英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第10話
~IBC~
「IBCビルか………何度見てもすげぇビルだな。」
「こうしてみると………余裕で10階以上あるみたいだな。」
IBCのビル前に仲間達と共に到着したランディとロイドはビルを見上げて呟いた。
「たしか16階建てのはずよ。そのうち、5階から10階までは外部の会社が入っているみたいね。」
「そうなのか………」
「クロスベル市の税収に相当、貢献していそうですね。」
「………………」
ロイド達がそれぞれ興味ありげな様子でIBCのビルを見つめている中レンは厳しい表情でビルを睨んでいた。
「それで、どうするんだ?アポイントもなしに来ちゃったけど……」
「そうね、まずは中の受付で聞いてみましょう。」
ロイドの疑問にエリィが答えたその時
「エリィ………?」
聞き覚えのある声が聞こえて来た後、IBCのビルからアーネストが出てきて、ロイド達に近づいてきた。
「アーネストさん………」
「奇遇だな……こんな所で会うなんて。みんな一緒ということは警察の用事で来たのかい?」
「ええ………少し調べる事がありまして。アーネストさんはおじいさまの御用ですか?」
「ああ、事務所の運営資金の管理についての相談をね。来月から特に忙しくなるし色々やりくりが大変なんだよ。」
「……そうですか。」
アーネストの話を聞いたエリィは複雑そうな表情で頷いた。
「それで、エリィ………少しは考えてくれたかい?」
「…………はい。やはり、今警察を辞めるわけにはいきません。私はまだ何も掴めていない……少なくとも、その何かが掴めるまでは半人前だと思いますから。却っておじいさまの足を引っ張ってしまうと思います。」
「だが………君が求めているものは本当にその道の先にあるのかい?ひょっとしたらそれはただの蜃気楼かもしれないぞ?」
「そうかもしれません。でも、この2ヵ月………色々見えてきたことがあります。一つ一つの問題を解決することで少しずつ成長できた実感もあります。多分、あのまま事務所に入っておじいさまの秘書の一人になっていたら手に入らなかった貴重な経験です。」
「…………………………」
昨日の時と違い、迷いのない微笑みを浮かべて語るエリィに驚いたアーネストは呆けた表情で見つめた。
「………ですから、ごめんなさい。少なくとも一人前になるまで………今の立場で頑張りたいと思います。」
「……ふう。どうやら迷いが消えたようだね。」
「え………」
「わかった、もう何も言わないよ。やれやれ、せっかく事務所に有能な後輩が入ると思ったんだが。当てが外れてしまったようだ………」
「アーネストさん………」
残念そうな表情で語るアーネストをエリィは見つめた。
「ただ、そうだな………来月の創立記念祭の時には式典にぜひ出席してほしい。本来なら、君のお母様に出ていただきたかったんだが………さすがに、市長のご家族が一人も出席しないのは寂しいからね。」
「………わかりました。アーネストさん。色々とありがとうございます。」
「はは、いちおう君の先生だったこともあるしね。これくらいは気にかけさせてくれたまえ。……おっと、こんな場所で時間を取らせてしまったな。君達もお仕事、頑張ってくれ。それと……エリィお嬢さんを頼んだよ。」
「………はい。」
ロイド達を見つめて言ったアーネストはロイドの返事を聞いた後、去って行った。
「…………………………」
「随分、エリィのことを考えてくれている人みたいだな。先生をしてたとか言ってたけど……」
アーネストが去った後黙っているエリィにロイドは尋ねた。
「ええ………私が小さい頃に家庭教師をしてくれていたの。留学してからはちょっと疎遠になってしまっていたけど。」
「……やっぱり政治家志望なんですか?」
「ええ、来年の議員選挙では新人として出馬するみたいね。帝国派と共和国派のどちらにも属さないつもりらしいからとても苦労すると思うけれど………」
「政治家の卵ってわけか。しかし、政治家の秘書にしちゃ結構いいガタイしてたよな。なんか武術でもやってんのか?」
「たしか剣術の経験があるはずよ。結構な腕前みたいだからおじいさまの護衛も兼ねてるって聞いたことがあるけど……」
「なるほど……体格がいいのも納得だな。」
「うふふ、どこかの元秘書さんとは天と地の差ね。」
ランディの質問に答えたエリィの話を聞いたロイドは頷き、レンは小悪魔な笑みを浮かべた。するとその時
「おやおや~?うふふん、また会ったわね。」
”クロスベルタイムズ”の記者――――グレイス・リンがIBCのビルから出てきて、ロイド達に近づいてきた。
「グレイスさん……」
「なに、IBCに用事?一緒に来てるってことは捜査にでも来たのかしらん?」
「い、いや別に………大したことじゃないですよ。」
「ええ、ちょっとした問い合わせに来ただけです。」
グレイスに尋ねられたロイドとエリィはそれぞれ話を誤魔化そうとした。
「ふーん………ま、そっか。あたしも忙しいからこの場は見逃してあげる。それじゃあ、まったね~!」
ロイド達の話を聞いたグレイスは頷いた後、去って行った。
「やれやれ、相変わらずマイペースな姉さんだな。」
「でも、グレイスさんにしては喰い付きが悪かったですね………そんなに忙しいんでしょうか?」
「まあ、記念祭の前ともなると取材する事も多いんでしょうね。」
「うーん、できればこっちの記事も諦めてくれるといいんだけど………」
ティオやエリィの話にロイドは考え込みながら頷いたその時
(ロイドお兄さん。)
(レン?どうしたんだ?)
レンが小声でロイドに声をかけ、声をかけられたロイドは不思議そうな表情で訊ね返した。
(あの秘書さんがIBCから現れた後に新聞記者が現れた………これって本当に偶然かしら?)
(へ……)
(それと昨日レンがリーシャお姉さんに別れ際にどうしてあんなことを訊ねたのかや昨夜のレンのヒントも考えたら、今回の事件の”真相”がわかるかもしれないわよ?)
(昨日レンが別れ際にリーシャに訊ねた事と昨夜レンが俺に出したヒント……?)
レンの問いかけを聞いたロイドは昨日の出来事を思い返した。
……リーシャお姉さん、一つ聞きたい事があるのだけど、いいかしら?
ええ、いいわよ。何が聞きたいのかしら?
マクダエル市長をプレ公演の主賓として迎えるという事は、当然客席も凄くいい所を用意しているのよね?
ええ、貴賓席を用意したわ。
ちなみに貴賓席の位置は?
え?一番高くて見やすい場所だけど………
それと貴賓席というからには一般の人達の席から独立した場所にあるのよね?
ええ、そうだけど……それがどうかしたのかしら?
ううん、ちょっと気になっただけだから気にしないで。
その脅迫状が”囮”で本命がいる可能性もあるでしょう?例えばアルカンシェルの新作の公演に”イリア・プラティエでない誰かが暗殺された場合”、この場合の犯人は真っ先に誰が思い浮かばれるかしら?
「(!!もし、本当にそれが”真相”だとしたらマクダエル市長を狙うアーネストさんの動機は一体何になるんだ………!?エリィの話だとマクダエル市長からは大切にされているのに……まてよ?何故、アーネストさんが去ったすぐ後にグレイスさんが現れたんだ?………仮にグレイスさんがアーネストさんを何らかの理由で探っていたとして………………IBCに運営資金の相談…………脅迫状………囮の可能性………――――!!)…………………」
(うふふ、あの様子だと少なくてもあの秘書さんが今回の事件に関わっている事は気づいたみたいね。)
今までの情報を頭の中で整理してある仮説を思い浮かんだロイドはアーネストやグレイスが去った場所を真剣な表情で黙って見つめ、ロイドの様子をレンが興味ありげな表情で見つめた。
「おい、ロイド。また、コソコソと小嬢と相談しているけど、今度はなんだ?」
するとその時、ロイド達の様子に気付いたランディは尋ねたが
「(………プレ公演の際、念の為に市長の護衛に関して何らかの対策をたてておいた方がよさそうだな………)……ちょっとね。それよりそろそろビルに入ろう。総裁に面会できないか受付で問い合わせてみないとな。」
「お、おう……」
「ええ、行きましょう。」
ロイドは答えず、話を誤魔化し、誤魔化されたランディは不思議そうな表情をし、ロイドの言葉にエリィは頷いた。
その後ビルに入ったロイド達はエリィに受付との応対を任せた。するとエリィは、クロスベル銀行の総裁との面会を取り付け、エレベーターを動かすセキュリティーカードを貰った後、セキュリティーカードを使って、最上階まで上がり、総裁がいる部屋にノックをして入室の許可をもらった後入った。
~最上階・総裁室~
「やあエリィ、久しぶりだ。半年ぶりくらいになるかな?」
部屋に入って来たロイド達を見たスーツ姿の男性はエリィに視線を向けて尋ねた。
「はい、ディーターおじさまもお元気そうで何よりです。その、アポイントもなしにお邪魔して申し訳ありません。」
「ハハ、水臭い事は言わないでくれたまえ。君は友人の娘でわが娘の幼馴染でもある。身内も当然じゃないか。」
「……ありがとうございます。」
「ふむ………警察に入ったというのは娘から聞いていたが………そちらの彼らが同僚かね?」
「はい。同じ”特務支援課”の仲間です。」
男性に尋ねられたエリィは頷いた後、数歩横にそれて、ロイド達がディーターによく見えるようにした。
「初めまして。ロイド・バニングスといいます。」
「ランディ・オルランド。よろしくッス。」
「ティオ・プラトーです。初めまして………」
「レン・ブライトと申します。以後お見知りおきを。」
「ふふ、クロスベルタイムズで君達の事は一応知っているよ。IBCの総裁を務めるディーター・クロイスだ。ロイド君、ランディ君、ティオ君、レン君。どうか私のことは遠慮なく、ディーターと呼んでくれたまえ。」
ロイド達がそれぞれ自己紹介をすると男性――――IBC総裁のディーター総裁も自己紹介をした後笑顔を浮かべてロイド達を見つめた。
「は、はあ………」
(今、歯が光ったような………)
(な、なんかムチャクチャ爽やかそうなオッサンだな。)
(うふふ、ダドリーオジサンみたいな真面目で堅苦しいオジサンよりは断然いいじゃない。)
ディーターの笑顔を見たロイドは戸惑い、ティオは不思議そうな表情をし、苦笑しているランディにレンは笑顔を浮かべて指摘した。
「しかし、何やら警察の仕事で相談したい事があるそうだが………一体、どうしたのかね?」
「はい、実は………私達、ある事件を追って捜査を進めているのですが―――」
そしてロイド達はディーター総裁に事情を説明した。
「―――なるほど。その”銀”とやらの導力メールがIBCに君達のオフィスに送られてきたのか。」
「ええ……そうなんです。」
「………恐らくこのビルにあるメイン端末からだと思います。それを操作して送った可能性が高いかと。」
「ふむ………このビルのセキュリティには正直、自信を持っていてね。特に端末室があるフロアには許可されている人間しか入れないようにしているんだ。端末の操作も、権限がある者しか出来ないようになっている。」
ティオの推測を聞いたディーター総裁は頷いた後、真剣な表情で答えた。
「大変失礼ですが………端末を操作できるスタッフの中で不審な方はおられないでしょうか。最近入ったばかりとか、何か後ろ暗いことがあるとか。」
「ふむ………私の知る限り、信頼できる者ばかりだけどね。―――それより、ロイド君。他の可能性はあり得ないのかな?」
「え………」
ディーター総裁に尋ねられたロイドは呆け
「例えば、そうだな………”銀”の正体がこの私で君達にメールを送ったとか。」
「ええっ!?」
「マ、マジかよ!?」
「お、おじさま……!?」
「うふふ、確かにそれは盲点だったわね?」
ディーター総裁の言葉を聞き、仲間達と共に驚き、仲間達が驚いている中レンは意味ありげな笑みを浮かべてディーター総裁を見つめた。
「ハハ、例えばと言っただろう。伝説の刺客とやらの正体が私みたいな立場の人間だったらなかなか面白いとは思うが……さすがに現実はそこまで奇想天外ではないだろうしね。」
「は、はあ………」
「もう………驚かせないでください。」
「お茶目な方ですね………」
そしてディーター総裁の指摘が冗談とわかると、ロイドは苦笑し、エリィとティオは呆れた。
「ハッハッハッ、これは失敬。しかし、考えてもみたまえ。もし、そのメールを送ったのがここのスタッフだった場合………自分が犯人だと名乗るのも等しい行為ではないかな?」
「あ………」
「……確かにそうね。」
「逆にスタッフ以外の可能性を考えた方がいいってことか………」
ディーター総裁の正論ともいえる指摘にエリィは声を上げ、レンは静かな表情で頷き、ランディは目を細めて呟いた。
「………―――ティオ。あのメールが、IBCの端末から支援課に送られたという記録………それを偽装することは可能なのか?」
「そうですね………別の場所から、IBCの端末に”ハッキング”を仕掛けた可能性はゼロではないかもしれません。」
「”ハッキング”………?」
「そういや小嬢も朝ティオすけにその”ハッキング”ってやつをすればいいとか言っていたが……なんなんだそりゃ?」
「私も詳しくは知らないけど……たしか、端末を守っているセキュリティを解除することで不正に操作する技術だったかしら?」
ティオの言葉を聞いて首を傾げているロイドとランディに説明したエリィはティオに確認した。
「おおむね合っています。導力ネットワークで繋がっている端末同士であれば原理的にはどこからでも可能です。もっとも高度な知識と技術を持っている必要がありますが………」
「ちなみに、それを行う者を”ハッカー”と言うらしい。導力ネットは、大陸全土でもまだ限られた地域で試験的にしか運用されていないんだが………早くもそういう事例が報告されているらしいね。」
「なるほど………」
「ってことは………”銀”ってのは刺客だけじゃなく”ハッカー”でもあるってことか?」
「そこまでは断定できないけど………例のメールが、このビルの外部から送られた可能性はあるみたいね。」
「ふむ、信頼するスタッフを疑わずに済むのはいいんだが………メイン端末がハッキングされたというのもそれはそれで由々しき問題だ。………よし、こうしよう。君達が端末室に入れるよう手配しようじゃないか。」
「え………」
「い、いいんですか?」
自分達の会話を聞いて考え込んだ後提案したディーター総裁の提案を聞いたロイドは驚き、エリィは戸惑った様子で尋ねた。
「ああ、メイン端末を調べればハッキングの痕跡などが残っているかもしれないし…………スタッフも詰めているから話を聞くこともできるだろう。」
「………助かります。」
「おじさま………どうもありがとうございます。」
「いや、こちらにとっても見過ごせない問題だからね。ふふ―――しかしエリィ。なかなか充実した日々を過ごしているようじゃないか?」
「え………」
唐突に自分の話をディーター総裁にふられたエリィは呆けた。
「最初、君が警察に入ったと聞いて少々疑問に思ったものだが………なるほど確かに良い経験が出来そうな職場だ。私も改めて、応援させてもらうよ。」
「おじさま………そう言って頂けるととても助かります。」
「ふふ、それに君達も………雑誌で読んだ以上に可能性を感じさせてくれるね。」
「え………」
そしてディーター総裁の言葉にロイドが呆けたその時、ディーター総裁は席を立って、ロイド達に背を向けてガラス張りの窓に近づいた。
「……気づいているだろうがこのクロスベルという自治州は非常に難しい場所だ。おそらくエリィなどはそれを痛感していると思うが………一番、問題だと思われるのは”正義”というものが完全に形骸化してしまっていることだ。」
「”正義”の形骸化………」
「それは………どういう意味でしょう?」
「”正義”は、ともすれば”奇麗事”と同じ意味と捉えられる場合も多いだろう。在り方も人それぞれ………だから正義などは存在しないと嘯く者もいるかもしれない。だが、どんな形であれ………結局のところ、人は正義を求めてしまう生き物なのだよ。」
「え……」
「人が正義を求める生き物………?」
ディーター総裁の話を聞いたロイドとティオは呆けた。するとディーター総裁はロイド達に振り向いて答えた。
「なぜなら”正義”というものは人が社会を信頼する”根拠”だからだ。もし、犯罪が起こった時にそれを法によって裁くという”正義”が存在しなければ………多くの者は家に閉じこもり、滅多に街に出る事はないだろう。そうなったら社会生活はまともに成り立たなくなってしまう。だが――――このクロスベルでは”正義”の形が曖昧でも何とか成り立ってしまっている。」
「!!」
「……それは………」
「政治の腐敗や、マフィアの問題………それを警察が取り締まらなくても経済的に恵まれているから多くの市民は生活に困らない。結果的に、単純犯罪は少ないが目に見えない悪が蔓延っていく………だが、そんな中でもやはり人は”正義”というものをどこかに求めざるを得ない。どんな形であれ、社会を信頼できる安心感を欲してしまうからだ。―――だからクロスベルではここまで遊撃士の人気が高いのだよ。」
「あ………」
「『民間人の安全を最優先で守る』………確かに”正義の味方”って感じですよね。」
「なるほどねぇ………他の国に比べて、妙に遊撃士が持ち上げられるとは思ったが。」
「………とても納得がいきます。」
「――――遊撃士協会規約第2項。”民間人に対する保護義務”……『遊撃士は、民間人の生命・権利が不当に脅かされようとしていた場合、これを保護する義務と責任を持つ。』―――この規約は言い換えれば、遊撃士は民間人に危険が迫れば例え相手が権力者だろうと軍人だろうと守ってあげなければならないという意味よ。警察・警備隊の上層部に加えてクロスベルの政治家の多くが腐敗してしまっている以上クロスベルの人達が権力に囚われない遊撃士を持ち上げるのも当然の事ね。」
ディーター総裁の説明を聞いたロイド達はそれぞれ納得した様子で頷いている中レンは静かな表情でディーター総裁の説明を補足した。
「だが、知っての通り、遊撃士協会が行使できる正義はあくまで限定的なものだ。この街の歪みを根本的に解決することは不可能だろう。だからこそ私は―――君達に期待したいのだよ。」
「えっ………!?」
「遊撃士の代わりに悪を倒せってことッスか?」
「はは、そんな単純なことを言うつもりは毛頭ないよ。君達が、君達なりに”正義”を追求している姿………それが目に見える形で市民に示される事が重要だと思うのだ。」
「あ………」
「クロスベルにもまだ”正義”が存在している………そう信じられるきっかけを市民に与えるという事ですね。」
「その通りだ。ふふ、その意味ではあのクロスベルタイムズの記事も非常に有意義だと言えるだろう。まだまだ未熟な警察の若者が時に失敗しながらも”正義”を求めて奮闘する姿………面白がる者もいるだろうが否定的な市民は少ないはずだ。温度差の違いはあっても………皆、君達に期待しているのだよ。」
「……………………………」
ディーター総裁に微笑まれたロイド達はそれぞれ黙って考え込んでいた。
「ふふ、どうやら興にのって一席ぶってしまったようだな。―――本題に戻ろう。端末室への立入りを君達に許可する話だったね。」
「あ………はい、そうして頂ければ。」
「どちらに行けば許可がいただけるのでしょうか?」
「ふむ、そうだな………私も端末室には入れるから案内してもよかったんだが………あいにくこの後、色々予定が立て込んでいてね。」
「すみません。本当にお忙しいところを………」
「なに、気にしないでくれ。しかしそうだな………ならばスタッフの誰かをここに呼ぶとしようか。」
申し訳なさそうな表情をで謝罪するエリィに微笑んだディーター総裁が答えたその時
「―――その必要はありませんわ。」
女性の声が聞こえた後、一人のスーツ姿の女性が部屋に入って来た――――――
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