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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第7話

~裏通り~



「あら………?」

アンティーク屋から出てきたユウナはロイド達を見つけると目を丸くし

「あなたは確か………」

「確か人形工房の……」

「ああ……久しぶりだな、ユウナ。」

ユウナの登場にティオとエリィは目を丸くし、ロイドはユウナに声をかけた。

「うふふ、一月ぶりね。それと………おねえちゃんとは半年ぶりくらいになるかしらね。」

「……そうね。”影の国”で別れてからの時期を考えればそれくらいになるわね。」

(また”影の国”………)

(ロイドとの会話でも時々出てくるが一体何の事なんだ?)

(そう言えばロイドさんはエステルさん達とも知り合いのようですけど……もしかしてその”影の国”という所が関係しているのですか?)

(え、え~と………)

ユウナとレンの会話から出てきたある言葉を聞いたエリィとランディは不思議そうな表情をし、ティオに質問されたロイドは苦笑しながら誤魔化していた。



「あら、そのリボンにアクセサリー……ふふっ、てっきり処分しちゃったかと思っていたけど身につける程大切にしているなんて正直驚いたわ。」

ユウナが身につけている菫色のリボンやブローチ、ブレスレットに気づいたレンは目を丸くした後苦笑しながらユウナを見つめた。

「うっ……ふ、ふん。前のリボンは結構古かったし、買い替えるのも面倒だったから仕方なくつけているだけで、アクセサリーもおねえちゃんにしては悪くないセンスだから仕方なくつけてあげているのよ。」

レンの言葉を聞いたユウナは図星を突かれたかのような表情で唸り声を上げたがすぐに気を取り直して澄ました表情で答えた。

「相変わらず素直じゃないわねぇ……その様子だと残りのぬいぐるみやマフラーも捨てていないようね♪エステルが知ったら間違いなく喜ぶのじゃないかしら♪」

「う、うるさいわね。おねえちゃんがユウナにあげた物をどうしようとユウナの勝手でしょう。それよりもエステル達に今日ユウナと会った事を教えたら絶対に許さないわよ………!」

からかいの表情のレンに見つめられたユウナは反論した後真剣な表情でレンを睨んだ。



「そのくらいの事はわかっているわよ。前にも言ったけど、エステル達とユウナの事に関してレンは口出しするつもりは一切ないわ。―――当然、どちらか一方に肩入れするつもりもないわよ。」

「………ならいいわ。」

「(二人は双子と言う話だけど……一体どういう姉妹関係なのかしら……?それにどうしてエステルさん達が出てくるのかしら……?)えっと……一人みたいだけどバスで遊びに来たのかしら?」

二人の様子が気になったエリィだったが気を取り直してユウナに訊ねた。

「ええ、そんな所ね。そこのアンティーク屋さんにはたまに一人で遊びに来ているの。おじいさんの人形がたまに出てるし可愛いぬいぐるみが入荷してることもあるから。」

「へえ、そうなのか。でもこの辺り、子供が一人でうろつくのは……って、君に関しては心配無用か。というか君に手を出そうとする人達の方を心配すべきだな……」

子供のユウナが一人で裏通りをうろついている事を心配したロイドだったが”結社”の”執行者”であるユウナには無用な心配である事に気づくと苦笑した。

「失礼ね。ロイドお兄さんはユウナを何だと思っているのよ。呼び込みのお兄さんもお水のお姉さんも優しいし………路地の奥の黒メガネさんたちもけっこう楽しい人達だもの。」

ロイドの言葉に頬を膨らませたユウナは話を続け、ユウナがルバーチェのマフィア達とも接触している事を悟ったロイド達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。



「う、うーん………」

「ちょっと心配だけど……」

「うふふ、ところで――――狼さんとの鬼ごっこはなかなか楽しかったみたいね?特別ゲストがいっぱい参加してくれたみたいだし。」

「えっ………」

「もしかして……クロスベルタイムズの記事からそんな風に察したのか?」

意味ありげな笑みを浮かべたユウナの指摘を聞き、ユウナがかつて自分達が関わった事件の詳細を詳しく知っている事にエリィと共に驚いたロイドはユウナに訊ねた。



「クスクス、そんな所かしら。あの狼さん、お兄さんたちのお友達になったんでしょう?今度ユウナにも改めて紹介してちょうだいね?」

「あ、ああ、わかったよ。」

(相変わらずミステリアスな嬢ちゃんだな。)

(……そうですね。レンさんの双子の妹だけはありますね。)

「―――それではユウナはこれで失礼するわね。」

そしてユウナは上品な仕草でロイド達に会釈をした後その場から去っていき

(レン……以前と比べるとユウナとの関係が改善されたように見えるけど……もしかして和解したのか?)

ユウナが去っていくとロイドはレンに小声で訊ねた。



(ふふっ、どうかしらね。まあ、ユウナのレンに対する呼び方を考えるとマシにはなっているのでしょうね。)

(へ……それってどういう事だ?)

(―――レンの事を”おねえちゃん”って呼んでいたでしょう?前は”元おねえちゃん”か”レン”だったのに。)

(あ…………そう言えばさっきレンがユウナに何かをあげたような事をユウナが言っていたけど……もしかして俺が先に”影の国”から現実世界に帰還してから、ユウナに何かあげたのか?)

(あら、鋭いわね。―――溜まっていた”5年分の誕生日(バースデー)プレゼント”。ユウナを光の世界に連れ戻そうと考えているエステルとヨシュアの”家族”としての義務を果たす為に、仕方なくそれらをあげただけよ。困っている”姉”や”兄”を助けるのも”妹”の役目だしね。)

(!そうか………ハハ、ユウナの事を素直じゃないって言っているけど、君も色々と理由を付けてユウナに誕生日(バースデー)プレゼントをあげたんだから、君もユウナと同じじゃないか。)

(ム……ロイドお兄さんの癖にレンをからかおうとするなんて生意気ね。―――それよりもレンばかりに構っていていいのかしら?エリィお姉さんたちに誤解されるわよ♪)

ロイドの言葉に頬を膨らませたレンは小悪魔な笑みを浮かべてロイドに忠告し

「へ………」

レンの忠告に呆けたロイドが振り向くとエリィ達はそれぞれ黙ってロイドとレンを見つめていた。



「え、えっと………」

「……わたし達の目の前で堂々と内緒話をするなんて、お二人は”知り合い”というレベルではないとしか思えないのですが……?」

「だよなぁ?まさかロイドがそっちの趣味だとは思わなかったぜ~♪セシルさんみたいな素晴らしすぎる女性に可愛がってもらっている癖に、そっちの趣味だなんて色々な意味で残念な男だな~?」

エリィは言い辛そうな表情で言葉を濁し、ティオはジト目でロイドとレンを見つめ、ランディはからかいの表情でロイドを見つめて問いかけた。

「いやいや、違うから!というかセシル姉は関係ないだろう!?」

「うふふ、それじゃあロイドお兄さんはどんなレディがタイプなのかしら♪」

慌てて否定するロイドをレンは小悪魔な笑みを浮かべて問いかけ

「頼むから、これ以上場を引っ掻き回すような事を言わないでくれ………」

問いかけられたロイドは疲れた表情で溜息を吐いた。その後気を取り直したロイドは仲間達と共に支援課のビルに到着した。



~夕方・中央広場~



「え……」

「あの人は……」

支援課のビルの近くまで仲間達と共に来たエリィとロイドはビルの入口の前にいる青年―――アーネストに気付いて驚いた後、アーネストに近づいた。

「―――ああ、良かった!本当にこの場所でいいのか迷っていたんだよ。」

「アーネストさん……ひょっとして私を訪ねて来られたんですか?」

「ああ、事務所の用事のついでに訪ねさせてもらったよ。………エリィ?どうしたんだい?元気がないようだけど……」

「あ………」

「先ほど、アルカンシェルを訪ねていたようだが……何か警察の仕事に問題でも?」

「……い、いえ、大した事じゃないんです。………その、劇団の関係者から相談を受けていたんですけど……その報告に伺っただけなんです。」

「……ふう、本当はここに来ようかどうか迷ったんだが。やはり来て正解だったようだな。」

エリィの答えを聞いたアーネストはエリィを見つめて考え込んだ後溜息を吐き、そして口元に笑みを浮かべてエリィを見つめた。



「え………」

「……単刀直入に言おう。エリィ………警察を辞めて戻ってこないか?」

「!?」

(なっ……!?)

(おいおい……なんだ、この唐突な問題は。)

(恋愛がらみ……では無さそうですけど。)

(市長を裏切っている癖によくそんな事が言えるものね………狙いは何かしら?そう言えばアーネスト・ライズは昔エリィお姉さんの家庭教師をしていたわね……と言う事は教え子から一人のレディとしてみるようになったエリィお姉さんを自分のものにする為と言った所かしら?)

アーネストの突然の提案にエリィを含めた仲間達が驚いている中冷徹な視線でアーネストを見つめていたレンは考え込んでいた。



「君にも考えがあって警察に入ったのは知っている。だが、そんな疲れた顔をして………子供のように迷った目をして。本当にそれは……君が歩むべき道なのかい?」

「そ、それは……」

「……今の政治状況に絶望を覚えているのもわかる。おそらく警察入りを志望したのもその事が関係しているんだろう。だが、エリィ……少しは市長の苦労と気持ちをわかって差し上げて欲しいんだ。」

「え………」

「来月に記念祭を控え……市長は今、多忙を極めている。記念祭の後は、予算をめぐって帝国派と共和国派双方とやり合わなくてはならない……そして半年後には市長選………市長は引退されるおつもりだが後事を託せそうな候補者もおらず、迷っておられるようだ。君が側にいてくれたらどれほど市長も心強いことか。」

「………………」

アーネストの話を聞いたエリィは疲れた表情で何も返さず黙り込んでいた。



「……すまない。差し出がましい事や酷い事を言って。だが、どうしても見過ごすわけには行かなかった。市長を尊敬する者として……昔から君を見て来た者として。」

「……アーネストさん………」

「もちろん、君の道は君が決めるものではあるが………本当にそれが正しいのか、今一度、考えてみてほしい。」

「……………少し、考えさせてください。みんな、ごめんなさい。……少し疲れたからちょっと自室で休ませて。」

「あ……ああ。」

「エリィさん………」

エリィの頼みにロイドが戸惑いながら頷くとエリィは支援課のビルの中に入って行った。



「―――君達。いきなり済まなかったね。」

エリィがビルの中へ入って行くのを見届けたアーネストは静かな表情でロイド達を見回して謝罪した。

「……いえ、色々と事情がおありのようですし。」

「ま、あんまりお嬢のこといじめないでやってくれよな。」

「………ですね。わたしたちからエリィさんを奪おうとしているみたいですし。」

「うふふ、レン達の前でヘッドハンティングをしようとするなんてさすがは市長の秘書をしているだけあって、度胸もあるわね?」

「はは、別にそんなつもりは無かったんだが………ただ君達は、彼女が元々政治家志望なのは知っているかい?」

ティオとレンの指摘に苦笑したアーネストは意外な事実を口にした。



「え……!?」

「おいおい、そうなのかよ!?」

「確かに政治や経済のことにとても詳しいみたいでしたが………」

「まあ、エリィお姉さんはマクダエル市長の孫娘なのだから、ずっと苦労し続けている大切なおじいさんに家族として力になりたいって考えるのは当然の事だから、おかしくはないわね。」

「ああ、市長の後継者としていずれ政治の道を志すべく、色々と勉強してきたんだ。そのために各国に留学して、深い教養と国際的な政治感覚を養っていたはずだったが…………去年、帰国したと思ったらいきなり警察入りを志望してね。」

「そうだったんですか………」

「……知りませんでした。」

「ま、何でこんなセレブなお嬢様が警察にとは思ったけどな……」

「色々と複雑な事情があって警察に就職したのは間違いないでしょうね。」

アーネストからエリィの話を聞いたロイドは頷き、ティオやランディは疲れた表情で呟き、レンは静かな表情で呟いた。



「できれば、彼女が結論を出すまで君達もそっと見守って欲しい。このまま続けたとしても……あんな風に迷いを抱えたままではとてもやっていけないだろうからね。」

アーネストがロイド達に自身の希望を伝えたその時、鐘の音が聞こえて来た。

「もうこんな時間か……お騒がせしてしまった。私はこれで失礼させてもらうよ。」

「あ、はい。」

そしてアーネストは去って行き、ロイド達はビルに入り、課長室でセルゲイに報告した。







~特務支援課~



「なるほど………ま、事情は大体わかったぜ。それで?このまま泣き寝入りすんのか?」

「な、泣き寝入りって……一課が出張ってきたのに俺達の立場で食い下がれるものなんですか?」

セルゲイの問いかけに疲れた表情で呟いたロイドは気を取り直してセルゲイに訊ねた。

「ま、無理だろうな。大方、あのキツネあたりがしゃしゃりでてきて厳重注意だろう。」

「ですよね………」

「なら、一課の手伝いを申し出るのはどうでしょうか?」

「いや、あの眼鏡スーツ野郎の態度を見る限り難しいんじゃねえか?」

「典型的な堅物だものねぇ。」

ティオの提案にランディは疲れた表情で否定し、ランディの推測にレンは呆れた表情で同意した。



「ああ、多分な。警察のナワバリ意識ってのは結構やっかいなもんだ。特に一課はエリートだからお前らみたいなガキの手伝いなんざ断固拒否してくるだろうぜ。―――ただし、黙ってやる分には話が別だ。」

「え………」

セルゲイの指摘を聞き、仲間達とともに驚いたロイドは呆けた声を出した。

「クク………この特務支援課はある意味、規格外の部署だ。本部からハブられてはいるがそれは逆に、ある程度の裁量が任されているとも解釈できる。それこそ黙ってやる分には他の部署のナワバリを踏み越えられるくらいにはな。」

「あ………」

「うふふ、要するに”出し抜かれた方が悪い”ってことね♪」

「オイオイ……そんな事言っていいのかよ?」

「とんだ不良上司ですね………」

セルゲイの指摘にロイドは呆け、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、ランディは驚き、ティオはジト目でセルゲイを見つめた。



「クク、言っただろう?俺は基本的に手は貸さねぇが尻拭いだけはしてやるってな。腹を括って動くのはお前らだ。」

「……………………」

セルゲイの言葉に対し、エリィの事が気になっていたロイドは何も返さず複雑そうな表情で黙り込んだ。

「まあ、そうはいってもその調子じゃ無理だろうがな。なにせ仲間うちに迷ってるヤツがいるくらいだ。チーム一丸となって捜査を続けられる状態じゃねぇだろ。」

「……それは………」

「まあ、お嬢があの調子だとどうにも調子が出ねぇよな。なんかこう、ピリッと引き締まらねぇっていうか。」

「確かに今日一日、そんな感じはしていました………エリィさん、大丈夫なんでしょうか……?」

「それに関してはエリィお姉さん次第としか言いようがないわね…………(もしくは誰かがエリィお姉さんを立ち直らせるかね。)」

セルゲイの指摘にロイドは複雑そうな表情をし、ランディは疲れた表情で呟き、心配そうな表情をしているティオにレンは疲れた表情で指摘した後意味ありげな笑みを浮かべてロイドに小声で囁き

「…………………」

レンに囁かれたロイドは複雑そうな表情で考え込んでいた。



その後明日に備えてロイド達はそれぞれ自室に戻って休み始めたが、ロイドはエリィと話をする為にエリィの自室に向かった――――









 
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