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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第57話:エリートは仕事で悩む。超エリートは私生活でも悩む。

(グランバニア城・武器開発室)
レクルトSIDE

「良かったですねぇ~。陛下は喜んでましたよ……武器の性能に」
ちっとも良くない。このボウガンは欠陥品なのだ。
今頃ビアンカ様にその欠陥を報告し、次年度の軍事費削減を検討してるに違いない。

「じゃぁ無事に視察が終わったって事で、俺は仕事に戻らせて戴くよ」
「ダメだよ帰っちゃ!」
しれっと帰ろうとするウルフ君の腕を掴み止める。

何だよ(あんだよ)……陛下、大満足だったじゃん」
「大満足な訳ないでしょ! あんな欠陥武器を見せられて、陛下は怒ってるんだよ! このままじゃ軍事費を削られちゃうよぉ!」

「おいおい、作り出した連中の前で『欠陥武器』なんて言うなよ。傷付いちゃうゾ(笑)」
「傷付くくらいなんだー!! こっちは昇給が掛かってるんだよ!」
思わず言った本音だが、武器開発部の3人も黙って頷き同意してくれる。

「いやいや、素晴らしい武器だったじゃん。皆さん昇給間違いなし☆」
「お前、本気で言ってるのか!? だとしたら大馬鹿だぞ」
陛下もだがウルフ君が気付かない訳がないのだ!

「この天才を捕まえて『大馬鹿』とは心外だな」
「超大馬鹿だよ……天才だというのなら、あのボウガンを持ってみなよ。構えてみなよ!」
「イヤだよ。腰悪くするだろ……お前と違って彼女持ちなんでね……腰は重要なんだ(笑)」
「解ってるじゃんか! そうだよ、持てないんだよ」

「うん。お前がモテないから、彼女が居ないんだろ」
「その『モテる』『モテない』じゃないよ! あのボウガンは威力を出す為に巨大化しすぎたんだ! 弦も強力なのにしちゃったから、一般兵士一人じゃ扱えないんだ!」

「……制作過程で気が付かなかったの?」
「ゴレムスさんに協力してもらってて、彼には扱えたから気が付かなかったんですぅ……」
溜息交じりのウルフ君のツッコミに、リブさんが哀しそうな顔で打ち明けた。

「まさか陛下に扱えるとは思いませんでしたね」
強面のバレルさんが、先程の陛下の試射を思い出して呟いた。
「あのオッサンは規格外だからな」
そしてウルフさんの不敬発言。

「それにしても、あのドワーフは役に立たなかったな! グランバニア鉱石を容易く加工出来るようにしたから、もう少し役立つと思ったのだが……」
ビアンカ様の登場に驚いてたウィンチェストさんが、緊張がなくなった為か悪態を吐きだした。

「そうかねぇ……あんなデカいボウガンを作り出せたのは、ザイルさんがグランバニア鉱石を加工しやすくしてくれたからだろ? あの強力な弦もグランバニア鉱石なんだろ……大層役立ったと思うがね」

ウルフ君がザイルさんに相談するようにと助言してくれたので、僕は彼を武器開発のアドバイザーとして招いた。
この国に昔から採取される強固な鉱石……グランバニア鉱石を、ドワーフの技術で加工しやすくしたのはザイルさんなのだ。

そのお陰でグランバニア兵の装備する武具は、一般で購入するよりも丈夫で扱いやすい。
しかも以前は加工しにくく、素材として適してなかったので誰も使用しようとはせず、チゾット山の片隅に無造作に捨てられてたのだ。
しかし今では貴重な鉱物資源として利用されており、他国へも高値で輸出している。

そんなザイルさんの助力を得ても、こんな欠陥武器しか作れないのは、ウィンチェスト等に才能がない事を表している。
しかしそれを認められないのがこの男なのだ。
ザイルさんを貶して自己を保つ事しか出来ない。

そんな器の小さい男が長を勤める部署に、有能な人物が長居する訳もなく……
部長の傲慢さに我慢出来なくなった者は早々に退職して行くのだ。
リブさんとバレルさんが辞めないのも、他に行く宛てがないから……もしくはやる気自体がないからだろう。

紅一点のリブさんはティミー殿下と同い年、そして同じ学校・教室で共に勉学に励んだ方だ。
義務教育卒業後、軍に入ったのはティミー殿下に惚れており、少しでも一緒に居たいと思ったかららしい。

甘酸っぱい恋物語なのだが、殿下は王族で王位継承権第一位。
しかも異世界で彼女を作り帰還するや、その身分を明かして婚約まで発表。
ご身分を明かして婚約発表まで時間があれば“身分違いの恋は諦めよう”的な感情から拗らせる事もなかったのだろうけど……

同時だった為、“こんなに想ってたのに、なんで私じゃダメなの!? 彼女(アルル様)も平民じゃん!!”って感情が芽生えてしまい、一気にやる気を削がれてしまったのだ。
そして島流し的にここ(武器開発部)に……

バレルさんは見た目だけで言えば屈強な猛者なのだが、その実大変気が小さい。
剣を握って敵と戦うなんて出来もせず、軍事演習で泣き喚く始末……
でも顔が大変怖いので民間での職に有り付けず、軍に働き場所を求めた始末。

本人は“出来ればお花屋さんを営みたい”と乙女チックな夢物語を謳っているが、そんな花屋には客が来ない事請け合い。
だがこう見えても彼は結婚しており、とっても可愛い奥さんと娘さん2人を養わなければならないのだ。
従って軍を辞める訳にはいかず、居るだけで給料が貰える窓際部署で満足していた。

そんなやる気のない2人だからこそ、この傲慢で嫌味っぽい上司の下でも胃潰瘍にならずに居られたのだが、その上司が年々減らされていく給料に憤慨。
『じゃぁ活躍しろ』との軍務大臣からのお達しで、出来もしない新兵器開発プロジェクトを立ち上げたのだ。

でも直ぐに頓挫。
そして僕に八つ当たり。
だから僕はウルフ君に泣き付いた。

本当はこの男をクビにしたいのだけれど、何故かこの男には有力なコネクションがあり、安易にクビを切れない。
そんな現状を見せ付ければ陛下かウルフ君が、手伝ってくれるのではないかと都合の良い憶測をし泣き付いたのだが、武器の案も無ければクビ切りも無い。
ウィンチェストさんに嫌味を言われても気にする素振りも無く、ウルフ君は鼻で笑っている。

「まぁ出来ない物は仕方ないじゃん。諦めて別の職でも探したら?」
「ふざけないでもらいたいですな。やる気の無い部下を押し付けられ、役に立たない助っ人を押し付けられ、これで成果を出せとは笑止千万! 陛下の信頼が厚いと伺ってましたが、上に立つ貴方がやる気無いから、やる気と才能に満ち溢れた私が足を引っ張られるのです!」

あははははっ……
これでクビかなぁ?
これでやっと解放されるのかなぁ……この人から?

「部下や俺にやる気が起きないのは、本人の所為では無く貴様の所為だろ! 才能に満ち溢れると妄想する人間が側に居れば、やる気なんて消え去っていくわ!」
よくぞ言ってくれましたウルフ君。だから僕は君の事が好きなのだよ!

レクルトSIDE END



(グランバニア城・プライベートエリア:ウルフの部屋)
マリーSIDE

「はぁ~………………………」
帰ってくるなりマイダーリンが落ち込んでいる。
何があったのか聞いてみると……どうやら武器開発部の人と口論してしまった様だ。

武器開発部の偉い人は、自分に才能が無いのに何でも他人の所為にしてムカつく人物らしい。
だから思わず怒鳴ったら『じゃぁ天才と嘯いてるお前(ウルフ)には、打開策が有るんだろうな!?』と言われ、こちらも思わず『天才に不可能は無いわ!!』と言ってしまったとか……

ウルフ曰く、売り言葉に買い言葉で言ってしまった部分も有るが、武器開発部を何とかしなくちゃならない事も事実。
自分のプライドの為にも何とかしたいのだけど……
と悩んでるんですわ。

リューノが「元気出してウルフ。全ての事を解決できるわけじゃないんだから、貴方が落ち込む事無いわよ。才能の欠片も無いのに、偉そうにしてる奴が悪いんだから……ね?」と、可愛らしく励ましているけれど、マイダーリンの落ち込みっぷりは増すばかり。

こりゃぁ私が一肌脱ぐしかないですかね?
脱ぐって言っても真っ裸(マッパ)になるって事じゃ無いですわよ。
まぁそっちもやるんですけど、今回の場合は違う意味ですわよ。

「ウルフ、私にアイデアが有るんだけど」
「マジでか!? 何か打開策が有るのか?」
凄い食い付き……本気で仕事に行き詰まってたのね。

「私自身が余り武器に詳しくないのだけれど……前世で歴史が流行ってた時に、火縄銃の知識を得た事があるのよね。それで良ければ提供出来るけど……」
「“火縄銃”ってのが何だか分からないけど、現状を打破出来るので有れば俺に異存は無い……教えてくれマリー!!」

どうよ~!
やっぱり正妻と愛人の違いは、彼の悩み事を解決出来るか出来ないかの違いだと思うのよ!
そしてリューノにはそれが出来ず、私には出来てしまうのが世界の真理!

「あ、でもね……お父さんには秘密にしておいて欲しいの」
「……何で?」
どうしたウルフ……悩み事が多くて察しが悪くなってるぞ。

「だってお父さんは武器が嫌いでしょ。それなのに私が前世の記憶から危険な武器を教えたって知られたら……」
「なるほど、確かにそうだな。ちょうど武器開発部長は他人のアイデアを自分のアイデアだと言う人間だし、俺がマリーの事を話さなければ誰にも知られないと思う。大丈夫だよ」

でもお父さんにはバレるだろうなぁ……
こんな知識を持ってるのは私くらいなモノだし……
でも古めかしい火縄銃の知識だし、ウルフの口八丁で武器開発部が考え出したって事に出来れば、怒ったりはしないかな? しないでほしいなぁ……

うん。多分大丈夫。きっと怒ったりしないわ。
それよりウルフの悩みを取り除いてあげることが重要よ!
お姉さんに任せなさい。全て上手くいきますから。

マリーSIDE END



 
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