グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第56話:失敗は成功の元。でも失敗だと思わなければ成功へは辿り着けない。
(グランバニア城・国王主席秘書官執務室)
ウルフSIDE
「ウルフく~ん、助けてよぉ~」
「イヤだ。お前は勝手な噂をマリーとリューノに言い触らし、俺の事を貶めようとしたから絶対にイヤだ!」
例によって例の如く、軍務大臣の秘書官であるレクルトが俺の執務室まで来て泣き言を洩らしてる。
「そんな事言わないでよ。友達だろ」
「その友達の女関係を拗らせようとしたのはお前だ!」
俺はツンケンとレクルトに対応してるが、本心ではない。
先日のリューナとのデート疑惑のお陰で、マリーやリューノ達の目を真実から逸らす事が出来た。リュカさんには効果が皆無だが、奴が密かに楽しむ為に内緒にしてくれてるので、概ね問題なく日常を送っている。
まぁピクトルさんとの関係は如何して良いのか答えが出ず、現状維持のまま浮気進行中だ……
兎も角、レクルトが色んな人に噂を言い触らしたお陰で、これからもピクトルさんとの仲を維持していけそうだ。でも表立って感謝の意を表せないので、立前として怒ってみせる。
レクルトも悪い事をしたとの思いがあるのか、本当に泣きそうな顔で俺に頼み事をしてくる。
「……で、今日は何のトラブルだよ?」
不機嫌な表情を変える事無く俺はレクルトに困り事を尋ねる。
マリーとリューノの騒ぎ様を知ってるユニさんは、俺の懐の深さを見て「優しいのねぇ」と感心してくれた。悪くない。
「うん、実はね……彼女の作り方を教えて欲しいんだ」
「……帰れ馬鹿!」
俺は手元にあった資料冊子をレクルトに投げつけ出て行く様怒鳴った。
「ジョ、ジョークだよぉ……本当は武器開発部の事でまた問題が出てきたんだよぉ」
その問題事は予測していた。そろそろ現状のスタッフだけじゃ行き詰まる事は目に見えていたから。
ただ頭にきたのは、先日の修羅場を知ってて俺に彼女の作り方を聞いてきた事だ。
この質問をされたのは、あの騒動後2度目だ。
若い男性兵士が城内カフェで『如何したらモテるんですか?』とニヤついて聞いてきたから、『俺としては如何したらモテなくなるのか知りたいよ。教えて下さい、その道の先輩』と返した。
丁度そこに居たラングストンの『このガキ生意気だぞ、やっちまえ!』の掛け声と共に、その場に居た若い男性兵士やメイド等にフクロにされた。勿論だが大怪我するほどの本気で俺をフクロにする奴は居なかったが、それなりに痛かった事を俺は根に持っている。
俺をフクロにした全員の顔を憶えてるので、名前と所属を確認して軽い仕返しをしてる。
男性兵士には、リュリュさんの居る前で『あ、俺をフクロにした兵士だ。大勢で無抵抗の相手じゃないと戦えないのに、兵士として役立つのか?』と大声で言ってやる。
メイド等には手加減してる。
尻や胸を触ってセクハラするだけで許してる。
文句言ってきたら『俺をフクロにした代金だ。黙って支払え』と言って。
さて話を元に戻そう……
武器開発部が武器開発に行き詰まるのは当然の事。
ドワーフやモンスター等の知識を利用して、新たで画期的な武器を作り出すのは容易じゃない。
何よりあの部署のリーダーに問題があるのだ。
武器開発部は3人しか居ない。その中の一人、部長の“ガント・ウィンチェスト”が気位ばかり高い自信家なのだ。
全てにおいて自らの功績を主張しないと気が済まない性格……
いや、本人に功績があれば良いんだけども、他者からの提案や発想をも自分の手柄にしようとする人物なのだ。
一緒に仕事をしてて不愉快になる事間違いなしだ。
だからこそ何処の部署からも爪弾きに遇い窓際部署たる武器開発部に飛ばされたのだ。
そんな奴が居るからザイルさん達も、協力するのが嫌になったのだろう。
そして武器開発が暗礁に乗り上げた……
従ってレクルトが俺に泣き付きに来たのだ。
うむ、ここまでは俺の予定してた通り!
問題はこれからだ……上手くリュカさん等を誘導して、武器開発部に功績を与えなければならない。
そして俺も利益を得るのだ!
「一旦リュカさんに視察してもらおう」
「ええ、陛下に!? で、でも……あの状況を見せたら……」
俺自身は状況を見てないが、レクルトの困惑ぶりからすると、かなりの状況なのだろう。
レクルト君よ、そんなに慌てなくても良いのだよ。
今のところ俺の計画通りに物事が推移してるのだから……そしてこれからも俺の予定は狂わないだろう。
ウルフSIDE END
(グランバニア城・国王執務室)
ビアンカSIDE
「ビアンカ。ちょっと来て」
と、夫に声をかけられ、半ば強引に執務室へ連れ込まれた。
基本的に私は、あまり国政に関わらない様にしている。
リュカからはお金の事で相談される事が稀にあるので、財務省の手伝いっぽい事はしているが、王妃が国政を壟断しているなどと言われリュカの名声を傷付けたくないから。
それを理解してくれてるリュカも、私を政に引き込もうとはしない。
だからリュカの執務室へ入る事は稀なのだが、今は無理矢理連れ込まれている。
そして何をするのかと思ったら、突然私を執務机押し倒して下着を剥ぎ取り、そこに顔を潜り込ませ堪能しだした……
相手は夫だし、私もイヤではないのだけど……
ここは執務室だし、リュカは仕事中だし、まだ真っ昼間だし、私の困惑は増すばかり。
今は、もしくは此処じゃダメだと告げようとした時、この部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「今、忙しー」
「知るか馬鹿」
部屋の主は私の股間に顔を埋めたまま来客を拒絶したが、来客たるウルフ君は無視して入室。
流石に恥ずかしいので、慌てて執務机から降りようとしたのだが、状況的にリュカの膝の上に向かい合う様に座る形になり、更にその気になったリュカがディープなキスをしてきた。
「ウ、ウルフ君……ヤバいよ……後にしようよ……」
私は入室者を背にする形で夫とキスをしてるので、誰が入ってきたのかは見えてないのだが、声からして軍務大臣秘書官のレクルト君も一緒に入ってきたみたいだ。
そんな訳で本当は早く離れなきゃならないのだろうけど、リュカにキスされてるのに離れようとするのは難しい……頭で解っていても身体が言う事を聞いてくれないのよ。
「陛下、武器開発部から新たな兵器の開発を行ってると報告がありました。ですが上手くいってない模様なので、一度視察して下さい」
「お前聞いてた? 僕は忙しいって言ったよね!」
「言いましたね。その忙しさ……私が代わりましょうか?」
「お前ぶっ飛ばすよ。ビアンカを気持ちよくするのは僕だけの役目なんだからな!」
なるほど……いきなり私を執務室へ連れ込み押し倒した理由が解ったわ。
ウルフ君から面倒事を言い付けられる予測をしたのね。
「武器開発部が妙な物を作り出さない様にするのも、陛下だけの役目ですので早急に視察してもらいたい……いや、視察してもらいます!」
「ロリコンのお前の為に、更なる愛人候補を作ろうと努力してるんだろ。弁えろよ」
全てにおいて何て言い草だ……
「はっ、お気を遣って戴き感謝に絶えません。ですが、この国には2億の人口が居ます。内半数は男性で、半数は容姿で除外され、更に半数以上が年齢制限に引っかかります。それでも相当数が私の守備範囲として存在します故、1年近く時間の掛かる陛下のお気遣いは無用です。それより視察の方が急務……さぁ行きましょう!」
こっちも何て言い草だ!
にしても、何処かで聞いた事のある台詞だわねぇ。
ホント、ウルフ君はリュカの弟子ね。
「ちっ……」
私を利用した嫌がらせも効果は薄く、丁寧な口調のウルフ君に押し切られる。
そんなリュカの表情もステキなので見取れていると、口の横に私の縮れた毛が付いていた。そっとそれを取り除き、小声で「仕事しなさい」と告げると軽く肩を竦めて私を膝の上から下ろす。
そして私に下着を返すと……
「ビアンカと一緒に行って良いのなら行くぅ」
と、我が儘を全開。
しかし、
「では王妃陛下もご一緒に」
と、ウルフ君は容認した。
「「「え!?」」」
否定的な台詞が返されると思っていたが、まさかの肯定に一同吃驚。
思わずリュカの顔を見たが、予定通りにいかない事に少し不愉快そうだ。
ウルフ君は扉を全開にして「さぁ行きましょう!」とリュカを急かす。
リュカも渋々立ち上がりウルフ君の指示に従う。
従って私も一緒に行く事になったのだが、タイミングを逃しノーパン状態で、武器開発部の視察に同行する嵌めに……
(グランバニア城・武器開発室)
グランバニア城の1階の西側にある武器開発室に到着した。
この部屋は武器を開発し、直ぐに試したりするのでかなりの広さを有している。
そんな広い部屋の一角……出入り口付近では3人の部員がリュカの事を待ち構えていた。
普段来る事のない私の姿に3人とも驚いている。
「王妃陛下、ご紹介します。この武器開発部門の部員3人……中央のが部長のガント・ウィンチェストです」
リュカには勿論紹介の必要は無いが、私には誰が誰だか判らない。
それに気付いたウルフ君は気の利く部下として、彼等の紹介をしてくれる。これじゃ私が視察を望んだみたになってる……
「ウィンチェストの右に居るのがリブ・コルトー」
唯一の女性が緊張の面持ちで私に会釈する。
私も状況に付いていけず緊張している……何よりノーパンで緊張する。
「最後がバレル・グローク」
熊の様に大きい身体で髭モジャの男性が、懸命に身体を縮めて会釈する。
勿論私も会釈します。でも私が此処に来る必要って何?
「それか、新たに開発した武器は?」
簡単だが挨拶が終わったと思ったのだろうか、リュカが少し離れた所にある大きなボウガンに目を付けた。
ウルフ君の報告では、武器開発が行き詰まってるって事だったけど、何が問題なのかしら?
「ふ~ん……良く出来てるじゃん」
苦い表情で何も言わない部員達を脇目に、リュカはボウガンに近付き手に取った。
遠目に見て大きいとは思っていたが、リュカが持つのを見てその大きさに驚く。リュカの背丈とほぼ変わらない。
リュカはそんな大きいボウガンを構えると、同室内に設置された試射室に行き勝手に発射させる。
試射室には約100m位の距離に鉄の鎧を着せたマネキンが置いてあり、リュカの放った矢は見事に命中……鎧の腹部に大きな穴を空けて貫通させた。
はて……開発に行き詰まってると言ってたが、なかなか如何して見事な威力ではないか。
飛距離も申し分ないし、部員が暗い顔してる理由が見当たらない。
それとも威力がありすぎて、武器嫌いのリュカから開発禁止を受けると思ってるのかな?
「凄ーじゃ~ん! 凄ー武器じゃん!!」
あれ? 恐ろしい武器の製造に怒りを露わにするのかと思いきや、全面的にこれを肯定。
ボウガンを台に戻してウィンチェストさんに近付くと、肩をバンバン叩いて褒めている。
「これが量産されれば我が国は1000年戦えるね! いや~素晴らしいよ、君ぃ……」
あ、嘘吐いてるわ。やっぱり何か不備がある兵器なのね。
でも開発をさせたくないから、不良品で満足して終わらせようとしてるんだわ。
「ビアンカぁ……我が国の武器開発部門は優秀だよ。これじゃ予算を増やさないとならないね。執務室に戻って相談しようよ(笑)」
そう楽しそうに言うと、リュカは私の手を取り武器開発室から出た。
一方的に褒め称え、部員等には一切発言させず……
ビアンカSIDE END
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