシャバシャと顔ごと口を洗っている。

そして洗浄が終わると、ダッと駆け足で戻ってきて、スバルとティアナの前に立つ。

「アガ!アゲバダベダ!」

身振り手振りで何かを伝えようとしているが、通じない。

「何語?」

スバルが首を捻る。

「って言うか、アンタちょとヒドイでしょ!シャマル先生、泣いてるわよ!」

ティアナが非難する。

ピキッ

アスカが青筋を立てた。

「アゲ」

アスカが上を指さす。

「え?」

思わずティアナが上を見上げる。

その隙に、アスカは残っていたもう一つのグリーンスライムを箸で掴み、ティアナの口に放り込んだ。

スポーーン!!

結果、もう一人犠牲者が出た。

アスカのように奇声こそ出さなかったものの、ティアナは口を押さえて湖に駆け寄り、同じように顔を水面につけて洗浄している。

そしてガバッと立ち上がると、走ってアスカに詰め寄って胸ぐらを掴んだ。

「ガギズンノボ!アンダバ!」

「ヴズザイ!ボレボグズジビガバガッダガ!」

お互いに何語を喋っているのかは分からないが、怒っているのは確かだ。

シグナムが喧嘩をしている二人に近づく。

「二人とも、よくやった。お前たちの勇気が皆を救った」

『『どうせならもっと別の事で誉めてくださいよ!』』

口が麻痺して喋れないアスカとティアナが念話で突っ込む。

「ひどいよー。アスカ君もティアナも」

加害者であるシャマルが、プウと頬を膨らませてムクれる。

「まあまあ、シャマル先生」

スバルがシャマルをなだめる。

が、不用意に近づいてきたスバルの腕を、シャマルはガシィッ!と掴んだ。

「…スバルなら、ちゃんと食べてくれるわよね?」

そう言いつつ、今度は真っ赤なレッドスライムを取り出すシャマル。

「ええええええええええええええ!」

まさかの展開にスバルが悲鳴をあげる。

「「「がんばれ~」」」

アスカ、ティアナ、シグナムが投げやりに応援する。

「ちょ、イヤアァァァァァァ!」

スバルの断末魔の叫び声が辺りに響きわたった。





アスカside

「数多くの犠牲の上で、この食卓は成り立ってます。みんな、それを忘れんようにな」

「「犠牲とか言わないでください!悲しくなります!」」

八神部隊長の食事前の挨拶に、オレとティアナが突っ込みを入れる。

あの後、スバルはレッドスライム…もとい、ニンジンペーストその他モロモロ入り卵焼きを飲み込んで機能停止していた。

スバルを倒した後、シャマル先生がブルースライムを取り出したが、シグナム副隊長とヴィータ副隊長がそれを取り押さえて事なきを得たんだけど…

ブルーって、何のペーストを混ぜたんだよ…怖くて誰も聞けなかったよ。

そんでもって、今シャマル先生は、【危険物】のプラカードを首からブラ下げて反省中である。

「ま、それはそれとして、飲み物と食事は行き渡ったかな?」

オレ達の突っ込みに怯む事なく、八神部隊長は進行を進める。

『アッサリ流されちゃったよ!』

『虚しくなるわね』

シャマル先生被害者の会の抵抗はあまりにも無力だ。

「えー、ではみなさん!任務中にもかかわらず、なんだか休暇みたいになってますが、丁度サーチャーの反応と広域探査の結果待ちという事で、ここらで食事としましょう」

「六課メンバーは、お食事で英気を養って引き続き任務を頑張りましょう!」

八神部隊長に続いて、高町隊長がオレ達フォワード陣に言う。

「「「「はい!」」」」「…」

機能停止しているスバル以外のメンバーが答える。

…つーか高町隊長、スバルはスルーッすか?

「現地のみんなは、ゆっくりしていってね」

ハラオウン隊長が美由希さん達に言う。

「「「「「は~い!」」」」」

ほんと、仲良しさん達だ。

先ほどとは違い、和やかに食事が始まった。

「始まったじゃねぇよ。食う時間になってもスバルが起きないぞ。どうすんだ?」

人一倍食い意地の張ったスバルがまだ再起動しないという異常事態。

オレはスバルの取り扱いが一番上手いティアナに助けを求める。

さすがにこのままメシっていう訳にはいかない。

「スバル、あのレッドスライム2回も噛んでたものね」

「ああ、オレとティアナは口に入れた途端、スポーンだったのにな」

「おまけに飲み込むし…」

「ある意味、尊敬するなぁ…憧れはしないけど」

などど馬鹿話をしていても、一向に起きる気配はない。

さすがに心配になってくる。

「じゃあ、起こしましょうか」

起こせるのか、コレ?

ティアナがあまりにも簡単に言うが、オレは半信半疑だ。

「アスカ、スバルの鼻を摘んで」

「ん、こうか?」

オレはティアナの指示通り、スバルの鼻を摘む。

パカ

それに連動するようにスバルが口を開ける。

その口に、ティアナはポトリと焼き肉を落とした。次の瞬間、

ガバッ!

うお!突然スバルが起きあがった!

「あー、お肉オイシイ!」

モグモグと笑顔で口を動かすスバル。

……心配して損した。

「さ、アタシ達も食べましょう。じゃないと、全部スバルに食べられるわよ」

平常運転で食い始めるティアナ。タフなヤツ…

「あ、そうね、食うか」

毒気を抜かれたオレは、気にしたら負けだ、と自分に言い聞かせて箸を掴んだ。





なんて言うかねぇ…完全に席のポジショニングを間違えましたよ!

端っこから、キャロ、エリオ、オレ、スバル、ティアナの順番で座ってるけど、エリオとスバルはもっと引き離さなくちゃダメだ!

目の前から瞬く間に食い物が消えて行くよ!

これ以上の修羅場はないだろうと思って隊長達の席を見ると、向こうは向こうで、ヴィータ副隊長が恐ろしい勢いで食料をクリアしていってる。

そこになぜか意地になって参戦するシグナム副隊長に、意外な伏兵としてリイン曹長が負けじと頑張っている。

……リイン曹長、普段サイズの時も、自分と身長以上のケーキとか平らげてたもんな。

声に出すとちっちゃい上司に怒られるから言わないけど。

オレも三人前は食うから大食らいだけど、この中じゃ小食に見えちまうよ。

「くそ!負けてられるか!食うぞ!」

エリオとスバルの圧倒されっぱなしでいられるか!

二人の箸が舞う戦場にオレも箸を伸ばす。

……早いよ!

何、その超人的なスピード!焼き肉を見つけたら、もう無いってどんなイリュージョンだよ!

「お前等、肉ばかりじゃなく野菜も食え!」

たまらずオレは叫んだ。じゃないと肉食えないよ!

ところが…

「食べてますよ」「食べてるよ」

エリオとスバルが同時に答えた。

よーくみると、肉を野菜でくるんで食べている。

「うぐ!そんな高級テクニックを使っていたとは!」

負けた…完敗だ…

敗北感に打ちのめされていたら、バーベキューには似つかわしくない惣菜がオレの目に飛び込んできた。

「キンピラゴボウ?何で?」

大皿に山ほど盛りつけられたキンピラゴボウ。

オレはそれに箸を伸ばして、自分の皿に盛る。

「あ、そのキンピラ、うちのお母さんが作り過ぎちゃってさ。私がこっちに行くからって持たせてくれたの」

オレが不思議に思っていたら、美由希さんが説明してくれた。

高町隊長のお母さんの味か。

「なんか、懐かしいような」

そう言いつつ、オレはキンピラゴボウを口に運ぶ。

コリコリと、心地よい触感か伝わってくる。

「おお、美味い!」

腹が減っているのも手伝って、オレはドンドンキンピラを食べる。

いや、本当に美味い。それに、隊長の家の味だろ?ヴァイス陸曹への自慢話がまた一個増えた。

「そんなに食べてくれると、お母さんも喜ぶよ」

おお、美由希さんが嬉しそうに笑ってる。もしかして高町家への好印象ゲットか?

ゆくゆくは娘さんをください的な感じにとか!

…いや、あの士郎さんに勝てる気がしねぇ…

「「「「……」」」」

ん、何だ?

キンピラを爆食いしているオレを、エリオ達が奇妙な目で見てるよ。

ああ、キンピラが食いたいのか?

「みんなも食べてみろよ。すげぇ美味いぞ」

キンピラを勧めてみると、エリオがギョッとした顔になる。

なんでさ?と思っていたら、オレの予想の斜め上を行く答えがエリオから飛び出してきた。

「何なんですか、それ?」

え?

「何って、キンピラゴボウだよ。食べた事ないのか?」

オレがそう聞いたら、エリオだけじゃなく、スバル、ティアナ、キャロもコクンと頷く。

「マジか?大丈夫だから食ってみろよ」

オレは半ば強引にキンピラゴボウと取り分けて、みんなの前に置いた。

「う…」

何を警戒してるんだ?せっかく取ってやったのに、エリオは中々箸をつけようとはしない。

ティアナも、食い意地の張ったスバルも少し強ばった顔をしている。

「むむむ、えい!」

その中で、キャロが一番最初に動いた。

キンピラを箸で掴み、口の中に放り込む。そして、コリコリと噛む。

うん、いいぞ、キャロ。

「あ!凄いコリコリしててオイシイ!エリオ君も食べてみなよ」

キャロに促され、エリオも恐る恐るといった感じでキンピラを口に運ぶ。

「本当だ!甘じょっぱい味で、凄い噛みごたえがあるね!」

「どれどれ」

エリキャロが食べた事でスバルも興味を持ったのか、キンピラを食べ始める。ティアナもそれに続く。

「あ、おいしい~!」「面白い食感ね」

さっきまで警戒していたのに、今じゃ平気で食べてるよ。

しかし、キンピラゴボウを知らないとは…都会っ子にも程があるな。





outside

少しして、はやてが思い出したように言い出した。

「そうや。せっかくだから協力者のみなさんと六課メンバー、初対面組の各自の自己紹介やっとこうか?」

「ああ、そうだね。じゃあ、そっちの端っこからどうぞ」

なのはが、アリサを指名する。

突然の事にアリサは少しだけ慌てたが、笑顔で立ち上がった。

「えー、現地の一般人、アリサ・バニングスです。この場所を待機所として提供しました。なのはやフェイト、はやてとは10年前からの友達。今も仲良しです!」

アリサの自己紹介が終わり、続いてすずかが立ち上がる。

「同じく現地の一般人で、なのはちゃん達のお友達、月村すずかです。今は大学生。なのはちゃん、はやてちゃん、フェイトちゃんには、昔からずっとお世話になってます」

すずかの次に、アルフが立ち上がる。

「ミッド出身、フェイトの使い魔、アルフで~す!つーか、初対面はそっちのなのはの生徒の三人だけ…ん?」

アルフがティアナ、スバル、アスカの順で見ていたが、なぜかアスカで視線を止めた。

「え?あ、あの、何か?」

ジーッと自分を見るアルフに戸惑うアスカ。

「お前、どっかで会った事ないか?」

マジマジと見るアルフが聞いてくる。

「いや、ないと思いますけど?」

不意に聞かれたが、アスカにはアルフと出会った記憶がない。

男所帯の陸士099部隊の時に出会っていれば、例え幼女の格好をしていたとしても記憶に留まっている筈だ。

「う~ん、なんかずいぶん昔に会った事あるような……」

アルフも記憶が曖昧なのか、腕を組んで考え出す。そして、

「アスカって言ったっけ?腕噛ませて」

と、とんでもない事を言い出した。

「……ダメです」

「いいじゃん!ケチー。ちょっと血が出るまで噛ませてくれるだけでいいのにぃ」

「普通に傷害罪ですよ!」

突っ込まずにはいられないアスカ。なんか無邪気に恐ろしい事を言ってくるアルフに警戒する。

「アルフ、無茶言っちゃダメだよ」

流石に飼い主…(あるじ)のフェイトがアルフを止める。

「うー、フェイトが言うならしょうがない。でも、あの手の顔はたぶん噛んでるから、味で分かると思うんだけどなぁ。まあいいや。そのうちオツカイで六課に遊びに行くかもだから、ヨロシクな」

言うだけ言って、アルフが座る。

(どんな顔だよ…)

若干、アスカが凹む。

『アスカさん、アルフの事知ってるんですか?』

隣のエリオが、今のやり取りを見て聞いてきた。

『全然。たぶん、彼女の勘違いだろ?勘違いで噛まれちゃたまんないよ』

アスカのグチに、エリオが苦笑する。

「えーと、なんだかやり辛く…なーんて言わないよー!」

テンション高く、エイミィが立つ。

「で、おそらくこの中で一番複雑なミッド人、エイミィ・ハラオウンで~す」

アルフの件で微妙になった場の空気を、一瞬で元に戻す。

「元々は次元航行部隊の通信士で執務官補佐。アースラって船の通信主任をやっていた縁で、なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん達に会いました。もう10年だね…その後色々あって、こっちで美由希ちゃん達と仲良くなったり、フェイトちゃんの義兄さんでもあるクロノ・ハラオウン提督と結婚したりして、現在は二人の子供の子育て中っと」

エイミィの言葉にアルフが付け足す。

「私や、お母さん達と一緒にな!」「です!」

自己紹介が終わって座るエイミィ。

「えぇっと…」

イマイチ理解しきれなっかたのか、スバルが悩む。

「六課後継人のクロノ提督の奥さん、でいいでしょ」

ティアナが説明するが、目の焦点が合わないスバル。

「ハラオウン隊長の義理の姉さんって言った方が分かりやすいか?」

「ああ、なるほど!」

アスカが補足して、スバルはようやく納得した。

「じゃあ、お姉ちゃん」

なのはに促され、美由希が立ち上がった。

「えー、現地の一般人、高町美由希です。高町なのは一等…空尉?のお姉ちゃんです!10年前に、なのはがちょっとした切っ掛けで魔法に出会って、それから管理局に誘われてお仕事するようになったり。なんか、結構ちゃんとした役職についてミッドに行っちゃったりして。驚いたり戸惑ったりする暇もなく、なのはは自分の道を進んじゃって。なのはも色々あったし、フェイトちゃん、はやてちゃんも色々大変だって聞いてて…平和とか安全を守る為の仕事とへ言え、危険な事もある仕事なんだよね?心配は…今も結構してる」

美由希の言葉に、なのはは申し訳なさそうにする。

「でも魔法使いとして、自分の魔法をちゃんと使う事とか、人に色んな事を教えたり導いたりする仕事が、なのはの見つけた夢だって聞いたから、私達はこっちの世界で待ってる…まあ、ちっちゃい頃からワガママと言うか、頑固な子だからね~、言い出したら聞かないけど、決めた事はちゃんとやり遂げるって思っているから……」

そこまで言って、美由希は恥ずかしそうに笑った。

「あ、アタシって姉バカ?」

「大丈夫、大丈夫!」「クロノやエイミィも似たようなモンだ!」

エイミィとアルフのフォローが入り、優しい笑い声がわき上がった。

「うふふ、そんな訳で生徒のみなさん」

「「「「「は、はい!」」」」」

美由希に声をかけられ、少し驚くアスカ達。

「なのは先生、ちょっと厳しい先生みたいだけど、色々よろしくしてあげてね?お姉ちゃんからのお願い」

「「「「「はい!」」」」」

思わぬ美由希のお願いに、フォワードメンバーは元気よく返事をした。

「お姉ちゃん、あの、なのはにも一応上官として威厳と言うものがあってね…」

「えー!」「いいじゃない!」「親しみも大事だよ」「うん!」

エース・オブ・エースも、姉や幼なじみ達にはタジタジのようだ。

しかし、その気取らない関係は居心地が良さそうに見える。

「暖かい、いい家族や友達だな」

アスカがなのは達を見て呟く。

「本当ですね」「皆さん、良い人ですよ」

キャロもエリオも笑って答える。

「みんな、優しいよね」

スバルもニコニコ笑う。だが、

「……」

ティアナだけは、ただ黙っていた。その表情はどこか固い感じがする。

キャロがそれに気づいた。

「…ティアさん?」

「ん、なに?」

「あ…いえ…」

(なんだろ…ティアさん、少し寂しそな感じが…)

なのは達を見るティアナの目が、羨ましそうに見えたのは気のせいだろうか?

そう思ったキャロであったが、結局言い出せなかった。

その後、今度はフォワードメンバーが自己紹介をする流れとなった。





「あれ?もう飲み物が無くなったかな?」

なのはが、空になったペットボトルを手にキョロキョロと辺りを見回す。

「まだ5、6本あった筈だけど?」

どこだっけ、とアリサも探し出す。

「湖で冷やしてあるよ」

「あ、じゃあオレ行ってきますよ」

すずかが言い終わらないうちにアスカが立ち上がった。

「あ、ボクも」「私も行きます」

立ち上がろうとしたエリオとキャロを、アスカは軽く押さえるように座らせる。

「いいから食ってろ。ペットボトルの5、6本くらいなら一人で大丈夫だ」

アスカはそう言って二人をスバルに任せて席を離れた。

「待って、アスカ」

そのアスカを、ティアナが追ってきた。

「アタシも手伝うわ」

「別に大丈夫…いや、じゃあ頼むよ」

アスカは、一度は断ろうとしたが、思い直して一緒に歩き出した。

少し離れると、自然の静寂さが周囲を包み込んでいるのに気づく。

「悪いな、ティアナ。気を使わせて」

アスカは、また自分がピリピリするかもしれないから気を使ってティアナがついてきたのだと思った。

「いいのよ、別に。少し歩きたいと思っていた所だったし」

そっけなくティアナが答える。

「しかし、ああいう暖かくて賑やかな家族や友達なら、守りたいって気持ちが強くなるよな」

何となしにアスカが言う。

「…でしょうね」

そう答えたティアナだったが、語尾が少し強かった。それに違和感を覚えるアスカ。

「ティアナ、どうかしたか?少し不機嫌に見えるぞ?」

「え…何でもないわよ。アンタの家族はどんな感じなのよ?」

何か悟られたくない事でもあるのか、ティアナは慌てたように話を逸らす。

「……9歳の時に、両親とも…な」

「え?」

アスカの口からでた言葉に驚くティアナ。気軽に聞いたつもりだったが、簡単に聞いてはいけない事だった。

アスカは少しだけ、困ったような、戸惑ったような曖昧な笑みを浮かべる。

「色々あって099部隊長の養子になったんだ。結果、そのまま入局。おかげで不作法者になっちまたけどな!」

暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように、アスカがワッハッハと大きく笑った。

「あ、あの…ゴメン」

不可抗力とは言え、自分が踏み行ってはいけない領域に立ち入った事を謝るティアナ。

「謝んな。オレも言ってなかったし、もう昔の事さ」

アスカはそう言って先を歩く。

「あ、あのね、アスカ」

ティアナがアスカの隣に並ぶ。

「アタシは両親が幼い頃に亡くなって、肉親と呼べる人は兄さんだけだったの」

「…無理に話す事はないぜ?オレの事は気にしなくていいから」

「聞いてもらいたいの!」

「…分かった」

ティアナがどういうつもりで身の上話をする気になったのかは分からないが、アスカは黙って話を聞く事にした。

「兄さんは時空管理局員で一等空尉だったんだけど、アタシが10歳の時に任務で…」

「…」

「兄さんの夢は執務官になる事だった。アタシは兄さんの夢を継ぎたい、そう思って…」

「それが、局に入った動機か」

「ええ、そうよ」

二人はしばらく黙ったまま歩いた。

「あ、これだな」

湖まできた二人は、水に沈めてあるペットボトルを見つけだし、引き上げた。

「さて、戻るか」

半分ずつペットボトルを持った二人が、きた道を引き返す。

「…アスカは、機動六課にきて良かったと思う?」

「なんだよ、急に」

アスカがティアナを見ると、真剣な目でこちらを見ている。

冗談や興味本位で聞いてきている訳ではなさそうだ。

「そうだな。オレはラピを貰えた訳だし、隊長達の訓練も受けられる。試験の時、八神部隊長も言ってたけど、六課で頑張れば昇進にチャンスも多いって言ってたし。だったら来て良かったんじゃないか?」

そう答えたアスカ。だが、どうやらティアナが欲しかった答えは、いま言った中に含まれてないようだ。

「訓練って言っても、基礎と基本の繰り返しで本当に強くなっているのかイマイチ分からないし」

「少なくとも、Bランク試験の時と比べたら、間違いなく強くなってるぜ。命中精度も、威力も」

「それはクロスミラージュが優秀だからよ。アタシの実力じゃないわ」

「難儀なヤツだな」

オレより攻撃が上手いくせに、とアスカは苦笑する。

「さて、ここで問題です!ジャンケンで一番強い手は何でしょう?」

「え?え?」

不意にアスカがティアナにクイズを出した。

「オレ達が今やってる訓練って、そういう事なんだよ」

アスカはそう言って先に歩き出した。

「ちょ…ジャンケンってどういう意味よ!」

「答えは自分で見つけて下さーい!」

「こら!待ちなさいよ!」

結局、アスカはクイズの答えを教えないままテーブルに戻って行った。





楽しい夕食が終わり、フォワードメンバーは進んで後かたづけをしていた。

(さすがに後かたづけまで隊長達にやらせる訳にはいかないよな)

洗い物はスバルとティアナがやってくれるので、ライトニングは食器を運んだり、残飯の処理をする事となった。

「エリオ、キャロ、気をつけるんだぞ」

皿を運ぶ二人に声をかけ、アスカは食べ残しを袋に放り込む。

「って言っても、残飯なんてほとんど無いな」

スバル、エリオ、ヴィータの三人で食い尽くした感じである。

当のアスカはと言うと、繊維質たっぷりの夕食のようであった。

「ん?」

ふと、右手に生温かい空気を感じるアスカ。

見ると、いつのまにそこにいたのか、アルフが大きく口を開けて今まさに噛みつこうとしてるのだ。

「うおっ!」

ガギン!

間一髪、アスカは手を引っ込めてアルフの噛みつき攻撃から逃れる。

「何をしようとしてんですか!」

「ん?いいぞ、丁寧語じゃなくて。エリオもキャロも普通に話すし」

「んな事聞いてないでしょう!何で噛みつこうとしてんですか!」

「いや、ほら、ヤッパきになったんだよ。どっかで会ってるような気がしてさ。だから、味見させて」

ジーッ

アルフはしっぽをパタパタさせ、無邪気な瞳でアスカを見つめる。

「ダメ、絶対ダメ」

冗談じゃないと左右に首を振るアスカ

「ケチ~」

「ケチ~、じゃないです!」

なぜかアルフは、アスカに噛みつく事に情熱を燃やしている。

「ダメだよ、アルフ!」

アスカとアルフのやりとりに気づいたエリオが駆けつけてきた。

そして、アルフを抱き抱える。

「アスカさん、困ってるじゃない。無理言っちゃダメだよ」

キャロも、アルフを窘める。

「うー、分かったよぉ~」

渋々、アルフはフェイトの元に戻って行った。

「いったい、何なんだよ…」

冷や汗をかいて、離れて行くアルフを見るアスカ。

派遣任務中は背中も気をつけねば、と強く思っていた。
 
 

 
後書き
前回、長文でお詫び申し上げたのに、またやらかしてしまいました。
申し訳ございません_(._.)_ 

さて今回ですが、アスカは過去に両親を亡くしている事が語られました。
一応主人公らしく、結構暗いトラウマのような物を持ってます。
そんなアスカに、ティアナはどんな思いを持ったのでしょうか?

今回書いていて楽しかったのは、シャマル先生の大活躍ですね。
被害者はアスカ、ティアナ、スバルでした。
やっぱり、シャマル先生にお料理ネタは欠かせません!

そしてアルフの件ですが、間違いなくアルフは過去にアスカと会ってます。
だけど、アスカがそれを知るのはもっと後、具体的には公開陳述会付近になります。
それにより、アスカが最終決戦での覚悟を決める事になります。
しばらくおまちください。
今回、色々とフラグと言うか、伏線を盛り込んでいます。
回収はすっごい後ろなんですけどね。

さて、夕食が終わり、次回いよいよ肌色温泉回!
つーか、露天風呂じゃ!露天風呂!ハプニングカモ~ン! 
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