魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第十六話 派遣任務 2
アリサに招かれてコテージに入るアスカ達。
何気ないやり取りが、フォワードメンバーの緊張を解いていく。
魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。
アスカside
任務は少し休憩してからと言う事で、オレ達はコテージでくつろぐ事になった。
簡単な自己紹介の後、アリサさんがオレ達にお茶を振る舞ってくれたのだが、隊長の友達にそんな事をさせるのも気が引けたので、
「アリサさん。そう言うのは自分達がやりますから…」
と申し出たんだが、強引にイスに座らされてしまった。
「いいから、いいから。私のお茶が飲めないって言うの?」
晴れやかな笑顔でそう言われてしまっては、遠慮するのも却って失礼だろう。
おとなしく御厚意に甘えるとしよう。
まだ緊張の解けないオレ達に、アリサさんは気さくに話しかけてくれる。
オレやスバルはいいが、真面目なティアナやエリキャロには話すきっかけができて助かるな。
そんな事を思っていたら、アリサさんがオレに話しかけてきた。
「えーと、アスカ君って言ったっけ?あなたも大変だよね。女の子ばっかりの所に男一人だと気を使って疲れるんじゃない?」
……男一人?
「「「「………」」」」
その瞬間、エリオに視線が集中した。いや、オレも見ちゃったけどね。
「イヤイヤイヤ、アリサさん?こいつ、カワイイ系の顔してますけど、立派な男ですよ?」
「え?そうなの!」
マジビックリ顔のアリサさん。
まあ、このくらいの男の子はまだあどけない感じだし、それでなくてもエリオは女顔だ。間違えてもしょうがないよな。
「あ、あはは……」
ちょっと引きつった笑いをするエリオ。結構気にしてたからな~
「ゴメン!エリオ君!あんまり可愛いから女の子と思っちゃった」
「あ、あの!そんなに謝らないでください!気にしてませんから!」
いーや、気にしてるね、あの顔は。でも、本気で謝られると逆にリアルに間違えたと思うから複雑な気分になるよな。
まあ、そんな事もあったけど、色々親切にしてくれるアリサさんとオレ達フォワードは、すぐに仲良くなった。
休憩の後、高町隊長から任務の説明があった。
目標のロストロギア反応があった場所を海鳴市の地図と重ね合わせる。
「動いてますね。そうなると、捜索範囲は海鳴市全域ですか?」
モニターの光の点、ロストロギア反応は海鳴市をウロウロと移動している。
「うん。これが自立移動なのか、誰かが持って移動しているのかは不明」
高町隊長がモニターの光点を指す。経路を見る限りでは、あっち行ったり、こっち行ったりでランダムに移動しているように見える。
「対象ロストロギアの危険性は今のところ確認されていない。仮にレリックだとしても、この世界の魔力保有者は滅多にいないから、暴走の危険はかなり薄いね」
ハラオウン隊長はそう言うけど、オレは高町隊長を見てしまう。
説得力がねぇな……
身近にオーバーSの地球出身者がいるんだから、オレがそう思ってもしょうがないだろう。
チラッと横を見ると、ティアナもそう思ったのか、苦笑いをしている。
「とは言え、やっぱり相手はロストロギア。何が起こるか分からないし、場所も市街地。油断せずに、しっかり捜索して行こう」
高町隊長に言われるまでもない。暴走の可能性が低いって事は、0じゃないって事だ。
どんな切っ掛けで魔力に触れるとも限らない。
よし、いい感じで気合いが入ってきた!
「では、副隊長達には後で合流してもらうので」
「先行して出発しちゃおう」
「「「「「はい!」」」」」
高町隊長とリイン曹長はオプティックハイドで透明になって空からサーチャーを設置すると言う事で飛んでいった。
で、オレ達はハラオウン隊長がアリサさんから借りた車に乗って町まで出て、分かれてサーチャー設置しようとなったんだが…
「たまには親子水入らずでいた方がいいですよ!」
と何故かティアナが頑張って、オレはエリオ、キャロと分かれてスターズにくっついていた。
うーん、上司相手にあそこまで強引にいけるティアナさん、マジ半端ないッス。
何でそんな事をしたのか、理由を聞いてみたら、
「はっきり言ってアンタの事が心配だったのよ。またピリピリしたら、エリオやキャロが心配するでしょ」
との事。
「さいで」
まあ、オレが心配をかけちまっているって事で、気を使ってくれたんだな。
ホント、よくオレ達を見てくれてるよ、このツンデレさんは。
「ツンデレじゃない!」
……なんでオレの考えが読めるの、この子?
キャロside。
アスカさん達と分かれた私達は、フェイトさんが運転する車で町中まで移動した。
車をコインパーキングに止めて、早速行動を開始!ってなったんだけど、そこまで力を入れる事じゃないから、久しぶりにフェイトさんとのんびりお話をしながらサーチャーの設置をしていたんだけど、
「アスカがオルセアに?」
こっちの世界に来たときにアスカさんが話してくれた事を話したら、急に何かを考え始めたフェイトさん。
「はい。だから少し神経質になっているって言ってました」
エリオ君がそう言ったけど、その言葉はフェイトさんに届いてないみたい。
どうしたんだろ?
「……前衛の守護者、もしくは、ザイオンの盾」
「「え?」」
「オルセアで護衛任務をしていた局員の間で噂になっていた事があるの。防御魔法を巧みに操り、NGO職員や難民の護衛しきった若い局員がいたって。その局員の通り名が…」
「前衛の守護者?」
私はオウム返しに呟く。確かに、アスカさんにはピッタリの通り名に感じるな。
「ザイオンの盾って、ザイオンってアスカさんの事じゃないですか!」
そうだった。エリオ君の言うとおりザイオンってアスカさんのファミリーネームだ。
「アスカ・ザイオン。そうだね、アスカの苗字でもあるね」
ん?なんだろ?フェイトさん、何か慎重に言葉を選んでいるように見えるけど。
「オルセア派遣は本当に凄惨な任務だったらしいの。局員も何人も亡くなって、大怪我をした人も大勢いた。でも、前衛の守護者がいた部隊だけは、一人の死者を出さずに半年間の任務を遂行したとか。でも、前衛の守護者がアスカだとしたら、なんでCランク魔導師だったんだろ?」
「「どういう事です?」」
フェイトさんの言葉の意味が理解できなくて、私とエリオ君は首を傾げる。
「その時の難民救出も、NGO職員の護衛も、その部隊はズバ抜けて良かったんだって。それこそ、実績だけで昇級できるくらいにね。でも、アスカは試験を受けて昇級したから」
「あ、そうか」
そう言えば、その試験の時にスバルさんとティアさんと仲良くなったって言ってたっけ。
「これ以上は考えても答えは出ないね。とりあえずサーチャーの設置を終わらせちゃおうか」
フェイトさんがそう言って、この話はおしまいになった。
もし前衛の守護者がアスカさんだったして、何で昇級を試験でやったのかは気になるけど…あんまり詮索したら失礼かな?
フェイトside。
アスカが前衛の守護者だとして、何でオルセア任務の実績で昇級しなかったのか。理由は分からないけど、想像はできる。
私は昇格試験の結果発表の時の事を思い出していた。
「不合格を合格にしろとは言いません。自分の合格を取り消してください!」
スバルとティアナの力を借りたから、チームだから一人で合格する事はできないと言ったアスカ。
あの時は、なんてとんでもない事を言う子なんだろうと思ったけど、後になってアスカはチーム、仲間を大切にするって事が分かった。
それを考えれば、たぶんオルセア任務では大切な仲間が傷ついたんじゃないかと思う。
死者が出なかっただけで、怪我人は沢山出た筈だ。
それも、現役を引退しなくてはいけないくらいの大怪我を負った仲間がいたとしたら…
アスカは昇級の話を蹴るだろうと思う。
アスカの性格からして、自分だけそんな手柄を受け取る事なんかできないだろう。
……少し心配になるな。もっと自分を大事にしないと、本当に守りたい人を悲しませる事になるのに…
ティアナside
フェイト隊長と分かれて、アタシ達は手分けしてサーチャーの設置をした。
住宅地や公園、河川敷グランドとかを歩き回ってやっていたから結構時間が掛かった。
人目のない所では、魔法を使ってやったけど、流石に町中じゃそうはいかないわね。
「こっちは終わったぞ」
「こっちも終わり~」
アスカとスバルの作業が終わったみたい。アタシも、この一個を設置すればお終い。
「こっちも終了よ」
アタシの作業が終わったのを確認して、アスカが共通回線を使ってなのはさんに報告をする。
『高町隊長、こちらの作業は終了しました。今後の指示を願います』
『こちらはもう少し掛かりそうだから、ハメを外さない程度に自由にしてていいよ。スバルなんかは、町を見回りたいんじゃないかな?』
『了解しました。作業が終了したら連絡をください』
ちょっとの間、自由時間ができたわね。
「やったー!なのはさんの生まれた町を見て回ろうよ!」
いきなり来たわね、スバル。嬉しいのは分かるけど、そうはしゃがないでよ。
「ハメを外さない程度に、って言われたでしょ」
無駄だとは思うけど、一応注意する。
「大丈夫ですよ~♪さあ、行こう!」
浮かれるスバルを前に、アタシとアスカがため息をついたのは言うまでもない。
先を進むスバルの後を追うアタシとアスカ。まったくスバルは子供なんだから!
outside
町中を見て回る三人。もっとも、スバル一人がはしゃいでるだけで、ティアナとアスカはその保護者みたいなものだ。
「しかし、本当にミッドの田舎と同じ感じね。家とか、服装とか」
ティアナがそんな感想を口にする。
「文化の方向性が一緒なんだよ。他国文化を取り入れて独自の物にするってな。ミッドも他世界からの人が多いだろ?」
「うん?この国、日本って言ったっけ?他の国の人が自由に行き来できるの?」
アスカの答えた事に疑問が生じたのか、ティアナが彼を見る。
「あ……いや、検疫とかはあるんじゃね?」
ティアナから目をそらすアスカ。何かを隠している感じがする。
「私はこういうの好きだな。何か落ち着くし」
スバルがニコニコしながら話に混ざってくる。
「……」
そのせいで、ティアナの疑問は寸断されてしまった。
釈然としなかったが、ティアナはそれ以上聞く事はしなかった。
「あ!ティア!あれ、アイス屋さんかな?」
突然スバルが指を指した。その方角に目を向けると、赤い屋根と白い壁の、オシャレな感じの小さい店があった。
その壁に、写真付きのメニューみたいな物が掛けられている。
「ああ、そうかも……って、やめなさいよ!任務中に買い食いなんて恥ずかしい」
ティアナが窘めるが、アイス屋と分かって止まるスバルではない。
「えぇー、ちょっと見ていこうよ!」
言うなり、その店までダッシュする始末である。
「見るだけで終わるのか?」
「んな訳ないでしょ。他の事ならともかく、アイスの事になったらスバルは面倒くさいわよ」
はあ、とため息をついてスバルの後を追うティアナ。
「ふーん。まあ、ドーデモいいけど」
ヤレヤレとアスカもそれに続いた。
流石に店内には入らなかったが、スバルは店先に張り付けてあるアイスのメニューを食い入るように見ていた。
「わぁ、どれも美味しそう!」
キラッキラッと目を輝かせるスバル。そんなスバルに呆れつつ、ティアナもメニューを見る。
「んー?何か少し普通のアイスとは違うみたいね」
メニューに描いてあるイラストを見て、ミッドチルダのアイスと違う所を見つけるティアナ。
イラストには、アイスをヘラでコネているシーンが描かれている。
「どれ……当店は-9℃まで冷やした御影石の上で、アイスとフルーツを混ぜ合わせています。今までにない食感と美味しさをお楽しみください、か」
アスカが説明書きを読み上げる。
アスカは、そんなもんなの?程度の感想だったが、スバルは違った。
「何それ!ミッドにはそんなスタイルのアイスなんてないよ!」
グワッとテンションが上がるスバル。目から炎でも出そうな勢いだ。
「えーと、そうなの?」
まったく興味の無いアスカがティアナに聞く。
「確かに聞いたこと無いわね。チョット食べてみたいかも」
クラッと心が揺れるティアナも、メニューを熱心に見ている。自分に厳しいティアナでも、そこはやはり女の子だと言う事だろうか。
「こうなったら食べてみないと、アイスソムリエの名が廃るよ!」
グッと拳を握りしめて熱血するスバル。心は既にアイスの彼方だ。
「大層な役職があったもんだな」
そのノリについていけないアスカは、一歩引く。
「ティア、ここはヤッパリ食べよう!そう天が言ってるんだよ!」
ガッ!
ティアナの肩を掴むスバル。
「そ、そうね、少しだったらいいかな?」
ティアナがチラッとアスカを見る。
苦笑するアスカ。別に自分に遠慮する必要は無いのにと思う。
「いいんじゃないか?隊長待ちなんだし、この程度ならハメを外した事にはならないよ」
そう言ってから、アスカはふと大事な事に気づいた。
「ところでお前等、この世界の通貨は持ってきてるんだろうな?」
アスカの言葉を受けて凍り付くスバル。
「あ」
ティアナもそれに気づいたのか、思わず声を出していた。
「こ、これじゃダメかな?」
スバルが出してきたのは、ミッドチルダの紙幣。
「警察に通報されるぞ!んなモンで買えるか!」
管理世界ならミッドチルダの通貨も使える所が多いし、銀行に行けば現地通貨に変えてくれる。
だがここは管理外世界。当然ミッドの通貨は使用できない。
「うーん、残念だけど、今回は諦めるしかないわね」
お金が無くては買い物はできない。
後ろ髪を引かれる思いはしたが、ティアナはそう決断した。が、
「えぇ!ヤダよ!」
スバルが悲しそうに眉を寄せてイヤイヤする。
「しょうがないでしょ!お金がないんだから、ワガママ言わないの!」
まるで母親のような事を言ってスバルを説得するティアナ。
すると、見る見るうちにスバルが涙目になり…
「食べたいよぉ!」
と泣き出した。
「15にもなる娘が、アイス食えないだけで泣くなよ…」
思わず頭を押さえるアスカ。どうしたものかと考えるが、全く何も思いつかない。
どうやらこれはマジ泣きらしく、ティアナもホトホト困り果てていた。
「ったく、しょうがねぇな。スバル、食うとしたらどのアイスが良いんだ?」
「このブルーベリーとラズベリーっぽいのが入ってるやつ」
即答である。
「ティアナは?」
「え?」
急にアスカに言われて戸惑うティアナ。
「ティアナは、食うとしたらどのアイスだ?」
少し考え、
「え…と、このバナナとチョコの入ったやつなんかは美味しそうね」
そう答える。
「わかった。ちょっとここで待ってろ」
そう言うや、アスカは自動ドアをくぐって店の中に入って行った。
「「え?」」
突然のアスカの行動に驚きを隠せないスバルとティアナ。
「ど、どうしたんだろ?」
「さ、さあ?」
顔を見合わせて考える二人。その時、店の中からアスカの声が響いてきた。
「えぇ!そんなに高いの!?…いや、普通サイズでいいから!…歌うなーっ!」
二人はビクッと身体を震わせる。
「え?買ってる?」「まさか?」
期待より不安が大きくなる。
アスカは何をしているのだろう?本当に買っているとしたら、お金はどうしたんだろう?
と疑問ばかり出てくる。
そこに、疲れた表情のアスカが帰ってきた。
「ほら」
アスカは両手に持ったアイスを二人に突きつける。
「「え?えぇぇぇ!!」」
スバルとティアナは驚きの声を上げる。
「「ど、どうしたの、これ!」」
キレイなハモリでアスカに聞く。
「いいから早く取れよ!溶けちゃうだろ!」
アスカは強引にアイスを二人に持たせた。
「えーと」「あの」
受け取ったはいいが、果たして食べていいのか悩んでしまうスバルとティアナ。
「信じられねぇ…そのアイス二つで、牛丼大盛りが三杯に味噌汁つけても少しお釣りが来る値段だぞ…」
アスカはアスカで、未体験ゾーンを通り抜けてきたような顔になってる。
「どうしたのよコレ!アンタお金は!?」
焦ったティアナがうわずった声でアスカを問いつめる。
「ん?ああ、こっちの世界にくる前に、ルキノさんのに換金してもらったんだよ。ある程度、まとまった額をな」
そう言ってアスカは、ルキノから受け取った茶封筒をヒラヒラと見せた。
「って事は、盗んだり店員さんを脅したりした訳じゃないんだね?」
「スバル、お前あとでオレに謝れ」
スバルの容赦ない言葉に、割と本気で凹むアスカ。
オレは普段、どういう目で見られているのだろうと悩んでしまう。
「いいから食っちまえよ。溶けたら、宣伝にあった食感もなくなるぞ」
「うん!ありがとう、アスカ!」
ちゃんとお金で買ったという安心感からか、スバルは満面の笑みでアイスを頬張る。
さっきまで泣いていたのに、現金な物である。
だが、ご満悦でアイスを食べるスバルを見ていると、何となく嬉しくなるアスカであった。
「ありがとう、アスカ。遠慮なくいただくわ」
ティアナも笑顔でアイスに口をつける。
「うーん!美味しい!フルーツを混ぜ合わせているのに、全然アイスが溶けてないよ!」
「冷たい石の上で混ぜ合わせたから、溶けないのね」
口々の感想を言いながら、スバルとティアナはアイスを食べている。
「オレには、分からない世界だな」
そんな二人を見ながら、アスカはポツリと呟いた。
その後三人は公園に移動して、なのはを待つ事にした。
デバイスのビーコンを入れておけば、向こうで勝手に探してくれるという寸法だ。
途中、はやて達が合流したと連絡が入り、副隊長達も捜索に加わった事が分かった。
「あー、美味しかった!」
アイスを平らげたスバルが、満足そうに笑顔になる。
「本当ね。ミッドのもあるといいのに」
アイスが気に入ったのか、ティアナもそんな感想を言う。
「そんなもんかねぇ?」
ベンチに腰を下ろしたアスカは、よく分からないと首を左右に振る。
「アスカって、甘いもの食べないの?」
アイスに全く興味を示さないアスカに、スバルが不思議そうに聞く。
「そうだなぁ、糖分補給ってなら、アメ舐めるか、チョコ食うか、氷砂糖かじるかだな」
思い起こしてみると、アスカは積極的に甘味を摂取していない事に気づく。
本当に疲れた時に、チョコレートを口に放り込むぐらいだ。
山になっているフルーツ類はよく食べたが、ケーキなどは殆ど口にした事がない。
「ええー!それは人生の100%を損してるよ!」
「オレの人生丸損かい!」
スバルの悲鳴にも似た言葉に、素早く突っ込むアスカ。
「でも、もう少し甘い物を食べた方がいいわよ?アンタのそれは、偏食に近いわ」
ティアナもスバル側に回る。
「別に、糖分補給なんだから、必要最低限でもいいだろ?」
アスカは、なんでそうなると反論する。
そこでスバルとティアナは切り札を切った。
「「でも、エリオやキャロをケーキ屋とかに連れて行ったら喜ぶよ?」」
「う……」
キレイなハモリでエリオとキャロの事を引き合いに出され、アスカは言葉を詰まらせる。
「喜ぶ…かな?」
可愛がっている弟分と妹分を出されると弱いのか、少し考えてしまうアスカ。
「喜ぶわよ。でも、ただケーキを奢るだけじゃダメ。アンタも一緒になってケーキを食べるの。本当の兄弟みたいにね。その方が、思い出にも残るでしょ?」
アスカの弱点と突いてくるティアナ。
「う~」
アスカは困った、と額にシワを寄せて悩み出す。
「オレ、甘いもの苦手なんだよな~。ケーキ言うか、生クリームが好きになれないし」
深刻そうな顔になるアスカ。ケーキ一つでえらく悩んでいる。
「でも、エリオとキャロを喜ばせてやりたいし…訓練と仕事だけってのもかわいそうだしな…うーむ」
「悩む事じゃないよ。クリーム使ってないケーキもあるし、フルーツ系ならサッパリして美味しいよ」
ポンポン、とアスカの肩を叩くスバル。
「なんなら、私が色々教えてあげるよ。だから奢って!」
「「ソッチが目的かい!」」
食い気全開のスバルに、アスカとティアナが突っ込んだ。
「あはは、みんな元気だね」
「探す必要がなかったですよ」
その時、不意に誰も居ない空間から、なのはとリインの声がした。
「「「お疲れ様です!」」」
素早く三人は敬礼する。
「うん、お待たせ様」
その声と同時に、なのはとリインが姿を現す。オプティックハイドを解いたのだ。
「とりあえず作業は終了だね。どう?少しは町を見て回れたかな?」
「はい!とても良いところだと思います!」
即答するスバルを見て、ヤレヤレと肩を竦めるアスカ。
さっきまでアイスが食えないって泣いていたヤツはどこに行ったよ、と思う。
「みんなは何をしてたんですか?」
リインが公園でたむろしていた三人に尋ねる。
「だだっ子にアイス食わしてました」
ジト目のアスカがスバルを見るが、彼女は悪びれもなく笑ってる。
「アイスって、お金はどうしたですか?」
「アスカが換金していてくれて、それで払ってくれました。アタシとスバルがご馳走になりました」
ティアナがそう説明する。
「へぇ、準備いいね。アスカ君は食べなかったの?」
「オレはコーヒーの方が好みなので」
「アスカ、渋いですぅ」
そんな雑談をしている時に、共通回線でシャマルから念話が送られてきた。
『ロングアーチからスターズとライトニングへ。さっき、聖王教会から新情報がきました。問題のロストロギアの所有者が判明。運送中に紛失したとの事で、事件性は無いそうです』
更にはやてがその後に続ける。
『本体の性質も逃走のみで、危険性は無し。ただし大変に高価な物なので、できれば無傷で捕らえてほしいとの事。まあ、気ぃ抜かずにしっかりやろ』
その情報をみんなに伝えて、はやては回線を閉じた。
「ちょっと、肩の力は抜けたかな?」
なのはが安心したように言う。
事件ではない事と危険性がない事が分かったので、今後のプランを頭の中で立て直したのだ。
「はいですぅ」
「ホッとしました」
安堵するリインとスバル。
「そう…ですね」
一度深呼吸してから、アスカもそう答えた。
油断すると、またピリピリした空気を出してしまうかと思ったのだ。
一呼吸おいたのが良かったのか、特に雰囲気が壊れる事はなかった。
「そろそろ日も落ちてきましたし、晩ご飯の時間ですね」
ヘリでは食いしん坊じゃないとプンプン怒っていたリインが嬉しそうに言う。
「あはは、お腹減りました」
正真正銘の食いしん坊、スバルが同意する。
「おい、スバル。今アイス食ったばっかろ」
「なに言ってるの、アスカ。ゴハンは別腹だよ」
「……」
真顔で答えるスバルに、アスカは言葉を失ってしまった。
(いや、甘い物は別腹じゃなかったか?)
「と、とにかく、晩飯を確保するなら早い方がいいな」
コホンと咳払いをして、アスカはスバルとティアナに言った。
「「なんで?」」
なぜ早い方がいいのか分からない二人が聞き返す。
二人の疑問に、アスカは恐ろしい事を口にした。
「蛇にしろ蛙にしろ、暗くなると捕まえにくくなるだろ?」
さも当然、と言い放つアスカ。
「「「ちょっ!!!」」」
スバル、ティアナ、リインが絶句する。
「エリオとスバルはよく食うから、ネズミもあった方がいいな」
「まーって!待って待って待って!」
さて捕まえに行くか、と腕まくりをしたアスカにスバルが詰め寄る。
「じょ、冗談だよね、アスカ?」
「マジだよ。こっちにくる時、食料を持ってきてないんだから現地調達するしかないだろ」
「いや、蛙とか食べた事ないし!」
「油で揚げると鶏肉みたいになって旨いぞ。あ、油が無いか…でも大丈夫だ。火を通せば、大抵の物は食える」
真面目に答えるアスカに、スバルとリインは青ざめる。
「その心配は無さそうよ」
それまで蚊帳の外だったティアナが、なのはの方を指す。
ちょうどライトニングとの念話が終わった所のようだ。
「晩ご飯は民間協力者の方が用意してくれてるらしいから、こっちで心配する事はなさそうだよ」
なのはの言葉を聞いて、スバルとリインが胸をなで下ろした。
「助かった~」「本当ですぅ~」
危なくサバイバル訓練になるところだった。
「……でも念の為に…」
「「「却下!」」」
アスカにみなまで言わせずに、スバル、ティアナ、リインが叫ぶ。
そんなやり取りを、なのはは楽しそうに見ていた。
「んー、でも手ぶらで帰るのも何かなぁ?」
少し考えて、なのはは携帯電話を取り出す。
「……あ、お母さん?なのはです」
どこか嬉しそうに、なのはは携帯電話で話始める。
「「え?お母さん?」」
予想外の事に、スバルとティアナが驚く。
『な、なのはさんのお母さん…』
スバルが驚きのあまりティアナに思念通話を送ってしまう。
『そ、それは、存在してて当然なんだけど…』
そこまで動揺する必要があるのか、ティアナも落ち着きがなくなってる。
『なのなぁ、失礼も大概にしとけよ。隊長も人の子。親がいて当然だろ』
同じ念話を受信していたアスカが、呆れて突っ込みを入れる。
『そうなんだけどさ、なのはさんのお母さんってどんな人なのか想像つかなくて』
スバルが苦笑するように答える。
『そんなの隊長みれば分かるだろ?きっと魔力の塊みたいでおっかない人だよ』
『アンタも大概失礼だな!』
今度はティアナがアスカに突っ込みを入れる。
などど下らない念話漫才をしている内に、なのはの方の話がまとまったようだ。
「じゃあ、10分くらいでお店に行くから。うん、それじゃ」
ピッと携帯電話を切り、なのははアスカ達の方に向き直る。
「さて、ちょっと寄り道」
「はいですぅ!」
リインがバンザイでなのはに抱きつく。
「あの、今お店って…?」
エース・オブ・エースとお店の関係が分からないティアナがなのはに尋ねる。
「そうだよ。うち、喫茶店なの」
「喫茶”翠屋”おしゃれで美味しいお店ですよ」
「「「ええぇぇぇ!」」」
さすがにアスカもコレには驚いた。
あまりの驚愕具合に、なのはが若干凹んだのは秘密だ。
なのはに案内されて来たのは、落ち着いた雰囲気の喫茶店であった。
おもてに翠屋と書かれた看板がある。
「緑じゃなくて翠の字なんだ」
アスカが看板を見てポツリと呟く。
「そうだよ。いい名前でしょ?」
なのはは嬉しそうに言い、お店のドアを開けて中に入って行った。
リインもそれに続き、その後をアスカ達がゾロゾロとついて行く。
「お母さん、ただいま!」
「なのは!おかえり!」
店に入るなり、なのはの母親が抱きついてきた。
我が子をギュッと包容する。
『お母さん若ッ!』『本当だ!』
突然の母親登場よりも、その容姿の若々しさに驚くスバルとティアナ。
『20代前半って言っても通用するぞ!』
アスカも圧倒されてしまう。
「桃子さん、お久しぶりですぅ!」
「わぁ、リインちゃん!久しぶり!」
まるで自分の娘のように、桃子はリインをギュ~っと抱きしめる。
「お、なのは、帰ってきたな!」
「おかえり、なのは!」
「お父さん、お姉ちゃん!」
奥から出てきた父、士郎と、メガネをかけた姉の美由希がなのはをギュ~っと抱きしめる。
高町家では、ハグは当たり前らしい。
『お父さん、お姉ちゃんって…若い!どうなってんだ?隊長の血筋は!』
ビビるアスカ。
士郎に至っては、ヴァイスと同じ歳と言っても誰も疑わないだろう。
『流石は高町隊長。オーバSだけの事はある』
妙な所で納得するアスカ。
ティアナもスバルも同意見なのか、ただコクコクと頷くだけだ。
「あ、この子達、私の生徒」
それまで放ったらかしだった三人を、家族に紹介するなのは。
「おぉ、こんにちは。いらっしゃい」
士郎が優しい笑顔で三人を迎え入れる。
「は、はい!」「こ、こんにちは!」「ど、どうも!」
スバル、ティアナ、アスカがペコリと頭を下げる。
『優しそうなお父さんね』
ティアナがそんな感想を言うと、スバルもそうだねと答えた。
『でも、ただ者じゃねぇぞ。全く隙のない歩きだ。身体の軸もブレてない』
アスカは士郎の動きを見て冷や汗を流す。
(素人じゃない…少なくとも武術経験者か、現役か…)
アスカがそんな事を考えているうちに、向こうではドンドン話が進んでいる。
「ケーキは今、箱詰めしているから」
桃子が楽しそうになのはに言う。
久しぶりに娘が帰ってきたのが嬉しくてしょうがない様子だ。
「うん、ありがとう、お母さん。フェイトちゃんと待ち合わせ中なんだけど、いても平気?」
「もちろん!」
まるで姉妹のような母娘のやりとり。
「コーヒーと紅茶もポットに入れておいたからな。持ってってあげてな」
「ありがとうございますぅ!」
こっちはまるで父娘だ。
「お茶でも飲んで、休憩していってね。えーと…」
桃子が三人に目を向ける。
「あ、スバル・ナカジマです!」
「ティアナ・ランスターです!」
「アスカ・ザイオンです!」
まだ名乗っていなかった事を思い出し、アスカ達は慌てて自己紹介をした。
「スバルちゃんにティアナちゃん、そしてアスカ君ね」
娘の教え子達を楽しそうに見る桃子。
アスカは、どこかくすぐったいような感覚を覚える。
「三人とも、コーヒーとか紅茶とか、いけるかい?」
士郎が和やかに聞いてくる。
「あ、はい」「どっちも好きです!」「コーヒーを…」
ティアナ、スバル、アスカがそれぞれ答える。
「リインちゃんは、アーモンドココアよねぇ」
美由希がリインをナデナデする。
「はいですぅ♪」
リインはご機嫌で返事をした。
「みんな、こっちにおいで」
「「「はい!」」」
なのはがアスカ達を店の奥の席に案内する。
すぐに桃子がお茶を運んできた。
「スバルちゃんとティアナちゃんは、女の子だからミルクティーね」
「はい!」「ありがとうございます」
「アスカ君はコーヒーね。砂糖とミルクは?」
「いえ、ブラックでいただきます」
「うわ、アスカ大人じゃん!」
相変わらずぶっ飛んだ感性のスバルが驚く。
「なんでそうなる!前の部隊じゃ野営が多かったから、そん時に飲むモンって言ったら、水か酒かコーヒーくらいしかなかったんだよ」
アスカがそう言った途端、その場の空気が引き気味になった。
誰もが驚いた顔でアスカを見ている。
「?」
怪訝そうな表情をして、アスカはもう一度自分に言った事を反芻した。
(飲む物と言ったら、水か酒かコーヒー…水酒コーヒー…水、酒…酒、酒!)
「い、イヤだなぁ!オレはコーヒーか水ですよ?酒は大人達が飲んでいたんですから!」
慌ててブンブンと手を顔の前で振るアスカ。
「あ、あはは、そうだよね!そりゃそうだ!」
なのはが乾いた笑い声をあげた。
「「「ビ、ビックリした~」」」
スバル、ティアナ、リインもふう、と息をはく。
「た、隊長も結構慌てん坊さんですね!」
あっはっはっ、と微妙になった空気を吹き飛ばすように、アスカとなのはは笑った。
(あー、あっぶねー!酒飲んでたのバレる所だった!)
呑んでました。
099部隊の隊規では、酒とタバコは10歳越えてからとなっていた。意味は特にない。
その為、アスカはタバコこそやらなかったが、大人に混じって酒をかっくらっていたのだ。
しかも、結構強いときている。
だが、若い人員の多い機動六課ではそれではマズイと思って禁酒したのだ。
「ほ、ほら!野営だと余計な物は持っていけないから、砂糖やミルクなんて気の利いたのは無かったんだよ!ずっとそんな生活をしていたから、慣れちゃったんだよ」
「あ、だからアスカは甘いものが苦手なのかな?」
そうか、とスバルがポンと手を叩く。
「あ…そうかも」
スバルの言葉に納得するアスカ。
「あれ?アスカ君、甘いもの、ダメなの?」
ちょっと驚いてなのはが聞いてきた。
「まあ、得意ではないですね。甘いものって言ったら、アメかチョコか氷砂糖くらいですから」
「アスカ君、それだと人生丸損だよ?」
「隊長までスバルと同じ事言わないでくださいよ!」
アスカが情けない声を上げて、それがオチとなった。
その場にいた全員が声を上げて笑い出した。
ひとしきり笑った後、士郎が新人三人に尋ねてきた。
「しかし、うちのなのはは先生としてはどうだい?お父さん、向こうの仕事の事はよく分からなくてなあ」
親としては、当然の心配だろう。
まして、別の世界と言う普通では考えられない環境だ。
「あ、その、すごくいい先生です」
「局でも有名で、若い子達の憧れです」
「高町隊長の教導を受けられない奴らから嫉妬されるくらい、人気があります」
スバル、ティアナ、アスカが順番に答える。
それを聞いて、桃子と美由希はへぇ~となのはを見る。
「うぅ…そう言えば、お兄ちゃんと忍さん、元気?」
話を逸らすように、なのはが美由希に聞く。
「うん!この間一度帰ってきたよ。またドイツに戻っちゃったけど」
「そっかぁ。二人とも、お仕事忙しいもんね」
家族の話に花を咲かせるなのは。
『なんか、なのはさんが普通の女の子に見える』
『うん…』
スバルとティアナは、目の前の光景が信じられないようだ。
普段は、優しくはあっても稟としているなのは。
それが、今は普通に見えるのだ。
『プライベートまで隊長やってる訳じゃないんだし。私生活だとこんな感じなんだろ?』
コーヒーを飲みながら、アスカは二人に言った。
隊長のプライベートなど見る事がないから、新鮮に映るのだろう。
「お、そうだ!みんな、クッキー食べるか?これが自慢の新作でな!」
士郎が焼きたてのクッキーを差し出してきた。
「あ、どうぞ、おかまいなく…」
「あ、はい…」
恐縮しまくりのスバルとティアナ。
「あ、オレは甘いのはちょっと…」
アスカも遠慮しようとするが、
「これは甘さを抑えてあるやつだから大丈夫だと思うよ」
その士郎の言葉に、遠慮するのも失礼と感じたアスカは、
「じゃあ、一ついただきます」
とクッキーに手を伸ばす。
(まあ、カンパンみたいな物と考えれば食えなくもないか)
ヒョイと一口で平らげるアスカ。
「あ、香ばしくて美味い」
アスカがそう言うと、リインが反応する。
「あ、私も欲しいです!」
「うん、じゃあリインに一個」
なのはがリインにクッキーを取ってあげる。
「えへへ、いただきます!」
リインが嬉しそうにクッキーを頬張った。
(立派に食いしん坊ですよ、リイン曹長)
そっと心の中で呟くアスカ。
言葉にしたら、ちっちゃい上司に怒られるので黙ってる。
「そうだ!じゃあさ、なのはが使っていた部屋を見てみる?」
突然美由希が言い出す。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」
驚いて、危なくミルクティーをこぼしそうになのは。
「あ!見てみたいです!」
「ちょっとスバル!」
条件反射で返事をしたスバルをティアナが押さえるが、
「よし!じゃあ見に行こう!」
と美由希に手を引っ張られ、立ち上がるスバルとティアナ。
「お、お姉ちゃん、やめてよぉ」
「いいじゃん、減るもんでもないんだし」
力なくなのはが訴えるが、却下されてしまう。
「アスカはこないの?」
「女性の部屋を覗くような悪趣味はないよ」
スバルの誘いにソッポを向くアスカ。
『おまえ等はともかく、男のオレが行ったらマズイだろ!次の模擬線でスターライトブレイカー撃たれたらどうすんだよ!』
念話で本音を言うと、スバルとティアナは納得したように頷いた。
「じゃあ、女の子軍団はしゅっぱーつ!」
美由希に連れられ、スバル、ティアナ、リインがゾロゾロと移動を始める。
その後ろを、なのはがオロオロしながら追いかけて行った。
「やれやれ」
ふぅ、とため息をついて、アスカはカップに残っていたコーヒーを飲み干した。
女性陣がいなくなると、途端に静かになる店内。
「もう一杯、どうだい?」
士郎がコーヒーを勧めてくる。
「あ、いただきます。美味しいコーヒーですね」
士郎がコーヒーをカップに注いでくれる。
「ところで、アスカ君。聞きたい事があるんだが、いいかな?」
そう言って士郎は、アスカの対面に座った。
「はあ、答えられる範囲であれば」
何を聞かれるのだろう?と内心ドキドキしていたが、それを表にはださないアスカ。
「いやね、それなりの地位にはいるみたいだけど、やっぱり年頃の女の子だし、色々心配な訳なんだよ。そういう噂とか、聞いたこと無いかい?」
何のことだか分からず、一瞬ポカンとしたアスカだったが、それが異性関係だという事に気づき、
「ないですね」
と即答する。
「高町隊長だけじゃないですけど、うちの部隊の隊長陣は、浮いた噂一つないですね」
正直に答えるアスカ。
「そうかい。ホッとしたような、それはそれで心配のような」
父親の複雑な心境を覗かせる士郎。
「まあ、隊長にコナ掛けるって事は、日本じゃ自衛官幹部クラスを口説くような物ですから。それに、仮に悪い虫が近づいてきたとしても、高町隊長なら自力で駆除できますよ。あ、もちろん、ちゃんとした話し合いで、ですけど」
一応、最後の方にフォローを入れておくアスカ。この辺は天性のヘタレなのだろう。
「なるほどねぇ。ユーノ君のような人がいれば違うんだろうけどなぁ」
「ユーノ?」
思わぬ人物の名前にアスカはえっと聞き返した。
「ユーノ・スクライア君って知らないかな?なのはの幼なじみで、今は何とか言う図書館の司書をしているんだけど」
「無限書庫のユーノ・スクライア先生!?」
驚きのあまり立ち上がるアスカ。
「隊長とユーノ先生って幼なじみなんですか!」
アスカは思わず士郎に詰め寄ってしまう。
「あ、ああ、そうだよ。なのははユーノ君と出会って魔法に目覚めたんだ」
アスカの反応に面食らった士郎だが、落ち着いてそう説明した。
「無限書庫って、凄い名前だね。沢山の書物があるからそういう名前なのかい?」
「あー、イメージとしては、奈落の底に落ちていくような井戸の側面に、ズラッと本が陳列されているって言えば分かりますかね?」
アスカの説明は、士郎の想像を越えてしまっていた。
それでも、とてつもない量の情報があるという事だけは分かったみたいだ。
「初代無限書庫長で、今の検索システムを構築した人です。無限書庫って、それまでは情報の溜まり場に過ぎず、整理するのは不可能って言われてたんです。ユーノ先生はそれを殆ど一人で整理したって言われてます。こっちの世界で例えると、地球が誕生してから今の瞬間までの記録を全てまとめ上げたようなものです」
アスカの説明は決して大げさな物ではない。
文字通りの無限を誇る書庫。今も新たにデータは蓄積され続けている。
「一度だけ無限書庫を使用した時にお会いしたんです。礼儀知らずのオレに、色々親切に教えてくれて…尊敬のできる人でした」
アスカはそう言って腰を下ろした。
「確かに、ユーノ先生とならお似合いかも。どこからも文句は出ないだろうなあ」
一口コーヒーを飲むアスカ。
「ユーノ君なら安心するけど、奥手だからね、彼も」
眉を寄せる士郎。やはり、父親心は複雑らしい。
その時、なのは達が戻ってきた。
「やあー、可愛いお部屋だったよ」
開口一番、スバルがそう言ってきた。
「意外と言うか、イメージ通りと言うか」
ティアナもそんな事を言う。
「うぅ…余計な事を…」
恨めしそうな目で美由希をみるなのはだったが、彼女は全然堪えない。
「いいじゃない。なのはが教え子を連れてくるなんて初めての事なんだから。少しはサービスしないとね」
悪びれもせずに言う美由希。
「アスカ君は、お父さんと何を話していたの?」
これ以上姉と話していても埒があかないと判断したなのはは、流れを変えるべくアスカに話を振る。
「隊長の男性関係についてです」
これをかなり端折って、バカ正直に答えるアスカ。
その瞬間、周囲温度が下がったような気がした。
「…どーんなお話をしていたのかな?」
ニッコリと笑いながら、なのははジッとアスカを見つめた。
ゾワワワワッ!
全身が粟立つような寒気に襲われるアスカ。
スバルとティアナ、リインが思わず後ずさり、後ろでカタカタ震えだしたくらいだ。
「は、はひ!いえ!そう言う噂は聞いた事が無いと申し上げました!」
ピッと起立し、敬礼で答えるアスカ。
「まあ、お父さんは安心したよ。もうしばらくは大丈夫かなって」
この空気で普通に切り込んでくる士郎。高町家の人々は、色々と凄い。
「もう~余計な事は聞かないでよぉ、お父さん」
少し拗ねるなのは。そこだけを見ると、可愛いくはある。
(マ、マジで心臓止まるかと思った…)
ヘナヘナと崩れ落ちるアスカ。
瞬間的に魔王を見た感じだ。
「アスカ君も、あんまりマトモにとりあっちゃダメだよ?」
「は、はい…以後気をつけます」
グッタリとしてアスカは答えた。
もう二度と隊長の男性関係の事は口にしないぞ、と固く心に誓いながら…
それからしばらくして、フェイトが迎えにきた。
高町家の人々と挨拶を交わして、さあ戻ろうとした時に問題は起きた。
「一人あぶれるね」
そう、フェイトの運転する車では、全員を乗せる事はできなかた。
「高町隊長、ハラオウン隊長、リイン曹長は乗ってもらって、エリオとキャロも乗車組だな。って事は、オレかスバルかティアナが乗れない訳だ」
冷静に状況を解析するアスカ。
「じゃあ、アタシがアンタにオプティックハイドを掛ければ良い訳ね?」
ヒョイとアスカに向かって手をかざすティアナ。
「ちょっと待て!なぜそうなる!」
「アンタだったエリアルダッシュで走ってくればいいでしょ?足早いんだし」
「だったらスバルのローラーの方が速いだろ!」
そう言ってスバルを見ると、ちゃっかり乗車している。
「おい、スバルさん?なんであなたが乗ってるんですか?」
アスカは変なテンションで敬語になる。
「アスカが走るから?」
「決定事項!?」
「と言う訳で、オプティックハイド」
ティアナがアスカを透明化させる。
「さあ、戻りましょうか」
清々しい笑みで車に乗り込むティアナ。外から見えない何かが怒鳴り声を上げているが、聞こえないフリをしている。
「で、でも…」
フェイトが困った顔をしているが、ティアナはお構いなしで良い笑顔を上司に向ける。
「フェイト隊長、行きましょう」
「でもアスカが…」
「行きましょう」
「だ、だから…」
「い・き・ま・しょ・う!」
「う、うん…」
結果、ティアナに押し切られて車は発車した。
「スバル!ティアナ!おまえ等覚えてろよぉぉぉぉぉ!」
絶叫しながら、エリアルダッシュで車を追いかけるアスカであった。
後書き
また長文やらかしてしまいました。申し訳ありません。m(_ _)m
相変わらずの説明文なのに長いって、どうしようもないです。
読んでいただいている皆様には、大変ご迷惑をかけています。申し訳ありません。
さて今回のアイス屋さんのシーンですが、このアイス屋さん、実在します。
コールドストーンと言うアイス屋さんで、アイスのトッピングをコールドストーンと言う板の上で
混ぜ合わせてくれます。その時に、サービスで歌を歌ってくれます。美味しいですよ。
色々アスカの過去を匂わす事も書けたと思いますが、彼の正体はもう少し後まで引っ張ります。
魔王もチョビットだけ降臨しましたしね。
高町家の人々も、ネタ的においしい感じがするので、どこかで書けたらいいなと思います。
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