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本気で挑むダンジョン攻略記

作者:MARIE
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Chapter Ⅱ:Xenogenesis
  第07話:abnormality

 
前書き
エタってませんよ。

一言目がこれって事が何かもうごめんなさいって感じです、はい。
就活、研究、試験などで忙しい状況で、それでも時間を工面して何とかオラトリアを全巻読破。漸く外伝も含めた原作読破です。
プロットも書きなおし。とほほ...
連休で漸く執筆時間が取れたので投稿します。

というわけで(?)
今回はベルから少し離れてラインハルト達側の視点に移ります。
オラトリア読んだって事は...分かるね?

※pixivの方でマルチ投稿してましたが、やめました。これからはこっちだけで投稿していく事になります。 

 
 ――ダンジョン第50階層。
 普段はモンスターが発生しない安全階層(セーフティポイント)であり、ダンジョンでも数少ない休憩地帯(レスト・ポイント)である。攻略最前線の【ファミリア】――殆どが【ロキ・ファミリア】だが――がキャンプ地として利用する場所でもある。
 だが、ダンジョンでは良くも悪くも常識が通用しない。
 往々にして発生する、冒険者を屠らんとするダンジョンの狡猾な罠。つまりは、異常事態(イレギュラー)
 突如として大量発生した、第一級冒険者の皮膚や武器すら溶かす腐食液を吐きだす芋虫型の新種のモンスターに、【ロキ・ファミリア】の面々は苦戦を強いられていた。

「だぁーッ、私の大双刃(ウルガ)がーッ!!」
「うるさい馬鹿ティオナ!」
「喋ってねえでさっさと動けバカゾネスがッ!」
「ベートこそ全然役に立ってない癖にー!」
「喧嘩売ってんのかあァ!?」

 訂正。第一級冒険者の面々は割と余裕がありそうである。
 だが、今回の遠征に参加してキャンプにいたサポーター及び第二級冒険者の面々にはそんな余裕は無い。
 不壊属性(デュランダル)を持つ武器を唯一所持しているアイズと、リヴェリアを始めとした後衛の魔導士組を主軸に何とか戦況は五分を呈しているだけで、その他の冒険者たちは予備の武器を湯水のように消費している現状ではいずれは限界が来る事は目に見えていた。

「フィン!そろそろ予備の武器が切れるぞ!」
「いや、モンスターは後少しだ!このまま押しきれ!アイズ!」

 後衛のリヴェリアから飛んでくる情報をもとに、即座に戦況を判断し、殲滅の指示を出すフィン。
 腐食液を魔法で弾く事が出来るアイズを主軸に、第一級冒険者の面々もモンスターの破裂で飛散する腐食液によるモンスター同士の同士討ち(フレンドリー・ファイア)を誘発するなどして臨機応変に対応する。
 途中でブチ切れたティオネが素手で腐食液を浴びながら魔石を掴みだすなどの荒業も見せ、【ロキ・ファミリア】の面々は、数分後には何とか新種のモンスターを殲滅するのだった。


「リヴェリア、予備の武器(ストック)は後どのくらい残ってるかい?」
「あまり芳しくないな。全員分の武器が後一つずつ、といったところか。」
「『竜の壺』のアタックは厳しそうじゃのう」
「腐食液を被った者達は幸い万能薬(エリクサー)で何とか一命をとりとめたが、回復薬(ポーション)の類も心細いな」

 戦闘後すぐに損害等の確認をするフィン、ガレス、リヴェリアの首脳部。
 本来の目的は未到達階層、59層への到達だが、この状況で52層~58層にわたる『竜の壺』へのアタックは厳しいというのが三人の共通の見解だった。

「ラウル。キャンプの撤退準備を。準備が整い次第撤退する。指揮は君に任せる。」
「了解っす。」

 苦渋の選択だが、団員の命には代えられない。フィンは第二級冒険者であるラウルに撤退の指示を代行するように命じた。

「似ているな、一年前に(・・・・)。」
「君もそう思うかい?」
「ああ。嫌な思い出だ。」

 リヴェリアとフィンが思い浮かべるのは、丁度一年前に行った遠征での出来事。
 今回のように50階層でキャンプをしていた【ロキ・ファミリア】の元へ、突如として『竜の壺』から飛龍(ワイバーン)などのモンスターが押し寄せ、これを撃退するもサポーター数名の犠牲者を出してしまったのだ。

「ただ、あの時と今回ではちょっと違うところもある。」
「ああ。あの時はモンスターが何かに怯えているようだった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。今回はそうじゃない。」
「だが、一年前の出来事を期に、ダンジョンでも異常事態(イレギュラー)に遭遇する事が多くなった。下層より下ではモンスターも強くなっているように感じる。『強化種』などが良い例だ。」

 フィンとリヴェリアが考察を重ねる中、ラウルから撤退の準備が出来たことを知らされ、ひとまずは地上に戻ってからまた情報を整理しようとフィンが考えていたその時。


「――ッ!!」

 フィンの親指が唐突に疼き始めた。それも今までにない程に。

「総員即時撤退を開始するッ!急げッ!」

 その場で声を張り上げたフィンに、団員たちはおろかリヴェリアですら瞠目する。だが、今までにフィンの指示で何度も危機的状況を脱してきた第一級冒険者の面々は即座に行動を開始。それに漸く状況を理解したのか慌ててその他の団員たちも慌てて荷物を纏め隊列を組み始める。
 だが、フィンの指示はこの時ばかりは遅すぎた。

「団長ッ!?」
「来たかッ」

 ティオネの叫び声で何かあったかを察したフィンは51階層へ続く連絡路へと目を向ける。
 そこには先程の芋虫型の新種のモンスターが、先の戦闘以上の数で押し寄せてきていた。

「(間に合わないッ!)」

 モンスターの進行速度からして、積み荷やサポーターを抱えた状態での撤退戦は不利。かといってこのまま残って殲滅戦を行うのも自殺行為。

「ラウル!アキ!積み荷とサポーターを連れて先に撤退しろ!」
「団長!?」
「18階層まで突っ走れ!早く!」
「~っ、総員俺に着いてくるっス!」

 フィンの指示でレベル4であるラウルとアキを中心に先に団員を避難させる。
 そしてフィンの元へガレス、リヴェリアにアイズ、ベート、ティオネ、ティオナ、そしてレフィーヤも集まる。
 そこにいる皆が自分たちの役割を理解していた。

「すまない皆。僕たちでこいつらを足止めする。」
「了解。」
「仕方ねえだろ。雑魚がいたらお荷物にしかならねえ。」
「またアンタは...」
「レフィーヤ。大丈夫か。」
「はい、リヴェリア様。私も残ります。」

 既に目の前に見えている芋虫型モンスターの数は100を超えている。
 そして彼らの後ろには撤退している仲間たちがいる。

「総員戦闘開始ッ!!」

 フィンの号令と共に、アイズを筆頭に皆がモンスターへ向けて駆けだし、その場でリヴェリアとレフィーヤが詠唱を開始した。

 第二次『怪物の宴(モンスター・パーティー)』、開幕。


 ☩☩☩


「ははッ、なかなか面白ェ事になってやがる」
「ちょっとベイ、一人で突っ走っちゃダメだからね。」
「わぁってるよ。ハイドリヒ卿の指示に従うっつーの。」
「ハイドリヒ卿、どうしましょうか。」

 ダンジョン第50階層の端にある小高い丘の上で、ラインハルト、ベイ、ルサルカ、リザの四人は【ロキ・ファミリア】の奮闘を観戦していた。
 実を言うと最初の『怪物の宴(モンスター・パーティー)』の時には既にいたのだが、【ロキ・ファミリア】の実力を見る為に観察に徹していたのだ。
 指示を仰ぐリザに対し、ラインハルトは暫し熟考する。
 今後のダンジョン攻略において【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者の戦力は非常に魅力的。ここで失うには惜しい。これは確実だ。だが、今表舞台に出ていない自分たちが彼らの目の前に姿を見せる程、機が熟してはいないのだ。

「…リザよ。カインを投入せよ。」
「良いのですか?そろそろ替えの時期(・・・・・)ですが...」
「構わん。どうせならこのタイミングで使い潰せ。」
「分かりました。」
「ベイ。【ロキ・ファミリア】の視界に入ら無い範囲でなら遊んできて構わん。」
「ハハッ、了解でさぁ。」
「ただし、『創造』の使用は禁止だ。」

 暗に『創造』を使わなくても勝てるだろう、と意味を込めた言葉を正しく受け取ったのか、ベイは意気揚々と50階層の【ロキ・ファミリア】が戦っている反対側へと駆けて行った。

「ハイドリヒ卿。カインの投入場所は。」
「【ロキ・ファミリア】の近くで構わん。ただし当てるなよ?」
「了解。それでは、カインを投入します。」

 そして、リザが詠唱を開始する。

 Daß sich die Himmel regen Und Geist und Körper sich bewegen(天が雨を降らすのも 霊と身体が動くのも)

 Gott selbst hat sich zu euch geneiget Und ruft durch Boten ohne Zahl(神は自らあなたの許へ赴き 幾度となく使者でもって呼びかける)

 Auf, kommt zu meinem Liebesmahl――(起きよ そして参れ 私の愛の晩餐へ)

Yetzirah(形成)――』 

Pallida Mors (蒼褪めた死面)


 第50階層の天井付近で展開される巨大な仮面。それが開き、隙間から一つの物体が物理法則に従って落下する。
 それは仮面を付け、一つの大剣を抱えて体を丸めた大男、トバルカイン。その正体は『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』によって呪われたダンジョン17階層の迷宮の孤王(モンスター・レックス)、ゴライアス。
 大きすぎる『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』の負荷によって数回の戦闘でしか使えず直ぐに自壊してしまうまさに使い捨ての戦闘人形。
 そのままカインは【ロキ・ファミリア】のすぐ近くの芋虫型モンスターを落下の衝撃で押し潰し、腐食液を辺り一面に飛散させる。

「■■■■――――――!!!!!!!!」

 その衝撃に何事かとフィンたちが目を向ける中、腐食液によって皮膚を溶かしつつも立ち上がったカインは大きな咆哮を上げた。


 ☩☩☩


「今度は何が来やがった!」

 芋虫型モンスターを相手しながら、【ロキ・ファミリア】の面々咆哮の発生源の方へ目を向ける。
 そこにいたのは腐食液の中大剣を持って佇んでいる大男。皆が訝し気に目を向ける中、ゆっくりと大男――カインが『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』を上段に構える。
 次の瞬間、『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』の表面から風が奔る。

「――!」

 フィンを始めとした数人がその現象の意味するところを理解し、次の瞬間にはその場にいた全員が理解する。
 カインが振り下ろした『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』から上位冒険者の放つ魔法にも劣らない威力の衝撃波が放たれ、射線上にいた10以上の芋虫型モンスターを衝撃波が吹き飛ばし、押し潰したのだ。

「魔剣だと!?」

 遠方から見ていたリヴェリアも驚きの声を上げる中、更にカインが二発目の衝撃波を放つ。
 それによって更に吹き飛ぶ芋虫型モンスターたち。しかも、『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』の魔力に反応したのか、それとも素体となったゴライアスの魔石に反応したのか、芋虫型モンスターはフィンたちをそっちのけでカインの方へと襲いかかっていき、カインの攻撃によって吹き飛ばされていく。
 カインの参戦によって戦況は一気に傾いた。

「(僕たちには攻撃してこない...味方か?)」

 自分たちから芋虫型モンスターの意識が逸れたとは言え、ここで『怪物進呈』などしようものなら【ロキ・ファミリア】の沽券に関わる。そもそも、そんなこと自分たちのプライドが許せない。

「負けてられっかッ―!!」
「ぬんッ!」

 それは皆も同じようで、先程よりも更に苛烈に攻撃を開始する。
 ベートはアイズから風を貰い銀靴(フロスヴィルト)に風を纏うと芋虫型モンスターを鋭い蹴りで捌いていき、ティオナとガレスは大斧で岩石を吹き飛ばす。アイズはエアリアルの出力を上げ、後衛のリヴェリアとレフィーヤも負けじと魔法を放って行く。
 一気に攻勢に出た彼らと、カインの絨毯爆撃のような衝撃波によって瞬く間に芋虫型モンスターは数を減らしていく。

 このまま押しきれる。

 誰もがそう思った瞬間、芋虫型モンスターの遥後方から木々を薙ぎ倒す大きな音が響く。

「何だあれは...」
「ひっ」

 後方の高台にいたリヴェリアとレフィーヤはそのモンスターの姿を見て思わず呻く。

「―ッ、全員下がれ!」
「何だありゃあ...」

 一呼吸遅れてそれに気づいたフィンが慌てて指示を出し、ベート達も漸くそれに気づいて戦慄する。

「人型?」

 ティオナの呟きは、その場にいた全員の心情を代弁していた。
 先程の芋虫型モンスターよりも更に巨大な、6Mはあろうかという人型の上半身を芋虫から生やした巨大なモンスター。扁平な二対四本の腕を持ち、頭から後頭部の方へ流れる長い数本の管。
 妊婦の如き下半身が、これが芋虫型モンスターの母体ではないかという仮説をその場にいる全員に抱かせた。

「あんなの倒して腐食液が飛び散ったら――」
「多分、この階層全部に腐食液が飛び散るだろうね。」

 ティオネの呟きに、あくまで冷静な口調で答えるフィンだったが、実際はかなり焦っていた。

「あやつ、まだ戦っておるぞ!?」

 更にガレスの目線の先を辿ると先程の大男――カインが未だに戦い続けていた。
 既に全身の皮膚が溶け出しており、大剣を持っていない左腕は力なく垂れている。それでも『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』を振り回し衝撃波を放ち続けるカインにフィンたちは言葉に出来ない程の畏れを感じた。
 そして、そのカインに向かって巨大な女体型モンスターが近づき、もう少しで衝撃波の射程に入るかというところで歩みを止め――

「なっ!?」

 モンスターが腕を振るうと同時に腕の内側から播き散った黄金色の鱗粉が、カインの頭上で大爆発を起こした。
 衝撃でカインの左腕と共に周りにいた芋虫型モンスターも爆発で吹き飛び、さらに芋虫型モンスターの四散と共に腐食液がカインへ振りかかる。
 最後に、女体型は上半身を逸らし、顔に当たる部分に割れ目を作るとそこから勢いよく大量の腐食液を吐きだし、腐食液によって肉が焦げるような臭いと音、煙が立ち込める。
 煙が晴れると、そこにはカインが持っていた『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』だけが地面に突き刺さった状態で残っていた。

 援軍として参戦した名も顔も知らぬ味方の死にティオナ達が暗い顔をする中、フィンは冷静に戦術を練っていた。
 そして一分近く熟考した彼は、己が導き出した最適解を提示する。

「アイズ。君があの女体型を討て。他の者は連絡路まで避難する。」

 その指示に対してガレスとリヴェリアは仕方がないと理解を示し、ベートとティオナ、ティオネにレフィーヤはフィンに食って掛かる。

「おいふざけんな!女に自分の尻守って貰うなんて冗談じゃねえぞ!」
「私達もやる!」
「アイズさん一人だなんて危なすぎます!」

 仲間一人を死地に行かせたくない。その思いをぶつける。
 だが、時には気持ちよりも優先せねばいけない事があり、それを優先させるのがフィンの、【ファミリア】の団長の仕事だ。

「二度目は無い。命令だ。総員連絡路まで撤退。」
「団長!私とリヴェリア様の魔法なら!」
「あのモンスター達は魔力に反応する。詠唱している間に君達の元へ到達するだろう。もし間に合ったとしても飛散した腐食液を防ぐ手立てを君達も、僕も持っていない。」

 尚も引かないレフィーヤに淡々と事実を述べるフィンの拳からは、血が滴っていた。

「アイズが適任なんじゃない。アイズしか出来ないから言っているんだ。」

 自らの未熟を噛み締めるフィンの剣幕に皆が押し黙る。

「アイズ。頼めるかい?」
「はい。」

 そして、アイズは返事をするやいなや、エアリアルを展開して女体型へ向かって行く。

「僕たちは早く連絡路まで行くぞ!アイズの邪魔になる!」
「っくそが!」

 50階層にフィンたちがいる限り、アイズは決着をつけられない。それを理解しているからこそアイズの足で纏いになってしまっている現状を皆が嘆く。
 その様子を見てフィンとリヴェリア、ガレスは団員たちの今後に多いに期待する事にした。この負けん気があって、さらに目標(アイズ)がいるなら次世代は安泰である。
 フィンは連絡路へ向けて疾走しながら、背後から聞こえてくる轟音に向けて一言、頼んだ、と呟いた。


 ☩☩☩


「ルサルカ、影を伸ばして『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』を回収しろ。」
「了解。」
「リザは芋虫型モンスターを数匹制御下に置け。後で使える。制御下に置いた後はすぐに回収しろ。」
「了解。」

 一方、ラインハルト達も女体型モンスターが出てきてから動きが慌ただしくなっていた。
 もともとカインは使い潰す気だったので『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』の回収はするつもりであったし、芋虫型モンスターも単純に新種のモンスター程度の認識だったのだ。だが、女体型モンスターは流石に想定外だった。

「(あのようなモンスターは一年前はいなかった筈...何が起きている?)」

 一年前に89階層へ赴いた時以降は50階層を超える場所の探索は行っていないラインハルト達。この一年間の間に51階層より下層で何が起きているというのか。

「(89階層まで行く必要があるな)」

 ラインハルト一人でもおそらく行けるのだが、行くからには魔石やドロップアイテムは回収したいし、何より面倒くさい。
 今はそれよりもやるべき事があるので、とりあえずはあのモンスターを数匹捕獲する事にしたのだ。

「さて、私も出るか。」
「ハイドリヒ卿も出るんですか!?」

 SS服の上にローブを羽織って顔を隠すラインハルトに驚いたようにリザが問う。

「あのモンスター相手ならば【剣姫】一人でも十分だろうが、おそらく魔石を回収できないのでな。卿らは己の役割を果たせ。」
「り、了解。」
「あと、ベイもそろそろ連れ戻しておけ。大分遊んだだろう。」

 リザに指示を残してラインハルトは高台から一足で跳び下り、女体型へと向かって行った。



「(このモンスター、強い!)」

 一方、女体型を一人で相手するアイズはフィンたちが連絡路へ逃げ切るまでの陽動を行っていた。
 だが、第一級冒険者の中でも敏捷は高い部類に入るアイズですら女体型の広範囲攻撃と俊敏さの前に苦しい展開を強いられていた。
 腐食液はエアリアルで吹き飛ばせるものの、地面が溶ける事で徐々に足場が制限されていく。更に腕から放たれる鱗粉による爆撃も拍車をかけてアイズが女体型へ近づくことを許さない。

「(間違いない、このモンスターは階層主クラスだ)」

 確実にゴライアスよりは強い。ウダイオスよりは少し弱いかもしれない。
 推定レベルは5~6といったところか。
 そのまま陽動を続ける事およそ2分。後方上空で閃光が破裂する。フィンたちが連絡へ到達した信号だ。

 ――勝負。

 先程とは打って変わってエアリアルの出力を上げ、一気に女体型へ疾駆するアイズ。僅かに女体型の反応が送れた隙に彼女は既に女体型の足元に到達していた。
 愛剣、『デスペラート』による一振りで、胴体の片側の足を一思いに切断。バランスを崩した女体型が転倒。
 巨大を誇るモンスターを相手にする際には足を狙い動きを制限する。今までの冒険で培われたセオリーだ。
 そして、転倒した際に腕の内側の鱗粉が撒き散らされ、女体側の周りで大爆発を起こす。

「―――――――――ァァァ!!!」

 モンスターが怒り狂った絶叫を上げる中、アイズは既に鱗粉の爆発域から離脱を終えている。

「(爆発までおよそ3秒。)」

 初見のモンスターは情報収集が大事。自分に冒険者としての心得を叩き込んだリヴェリアの教え通りにアイズは戦う。
 そんなアイズ目がけて、女体型の頭の管から大量の腐食液が放出される。

「(――っ、それは想定済み)」

 一瞬驚くも、モンスターの外見から予想できる攻撃タイプから外れた攻撃では無い。一泊遅れてアイズが回避した場所を腐食液が溶かす。
 そしてアイズは再度女体型へ突撃。エアリアルによる付与(エンチャント)により攻撃力が大幅に上がった一閃は女体型の腕を一本切り落とす。

「―――――ァァ!!!!!」
「――っ!」

 だが、女体型もただでは終わらない。宙に浮いた状態のアイズをもう片側の腕二本で上へはね飛ばす。
 しかし、アイズの方が更に一枚上手だった。風を操り空中で体勢を立て直し、50階層の天井で着点(・・)

「(――あれは?)」

 天井から50階層全体を俯瞰したアイズの視界の端――50階層の端の方で黒い服を着た数人が見える。だが、腐食液による煙が立ち込めるせいで黒い服を着ていることくらいしか分から無い。

 とりあえず今は目の前の女体型を倒す。
 そう割り切ったアイズは更にエアリアルを最大出力へ。それを愛剣へと収束させ、天井から発射。

「リル・ラファーガ」

 女体型の頭上から一気に加速し、アイズ自身が一筋の風の矢として直進する。
 女体型が気づいたときには既にアイズは半分以上の高さを過ぎ最高速度へ到達している。女体型が残った三枚の腕を盾にし、アイズのデスペラートと接触する。

「――!」

 拮抗したのは僅か一瞬。アイズが討ち勝ち女体型を貫通する。
 直後、大爆発。
 見事女体型を打ち取ったアイズの様子を見に、連絡路からフィンたちが向かって来る。

「アイズ――!!」
「アイズさーん!」

 ティオナやレフィーヤなどを筆頭に、皆が勝利の喜びを顔に出している中、唯一人、アイズだけは浮かない顔をしていた。

「(―――あの人は、一体)」

 アイズは確かに見たのだ。アイズと女体型が僅かに拮抗した瞬間、女体型を貫通した黒い姿を。
 人に見えた。ローブで顔を隠した黒い服を着た人だ。
 だが、アイズと女体型が拮抗した僅か一瞬に女体型をアイズの『リル・ラファーガ』よりも迅く、しかも素手の状態で女体型を貫通するなど信じられない。そのような芸当が出来る一級冒険者などアイズは知ら無い。

「アイズ?」
「――ううん、なんでもない。」
「よし、ラウルたちに早く合流しよう!行くぞ!」

 皆にもそれを伝えようと思ったが、そんな与太話を誰が信じるというのか。そもそもこの階層には自分たち以外にはいなかった筈である。
 そういえば、途中で来た援軍の人。彼は誰なのだろうか。

「(――あれ?)」

 そんな事を考えながら上層へ向かおうとするフィンたちを追いつつアイズが大男が戦っていたところへ目を向けると、あの大きな大剣は忽然と姿を消していた。
 皆は魔剣と言っていたから、もしかしたら砕けてしまったのだろうか。それとも腐食液で溶けたのだろうか。
 数々の不自然を頭の中で考えながら、アイズはフィンたちを追って50階層を後にした。


 ☩☩☩


「…行ったか」

 アイズたちが姿を消した後、岩陰から姿を現したラインハルト。SS服は傷一つついていないが、ローブは腐食液でドロドロに溶けてしまい、ラインハルトの顔を隠すものは無い状態だ。
 ラインハルトの右手に握られているのは、鮮やかな色をした極彩色の魔石だ。アイズが女体型と拮抗した一瞬で女体型から素手で抜き取ったものである。
 それをラインハルトはSS服のポケットにしまうと、50階層のとある一点を一瞥し、悠々とリザ達が待つ高台の方へ歩いていった。


 ☩☩☩


「はは、何だいあのバケモノは...」

 そして、先程ラインハルトが一瞥した視線の先で、赤毛の女が冷や汗を流してラインハルトの方を見ていた。

「最後、私の事も気づいてやがった...その上で見逃しやがった...」

 ラインハルトの視線に晒された時に奔った、心臓を鷲掴みにされたかのような圧迫感。
 圧倒的な強さ。腐食液が素で効かない相手。確実に自分たちの計画で先程の冒険者達よりも強大な敵になる。
 久しく感じていなかった恐怖を感じた赤毛の女は、暫くその場でじっとした後、ダンジョンの奥へと消えていった。


 
 

 
後書き
久々に1万字近く書くと中々時間がかかりますね。やっぱり継続は力なりって言葉は至言だなと思います。

さて、今回の話を纏めると
・トバルカイン(ゴライアスver)退場←おい
・獣殿が極彩色の魔石GET
となります。オラトリア読んだ事でプロットがかなり変わってしまいましたが、その分かなりマシな内容になった気がします。やっぱり原作は偉大ですね。
残念ながら現時点では黒円卓とロキ・ファミリアは接点無しです。
次の投稿はいつになるかは分かりませんが、一応ベル君の方へ話が戻ると思います。
それではまた次回。

最後に一言。ダンまちの女の子たちは可愛い。これ真理。 
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