魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第七話 模擬戦 AMFの驚異!
始まった訓練。
現れるガジェット。苦戦するアスカ達は…
魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。
outside
シミュレーターで構築された街に移動した五人。
エリオもキャロも、その圧倒的な技術に目を白黒させている。
「すごい。まるで本物みたいね」
シミュレーターの街の出来映えに驚愕するティアナ。
「どういう仕組みなんだろ?」
スバルもあちこち見回しながら不思議そうに呟く。
「たぶん、バリアジャケットの応用だな。建造物をデザインして、強度とか質感をプログラムしたんだろ?」
アスカは屈伸しながら答えた。
シミュレーターで現れたレイヤー建造物には驚かされたが、意識はすでに訓練に向いている。
フォーワードメンバーはすぐに意識を訓練モードに切り替える。
とりあえず、各ポジションに分かれて模擬戦に挑もうと言う事になった。
「スバルはクロスレンジ、ティアナは遠距離射撃、キャロはバックアップ、エリオは……今回はスバルとのツートップかな?」
声に出しながら、アスカは状況整理をしていた。
そんなアスカの独り言を聞いたティアナが近づく。
「んで、アスカは動き回ってのバリア要員?」
「ん?まあ、そうだね。動き回るから、指揮を頼むぞ」
「りょーかい。期待してるわよ、おとり役」
「おとりって……いや、あってるか」
思わず苦笑するアスカ。その時、なのはの声がフォワードに届いた。
『よし、と。みんな、聞こえる?』
「「「「「はい!」」」」」
一気に緊張感が高まった。
『じゃあ、早速ターゲットを出していこうか。まずは軽く八体から』
離れた場所で、なのははフォワード五人を見ていた。
隣のシャーリーに合図する。
「動作レベルC、攻撃精度Dってとこですかね?」
「うん」
シャーリーが次々とデータを打ち込んで行く。
フォワードに向かって、なのはが説明を始める。
「私たちの仕事は、捜査指定ロストロギアの保守管理。その目的の為に、私たちが戦う事になる相手は……これ!」
その言葉と同時に、五人の目の前に魔法陣が描かれ、その中から浮上するように八体の楕円形の機械が出現した。
「自律行動型魔導機械。管理局ではガジェットドローンと呼ばれているわ。これは、近づくと攻撃してくるタイプね。攻撃は結構鋭いよ」
シャーリーが補足説明をする。
「では、第一回模擬戦訓練。ミッション目的、逃走するターゲット八体を破壊、または捕獲、15分以内!」
「「「「「はい!」」」」」
なのはの言葉に、五人が元気よく答えた。
その声を聞いて、なのはは嬉しそうに頷く。
「「それでは、ミッションスタート!」」
なのはとシャーリーが、同時にスタートをかけた。
アスカside
スタートの合図と同時に、ガジェットなんとかが高速で逃走を開始する。
「速い!ティアナ、キャロを頼む!スバル、エリオ!行く……ぞ?あれ?」
ティアナにキャロを任せ、カッコよくスバルとエリオに指示を出そうとしたけど、いないんですよ、そこに。
で前を見たら、スバルが地面を蹴ってリボルバーシュートに体勢にはいってるじゃありませんか。
オレは慌ててその後を追った。
「ウオォォォォォ!」
女子力0の雄叫びと共にリボルバーシュートを放つスバルだが、ガジェットはそれをフワリフワリと避ける。
「なにこれ!動きハヤッ!」
いや、お前も大概速いよ。
声かけたら、もう攻撃態勢に入ってんだもん。
と、グチってる場合じゃない。暴走気味のスバルを止めないと。
「突っ込み過ぎだ!落ち着けよ」
ポン、とスバルの肩か軽く叩いてみる。
「でも、15分しか無いんだよ?早く倒さないと!」
焦った表情でスバルがまくし立ててくる。なんでそんなに突撃思考なんだよ?
余裕が無いなあ……オレは何とかスバルを落ち着けようとする。
「15分もあるんだ。まずは足止めして出方を伺う。バックスもいるんだ、大丈夫」
「そんなこと言ったってぇ……」
ちょっと甘えたような口調になるスバル。
なまじ力を持ってるだけに責任感も強いんだろうが、一人で抱え込む事は無い。それを言おうとして、もう一人いない事に気づくオレ。
「あれ?エリオは?」
オレの疑問に、スバルが指を指して答える。
「前」
「なに?」
その方角を見ると、いつのまに先回りしたのか、エリオがガジェットの進行を塞ぐように立ちはだかっていた。
そのまま自分のデバイス、ストラーダを構えた。
ちょ、カッコいいじゃないですか、エリオさん。
「じゃねえ!分散しすぎだ!フォロー行くぞ、スバル!」
オレが走り出すと、その後のスバルが続いた。
ガジェットの性能は未知数。訓練とは言え、単独戦闘は避けないとヤバイ。
なんて事を考えてる最中にも、エリオがガジェットの攻撃を加えた。
だが、やっぱりガジェットはフワリフワリと綿毛のように避けてしまう。
「ダメだ、フワフワ避けられて当たらない!」
エリオが悔しがる。
その時、ティアナの怒鳴り声が聞こえてきた。
「前衛二人!分散し過ぎ!チョットは後ろの事を考えて!」
『は、はい!』「ゴメン!」
同時に謝るエリオとスバル。
「あとアスカ!なんかやれ!」
…………ひどいっす。名指しでそりゃないでしょう、ティアナさん。
まあ、確かにまだ何もやってないけど。
とりあえず、気になる事があったので、エリオの確認の念話を送る。
『エリオ、どうやってターゲットの前に回り込めた?』
気がついたら、ガジェットの前にいたエリオ。どうやったんだろ?
『えっと、ソニックムーブを使って外側から回り込みました』
ソニックムーブが使えるのか!
参ったね。間違いなく魔力量、才能はオレよりエリオの方が上だ。
オレの最速移動魔法はフラッシュムーブだけど、ソニックと比べると初速も継続時間も劣る下位魔法だ。
………今度、ソニック教わろう。
『エリオ、そのままの距離でガジェットを追跡してくれ。ティアナの指示が出るまで攻撃は無し、な』
『は、はい!』
エリオに指示を出して、オレはガジェットの追跡を続ける。
「どうするの、アスカ?」
隣を走るスバルが聞いてきた。
「オレの攻撃じゃ撃墜は無理、スバルとエリオの攻撃は避けられる。じゃあ、射撃に任せてみようぜ」
クイックイッと後ろを指した。頼むぜ、ティアナ。
ティアナside
まったく不甲斐ない。
勝手に動くわ、攻撃するわ。
何とかアスカがコントロールしたみたいだけど、アイツはアイツで動かないわでどーしろって言うのよ!
ガジェットの性能がわからないにのに、その機能を前衛があぶり出してくれないし。
こうなったら、アタシが何とかするしかない。
チビッコ、キャロって言ったっけ?どの程度使えるのかわからないけど、やってみるか。
「キャロ、威力強化お願い」
アタシはアンカーガンを構えて狙いをつける。
「はい、ケリュケイオン!」
後ろでキャロの声がして、アンカーガンの先に形成された魔力弾の光が強まる。
力強い魔力が身体を駆け巡って銃口に集まってるみたい。
ブースト魔法って初めてだけど、こんなに凄いんだ。それを使えるキャロも、凄いわね。
よし、これなら!
逃走するガジェットを捕らえて、アタシは引き金を引いた。
「シュウゥゥゥト!」
ガン!ガン!ガン!ガン!
4発の魔力弾をガジェットに放つ。
撃墜確実!と思ったら、ガジェットが逃走をやめて、アタシの撃った魔力弾に向き直り、波紋状のバリアみたいのを発生させた。
なに、あれ?
outside
「フィールドエフェクト?」
ガジェットの波紋を見てアスカが首を捻る。
次の瞬間、信じられない光景を目にする事になった。
ティアナの撃った魔力弾は、そのバリアに阻まれて消滅してしまったのだ。
「んな!!」
唖然とするアスカ。
(消えた?魔力そのものが消された……だと?)
愕然としてるのはティアナも同じだ。
「バリア?」
自らの弾丸を消されたティアナが目を見開く。
「違います。フィールド系?」
後ろのキャロが状況からそう判断した。
「魔力が消された?」
スバルも、目の前で起こった現象に戸惑っている。
困惑しているフォワードに、なのはの念話が届く。
『そう、ガジェットドローンにはちょっと厄介な性質があるの。攻撃魔力をかき消す、アンチ・マギリング・フィールド、AMF。通常の射撃は通じないし……』
説明の途中だったが、ガジェットが再び逃走を始めた。
「あ、この!」
逃がすまいと、スバルがウィングロードを発生させ、追走する。
「まて、スバル!」
アスカが止めるよりも早く、スバルが駆け出した。
「だから落ち着けよ、お前は!」
スバルを追いかけるアスカ。だが、なのはの説明はまだ終わってない。
『それに、AMFを全開にされると、事象や足場作り、移動系魔法の発動も困難になる』
意味あり気ななのはの台詞。ピンとくるアスカ。
(それって、魔力結合ができなくなるって事か?だとしたら……ウイングロードが崩れる!)
スバルに追いつく為に、アスカはエリアルダッシュで加速する。
ウイングロードの先にいるガジェットが、逃走を続けながらAMFの出力を上げた。
「え?」
快調に飛ばしていたスバルの目の前で、ウイングロードが消えていく。
「うわあぁぁぁぁ!」
突然の事に急制動できず、スバルが空中に投げ出された。
「くそっ、間に合えよ!エリアルコンボ・A!」
アスカはエリアルダッシュとエリアルウォークの混合魔法を発動させて空中に駆け出す。
そして、スバルを空中でキャッチする。
「ここで魔法キャンセル!」
スバルを抱き抱えたまま、アスカはAMF影響範囲に入る前に魔法を切断した。
目の前にはビルのガラスが迫っている。
「そりゃ!」
そのままスバルを抱え、ガラスを蹴破ってビルの中に着地した。
その様子をモニターで見ていたなのはが、感心したように声を上げる。
「へぇー。たった一回AMFを見ただけで攻略を思いついたんだ」
その言葉にシャーリーが反応する。
「AMF影響下に入る前に加速して、直前で魔法をキャンセル。後は慣性で突き進む、ですか?」
「うん。炎や氷、雷のように具現変換した物にAMFの影響は出ない。
でも、ウイングロードや魔力弾のように、純然たる魔法現象には激しく干渉する。
魔力走行もまたしかり。
でも直前でキャンセルすれば、それまでの勢いは殺されずに突き進む事ができる。
これを思いついて実践するまでの時間って、何秒くらいだったんだろ?」
楽しそうになのはがシャーリーを見る。
「頭の回転が速いのか、度胸がいいのか。中々おもしろい子ですね」
「フフ、そうだね。『二人とも、大丈夫?』」
なのはは二人の無事を確認する為に念話を送った。
『二人とも、大丈夫?』
「ええ、傷一つありません」
アスカがそう答える。
「え?あれ?」
まだ状況が飲み込めてないスバルが、キョロキョロと辺りを見回す。
そして、自分がお姫様ダッコされている事に気づくと、顔を赤くした。
「え……と、あ、アリガト。アスカ……あの、下ろして」
ヤレヤレ、とため息をついてアスカはスバルを下ろす。
「落ち着いてやれば状況は打開できる。スバルにはそれだけの力があるんだ、大丈夫」
ポンポンとスバルの肩を叩くアスカ。
「で、でも、魔法が通じない相手なんて……」
どうしたらいいか分からない、とスバルはアスカを見る。
「魔法が通じないだけだろ?攻撃魔法が効かないってんなら、その拳でブン殴ってやれ。スキを見てタックルで捕まえれば、後は簡単だろ?」
「うぅ……そんな上手く行くかな?」
「そういう状況を作る。オレやティアナがな。一人でやろうとすんな」
ニッと笑うアスカ。ここで、ようやくスバルは自分が暴走していた事を意識した。
「……そっか。私、一人で突っ走ってたんだね、ゴメン」
伏し目がちにスバルが謝る。
アスカはポンとスバルの頭に手を置いて、キャロやエリオにしたように、優しく撫でた。
驚くスバル。だが、不思議と嫌な気持ちにはならない。
「よし、仕切り直しだ!あのガジェットを全機しとめるぞ!」
アスカが笑うと、スバルもそれにつられて笑った。
「うん、頑張ろう!」
アスカとスバルの無事を確認したなのはは、再び念話で皆に話しかける。
『対抗する方法はいくつかあるよ。どうすればいいか、素早く考えて、素早くうごいて』
なのはの念話が終わったと同時に、アスカはティアナ連絡をとる。
『ティアナ、手はあるか?』
『ちょっと待って』
状況を把握したティアナは振り返ってキャロを見る。
「キャロ、手持ちの魔法と、そのチビ竜の技で何とかできそうなのある?」
ティアナの問いかけに、キャロは少し考えてから答えた。
「試してみたいのが、いくつか」
「アタシもある『アスカ、スバル、ターゲットの足止めお願い』」
その念話に、アスカとスバルはお互いに頷いた。
スバルはすぐに走り出す。
『エリオ、先行して奴らの足止めを頼む。ティアナに考えがあるみたいだ』
エリオに指示を出し、スバルとは反対方向に走り出すアスカ。
『で、でもAMFが……』
まだAMFの対策を思いつかないエリオが、戸惑っている。
『今の所、ガジェット1個体のAMF影響範囲は約2メートル。集合されると10メートルくらいになるな。魔法が使えなくなるだけだから、攻撃手段が無いなら、石でもぶつけてやればいいさ』
『!!はい、やってみます!』
アスカのアドバイスに何か思いついたのか、エリオは先ほどとは違い元気に答えた。
「石ぶつけりゃいいって……雑な指示ですね」
アスカ達の念話を傍受していたシャーリーが呆れたように言う。
「あはは、でも的は得ているよ。指示もシンプルで的確だ」
笑いながら、なのははモニターを見つめる。
「さて、どう動くのかな?」
その目は、期待に溢れていた。
スバルとエリオは、ガジェット一カ所に追いつめるべく走り回っていた。
スバルはローラーで、エリオはソニックムーブを使いガジェットを追い込んで行く。
その隙に、アスカは袋小路になっているビルに何やら細工を仕掛けていた。
「へー、みんなよく走りますねぇ~」
シャーリーがパネルを操作しながら、感心した様子でなのはに話しかける。
「危なっかしくてドキドキだけどね。デバイスのデータ、取れそう?」
なのはの問いに、シャーリーは少し首を傾げた。
「ええ……4機は良いのがとれてるんですけど、1機だけ異常数値が出てます」
「どういう事?」
なのはがシャーリーの映し出したデータに目を通す。
「アスカの魔力値が異常なんです。取り付けたセンサー、壊れていたのかな?」
「これは……」
なのはも、その数値を見て言葉を失う。あり得ない数値だった。
「まあ、センサーの故障でしょう。この模擬戦が終わったら、一度みんなを集めますね」
シャーリーは特に気にせずに作業を進める。
「そうだね」
そう答え、なのはは再び模擬戦に目を向けた。
(仮にあの数値が本当だとしたら、どんな魔法理論を使っているんだろう?)
陸橋にストラーダを構えたエリオがいた。前方からガジェットが逃走してくる。
「行くよ、ストラーダ。カードリッジロード!」
エリオの命令に反応し、ストラーダがカードリッジの魔力を取り込む。
それを遠目から見ていたアスカは、思わず呟いていた。
「いいなあ~インテリデバイスにカードリッジシステム。羨ましい」
自分の手にしたデバイスを見る。通常のミッド式杖型デバイスで、しかも10年型落ち。
当然の事ながら、AIなど搭載してないし、カードリッジシステムにも対応していない。
おまけに、アスカは近代ベルカ式なので、余計な変換をしなくてはならないときている。
「まあ、貧乏人は知恵と工夫でピンチを乗り越えるっと!」
エリオが陸橋を崩し、ガジェットの足止めをしたと同時にアスカが走り出す。
『スバル、タイミング合わせろよ!』
『OK!』
アスカが一気に間合いを詰めてガジェットに迫る。
ガジェットはアスカとは反対方向に逃走経路を変更するが、
「もらった!」
逆方向より飛び出したスバルが、一体のガジェットにタックルを仕掛けた。
そのまま馬乗りになり、リボルバーナックルを叩き込む。
ガジェットは火花を散らして沈黙した。
「まずは一体!」
スバルが体勢を立て直す。
それを離れた場所から見ていたキャロが行動に出る。
「続けていきます。フリード、ブラストフレア!」
キャロの合図と共にフリードが口から炎の玉を吐き出し、ガジェットのいる地点を火の海にする。
更にキャロは追い打ちをかけるべく、呪文の詠唱に入る。
「我が求めるは戒める物、捕らえる物、言の葉に答えよ、鋼鉄の縛鎖。錬鉄召喚、アルケミックチェーン!」
ガジェットのいる地面に魔法陣が描き出され、そこから無数の鎖が飛び出してきて4機を絡め取った。
身動きを封じられたガジェットは、フリードのブラストフレアの炎に焼かれて沈黙する。
「召喚魔法か?いや、無機物操作と組み合わせの混合魔法か。器用だな」
キャロの魔法操作に感心しているアスカ。
(オレ、まだ何にもしていないけど、いいのかなあ……ダメだよな…)
そう思いつつ、アスカは一体のガジェットを追いかけ回す。
「まあ、ボチボチやって……何だ?」
アスカは突如現れた強力な魔力反応に気を取られた。
ティアナのいる地点からだ。
「こちちら射撃型。無効化されて、はいそうですかって下がってたんじゃ生き残れないのよ!」
ティアナが二発のカードリッジをロードする。
『スバル!上から仕留めるから、そのまま追ってて!』
『おう!』
アンカーガンの先に魔力弾か形成される。さらに、その周りにもう一つの魔力でできた皮膜が形成されようとしていた。
「まさかティアナは………いやまて、そんな訳ないだろ。アレはAAクラスの術式だぞ」
アスカはガジェットを追いながらも、ティアナから目が離せないでいた。
(多重弾核射撃。本丸を膜状魔力弾で包む込む、対フィールド系魔法。いくらカードリッジを使ったって、Bランク魔導師が使える魔法じゃないだろ?)
アスカの心配を余所に、ティアナは全身全霊をかけて集中していた。
(固まれ………固まれ……固まれ…固まれぇぇぇぇぇ!)
魔力弾の外殻が徐々に形成されていく。
「マジか!」
2ランク上のティアナの魔法にアスカは驚く。
「でぇぇぇい!ヴァリアヴル・シュウゥゥゥゥゥゥト!!」
気合いと共に放った魔力弾がガジェットの迫る。
AMFに阻まれる魔力弾。だが、すぐにフィールドを貫通すると、ガジェットと貫いた。
そのままの勢いで、もう1機のガジェットも撃ち落とす。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
肩で息をして、そのままへたり込むティアナ。かなり無理をしての一撃だったらしい。
「ナイス!ナイスだよ、ティア!」
スバルの嬉しそうな声が響き渡る。
「スバル、ウッサイ。これ位……当然よ」
バタリと後ろに倒れるティアナ。
これで残すガジェットは、あと1機。
「すげえ、ティアナすげえ!」
仲間の実力を垣間見たアスカは、素直に感動していた。
「やり辛いじゃん、あんな凄いの見た後だとさ!」
ようやくガジェットを袋小路へと追い詰めたアスカは、デバイスを突きつけるように構えた。
この場所は、さっきアスカが細工を仕掛けた路地。条件は整った。
「じゃあ、行くぜ!」
ニヤリと笑い、アスカのデバイスの先に光りが集中し始める。
「アスカって、砲撃使えるんですか?」
如何にも砲撃を撃ちますよ、の体勢を取ったアスカを見て、シャーリーがなのはに尋ねる。
「そんなデータは無いんだけどなぁ、通常弾を真っ直ぐには飛ばせるみたいだけど……撃てるのかな?」
なのはは首を傾げる。
「喰らえ!一撃必殺!」
眩い光がデバイスの先で形成された。
そうはさせまいと、ガジェットが最大出力でAMFを展開する。
その途端、周囲のビルが崩れだした。
「はい、退散!」
脱兎のごとく逃げ出すアスカ。
反応が遅れたガジェットは、そのままビルの瓦礫に押しつぶされてしまった。
「オシッ!どうよ!」
グッと拳を突き上げるアスカ。
それを見ていたフォワードメンバーは…………目が点になっていた。
「「…」」
なのは、シャーリーも目が点になっている。
「え?ええ!?何が起こったの??」
「シャーリー、アスカ君の行動記録をチェックして!」
なのはに言われるまでもなく、シャーリーはアスカの行動を見直す。
模擬戦開始まで記録を辿り、そして、アスカがビルに細工しているシーンを見つけた。
「ん?これは……なのはさん、これ見てください」
シャーリーの示す映像には、アスカがインパルスグレイヴでビルを切り刻んだ後に、バリア魔法を施している姿が写っていた。
「なにやってんだろ?」
シャーリーには、アスカの行動が不可解に見えたが、
「なるほどね、そういう事か」
なのはには理解できたようだ。
「どういう事です?」
「これはね、シャーリー。インパルスグレイヴでビルを切って崩しているんだよ。でも、このままじゃ押しつぶされちゃうから、バリア魔法を使って壁を押さえているんだね」
「……つまり、先にビルを崩しておいてバリアをつっかえ棒にして、ガジェットのAMFでそのバリアの効力が消えた途端、崩壊した、と?」
「そういう事。デバイスの光はフェイク。AMFを全開にさせる罠だったんだね」
その言葉を聞いて、シャーリーは脱力した。
「何と言うか、気が抜けるような手ですね」
苦笑するシャーリー。だが、なのはは違う感想を持ったようだ。
「そうかな?他のみんなは、影響範囲外から攻撃したり、ティアナみたいにAMFの影響を受けづらい魔法を使って、AMFに極力触れないようにしてたけど、アスカ君だけAMFを使わせようとしたよね?」
「え?」
「不利になる筈の状況を逆手に取って、ミッションクリアしている。攻撃力の低さをそれでカバーして…いや、攻撃力が低いからこそ、あらゆる状況を利用して自分の力にする。数値化できない、でも大切な物をもってるんだよ、アスカ君は」
「……」
シャーリーはもう一度データを見直してみる。
なのはに言われるまでは、アスカの攻撃力の低さだけで大した事はないと思っていたシャーリー。
改めて見てみると、序盤で浮き足立つスバルを押さえ、攻撃手段のないエリオにアドバイスを送っている。
(なるほどねえ、チームが上手く動くような潤滑油の役目をしているのね)
「……と言う訳よ、わかった?」
ティアナ達の所に戻ったアスカが、今回のカラクリをフォワードメンバーに説明していた。
「あ、そう……」
ガクッと肩を落とすティアナ。
ただでさえ疲れたのに、アスカの気の抜けるような戦略に力が抜けたのだ。
でも……
「アスカさん、凄い発想です!」
「うん!そんな事、思いつかないですよ!」
とても素直な10歳コンビは驚いて感心している。
「工夫って、大事だね」
ウンウンと頷く15歳。
(……不安だ……この先、この天然ズと一緒にやって行くのかと思うと、たまらなく不安だ…)
ゲンナリとするオレンジ16歳。
『はい、じゃあ一回集まって』
なのはが集合をかけた。
「よし、じゃあ行くか。ティアナ、大丈夫か?」
ランク以上の魔法を使って、かなり疲労しているティアナを気遣うアスカ。
もっとも、彼の戦略が疲労の後押しをしている事には気づいてない。
「大丈夫よ、これくらい。それより、早く行きましょ」
疲れきった表情のまま、ティアナは立ち上がった。
「アスカ、デバイス貸して」
集合してすぐに、シャーリーがアスカの近づき手を出した。
「?はい、どうぞ」
いきなり何だろうと思いつつ、アスカはデバイスを渡す。
シャーリーはそれを受け取ると、コードを取り付けてデータを検索し始めた。
「どうだったかな、初めての模擬戦は?」
なのはが感想を求めてくる。
「AMFが厄介です」
即答するアスカ。
「ガジェットも素早いし、中々動きを封じ込めませんでした」
とエリオ。
「魔法が使えないと、こんなに大変なんですね」
スバルがウイングロードが消えた時のことを思い出す。
「ガジェットの反撃が少なかったから、今回は何とかなったのかな?」
全体の戦績を見てのキャロの感想がこれだった。
「アタシ達の魔法に通用するカードがあるのは分かりましたけど、出す順番を間違えると全滅してしまいそうです」
ティアナがそう言うと、なのはがそうだねと頷いた。
「これから、ガジェットのパターンを変えて、何度も模擬戦を繰り返して行くからね。その中で、伸ばしていくスキルが見えてくるから、みんな頑張ってね!」
「「「「「はい!」」」」」
なのはの言葉に、フォワード5名元気よく返事をした、その時であった。
「アスカ、服脱いで!」
シャーリーが突然アスカに詰め寄った。
「ええ!いや、ちょっと待ってください!」
「ええい!早くしなさい!」
シャーリーがアスカのシャツに手をかけてグイグイ引っ張る。
「ちょっ、いや、待って!」
「脱ぎなさい!」
「ちょ、ちょ、ちょ!まだ明るいのに!」
「良いではないか、良いではないか!」
だんだんおかしな方向へ向かって行くアスカとシャーリー。
「あー、アンタ達は見なくていいからね」
ティアナがキャロの、スバルがエリオの目を両手で塞ぐ。
「ちょっと、シャーリー、落ち着いてね」
なのはが慌ててシャーリーを止める。
「お前等も!エリオとキャロの目を塞ぐ前に助けろ!」
「「~♪」」
さも当たり前のように、アスカのクレームは無視される。
「って言うか、フィニーノ一士、ダイレクトセクハラはやめてください!もうチョット段階を踏んでからじゃないと!」
気持ち悪くクネクネモジモジしながらアスカがポッと頬を染める。
「違うわよ!アスカ、なんかズルしてるでしょう!」
キモイ行動には触れずに、シャーリーが少し怒ったように言う。
「なんですか、いきなり!どういう事です!」
ズル扱いされてアスカもカチンときたのか、語尾が強くなる。
しかし、それくらいで怯むシャーリーではない。
「魔法消費量が異常に少ないの!最初はセンサーの故障かと思ったけど、ちゃんと動作してるし。そうなると、アスカがなんかのアイテムを使って魔力消費を抑えているとしか考えられないの!」
「んな便利なモン、使ってませんよ!」
「二人ともストーップ!落ち着いてね?シャーリー、ちゃんと説明して」
ドンドンヒートアップしていくアスカとシャーリーの間になのはが入り、二人を引き離す。
「……失礼しました。では、説明します」
なのはに止められたシャーリーが、コホンと咳払いをしてフォワード5人に向き直る。
「模擬戦の始まる前に、みんなのデバイスにセンサーを取り付けてデータを取っている事は説明したよね。
そのデータの中で、アスカのリンカーコアからの魔力消費量が異常に少ないの。通常運用の、約1/10位です」
「じゅ、じゅうぶんのいち?」
常に全開少女、スバルが口をあんぐりと開ける。
「通常、魔力運用が上手と言われるのが約3割から4割減、半分だと天才、6~7割減だと奇跡よ?1割の魔力で通常運用はありえないの。したがって、何らかのアイテムを身につけていると思うんだけど?」
一気に説明したシャーリー。
それを聞いたアスカが、なるほどと頷いた。
「誤解です、フィニーノ一士。確かにオレは1割の魔力で運用してますが、強化アイテムとかは使ってません」
何を疑われているかを理解したアスカは、落ち着いて話した。
「1割運用がありえないの。どう説明するの?」
落ち着きを取り戻したのか、シャーリーも元の声に戻っている。
「オレは魔力容量が少ないから、通常運用をしてたらすぐ燃料切れを起こしちゃうんですよ」
淡々と語るアスカ。
「だからオレは【魔力回路の加速】を身につけたんです」
アスカの口から、聞き慣れない言葉が飛び出した。
「魔力回路の…」「加速?」
エリオとキャロが顔を見合わせる。ティアナ、スバルも聞いた事のない単語に首を傾げる。
「…それは何なの?聞いた事がないんだけど」
シャーリーの記憶にも、それに類似ものがなく、戸惑いを隠せない。
「魔法の事象化って、基本的にリンカーコアから魔力を引き出す事から始めるじゃないですか。例えばデバイスを使う場合、リンカーコアから魔力を引き出してデバイスを通って、魔法の具現化につながります。
この場合、リンカーコアからデバイまでの道のりの事を、魔力回路ってオレは言ってます」
アスカは胸から肩、腕を通ってデバイスまでを指した。
「そのままでは通常運用と変わりません。そこで魔力回路を通る魔力のスピードを上げてみたんです。
魔力を運動エネルギーとして考えた場合、末端、つまりデバイスに到達するまでの加速度が大きければ大きい程、エネルギーは増加していきます。オレが現在運用している1割の魔力を超加速でデバイスに送り込む事で、魔力を増幅させてるんです」
アスカがそう説明してみんなを見た。誰もがポカンとしている。
「そんな無茶な!」
信じられないとシャーリーを首を左右に振る。
アスカの理論の前提となるのは、魔力が運動エネルギーと同等の性質を持たなくてはいけないという事だが、そんな事を実証したものはミッドチルダにはいない。
そもそも、そんな事は考えつかないと言ったほうがいい。
「シャーリー。アスカ君の理論って前例はあるの?」
なのはがシャーリーに聞く。その声は落ち着いていて、アスカの説明を受け入れている感じがする。
「ありません……特別なスキルでも無い限り、魔力増幅はアイテムを使うか、カードリッジのような魔導機器を使うかですから。アスカの理論は、どちらかと言えば魔法よりも物理的な考えですね」
困惑顔でシャーリーがアスカを見る。
シャーリーは魔導師ではないが、ミッド文化で育っている。
考え方が魔法寄りに偏るのは仕方がない事だ。
「よく言われますよ、どんな道具を使ってんだってね。やってみますか?」
これ以上説明はできないと感じたアスカは、実際に試してみる事をシャーリーに提案する。
「そうね、お願いするわ。もしかしたらもの凄い事なのかもしれないし……センサーつけさせてね?」
アスカの提案に乗っかったシャーリーは、素早く彼の手足と胸部、あとデバイスに測定用センサーを取り付けた。
(うおっ!動きハヤッ!)
シャーリーの無駄のない動きに圧倒されてしまうアスカ。
それだけ、シャーリーも本気と言う事だ。
「アスカ、やってもらえるかな?」
準備の終えたシャーリーは、センサーからの数値をチェックしながらアスカを促す。
「了解ッス。まず、リンカーコアから今回使用するだけの魔力を引き出します」
そう言ってアスカは集中する。
「魔力測定。やっぱり1/10程度の魔力です」
センサーからの数値をシャーリーが確認する。
少量魔力が超加速によってどう変化するのか、その瞳は好奇心に彩られていた。
「じゃあ、いきますよ」
アスカは、いつもやっているように白色のバリアを展開する。
「あっ!!」
シャーリーはセンサーが叩き出す数値をみて声を上げた。
「すごい!リンカーコアから抽出された魔力がデバイスに到達するまでのスピードが、通常の1/50秒は速い!それに伴って、デバイス到達時の魔力が約10倍に増加されてる!」
目の前で起きた現象に、シャーリーは興奮を隠しきれない。
次々とデータを収集する事に躍起になっている。
「うそ……」
まさに信じられない物を目撃したティアナが目を見開く。
「こ、こんな方法があったなんて……」
スバルも愕然とする。訓練校では絶対に教わらない方法だ。
そもそも魔法の運用は、その容量によって左右されると言ってもいい。
魔力の少ない者でも、カードリッジによる底上げが可能になっている現在、素の魔力を増幅させるなど普通は考えもしない。
「ほ、本当にすごい!すごいですよ、アスカさん!」「天才です!」
エリオとキャロも、興奮してアスカを見る。
照れ笑いを浮かべるアスカが、シャーリーに目を向けた。
「これが【魔力回路の加速】です」
これにはシャーリーも認めないわけには行かなかった。
眼前で再現され、結果も残している。
「アスカ、ズルって言ってごめんなさい!私の早とちりでした!」
潔くシャーリーは頭を下げた。
「ちょっ!いいですよ!気にしてませんから、頭を上げてください!お願いしますから!」
上官であるシャーリーの謝罪にアスカが焦る。
アスカにしてみれば、ふんぞり返っている上司の方が遠慮なくブッとばす事ができるが、こうも素直に非を認め、謝られると、かえって悪い事をしているように感じてしまうのだ。
そんなアスカを見ながら、なのはが言葉を挟む。
「カードリッジシステムと同じ原理だね。それを生身でやってるんだ」
それを聞いたアスカが、えっ?と驚く。
全員の視線がなのはに集まった。
「知っていると思うけど、カードリッジは直接デバイスに魔力を打ち込んで増幅をしているんだけど、実はその時に起きているのが魔力の加速。カードリッジに込められた魔力をただ注入しているんじゃないんだよ? 打ち込みによる加速で魔力を増加させてるの。でも、それを身体一つでやるなんて、かなり凄い事だよ」
「あ、そうか!原理はカードリッジと同じだ!」
ポン、と手を叩いて納得するシャーリー。
さっき、アスカの理論に前例が無いと言ったのは、あくまで生身での事。
生身でカードリッジシステムを再現するなど、思いもしない事だ。
「オレ、カードリッジシステム知らないんですけど、そうなんですか?」
「うん。理解してなくても使えるから、知らない人も多いけどね」
そんな話をしていると、エリオが質問をしてきた。
「あの、その魔力回路の加速って、すぐにできるものなんですか?」
やはり、自分でも出来るのかは気になるようだ。
「どうかな?思いついたのは5年前だけど、ここまでできるようになったのは、ここ1年くらいだよ」
アスカはそう答えて苦笑した。
「オレは才能が無いから、コツコツ積み重ねていかないとダメなんだ」
才能、その言葉にティアナが反応する。
「謙遜のつもり?自力での魔力増幅なんて、今まで聞いた事がないわ」
語尾がきつくなったのは、気のせいではないだろう。
「必要に迫られてってヤツだよ。それに、才能って一言で片づけられると、逆に気分悪いよ。努力の結果って言われたいね、オレは」
肩を竦めるアスカ。これは、きっと本音なのだろう。
(こいつ、すごい発想を持ってる!魔力量はフォワードの中で一番少ないけど、魔力回路の加速を使えば10倍の量があるって事よね。だとしたら、一番魔力が多いのは、アスカって事になる)
それまで防御が上手いだけだと思っていたアスカが、急に恐ろしく思えてきてしまうティアナ。
露骨に出す訳ではないが、ライバル心が出てくる。
「よし、アスカ君の疑惑っも晴れた事だし、また模擬戦やるよ。今度はちょっと難しくなっているからね!」
ティアナの変化に気づかず、なのはが訓練を再開した。
ティアナside
ムカつく。って言うか、イラつく。
アタシ達は何回も繰り返した模擬戦を終えて、今なのはさんの前に並んでいる。
アタシのイラつく原因はアスカだ。
所々焦げているコイツは、笑えるくらいに撃沈しまくってたのだ。
「えーと、アスカ君。撃沈数、二桁行っちゃったね」
なのはさんが、困ったように言ってくる。
別に、アタシは撃沈した事に怒っている訳じゃない。
訓練初日だし、精一杯やっても実力不足は出てくるだろうし、それで撃沈する分には文句ない。
なのにコイツは……
「いやー、ははは!」
「笑ってごまかすな!」
思わず手が出た。
スパーン!と頭を引っ叩く。あら、スバル並にいい音するじゃない。
っと、違う違う。アスカにはよく言って聞かせないといけない。
「アンタね!AMFがあるのに無意味にバリア張らないでよ!邪魔でしょうがないじゃない!」
そう。
午前中の模擬戦で、アスカは何故か色々な種類のバリアをAMFにぶつけていた。
アタシが撃とうと思っても、それより早く前に出てバリアを出す。
そんな事をしていたから、アタシは撃てないし、アスカは落とされまくっていた。
まったく、何を考えてるのよ!
「いや、だってさぁ、AMFを何とかしないと何もできないだろ?オレなりにAMFの特性を調べてたんだよ」
引っ叩かれた頭を押さえて、アスカが言い訳をしてくる。
何が特性よ!
そう言い掛けたアタシを、なのはさんがまあまあと抑えてきた。
隊長に言われては従わないといけなけど……覚えてなさいよね、アスカ。
「何か分かったのかな?」
アスカが特性を調べていたって言ったから、なのはさんがそれを聞いてきた。
「まあ、多少は」
そう言ってアスカは、自分なりの解析を説明し始めた。
けど、アスカが言ってるのは、ほとんど模擬戦でみんなが感じた事ばかりだった。
AMFの有効範囲、相乗効果、具現化した事象には効果が無い、範囲外での魔力結合は可能。
あー、またイライラしてきた。
コイツはそんな当たり前の事を調べるためにアタシの邪魔をしたって言うの?
ますます不機嫌になるアタシ。
「……んで、原理は全く分かりませんが、AMFは電気、電子、磁気的な物で魔力結合を阻害してます」
………え?いま何て言った?
「「「「「……」」」」」
他のみんなも、アスカの言葉の意味を捕らえかねている。
「ど、どういう事?ね、言い切ったけど、どういう事!」
思いっきり動揺したシャーリーさんがアスカに詰め寄っている。
って言うか、アタシも動揺している。
ガジェットのAMFに関した研究は、確かほとんど行われてなく、対策すらとられてないのが現状の筈。
アスカはその原因、少なくとも何が元で魔力結合の妨げになっているかを言っている。
「オレは多種多様な防御魔法を展開しました。それこそ、ティアナの邪魔をしてまでです。
その時に、対電撃系の防御魔法に対してのAMFの反応が微妙に違ったんです。
若干ですが、対電撃防御でAMFに歪みみたいのがあったんです」
アスカがなのはさんとシャーリーさんに向かって説明している。
対電撃防御でそこまでわかるの?それがアタシの率直な感想だ。
「そうか。それで後半は対電撃系のバリアを使ってたんだね。でも、最後辺りは静電気除去の魔法も使ってたよね?」
「原理が分からないから何とも言えないんですけど、強力な魔法が対AMFになる感じじゃないみたなんですよ」
分からない、なんでそんな発想が出てくるのよ?
「魔導的な研究じゃ、AMFの打開策は全然出てこなかったわ。アスカが言っているのは、多分科学的な意見だと思うけど……」
今日、何回目だろう?シャーリーさんが戸惑った表情を見せる。
「シャーリー、技術部に今の見解を伝えておいて、すぐにね」
「はい!」
なのはさんの指示にシャーリーさんがすぐにパネルを操作した。
たぶん、その情報をメールか何かで送信したんだろう。
「?」
よく状況が分かってないのか、アスカはポカンとしている。
今、この場だけ見ると、そんなに凄いヤツには見えない。でも……
「アスカ君、すごいよ。もしかしたら、AMF打開のヒントをくれたのかもね」
「えーと、だと嬉しいですね」
なのはさんに誉められて赤面するアスカ。
コイツ、バカだと思っていたらとんでもない発想力を持ってるわね。
魔力の少なさや攻撃力の弱さを、発想力でカバーしている。
正直、感心するし、その発想力は尊敬に値すると思う。
でも、負ける訳にはいかないのよ!アタシが、ランスターの弾丸の強さを証明しなくちゃいけないんだから!
そう考えていたら、思ってた以上に目に力が入っていたみたいだ。
アタシの視線に気づいたアスカが、ニヘラッと緊張感のない笑みを浮かべる。
「とまあ、そんな訳だから睨むなよー。今の所ここまでしか分からないから、午後はちゃんとリーダーの指示に従うよ」
「別に睨んでないし……って、リーダーって?」
アタシは突然リーダー呼ばわりされて慌ててしまった。
「ティアナならリーダーにピッタリだろ?状況を冷静に見極め、指示も的確。安心して背中を預けられるよ」
さも当然と言った感じで、アスカがスバル達に同意を求めた。
「もちろんだよ!ティアは頼りになるもん!」
「ボクも、ティアナさんなら安心です!」
「私もです!」
え?え?えぇぇぇぇ!
なんでこうなるの!アタシがリーダーって?!
あ、アスカがイタズラっぽく笑ってる。
やられた……こいつ、面倒な事をアタシに押しつけやがった!
でも、スバルが嬉しそうにしてるし……ええい!分かったわよ!
「何でもいいわよ!こうなったらやってやるわ!リーダーでもなんでも!」
アタシはヤケクソになって叫んでいた。
「フフフ、役割もだいぶ固まってきたみたいだね。じゃあ、お昼前にもう一回模擬戦行くよ!」
なのはさんの合図で、再び模擬戦が再開される。
こうして、アタシ達の機動六課での日々が始まった。
outside
訓練が終わったのは、すっかり日も落ちた頃だった。
待機所のソファーに、スバル、ティアナがグッタリともたれ掛かっている。
キャロもイスに腰掛けて船を漕いでいて、エリオも、力尽きたように床に直接座ってしまっていた。
この様子を見ただけで、訓練がどれだけ厳しかったのか伺える。
そんな中、アスカは床に寝そべりながら何かを書いていた。
「……ねー、アスカァ……何書いてるのぉ」
疲れ切った顔でスバルがアスカに聞く。
「……お前等、完全に忘れてるだろ?訓練日誌」
アスカの返答にティアナがハッと身を起こした。
「ご、ごめん、アスカ!すっかり忘れてた!」
一日の訓練内容の総括を日誌という形で提出しなくてはいけないのだが、スバルとティアナは訓練の疲れで忘れていたようだ。
「いいよ、明日は頼むな。エリオとキャロにも、これから教えないといけないな」
訓練日誌を書きながら、アスカはエリオとキャロを見た。
よほど疲れているのか、アスカの言葉は届いてないようだ。
しかたがないか、と笑ってアスカは立ち上がった。
「じゃあ、オレは隊長に日誌出してくるから、先に上がっていてくれよ。メシには間に合うようにするからさ」
エリオとキャロを起こすアスカ。
「ごめんね、アスカ。明日は私が書くから」
バツが悪そうにスバルが謝ってくるが、アスカはいいよと笑う。
「気にすんなって。それより、エリオとキャロを頼むよ」
まだボンヤリしているエリオとキャロをスバルに押しつけ、アスカは待機所を後にした。
「失礼します。訓練日誌を提出しにきました」
隊長室に入ると、なのはとシャーリーが今日のデータをまとめる作業をしていた。
「はい、お疲れさま」
なのはがにこやかに日誌を受け取り、軽く内容を確認する。
(ああ……隊長の笑顔、癒されるなあ……)
などと、数時間前までは当の本人にシゴかれていたのを忘れてしまうアスカ。
「アスカ君は、書類関係得意なのかな?上手くまとめているね」
日誌を見たなのはが聞いてきた。
「はい、そりゃもう!始末書から反省文まで幅広く得意であります!」
「いや、ものすごく狭いよ!」
胸を張って答えるアスカにツッコミを入れるシャーリー。
そういうノリも好きななのはが笑う。が、すぐに真面目な顔になりアスカを見る。
「アスカ君。訓練初日、どうだった?」
なのはに聞かれたアスカは、今日感じた事を述べた。
「一人一人はまだ力不足で弱点もあります。でも、チームでやればできる、って感じました」
アスカの答えを聞いて、なのはは少しホッとした表情をした。
「よかった。私の考え、ちゃんと伝わっているね」
それを聞いたアスカが首を傾げる。
「どういう事でしょうか?」
「力を合わせて戦うって事。チームなら、強敵でも何とかなる感じがしない?」
「まあ、そうですね。一人よりは心強いですし。スバル、ティアナは頼りになるし、エリオ、キャロも特化した能力があります。一番頼りないのは、オレでしょうから」
おどけたように肩を竦めるアスカ。
「アスカの防御テクニックは凄いじゃない。自信持っていいよ」
シャーリーが割って入ってくる。
実際、今日の模擬戦でアスカは防御に徹していた。
動く盾があるような物だから、陣地を確保したい時などは大いに役立っている。
そして、それはアスカにしかできない事だった。
「そのうち攻撃力も鍛えていく事になるから大丈夫だよ。明日もキツイから、今日はゆっくり休んでね」
まだ初日で、そこまで焦る事はないよ、となのはは言う。
「はい!また明日お願いします!」
敬礼し、アスカは隊長室から出て行った。
「よかったー。長期教導は初めてだからどうなるかと思ったけど、上手くやれてるみたい」
ふう、と大きく息をはくなのは。
教導と言っても、その大半は一週間程度、最長で一ヶ月くらいしか行っていなかったなのは。
一年の長期教導に、本人にも不安はあったのだ。
「大丈夫ですよ。みんないい子ですし、一番心配していたアスカが分かってるんですから」
シャーリーはフォワードのデータを見ながらそう言った。
シャーリーが言う通り、一番得体の知れなかったのがアスカだった。
エリオ、キャロに関して言えば、六課設立前より、フェイトを通じてなのはもシャーリーもつき合いがあった。
スバル、ティアナに関しても、訓練校のデータから、前の部隊のデータまでそろっていたので問題は無かった。
だが、アスカだけは何のデータも無かった。
099部隊にアスカのデータの提出を求めたが、男所帯のいい加減さで本当に適当な物しか送ってこなかった。
何より、年頃の男子だ。どういう行動にでるか予想がつかないというのが、なのはの正直な感想だった。
「そうだね。私の直感で引っ張ってきたけど、いい子だよ、アスカ君も」
099部隊での一時間の教導で、なのははアスカに強い興味を抱いた。
それは、自分には無い発想力を持っている事。それを実行する行動力を見ての事だったが、それ以上に何かをやってくれるという直感が働いたのだ。
「さあ、明日からの訓練が楽しみだな」
後書き
はい、読み直してみるとダラダラ長くなってしまいましたね。
完全に切る所を間違えてしまいました……モウシワケアリマセン
さて、今回色々オリジナル設定を出してみましたが、どうだったでしょうか。
レイヤー建造物の技術がバリアジャケットの応用。
これはアスカが勝手に言ってるだけですので、スルーでお願いします。
魔力回路の加速。
魔力の少ないアスカの魔力を増やす為に考えました。
パチンコ玉を膝の高さから落とすのと、頭の高さから落とすのとでは、着地での衝撃が違うという単純な物理なのですが、これってパチンコ玉の質量が加速して衝撃が大きくなるって事ですよね?
魔力が増える訳じゃなかった…衝撃が魔力じゃないといけないのか…スルーでお願いします。
AMFが電気的な物で魔力結合を阻害している
まだ種明かしはできませんが、これもなんちゃって科学ですから、スルーで…って、全部スルーかい!
ツメがスイーツでした。猛反省ですが、このまま進めます!
こんな文章を読んでくださる皆様、ありがとうございます!
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