英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第9話
3月14日――――
~特務支援課~
「―――でも、それはおかしいわ。今回、一課が出て来たのはあくまで結果でしかない。リーシャさんが気を利かせて私達に頼まなかったら表に出なかったわけなんだし。」
「うーん、確かに。となると、一課の目を欺く陽動っていう線は無いか………そもそも”銀”の存在を知っている人間は誰なんだろう?」
「そうね……雇い主である”黒月”は当然として。やり合っている”ルバーチェ”と動向を追っている捜査一課……あとはルバーチェと関係のあるハルトマン議長も知っていそうね。」
「ハルトマン議長って……昨日も言っていた?
「ええ、帝国派のリーダーにして議会を牛耳っている大物政治家よ。多分、ルバーチェ最大の後ろ盾と言ってもいい存在ね。ちなみに、おじいさまの改革案はほぼ全てこの人に潰されているわ。」
「そうなのか………名前くらいしか知らなかったけど。そうなると”銀”にとっては逆に敵対勢力になるってことか。」
「ええ……関係は薄そうね。」
「「「…………………」」」
ロイドとエリィが話し合っているとティオ達は黙ってロイドとエリィを見つめ
「ティオ、ランディ?それにレンもどうしたんだ?」
「どうしたの?狐につままれたような顔をして。」
3人の視線にようやく気づい板ロイドとエリィはそれぞれ声をかけた。
「いや………だって、なあ?」
「エリィさん………今日はすごく元気ですね?」
「うふふ、昨日の沈み様がまるで幻だったかのように元気になっているのだから、誰だって気になるわよ♪」
「あ、うん………―――ごめんなさい。昨日はどうかしていたわ。でも、もう大丈夫。足手まといにはならないから。」
ランディが言葉を濁している中ティオとレンの指摘を聞いたエリィは頷いた後、口元に笑みを浮かべて答え
「だからエリィ………足手まといなんて言うなって。むしろ俺達の方が色々助けてもらってるんだからさ。今だってほら、エリィがいると推理もはかどって助かるし。」
「そ、そうかしら………」
ロイドに元気づけられると嬉しそうな表情をした。一方ティオ達はその様子をじっと見つめて考え込んだ後
「………怪しい。」
「……妖しいです。」
「クスクス、状況を考えれば昨夜”何か”あったとしか思えないわよねぇ?」
ランディは真剣な表情で、ティオはジト目で、レンは小悪魔な笑みを浮かべて二人を見つめた。
「えっ………」
「ちょ、ちょっと………」
一方ランディ達の言葉を聞いたロイドは呆け、エリィは頬を赤らめた。
「そういや昨日の夜……屋上から話し声が聞こえたな。ひょっとして………」
「……なるほど。おめでとうございます。ロイドさん、エリィさん。」
「い、いや、別にお祝いを言われるような事はしてないぞ?」
「そ、そうよ………ただちょっと、色々話したっていうだけで………」
ランディとティオの言葉を聞いた2人は慌てだした。
「なるほど、色々ねぇ。―――で、どこまで行ったんだ?」
「ランディ!」
そして興味深そうな様子で聞いていたランディはロイドは怒鳴り
「ちょ、ちょっと!ティオちゃん達もいるのに………」
エリィは顔を真っ赤にして慌てた。
「どこまて行った……ああ、お付き合いの過程で色々な段階を踏むという―――」
「いやいや、無いから!」
ティオの言葉を聞いたロイドがすぐに否定したが
「ひゅーひゅー。」
「……ひゅーひゅー。」
「うふふ、ちなみにどこまで進んだのかしら♪A?B?まさか一気にCまで進んじゃったのかしら♪」
「おおっ!?小嬢はそんな事まで知っているのかよ!?」
「ちなみにわたしも知っていますよ。」
「マジでか!?いや~、こういうのを”耳年増”って言うんだろうな~。」
「耳年増とは失礼ですね……」
「全くよね。レン達の年齢のレディならそのくらいの事は知っていて当然よ。」
ランディ達は聞く耳をもたず、それぞれ二人を無視して好き放題言い始めた。
「い い か げ ん に し な さ い。」
「はい……」
しかしエリィが凄まじい威圧を纏った笑顔でランディ達に微笑むとランディ達はからかうのを止めて黙り込んだ。
「まったく………俺とエリィの関係を疑うなんてそんなのあり得ないだろう?」
「……え………」
呆れた表情で溜息を吐いたロイドの言葉を聞いたエリィは驚いてロイドに視線を向けた。
「そもそも釣り合わないっていうかそんな雰囲気にならないっていうか………なあ、エリィ?」
そしてロイドは苦笑しながら答えた後、笑顔でエリィに確認したが
「……………………………」
「………あれ。」
怒りの表情のエリィに睨まれ、呆けた。
(おいおい……)
(踏みましたね……)
(致命的なまでの鈍感さねぇ………)
その様子を見ていたランディ達は呆れた。
「……そうね、そうよね………ただお話して、つまらない相談して乗ってもらっただけだものねぇ……”あんな事”も貴方にとっては”ただのお礼”なんでしょうねぇ……ええ、そんな甘い雰囲気には全くもってなりませんでしたとも!」
一方エリィは静かな怒りを纏った後、ロイドを睨んで大声を上げた!
「………え、えっと……あの、釣り合わないってのは俺がエリィには釣り合わないって言ってるだけで……」
「ギロッ………」
「………すみません。」
エリィに睨まれると黙り込んだ。
「くっくっく………まあ、なんだ。元気が出て何よりじゃねえか?」
「あ………」
「……安心しました。ひょっとして警察……辞めてしまうんじゃないかって思ったのに………」
「そうね。出向した翌日に同僚がいなくなるのはレンとしても寂しいもの。」
「……ごめんね、心配かけて。将来、どうするかはまだわからないけれど………今、私がいるべき場所はここであるのは間違いないから。だからみんな………改めてよろしくお願いします。」
ランディ達が自分を心配していた事を悟ったエリィは微笑みながらランディたちを見回した。
「エリィ……」
「………エリィさん。」
「はは、お嬢の突っ込みがないとやっぱり締まらねぇもんな。」
「うふふ、それに関してはレンも同感ね♪」
「突っ込ませているのは貴方たちが原因でしょう……―――まあ、それはともかく。捜査方針だけど結局、どうしようかしら?」
ランディとレンの言葉に溜息を吐いたエリィは気を取り直した後ロイドに尋ねた。
「そうだな………」
「一課とは別のアプローチで”銀”に迫ると言っても………色々切り口があるので逆に迷ってしまいますね。」
「こうなったら、あれだ。カルバードの東方人街に出張しに行くってのはどうだ?少しは”銀”の手掛かりも掴めるんじゃねえか?」
「そ、それは盲点だったな。」
「でも、外国に出張なんてそんなの許されるのかしら?支援課の範疇から外れそうな気がするし………」
ランディの提案を聞いたロイドは驚き、エリィは考え込んだ。
「後は遊撃士協会に聞く手もあるわよ。遊撃士協会なら自分達の”宿敵”である非合法の存在――――”猟兵”や”暗殺者”についての情報も当然あるわよ。」
「そうか………!その手もあったな……!」
レンの助言を聞いたロイドは目を見開いたが
「問題はミシェルさんが情報を提供してくれるかよね……もしかしたらレンちゃんが自分達の所に来ずに”特務支援課”に出向した事について色々と思う所があるかもしれないし……」
「い、言われてみれば……クロスベルの支部は依頼の数が多すぎてクロスベル所属の遊撃士達は相当多忙だって話なのに、即戦力のレンが俺達のような新人ばかりの部署に取られた事で俺達を恨んでいるかもしれないしな………」
「まあ、ミシェルお兄さんはそこまで心が狭い人じゃないと思うけどね。むしろレンが特務支援課に出向する事で特務支援課も使い物になる上特務支援課――――”クロスベル警察”との情報共有もやりやすくなるから、喜んでいると思うわよ。――――最も、遊撃士協会が独自で手に入れた情報を何の見返りもなく提供してくれるかどうかはわからないけどね。」
不安そうな表情で呟いたエリィの推測を聞くと疲れた表情になり、レンはロイドに助言と忠告をした。
「……………………」
一方ティオは目を閉じて考え込んだ後、立ち上がって端末に近づいた。
「ティオ………?」
「どうしたの?」
「警察のデータベースをもう少し漁ってみようかと。一課の動向なども掴めるかもしれませんし………ただ、昨夜調べたばかりなので追加情報はないかもしれませんが。」
「そうか………」
「ま、やらないよりマシか。」
自分達も傍で端末を見る為にロイド達が立ち上がったその時何かの音が鳴った。
「あ………」
「どうしたんだ?」
「………珍しいですね……導力メールが届いているみたいです。」
「導力メール?」
「確か、文章だけの情報を端末に送るものだったかしら?」
ティオの言葉を聞いたロイドは首を傾げ、エリィが尋ねた。
「はい、すごく便利なのに警察では使っている人が殆んどいないみたいで………キーボードが使える人がまだ少ないせいでしょうね。」
「なるほど………確かに俺も使えないな。」
「ちなみにレンは使えるわよ♪」
「それより、誰からなんだ?」
「今、開いてみます……………え…………」
ランディに促され、メールの内容を読んだティオは呆けた。
「なんだ……?」
「いったい誰から―――!?
ティオの様子に気付いたロイドとエリィは仲間達と共にメールの内容を見て顔色を変えた。
”銀”より支援要請あり。試練を乗り越え、我が元へ参ぜよ。さすれば汝らに使命を授けん。
「こ、これは………!」
「へえ?まさか向こうから接触してくるとはね?(うふふ、昨日脅迫状の件を聞いた時に『その真実については明日”特務支援課”が私が認められる程の能力を示せばわかる』みたいな意味深な事を言っていたけど、この事だったのね♪)」
「おいおい………何のイタズラだ、こりゃ!?」
「ティオちゃん……このメールはどこから!?」
「警察本部ではありません…………わかりました。”クロスベル国際銀行(International Bank og Crossbell”………―――通称IBCです。」
メールの内容にロイド達がそれぞれ血相を変えている中エリィに訊ねられたティオは端末を操作しながら答えた。
「………どういう事だ……?」
「しかも発信元が”IBC”とはね。」
「IBCっていやあ、大陸中からミラをかき集めてる銀行だろ?何でそんなところがこんなイタズラを送ってくるんだ?」
「………わたしに聞かれても。でも、このメールは間違いなくIBCの端末から送られています。誰が送ったのかまではわかりませんが。」
ランディの疑問に疲れた表情で答えたティオは真剣な表情でメールを見つめた。
「もしかして”銀”がIBCに潜入しているとか……?」
「正直、あり得なくはないわね。それにIBCビルには外部の会社も幾つか入っているわ。確か………エプスタイン財団の事務所もあったんじゃないかしら?」
ロイドの推測に同意したエリィはティオに訊ねた。
「ええ………知り合いがそこで働いています。ですが………どうやらこのメールはIBCのメイン端末から送信されているみたいですね。外部の会社が関わっている可能性は低いと思いますが………」
そしてティオは答えた後、仲間達と共に考え込んだ。
「……直接聞いてみるしかないか。なるべく一課には内密に捜査を進めたかったんだけど………」
「さすがに身分を明かさないで聞いてみるのは難しそうだな。ま、余計な横槍が入る前に動いちまえばいいんじゃねえか?」
「もしくはIBCの端末にティオがハッキングして調べるとかもありじゃないかしら♪」
「……警察官の癖に犯罪同然の行為を提案しないでください。しかももし、バレたら一番まずい立場になるのは提案したレンさんじゃなくて実行したわたしになるじゃないですか。というか遊撃士なのに、よくそんな非合法な行為を思いつく事ができますね?」
ランディの後に提案したレンの提案を聞いたティオはジト目で指摘した。
「…………………………ひょっとしたら内密に調べさせてもらえるかも。」
するとその時目を伏せて考え込んでいたエリィが提案した。
「え………」
「どういう事ですか………?」
「……私の友人にIBCの関係者がいるのよ。その人のお父様に事情を話せば力になってくれるかもしれない。」
「そうだったのか………」
「おお、好都合じゃねえか。さすがお嬢。色々なコネを持ってるな。」
「まあ、それなりにね。でも、とても忙しい方だからクロスベル市にいるかどうか………」
ランディに感心されたエリィは頷いた後考え込んだ。
「どんな立場の方なんですか?」
「……多分、知ってると思うけど。ディーター・クロイスっていうの。」
「え!?」
「あ………」
「!………」
エリィの答えを聞いたロイドが驚き、ティオが呆けている中目を見開いたレンは真剣な表情をした。
「なんだ、有名人なのか?」
一方エリィの口から出た人物が誰なのかわからないランディは不思議そうな表情をした。
「あ、うん………ある意味、知名度で言うならイリアさん並みかもしれない。」
「ディーター・クロイス………大陸有数の資産家にして国際経済の中心人物の一人………現IBC総裁ですね。」
「おお、銀行のトップかよ!?」
「元々、父の旧い友人だったの。祖父とも昔から親交があってそれで仲良くさせてもらっていて………娘さんは、私の幼馴染にあたるわね。」
「そうだったのか………しかしそんな人だと………不在だとしても仕方ないか。」
「うん……一年の半分くらいは外国を飛び回っているらしいから。でも、駄目で元々だわ。私の友人ならいるかもしれないし、訪ねるだけ訪ねてみましょう。」
「ああ、そうしよう………しかし、これで何とか捜査の目処がついたけど……」
「……メールの意図ですね。脅迫状もそうでしたがどういうつもりなんでしょう?」
エリィの提案にロイドは頷いた後ティオと共に考え込み
「ま、せっかく向こうからわざわざ接触してきたんだ。ここは敢えて乗ってみようぜ。」
「うふふ、一体何が出てくるのでしょうね?」
ランディは仲間達を促し、レンは意味ありげな笑みを浮かべた。
「そうね……行きましょう、IBCビルへ。」
その後ロイド達はIBCのビルへと向かった―――――
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