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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第58話:猫は普段興味無さげに佇んでいるが、常にこちらを伺っている。

(グランバニア城・中庭)
ユニSIDE

「ティミーさん大丈夫ですかねぇ?」
「基本的に穏便に物事を進めようとする性格だから、苦労はしても大事(おおごと)にはならないと思うよ」
午後の一時……中庭の円卓で、上司のウルフ殿に誘われリュカ様・ビアンカ様とご一緒に、ティータイムを楽しんでいる。

会話の内容は、今朝方出掛けられたティミー殿下の仕事内容の事だ。
殿下は外務大臣として、国交の途絶えてるホザック王国への外遊を行うのだが、(くだん)の国は私の母国でも有るが、未だに奴隷制度を継続している国なのだ。

その為リュカ様はホザックとの外交を断絶し、彼の国との繋がりが有る国とも断絶していたのだが、先方より先日特使が訪れて『友好的関係を築きたい』との申し出が有ったのだ。
リュカ様は嫌がっておいででしたが、ウルフ殿を始め周囲の方々が国交再開を切望した為、殿下を派遣して現状確認と奴隷制度廃止の意向を伝える事になった。

ホザックは常夏の国と言われるくらい温暖な地域にあり、年間を通じて沢山の果物が栽培・流通している国だ。
その果物の品質は最上で、多くの国々で高値で取引されてるほどの品質なのだ。
しかしグランバニアでは食する事が出来ない。国交が断絶し、ホザック産の果物は輸入されてこないからだ。

「今回の外遊を機会に、そろそろネコを使おうと思ってるんですが、リュカさんの意見は如何ですか?」
「そうだねぇ……そろそろ頃合いかもね。任せるよウルフに……」
ネコ? なんだろうかネコとは……?

プックルさんの事だろうか?
それとも4匹のベビー・パンサーの事だろうか?
ティミー殿下の外遊に関係してるらしいが、プックルさんは勿論、どの子も連れて行ってないのだけれど……

ビアンカ様に視線を向けると、私と同じ様に不思議そうな顔をしておいででした。
如何やらリュカ様とウルフ殿の間だけで会話が成立してるみたい。
気にはなるけど聞いてはいけないのだろう……聞いて良ければお二人から説明があるはずだから。

ネコと言えば、最近ウルフ殿はプックルさん()のソロちゃんを可愛がっている。
ソロちゃんは末っ子で、何かにつけてワンテンポ遅い男の子だ。
虐められてる訳ではないのだけれど、ベビー・パンサー(キラー・パンサー)の世界は弱肉強食。

与えられたエサも要領の良い兄・姉達が多めに食べ、一番幼く要領の悪いソロちゃんだけが余り食べられない。
庭などで虫とかを見つけ遊ぶ時も、兄・姉達に独占されて取り残されてる事が多々ある。

それを見つけたウルフ殿は『何だお前、鈍臭ーな!? 他の連中に負けてるようじゃ、立派なキラー・パンサーになれねーぞ』と言って、こっそり特訓してあげているのだ。
本人は私に気付かれてないと思っているみたいだが、休憩の時に出したドーナッツを『気分転換に外で食べてくる』と言ってソロちゃんにあげてた事を私は知っている。

それだけではない。
紐と棒で作った特性の猫じゃらしを使い、他の3匹に隠れ遊んであげてる事も有るのだ。
この事は私だけじゃなくリュカ様もご存じで、一緒に物陰から眺めて楽しんでおります。

「マオ……紅茶のお代わりください」
リュカ様が私達から少し離れた場所で待機してた、上級メイドのマオに紅茶のお代わりを要求した。
私は彼女ほど優秀なメイドを見た事ない。

王家のプライベートエリアで働いており、如何なる要望にも迅速に対応する。
勿論、掃除・洗濯等も完璧で、グランバニアのお偉いさんしか知らない場所の掃除も任されているのだ。2年前に彼女を上級メイドに推薦した私は、正直鼻高々である!

「そう言えばさぁ……ティミーにお小遣いを渡した?」
リュカ様はご自身のティーカップに琥珀色の液体が注がれてるのを見詰めながら、突如ウルフ殿に質問をした。お小遣いって何だろう?

「貨幣が違うんで金塊を100kg渡しました。グランバニアなら3百万(ゴールド)くらいの価値になりますね」
目眩がするような金額をサラリと言ってのける我が上司。

「そんだけあれば、スイカを買ってこれるね」
「スイカ好きなんっすか?」
「特別好物って訳じゃないけど、最近食べてなかったから……」
「じゃぁもっと金塊渡しといた方が良かったっすかね?」

「良いよ3百万(ゴールド)もあれば……スイカの1つくらいは買ってこれるだろ」
「そうっすね。税金でスイカを大量購入されても困りますね(笑)」
流石は大国の金庫事情……まだまだお金は沢山あるみたいです。

「あれ……そう言えばビアンカさんは、この国の金庫室の場所をご存じなのですか?」
先程も述べたが、この国では一部のお偉いさんしか存在すら知らない場所などが、幾つか存在する。金庫室もその1つであり、私は場所を知らされてない。

「私はリュカの妻で有るだけ……国政には手を出さないようにしてるから、金庫室の場所は知らされてないわ。知ろうとも思ってないけどね」
へぇ~……時折リュカ様は税金の配分に関してビアンカ様に意見を求めているから、てっきり知ってるのだと思ってました。

「そうなんっすか。じゃぁ、あの(すげ)ー金庫は見た事もないんですね?」
「見た事無いけど……凄いの? 何が凄いの?」
あ、私も知りたい!

「全てグランバニア鉱石製。ザイルさんが特別に作ったらしいんッスよ! 金庫の扉だけで高さ2.5メートル・幅3メートル・厚さ30センチメートルでギミック満載の(すげ)ー金庫なんですよ!」
扉だけでもかなりの大きさですね。

「金庫を開ける方法なんですけど、これが制作依頼者の性格の悪さが滲み出てるんッスよ!」
「……制作依頼者って、リュカよね?」
目の前で『性格悪い』とか言う、普通?

「扉には3色のダイヤルが赤・青・黄と並んで配置されてるんです。このダイヤルにはそれぞれ1~100のメモリが振ってあり、金庫を開ける事の出来る人物には3つの数字を暗証番号として記憶させてあるんです」

「つまり赤・青・黄のダイヤルに、それぞれ3つの数字を合わせれば解錠する仕組みって事でしょ? そんなに性格悪いかしら……」
全くだ……全然性格悪くないと思う。

「ところがどっこい……解錠方法は違うんです。金庫を開ける資格者の記憶する3つの数字は、赤・青・黄のどれかのダイヤル1つを左右に回して解錠する仕組みなんです」
「え!? 3つの内1つのダイヤルしか使わないの?」

「1人の資格者にとってはね」
1人の資格者にとっては……って、如何いう事だろうか?
そもそも資格者は何人居るのだろうか?

「お、ユニさんも気になってるみたいっすね。因みに有資格者は3人……リュカさん・オジロン閣下・そして俺だけです。リュカさんが青のダイヤル、オジロン閣下が赤のダイヤル、俺は黄のダイヤルを使ってるんです」

「なるほどねぇ……3つのダイヤルがそれぞれ別の暗証番号で解錠出来るようになってるのね。普通ダイヤルが3つあったら、全部使って解錠すると思うものね」
確かに……知らなきゃ一生懸命3つのダイヤルに1つずつ数字を合わせて、解錠しようとするものね。

「この金庫の凄いのは、3つの内1つのダイヤルで金庫を開けると、扉の裏に何色のダイヤルで開けたのかが記憶されてる事なんです。最新の10回分の色を扉の裏に表示されるようにしてあり、万が一にも暗証番号を盗み出し金庫破りを成功させた場合、誰の番号で開けられたのかが判り、そこから犯人を見つけられるようにしてあるんです」

「じゃぁマリーが何故か大金を持ってて、記憶ないのに黄のダイヤルで解錠した記録が残ってれば、ウルフ君がベラベラと恋人に喋ったって事になるのね?」
「言葉の随所にトゲを感じますが、ビアンカさんの仰る通りです。しかし扉の裏には、暗証番号を変更させる仕掛けもあるので、誰かに喋っちゃった場合は早急に番号変更をしますよ、俺はね」

「なるほど……じゃぁ喋っても問題ないのね。ウルフ君の番号は何よ?」
「言う訳ねーだろ! でもベッドの中で絶頂と共にポロって言っちゃうかもしれないッスよ。如何します?」
「如何もこうも、僕の手でお前を殺すだけだよ」

「怖ーよ。俺を脅す前に、嫁を黙らせろよ! つーか暗証番号を知りたいんだったら、旦那の番号を聞けよ!」
「僕の番号はビアンカのスリーサイズだよ。勿論上から9……「言うな馬鹿!!」
何でリュカ様は直ぐに言おうとするのだろうか? 番号を言い切る前にウルフ殿が止めたが、これでビアンカ様はリュカ様の暗証番号を知ってしまった事になる。

「お前……早急に番号変更しておけよ。万が一青のダイヤルで金庫を破られたら、ビアンカさんが疑われるんだからな!」
「しかし何で私のスリーサイズを暗証番号にするのよ!?」

「だぁって……メモを残しておく訳にはいかないだろ。でも忘れちゃ拙いだろ。だったら何時も体感してるビアンカのスリーサイズにしておけば、忘れる心配もバレる心配も無い訳だよ。頭良いでしょ、僕」
「あの……体感してるって如何いう意味ですか?」

「そんな事聞くなよユニさん。毎日のように撫で回してるから数値を熟知してるって意味だよ」
ああ……なるほど。
流石は一番弟子のウルフ殿だ……直ぐ意味が解るんだ。

「でもさぁ……確かに憶えやすいけど、日々数値が変動したら面倒じゃねぇ? 特にウエスト周りは安易に変わるだろ、ワイド方向に」
「し、失礼なガキねアンタ! 結婚以後、スタイルをキープし続けてるわよ!」

「え、マジで!? じゃぁメイドの中には、金庫の暗証番号をしってる奴が多数居るんじゃねーの? ダメだろ、それ」
「馬鹿かお前は。ビアンカのスリーサイズが金庫の暗証番号だって言わなきゃバレないだろ」

「馬鹿はお前だ馬鹿! お前が先刻(さっき)言っちゃたんだろうが!」
「あぁそうか。じゃぁやっぱり、早々に変更しなきゃならないなぁ」
あらあら……リュカ様が悩み始めちゃいました。

「馬鹿が……ベラベラ喋るから困るんだ。でも俺も、誰かのスリーサイズに変更しようかなぁ……憶えやすそうだよなぁ……」
リュカ様が新たな暗証番号で悩んでる隣では、私の身体を見詰め「使えねぇ」と呟き、溜息を吐くウルフ殿が……殴っても許されるかしら?

「はっ! マオさんって結構良い身体してるよね。どれどれ、ちょっと触らせてごらん。ズバリ当ててみせるから(ニッコリ)」
やっぱり殴った方が良いかしら……マオに向かい両手を出して指をワキワキさせるウルフ殿。

「さぁウルフ様、紅茶のお代わりをどうぞ」
しかしマオは、優しく微笑むとウルフ殿の両手に熱い紅茶を注いだ。
「ぅわぁ熱! 何だこの女……以外と凶暴だぞ!」
いいえ、良くやりました。貴女はメイドの鏡です。

「今のはお前が悪いぞウルフ」
ですよね。流石はリュカ様!
「女性のスリーサイズってのはな……目で見て解れ!」
リュカ様は目で見て解るんですかぁ!? 如何なってるですか、その目?

「あ! 解ったぞ、ウルフの暗証番号が……ズバリ85・55・88だろ!」
「だ、誰のスリーサイズだそれは!?」
え、誰かのスリーサイズなんですか?

「おや? 僕は誰かのスリーサイズだとは一言も言ってないけど……誰かのスリーサイズなの、君の暗証番号は? それとも85・55・88は、誰かのスリーサイズなのかい? 触らないと解らないウルフ君にとって、触れる女のスリーサイズって事は……マリーかな? いやいやマリーの胸はもっと大きい。あぁリューノか! あれ? リューノの胸はもっと小さいなぁ……じゃぁ誰だろう(笑)」

ニヤニヤ笑いながら問い質すリュカ様。
こいつ、本当に浮気してるのか?
一体誰のスリーサイズだ!?

「さぁ誰のだいウルフ君」
「し、知るか馬鹿! 適当な事言ってんじゃねー阿呆! 手を火傷したから今日は早退する!」
動揺を隠しきれないウルフ殿は、慌てて立ち上がると城内へと逃げて行く。

あのガキ……マジで浮気してやがるな!
姫様に密告(チクって)やろうと思ったのだけど、リュカ様が私を見詰め口元に人差し指を当てて「シーッ」と沈黙を求められた。
リュカ様の指示では従わざるを得ない。

命拾いしたなウルフ殿……

ユニSIDE END



 
 

 
後書き
誰のスリーサイズですかね? 
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